とある科学の裏側世界(リバースワールド)
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second contact
ep.034 死なない工夫
弾丸は基本、目で捉えられるものではない。
だが今、子規が見ている光景はそのありえない光景だ。
大雨のように何万、何十万は届きそうな量の弾丸が襲い掛かってくる。
だが子規は少しも表情を乱すことなく、ポケットから1つのボタンを取り出しそれを押した。
「シールドエフェクト起動。」
子規がそう言うとそれに反応して巨大なケースからメカメカしい音声が聞こえる。
「シールドエフェクト キドウ テンカイ シマス....。」
あっという間に巨大なケースは変形し、丁度人ひとりが隠れられるくらいの壁ができる。
『そこまで頑丈ではないだろうが、少なくとも10分は耐久できると見た。 まったく、マスターも裏の顔が怖すぎて驚きだな。』
◆◆◆◆◆◆
遡ること数ヶ月前ー
子規は勝哉が常連のとあるカフェに来ていた。
勝哉の所持しているオーダーメイドの銃はその全てがこのカフェのマスターが作ったものと言っても過言ではないらしい。
子規がカフェを訪れたのは閉店間際の深夜23:00頃。
こんな時間帯でもない限り、マスターに武器等を注文することは不可能だと踏んだからだ。
カフェの扉を開ける。
堪らないほどのコーヒーの香ばしい香りが突き抜け、いよいよ店に入る。
ドアを開け、ベルの音がカランカランとなり響く。
店内はカウンター以外の明かりが全て消され、ジュークボックスからクラシックジャズが流れているだけだ。
そして、その静寂すら楽しむかのようにマスターが1人で食器の手入れをしていた。
「この時間帯に来客なさるのは"野口様"くらいだと思っていたのですが。」
マスターがコーヒーの準備を始める。
コーヒー豆をコーヒーミルで挽くたびにいい香りが漂い、注文をする気はなかったがコーヒーが飲みたくなってしまった。
数分してコーヒーの入ったカップが2つ出される。
子規はマスターに問い掛ける。
「俺まだ注文してないんですけど....このコーヒーってひょっとして.......。」
するとマスターがニコッとしながら答える。
「もう既に閉店の時間を過ぎていますので、今回は料金は結構でございます。 私からの"奢り"だと思って頂ければ嬉しく思います。」
マスターはそう言うとジュークボックスに向かい、曲をクラシックジャズからポップ・ミュージックへと切り替え、再びカウンターへ戻った。
「どうして曲の変更を?」
子規が再び質問をする。
客によって音楽のジャンルを変えるというのは並のセンスではできるものではない。
「お客様からは『多くの色が混じったイメージ』を感じましたので私の中ではポップ・ミュージックとイメージが同じだったのです。」
そこで子規は1つの出来事を思い出した。
夏休みの手前頃の話になるのだが不意に勝哉が音楽を聞いている光景を見たことがあったのだ。
『確かあの時に聞いてたのはクラシックジャズ。』
「はっ!!」
子規は驚く。
仮にマスターが新しい客が来るまで、曲を変えない人だったのなら自分より1つ前に来ていた客が勝哉かも知れないと思ったからだ。
「じゃあ....マスターにとって野口のイメージってどんなものなんです?」
難しい質問にマスターは少し考え込む。
しかし、割とすぐに答えは出てきた。
「『曲げられない何か』を持っているストレートな方なのではないかと思いますね。」
マスターの解答に子規はフムフムと頷いた。
少しだけだが勝哉を理解できた気がして嬉しかった。
それからしばらく雑談を続けて、気が付けば時計の針は1時に迫ろうとしていた。
ここで子規は『本題』に切り換える。
「話を変えるんですけど、今日はマスターに1つ注文したいものがあって来たんですよ。」
マスターの表情に少し変化が見られる。
どうやら時間帯から見ても、先程の質問からしても、その内容は察してくれたようだ。
「ご注文を聞きましょうか?」
「頼みたいのは『拠点防衛装置』。 それも『人力』で運べるくらいのサイズの必要があるんです。」
子規の注文は聞くだけでは想像もできないような『ぶっ飛んだ』イメージをしていた。
「運べるくらいのサイズというのはキャリーケースのイメージで合っているのでしょうか?」
それなら作れるのかと逆に質問したくはなるが、子規はこのために設計図を用意していた。
子規はあくまで提案者なだけであってそれを作るような力量は持っていない。
それ故に、このマスターが設計図通りに作ることができるのかどうかは重要な問題だった。
マスターは子規から渡された設計図に目を通す。
時折、細かく頷いたりしているので不明瞭な点はないのだと思った。
「なるほど、このサイズなのであれば一ヶ月ほどの期間を頂ければ作れるかと思います。」
「マジですか!!」
子規はコーヒーをこぼしそうな衝撃を受ける。
無理もないだろう。
常識外れのお願いを明確な期間まで設けて実行して入れるのだ。
単なる驚きでは済ませられないのも仕方ない。
その後、料金についての話し合いを済ませて子規はおもちゃを待つ子どものようにルンルンな調子でカフェを後にした。
◆◆◆◆◆◆
子規はシールドエフェクトに隠れながら、次の作戦を練り続けていた。
『既にこの状態で5分経過。 あと半分の時間しかこのシールドエフェクトは残っていない。』
子規はこの5分間で全体の何割の弾丸が自分を目指して飛んでくるのかを推測した。
『飛んでくるのは3割、あとの7割は回避場所をなくすためのものってことか......。』
すると、ここで予想外の出来事が発生する。
次の瞬間、シールドエフェクトは爆発に巻き込まれて大きな損傷を受けてしまったのだ。
これではもう隠れることも不可能だろう。
『今のは......炸裂弾か!!』
さらなる爆発を恐れて子規はシールドエフェクトから離れると、ハンドガンを2丁取り出す。
これから子規の脅威の耐久戦が始まる。
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