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真田十勇士

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巻ノ七十三 離れる人心その七

 だからだ、石田はというのだ。
「わしよりも遥かにな」
「豊臣家に忠義を感じておられ」
「まさにじゃ」
「忠義一徹で」
「他の家の天下も認められぬ」
「そうした方ですな」
 幸村も頷く。
「だからこそ」
「あ奴も泰平は好きじゃが」
「それでもですか」
「うむ、とにかく己を曲げぬ」
 それも一切というのだ。
「そうした者じゃ」
「では」
「うむ、あ奴をどうしたものか」
「そこが義父上の悩むところですか」
「そうなのじゃ」
 大谷は幸村に難しい顔で述べた。
「言って聞かぬ奴じゃしな」
「ご自身が正しいと思えば」
「前にしか進まぬからのう」
 大谷は難しい顔でだ、幸村に述べた。
「厄介じゃ」
「この世でそこまで己を曲げることなく清廉潔白というのは」
「そうした奴は滅多におらぬ」
「左様ですな」
「誰でも曲げる」
 自分自身をというのだ。
「我が身が可愛いかったりしてな、しかしな」
「治部殿は」
「己の身も捨てる」
「曲げられぬ」
「そうした者だからな」
「どうしてもですな」
「それがあ奴のいいところじゃが」
 石田のその美点をだ、大谷は認めていて素晴らしいとも思っていた。このことは紛れもない事実である。
 だが、だ。石田のその美点がというのだ。
「それが時として困ったことにもなっておる」
「近頃治部殿は」
「知っておるな、御主も」
「平壊者と」
「そう言われておる、空気を読まず何でも自分が言いたいことを言い場を壊す」 
 それが石田だというのだ。
「それが為に近頃な」
「加藤殿、福島殿と」
「加藤孫六、そしてな」
「池田殿、黒田殿、細川殿、蜂須賀殿と」
「七将がな」
 合わせてだ、唐入りに向かっている者達が多い。
「あ奴を憎みだしておる」
「それが、ですな」
「厄介じゃ、共に天下を支えていくべきじゃが」
「それが、ですな」
「いがみ合っておる、少しは曲げぬと」
 石田自身をというのだ。
「厄介なことになる、いつも言っておるが」
「それが」
「どうもな」
 こう言うのだった。
「まことにな」
「どうしたものかと」
「考えておる、大納言様ならあ奴を止めれたが」
 石田のそのあまりにも己を曲げぬ平壊者ぶりをというのだ。
「その大納言様もおられぬ」
「ですな」
「大納言様がおられれば他のこともな」
 唐入りや利休のこと、秀次のこともだ。そうしたこともというのだ。 
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