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絶狼〈ZERO 〉MAGIC BLOOD

作者:魔界岸
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闇斬

小鳥の囀ずりと朝の日射しが気持ちいい。

俺は目を擦り、大きな欠伸をしながら、髪の毛をボリボリと掻く。

朝だ……元老院に指定された借家のベッドに腰かける。

若干の窮屈さや年季は感じるが、一軒家で風呂やトイレは勿論あるしベッドもかなり大きい……オマケにテレビとキッチンもついていて、これから指令が片付くまでここが拠点となるわけだが、まぁ借家にしては悪くない。
かと言って長居するつもりも更々ないが……。

しかし昨日の収穫は特になし……ホラーも特に現れなかった……。
分かった事と言えば、この街には魔法使いやファントムと言った第三勢力まであるのだから厄介だ。
早くこの指令を片付けないと……。

「ん?……鍵は閉めたはずだけどな……」

何かを感じる……殺気と言うほどではないが、僅かだが人の気配だ。
誰かがこの家に侵入しているのだろうか……。

「泥棒だったらお笑いものね こんな何もない家に」

「ただの泥棒だったらいいんだけどな……」

シルヴァの言う通り、泥棒が入って来ても取られるものはない。
バイクは置いてきたし、金品も持っていない……だがそれは泥棒だったらの話しだ。
もしかしたら俺の命を狙う刺客やホラーかもしれない……。

「誰だ?……隠れてないで出てこいよ」

気配は部屋の扉の奥からだ……。
扉の奥は廊下で玄関に通じている……。
その気配は扉の前でピタリと止まっていて、盗み聞きでもしたいのだろうか。

「気配をなるべく消したのですけどね 流石です涼邑零、又の名を銀牙騎士ゼロ」

部屋の扉が開き、姿を見せたのは故紙の辺りまで伸びた黒髪とキツメの目が特徴的で肩と臍、スラリとした長い脚を露出した黒い魔法衣を着た女だった。
着物を着せたら似合いそうな顔つきで、一目見ただけで魔戒法師だと勘づく。

「ま~た変なのが出てきやがった……」

「変なのとは失礼な人ですね……名前は綺羅、これでも貴方に力を貸すように言われて元老院から派遣された魔戒法師なんですよ?……」

何て言うか……女性にしては長身で眉間に皺を寄せ、キツメな顔つきだからか敬語を使う事にかなり違和感を感じる。

「お前に頼んだ覚えはねぇ 俺は布動レオに頼んだんだ お前と組む気はない」

こういう何か良からぬ事を企んでいる奴がいる場合、正直言うと近寄って来る奴を信じては危険だ。
スパイなど敵の一味である可能性も否めないからである。
敵の情報や居場所、目的が詳細に分かっている場合なら基本的に一人で対処できるが、今回の件に関しては謎が多すぎる。
特に目的が分からない謎が多い敵には魔戒の術や掟、歴史に詳しい魔戒法師の力が必要不可欠。
邪美と烈花は遠く閑岱の地、だから俺は激戦を共に戦った盟友である布道レオを指名したのだが……。

「だからその布道レオに頼まれたんですよ 」

俺は綺羅が差し出した紙を受け取り、魔導日を翳す。
青色の魔導火が紙に引火し、徐々に文字が浮かび上がってくる。

それは間違いなくレオから俺に向けての手紙……。
「綺羅は自分が尊敬し、信頼できる優秀な魔戒法師の一人」だと記してある。
そして元老院から与えられた指令で手が離せないので、協力できずに申し訳ないという謝罪と綺羅を推薦すると言うことで文面が締めくくられていた。

だが、俺は信頼できる奴にしか背中を託したりはしない。
突発的に現れた魔戒法師なら尚更、一人で行動した方が遥かに安心安全だ。

そしてヒョコッと扉の隙間から顔を出したのは昨日の魔法使いの女子高生だが、一瞬、誰か分からなかった。
それと言うのも、昨日はブレザーの制服だったが今日は週末で学生は休みだからか、紺色のジャケットにミニスカート姿の私服で少し印象が違ったからだ。

「お前は昨日の魔法使い……何でここにいる?」

「昨日の事を謝りたくて、綺羅さんに連れてきてもらいました 全部、綺羅さんから魔戒騎士やホラーの事聞きましました 涼邑零さん……あ、あのぉ……昨日は本当にごめんなさい!」

深々と頭を下げる魔法使いの女の子に俺は慌てふためく。

「おいおい、ヤメロッて……頭を上げてくれよお嬢さん……君の名前は?」

「私、稲森真由って言います!」

「真由ちゃんか……まぁあの状況だったし勘違いするのもない 真由ちゃんには全然怒っちゃいないさ」

そうだ……今、俺は真由ちゃんに怒ろうなんて言う気はない。
俺の怒りの矛先は綺羅と言う魔戒法師に向かう。

「綺羅、目的は何だ?……何故、魔戒に関係ないこいつに俺たちの事まで教えてまで連れてきた?」

確かに真由ちゃんは魔法使いでファントムと戦っている……つまり立場的に一般人よりはどちらかと言うと俺たちに近い。
しかし戦いのフィールドが全く違ううえに魔戒騎士やホラーの存在も知らなかったはず……そんな人間にましてや魔戒法師が魔戒の知識を教えるなんてもっての他だ。

「この娘があの後、どうしても貴方に謝りたさそうにしてたから人助けですよ」

「あの後だと?……お前、つけてやがったのか?」

「これから一緒に組む相棒がどんな騎士か少し見てただけですよ」

「だからお前とは組まねぇって 勝手に決めんなよ」

開き直りながら、使われる敬語が余計に俺をイラつかせる。
綺羅は挑発することに関しては数いる魔戒法師の中でもきっと一、二を争うだろう……。
益々信用できない気持ちが大きくなっていく……。

「じゃあ何かを貴方は掴めたのですか?」

「まるで自分は何かを知ってるかのような言い方だな?」

「えぇ 勿論です 私を誰だと思っているのですか? 今では元老院付きにまで出世いたしましたが、元々は闇斬りの血を受け継ぎ、影に生きていた存在……私の情報収集能力を侮らないで頂けますか?」

闇斬り師……闇に堕ちた魔戒騎士や法師を粛清する宿命を背負った影に生きる魔戒法師でだしその強さは並みの騎士を遥かに凌駕すると言う……。
噂はかねがね耳にしていたが、その姿を目撃した者はおらず、昔から語り継がれるただの伝説だと思っていたが、綺羅がその闇斬り師だと言うのか。

「少しは私に興味を持ってくれましたか?」

「で、その元闇斬り師さんはどんな情報を持ってるんでしょうか?」

「相棒でもない貴方に共有する情報なんてありませんよ」

いちいち揚げ足を取ってくるムカつく女だ……。
とにもかくにも真由ちゃんがこの場にいては、詳しい話しをすることができない。

「まぁ真由ちゃん、今日は帰りな」

真由ちゃんは何か言いたい事があるのかモジモジしていたが意を決したかのように口を開く。

「あのぉ……実は零さんにお願いがあります 今日、一緒に鳥井坂署まで来てほしいんです」

「悪いけど、聞いた通り俺は魔戒騎士だ 指令があってこの街に来たんだ」

何を言い出すかと思えば……。
とっとと指令を完了したいのに、魔法使いやファントムなんかと関わっている暇はない。

「それは分かってます……でも凛子さんが魔法使いでもない見ず知らずの人を呼んだって事は本当に切羽詰まってるんだと思うんです」

「断る 俺は忙しい」

「意味がないと思っているものが実は重要だったりしますけどね」

「どういう意味だ?」

まさかこの綺羅と言う魔戒法師は今回の件に関して何か情報でも掴んでいるのか?……。

警察が番犬所ですら掴めていない情報を本当に持ちうる事があるだろうか?……。
仮に綺羅が知っているとして何故そんな情報を綺羅が把握しているのか……。
俺は綺羅への疑念を深めるが、まだ確証があるわけではない。

「分かった……話しを聞くだけだ」

「ありがとうございます!」

今、こちらには何の情報もないのも事実。
行って有益な情報を持っていれば、ラッキーくらいに思って話しくらいなら聞いてやるか……。

「意外と素直じゃないですか 零ちゃん」

「確かにあんたの言う事も一理あるからな……俺は大事になる前に何とかこの指令を終わらせたい 良かったら力を貸してくれ」

綺羅が敵なら俺の情報を集める為に近づいたはず……。
それなら俺も近くで綺羅が何を企んでいるのか観察してやろう。

 
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