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冷えたワイン

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第一章

                         冷えたワイン
 ようやく休みを取れた。それでだ。
 椎名麻里奈はだ。笑顔で同僚達に話した。
「バカンスよ、バカンス」
「ああ、ヨハネスブルグね」
「念願のあの街に行くのね」
「実体験北斗の拳と洒落込むのね」
「何であんな危険な街にバカンスなのよ」
 昼食のマクドナルドのハンバーガーを食べながら同僚達のジョークにムキになった顔で返す。
「死にに行くようなものじゃない」
「まあそうだけれどね」
「あの街はちょっとやそっとじゃ行けないわよね」
「じゃあ何処に行くのよ」
「それじゃあ」
「そうね。ハワイ、いえ」
 ハワイと言おうとしたところでだ。ここでだ。 
 その整った顔、見れば細く白い顔である。顎にかけて奇麗なカーブを描いている卵型の顔だ。茶色の眉はやや太く一本で目はアーモンドの形で少しつり目だ。唇はピンク色で微笑みの形になっている。そして薄めだ。耳は大きくそれを茶色がかった波うつ髪で隠している。鼻はやや高い。
 スタイルはすらりとしていて膝までのタイトスカートから奇麗な脚が見えている。その彼女がだ。
 ハンバーガーを食べながらだ。こう言ったのだった。
「ニースかしら」
「えっ、ニース!?」
「ニースなの」
「あのフランスの」
「あそこにバカンスって」
「どう?お洒落でしょ」
 そのニースの名前を出してだ。麻里奈は笑顔で言うのだった。
「山と湖を観ながらね。洒落たね」
「バカンスを楽しむ」
「そうしたいのね」
「それで食べるものだってね」
 それもだとだ。麻里奈は笑顔で話す。
「ハンバーガーとか焼きそばとかじゃなくて」
「今食べてるのとか海の家のじゃなくて」
「他の場所でなの」
「そう。ワインよワイン」
 コーラを飲みながらそれだというのだ。
「冷えた白ワインにそれにお料理はね」
「最高級のフランス料理」
「それだっていうのね」
「最高のバカンスを楽しむのよ」
 満面の笑みでだ。麻里奈は同僚達に話していく。
「これからね」
「何か凄い話になってきたわね」
「フランス料理にワインでバカンス」
「しかも場所はニース」
「凄い贅沢じゃない」
「そしてそこで、なのよ」
 目を輝かせながらだ。麻里奈はさらに言った。
「ブロンドで青い目の王子様みたいな人とね」
「恋路を楽しむのね」
「一時の」
「そう。絶対にそうするから」
 こう言ってだ。そのうえでだった。麻里奈は休暇を取ったうえでのバカンスのことを今から夢想してうっとりとするのだった。しかしそれがどうなったかというと。 
 海辺は子供達がはしゃぎ水着の女子高生達がナンパを受けてきゃっきゃっ、とはしゃいでいる。青い海の中には浮き輪で浮かぶ少女達がいて砂浜では城が築かれている。
 海の家はとても賑やかでラーメンやカレーの匂いがしてくる。その中でだ。
 麻里奈はビニールを敷いてパラソルで日を避けている。そうしてだ。
 そこで白いワンピース姿で座ってだ。缶ビールを飲んでいた。
 そのビールと一緒にフランクフルトを食べながらだ。隣にいる黒髪を短く刈った半ズボンの少年に言った。
「あのね」
「あのねって何だよ」
「私ね。ニースに行くつもりだったのよ」
 こうだ。極めて面白くなさそうな顔で少年に言うのだった。
「フランスのね。そこに行くつもりだったのよ」
「ああ。そうだったんだ」
「折角休暇取ったしお金もあったし」
 行けることは行けたとだ。面白くなさそうな顔で話す。 
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