真田十勇士
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巻ノ七十三 離れる人心その九
「ですから」
「ううむ、しかしな」
「ははは、銭はありました」
余裕を見せて笑ってだ、大谷は秀吉に言った。
「借金なぞしておりません」
「そうか、この時の為にか」
秀吉は大谷のことを察して言った。
「そうしてくれたか」
「そのことは」
言わないとだ。大谷はこのことは笑って言うだけだった。
「その様に」
「そうか、礼を言う」
秀吉は大谷の心を汲み取りつつ応えた。
「このこと忘れぬぞ」
「有り難きお言葉」
「御主の心よくわかった」
こう言ってだ、秀吉は大谷に褒美を取らせた、それは十万石の大名に対するとは思えぬまでであった。しかし。
大坂で怪しい噂が流れていてだ、幸村もその噂を聞いて眉を曇らせて言った。
「馬鹿な、その様なことはじゃ」
「はい、有り得ませぬ」
「義父様がその様なことをされるとは」
「義父様はされませぬ」
「あの様な方が」
「そうじゃ、義父上は戦の場でのみじゃ」
まさにとだ、幸村は十勇士達に答えた。
「剣を振るわれる方じゃ」
「それを辻斬りなぞ」
「辻斬りすればそれで業病が治るだのということで」
「その様なことを考えされるとはです」
「絶対に有り得ませぬ」
「そうじゃ、こうしたことはじゃ」
まさにとだ、幸村はまた言った。
「全く根も葉もない噂じゃ」
「誹謗中傷の類ですな」
「誰が言ったか知りませぬが」
「この様な話を広めて義父様を貶めるなぞ」
「人として許されぬことです」
「全くじゃ、許せぬ」
幸村は静かだったが眉を怒らせていた、そのうえでの言葉だ。
「とてもな」
「ではどうされますか」
「この噂については」
「殿としましては」
「どの様にして噂を消されますか」
「いや、拙者が動くまでもないであろう」
幸村は十勇士達の問いにはすぐにこう返した。
「拙者が動くより前にな」
「と、いいますと」
「一体」
「どうなると」
「太閤様が動かれる」
秀吉がというのだ。
「だからな」
「それでは」
「我等も動く必要はありませんか」
「殿も動かれず」
「そうされますか」
「うむ、そうしよう」
こう言うのだった。
「動かぬ」
「太閤様がどうされるか」
「これから見るのですな」
「そうされますな」
「それでよい」
こう言って実際にだった、幸村は動かず十勇士達もだった。彼の命がないので動くことはなかった。そして幸村が言った通りにだ。
秀吉はその話を聞くなりだ、激怒して言った。
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