世界をめぐる、銀白の翼
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第一章 WORLD LINK ~Grand Prologue~
なのはStrikerS ~もう関われない~
翌日
蒔風は早朝訓練に出て来なかった。
同室のエリオが言うには、蒔風はいくら揺すっても生返事をするだけで、起きては来なかったそうだ。
まあ、彼のことだからきっとまだ寝ているのだろう。
いつも通りだ。
そう思い、なのはとフェイトは朝食後に蒔風の部屋に向かうことにした。
そして早朝訓練が終わり、二人が蒔風がまだいるであろう部屋へと向かう。
しかし、部屋から気配が感じられない。
ドアを開けると、やはり部屋の中には誰もいなかった。
もう起きてるのか。
だったら食堂だ、と二人が向かう。
もとより一緒に食べるつもりだったのだ。
そうとなれば善は急げと二人の足が食堂に向く。
そうして、食堂に到着した二人は、ついに蒔風を見つけた。
蒔風は、普通にに朝食をとっていた。
その姿に一安心するなのはとフェイト。
「舜、大丈夫みたいだね」
「うん。でもちゃんと・・・・話しておかないと・・・・」
そうして二人もトレーに朝食を乗せて、蒔風と同席させてもらう。
「あ、なのは・・・・・」
「おはよ、舜君・・・・・・」
「おはよう」
蒔風の声に、張りも元気もない。
なのはに気づいたから会釈し、あいさつを言われたから返した。
ただそれだけのような動作だった。
「舜君・・・・・昨日のことだけど・・・・」
なのはがさっそく話を切り出す。
朝食の場でするものではないのだろうが、これ以上引き延ばすことは出来なかった。
しかし、蒔風がなのはの言葉に待ったをかける。
「大丈夫だ。キチンと持ち直した。もう大丈夫。関わり方に気をつけるから」
「え?」
その言葉に、なのはが疑問を浮かべる。
今何と言った?
「関わり方に気をつける」だって??
一方、フェイトは離れた席のフォワードに、念話で話を聞いていた。
『舜と何を話していたの?』
『私は・・・昨日のことで謝って』
『それで舜さんも悪かったって、頭を下げてまでしてくれて・・・・』
『僕とキャロには、怖がらせてごめんな、って頭を撫でてくれました』
『そ、それから舜さん・・・・・もう踏み込まないから大丈夫だって・・・・席を離れて・・・』
『え?』
フェイトもまた、疑問を浮かべる。
もう踏み込まない?
「・・・・・舜君、今日のこれからの訓練、見てもらいたいんだけど、いいかな?」
なのはが疑問を振って蒔風に聞く。
しかし、蒔風の返事は否定の断言だった。
「NO、だ」
「そ、そう・・・・・だったら・・・・」
なのははなおも蒔風と話そうとする。
だが、その言葉が途切れる。
それは、蒔風が立ち上がり、なのはの足元に来て、そしていきなり土下座をしてきたからだ。
「すまないなのは。俺はお前を何も知らずに、あんなことまでやってしまった。お前にはお前の考えがあった。今までお前が経験してきたことから導き出したものがあった。それを一方的に否定して、一方的に自分が正しいようにして、理不尽な暴力でいい感じにまで終わらせて・・・すまなかった。お前の方が正しかった。間違っていたのは、俺だ」
そして頭を上げ
「なのは、オレは今後の訓練には出ない。出動もしない。注意もしない。「奴」が出たら、その時だけ戦う。あんなことがあった以上、俺の歪みに巻き込めない。お前らとは関われない」
その言葉に、全員が絶句する。
もう、なにもしないと、彼は言った。
今まで、なにかあるとすぐに助けてくれた彼が、もう手をださないと、そう言うのだ。
「な、なんで・・・・・」
フェイトが聞く。
それに対し、蒔風が至極当然のようにさらりと言った。
「オレが残したもんに、ろくなものはない。この物語はオレがいなくてもしっかりと回るんだ。イレギュラーであるオレが相手をするのは、イレギュラーである「奴」だけだ」
そういって朝食を取り終わって席を立つ蒔風。
「もうお前らとは関われない。俺は・・・・俺みたいな何をし出すかわからない男が、お前らの物語には関与できるわけがない。だから・・・・・・じゃあな」
その場を去る蒔風。
その出口でばったりとはやてと会い、訓練場の件で深々と頭を下げ、もう二度とすることはない、と言って部屋に戻ってしまった。
「なのはちゃん、フェイトちゃん・・・一体何があったん?もうしないって・・・・あれ、ちょう違う意味に聞こえたんやけど」
はやてはもとより、訓練場での損害について蒔風に愚痴るつもりだった。
だが昨日蒔風は訓練後にはどこかに行ってて、出てきた後には部屋にこもってしまったのだから、彼女だけは何が起きたのかわからずじまい。
そのはやてに、そして後から来たヴォルケンズにも、蒔風の言葉をそのまま伝えた。
蒔風はその後悔から、彼女たちの前から去った。
その最後の言葉は、決別。
自分はこの世界では災厄にしかならないと。
自分がいなくとも、この物語は回って行けると。
自分が残せるものは、なにもないと。
そう思い至って、彼は表舞台から姿を消すと言ったのだ。
もう、蒔風は今までのように助けてはくれない。
なぜなら、彼がいなくても世界は回る。
彼の標的は「奴」ただ一人。
ならば
彼女たちの物語に、首を突っ込む必要など、本来あるはずもなかったのだ、と
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それから数日間
蒔風は完全に機動六課の局員との関係を断った。
「奴」が出現した場合を想定して、回線だけは開いていたが、決して蒔風がそれに応答することはない。
まず、部屋を変えた。
エリオと同室だったのだが、ある日に蒔風の荷物が全く別の部屋に移されていた。
そしてみんなと行動が被らないようにもした。
一日中訓練にも出ず、時間をずらして食事を取る。
朝から昼、夜まで、蒔風と顔を合わせることもない六課のメンバー。
たまに顔を見ることはあっても、蒔風はすぐにいなくなってしまう。
彼は怯えていた。
一体何が彼女たちの物語に関係してしまうかわからない。
情報から、あの事件が自分のものではないというのはわかったが、あの模擬戦の時、自分はなのはに負荷をかけさせてしまうところだった。
否、もしかしたらもう、その負荷はかかってしまっているのかもしれない。
更には訓練所の破壊、ティアナへの暴行
翼人として、人の先を、意志を潰す、その許されざる行為。
ここまでやってしまって、蒔風は気付いた。
俺は何も残せない。
この世界は俺がいなくても回る物語。
だったら
そこにイレギュラーをねじ込んだら、どうあっても歪んでおかしくなるのは当然じゃないか。
だから、俺は関わらない。
銀白の翼人は、「奴」のみを追う者であればよかったのだ。
「ダメだよ・・・・・俺はもう・・・・皆と関わる勇気がない・・・・・・・俺の願いは・・・・・・・通じなかった・・・・・・」
――願いの翼――
その在り方を持つ青年は、誰も傷つけないために、ひとりで戦う道を選んだ。
to be continued
後書き
今回のこの「蒔風非干渉」の話は少し続きます。
でも、こんな文章ダラダラ書いててもしょうがない。
だから短くなっております。
アリス
「戻ってくるんですかね?」
この作品としての答えはYESですね。
流石に戻ってこないとあれですし。
ですが、前来た時の二回で、彼が残せたもの、っていうのは考えてみればないかもしれないんですよね。
アリス
「他の世界では?」
あったかもしれません。
でも、それを蒔風は知らないです。
彼が戻るまで、どれくらいかな?
アリス
「次回、蒔風、自信の元と、彼の心」
ではまた次回
胸に宿る 熱き彗星は 始まりの鼓動へ・・・
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