真田十勇士
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巻ノ七十三 離れる人心その三
「これまでの幕府の様に整ってはおらぬ」
「鎌倉や室町にあった」
「あの様な、ですか」
「幕府の様な仕組みが整っていない」
「それが為に」
「これではお拾様が幼いままだと」
それこそというのだ。
「天下は治められぬ」
「ですか、どうしても」
「では太閤様の後は」
「内府殿ですか」
「そうなりますか」
「そうなるやもな」
こう言うのだった。
「やはりな」
「ですか、では」
「天下は一つになりましたが」
「その天下が完全に確かになるには」
「泰平が確かになるには」
「唐入りの力をそちらに使えばよかったが」
つまり腰を落ち着けて政に向かえばというのだ。
「よかったが」
「それが、ですな」
「戦をした為に」
「そちらに力を多く使ってしまい」
「政には」
「そして関白様もな」
秀次、彼もというのだ。
「だからな」
「太閤様がおられればいいですが」
「太閤様がおられなくなると」
「最早」
「次の天下人で」
「豊臣家からは」
「せめてじゃ」
幸村は袖の中で腕を組み瞑目する様にして言った。
「織田家位にな」
「一門の方がおられ」
「跡継ぎの方もおられれば」
「この様な状況にはですか」
「なりませんでしたか」
「太閤様とお拾様だけでは」
とてもというのだ。
「心もとない」
「そういえば徳川家はです」
筧が言った、ここで。
「内府殿は子沢山で」
「そうじゃな、ご子息が多くおられる」
望月も筧のその言葉に頷く。
「何故か姫君は少ないが」
「ご子息は多く父親違いとはいえ弟君達もおられる」
海野はこのことも指摘した。
「一門衆もおられる」
「特にご子息が多い」
このこをだ、根津も言った。
「これは強いか」
「家中は一門衆もまとまっている」
由利は考える顔で言った。
「これも大きいのう」
「ご嫡男は竹千代殿か」
穴山はこの者の名前を出した。
「三男であられるな」
「ご嫡男はご長子であられたが」
清海は既にこの世を去った信康のことを言った、信長に言われて家康が仕方なく腹を切らせた我が子である。
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