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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第22話 切り裂かれる絆

 『そっちはどうだ!?』
 「此方だけどころか、彼方此方で突如人が眠りに入り、全く起きない騒動が起きているぞ」

 石蕗和成は吉岡利信とスマホ越しで連絡を取り合っていた。

 『こりゃやっぱり陽動だろうが、俺達も士郎のとこに駆けつけた方が良いんじゃねぇか?百代嬢ちゃんも早くに覚醒して出て行っちまったんだろ?』
 「そうしたいところだが、関東圏――――特に冬木市内での裏世界に関わる騒動の収束は、我々藤村組の基本業務の一つだぞ。事態が事態とは言え、これを疎かにするわけには――――ん?」

 走りながら周囲の状況を把握していた和成の視界に一瞬、師岡卓也が入り込んだのだ。
 別にこんな夜更けとは言え、学生が出歩いていても本来気にも留めない事だが、卓也の住居は川神市にあるので、気になってしまったのだ。
 しかしそれも一瞬の事。

 『如何した?好みのタイプでも見つけたか?!羨ましいぞっ、コン畜生めっ!!』
 「貴様と一緒にするなっ!」

 今と言う事態においては些末事だと、直に切り替えるのだった。


 -Interlude-


 百代はラミーに突っ込み、周囲の雑魚はシーマが片づけて行く。

 『フン、その思い上がりごと息の根を止めてくれる』

 既に迎撃体制を整えているラミーは、文字通りに息の根を止める己が絶招の一つの構えを取っている。
 そんな事には怯みもせず、百代はラミーに特攻をかける。

 『馬鹿の一つ覚えか!そこまで単細胞だったとはな・・・!』

 凶悪にまで輝くは紫色の雷を纏う右腕は、容赦なく百代の心臓を捉えて貫く――――筈だった。

 『何っ!?』

 百代の胸に当たる直前、百代自身が爆発した上に凶悪な一撃が空を貫いたのだ。
 その爆発の威力は凄まじいものだが、ラミーの鎧を砕くどころか罅を入れるにも至らない。
 だがラミーを動揺或いは困惑させる威力はあった様だ。

 (この威力は間違いなく川神流の人間爆弾だ。なのに空を切るだと?)

 疑問を片付ける間もなく爆風が消えると、自分を囲むように多くの百代が迫っていた。

 『っ!しゃらくさい!』

 瞬時に分身だと判別し、それらをすべて切り裂こうとする直前、先と同じように1体1体が人間爆弾並の威力と爆風がラミーに叩き付けて来る。

 『無駄な事を・・・!』

 百代の狙いに気付けないラミーが吐き捨てる。
 先程からの分身の中には百代の髪の毛一本の切れ端が入っている。
 その切れ端一つ一つに百代の決めた瞬間に爆発させる様な不安定な膨大な気を溜めていたのだ。
 完全に思い付きのこの技だが、こんな荒業、百代のような天才だからこそ可能となった禁じ手級でもあるのだ。
 そしてラミーの鎧を貫けないのにそれを叩き付ける狙いとは、爆風の中には相手の気を中和させる効果が有る。
 つまり百代の真の狙いとは――――。

 『分身体だけでは私は倒せないぞっ――――ん?』

 戯れも此処までと言わんばかりに爆風から抜け出たラミーが最初に見たのは、剣を振りかぶる直前のシーマと、それに合わせて飛び跳ねる百代だった。

 「シーマ()式ホームランバッティーングッッ!!」

 飛ぶ斬撃では無く、フラーの上に丁度百代が乗った瞬間にフルスイングをかますシーマ。
 シーマの全力全開のフルスイングで飛ばされている百代は、標的であるラミーに向けて一直線に突っ込んで行く。
 そしていつの間にか、彼女の右掌には川神流星殺しのエネルギー弾があった。
 それをぶつけようと言うのかと思いきや、そのエネルギー弾を自分の右腕に吸収させるように装填する。
 僅かでも気の比率などを誤れば、右腕が吹っ飛びかねない技を思いつきで成功させるなど、百代ほどの才気が無ければ成功しない偉業と言える。
 その成果たる右腕は光輝き指先を揃えたその腕はまるで、聖なる騎乗槍(ランス)の様だった。
 ついでに宙で回転も加えた。

 「私流――――星穿ちィイイイイイイ!!!」
 『フン、私の紫電――――が無いッ?!』
 (先程の爆風に剥がされたのか!)

 今更気付いても後悔あと先立たず。
 先の爆風の真の狙いに気付いたラミーは、直にでも紫電で全身を覆うとしたが間に合わず、胴の部分に百代の星穿ちが容赦なく突き刺さる。
 しかし矢張り、あまりに強固なラミーの鎧には罅一つ付かない。

 『ぬぅっ!!?』
 「――――ああああぁああああぁ!!」

 その代わりに、シーマから撃ち放たれた衝撃に加えて星穿ちの威力+回転(α)に耐えきれず、未だ晴れていなかった爆風もろともに巻き込み回転しながら、かなりの距離を吹っ飛んでいった。

 「よしっ!」
 「見たか――――って、何だ!?」
 「・・・・・・・・・」

 ラミーの撃退に成功したので一先ず安心できるかと思いきや、突如周囲が石造りの回廊に変化した。
 これには士郎達は勿論、オートマタ全てが巻き込まれて行った。

 「シロウ!」

 すぐ近くに居たシーマは、士郎達に合流した。

 「如何するシロウ?!モモヨとは離れ離れなんだが・・・」
 「正直百代が来たのは予定外だったからな。だがさっきの・・・・・・パスで大丈夫なのは確認できてるからな、直に予定通り実行する。頼むぞエジソン」
 「任された!――――万人に等しく光を与え」
 「口上はまたの機会にしてくれ!」

 長くなりそうなので、即座にエジソンに向けて諌言する。

 「むぅ、では省略して――――W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!」

 エジソンの宝具W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)を使い、ここら一帯に存在する|英霊達の力の源と言える信仰心を強制的に剥奪する。
 本来であれば信仰心を零の出来るのだそうだが、召喚時のショックなども含めて本調子でも無い為、ランクもEXからA+にまで落ちている。
 更にコントロールも未だうまく使えていないので、シーマも巻き込んでしまわない様に対処する。
 ほぼ同時にタイミングを狙って士郎はシーマを守るために半身を投影する。

 「遥か遠き理想郷(アヴァロン)

 投影されたアヴァロンはシーマを守る様に展開し、エジソンの宝具の発する光は結果的に周囲の石造りの回廊を歪ませていった。


 -Interlude-


 「やっと・・・やっとだ!」

 ほとんど同時刻。
 現地に到着したヒカル達は、即座にアステリオスの宝具、万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)を顕現させてから、標的が集まっている人だかりの目の前まで来た。
 しかし何故かシーツでも被っていると言う意味の分からない状況だったが、ヒカルはそんな事は気にしない。

 「そんなので隠れてるつもり?みーんな、嬲り殺してあげるんだ・・・・・・かぁれ?」

 シーツを勢い良く取り上げると、そこにはマネキンだらけで仇の1人もいやしなかった。
 実はヒカル達の仇たちを保護した場所はそこでは無く、藤村組の一室――――スカサハが現在待機している隣室で全員寝かされているのだった。 
 そうとは知らないヒカルは只困惑する。

 「ど、如何いう事?先生の話では・・・。それに外にいる人たちだって・・・・・・だったら――――」

 その時、ある光が発した途端、アステリオスが片膝を付き頭を押さえる。

 「ううぅ」
 「アステリオス!?如何したの――――って!」

 近づこうとしたところで、アステリオス自身が透けて消えて無くなりそうになっていた。

 「アステリオス!!」

 ヒカルはアステリオスの異変にばかり目が行っているので気づいていない様だが、周囲も歪み、雷光の迷宮も維持できなくなりつつあった。
 そして――――。

 「っ!」

 万古不易の迷宮(ケイオス・ラビュリントス)は崩壊し、囚われていた者達は全員解放された。
 しかも既に本日二度も展開している上に、連続使用も出来ないので、今この時だけはアステリオスは宝具を使えなくなっていた。

 「スカサハの予想通りだったな」
 「ああ。そしてあの娘が・・・」

 アステリオスを心配していた自分を見る士郎達に、親の仇のような鋭い視線を向ける。

 「あ、貴方たちね。アステリオスがこんな風に苦しそうにしてるのも!美奈の仇を隠したのも・・・!如何して邪魔するのよ・・・・・・あいつ等は死んで当然の屑じゃないッ!!」
 「――――君に、君にどれだけの正当性があろうと、この町を脅かす者達と行動を共にしている以上、見過ごすわけにはいかない」

 ヒカルは士郎に怒りを向けて、士郎はヒカルに哀れみに似た感情を向けている。
 昔の士郎であればヒカルも助けるべき対象だったが、自分の手の届く者達だけでも助けると言う方針に修正した今となっては――――。
 排除する対象と言いきれないのがもどかしくもあり、自分が情けなくなるところでもある。
 当事者達以外状況がよく呑み込めない空気の中で、守られ続けていたフィーネとリザはただ士郎とヒカルの2人を見守り続けるだけしか出来なく、同じく百代は周囲の雑魚を蹴散らしながらも耳を傾けている。

 「赦せないっ!」
 「――――炎」

 ヒカルは感情を昂ぶらせて、自分を覆う様に火を無意識的に発生させる。
 さらに期せずして、その影響により現界維持の力を補えたアステリオスは、よろめきながらも立ち上がる。
 そんな一触即発の中でまたしても招かれざるゲストが現れた。

 「天谷さん!」
 「っ!?師岡君・・・・・・」
 「師岡?」
 「モロ!!?」

 師岡の登場で士郎達――――特に百代は困惑し、ヒカルを覆っていた憤怒のオーラと炎が解かれる。
 モロは周囲を少し見た後、ヒカルに駆け寄っていく。

 「何で追いかけて来たの?」
 「心配だったからに決まってるじゃない。それに忘れるなんてできる訳無い!」
 「それでも私にとっては迷惑なの」
 「なら、突き放すなら中途半端じゃ無く、徹底してよ!此処で僕を殴り倒すとか!」
 「そ、そんな事・・・・・・」

 モロがヒカルに話しかけているのを見ている士郎達は、攻撃の手をオートマタの軍勢だけに差し向けながらモロの行動力に希望を見ていた。

 「凄いな師岡は。この特異な状況に困惑する事なく落ち着いているのは百代のせいなんだろうが、もしかすれば説得できるかもしれない」
 「あ、ああ・・・」
 (もしかして最近モロの想い悩んでいた原因は、あの娘についてだったのか――――って!なに、さらっと私をディスってるんだ!」

 オートマタを蹴散らしながら士郎の言葉に噛みつく百代をよそに、モロの言葉に押されているヒカルが現実を指さす。

 「――――そ、そもそも、私はあの人達と戦っているの!それにあの人たちの中に師岡君が言ってた川神百代さんがいるじゃない!それとも仲間より私の味方になってくれるって言うの!?」
 「別に敵味方に分かれる事が全部の解決策じゃないでしょ?――――モモ先輩、衛宮先輩!彼女は僕がなんとかしますから、任してくれませんか!?」
 「モロ・・・」
 「師岡・・・」

 モロの言葉と態度に僅かな希望が現れたと、一瞬だけ気が緩む。
 しかし士郎達は選択を誤った。
 今行うべきはモロの意思を尊重させることに非ず――――。

 「――――って!?」
 「逃げろ、モロッ!!」
 「え?」

 モロは直後に左肩から腰にかけて熱い感覚を感じると同時に、足に力を入れられなくなり、崩れ落ちるように倒れる。
 
 「モロッ!!?」

 士郎達が見たのはナイフだった。
 そのナイフの切っ先はモロの血で赤く染まっている。
 そしてナイフを持っているのは虚ろな目をしたヒカル。
 そう、モロはヒカルに背後から切り裂かれたのだった。
  
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