グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第76話:無礼講は急に行えない
(グランバニア城・カフェ)
レクルトSIDE
残務を終えて帰宅前に食事を済まそうとグランバニア城内のカフェにやって来ると、中から複数人の楽しげな声が聞こえてくる。
声だけでは全員を特定出来ないけども、1人だけ僕でも直ぐに判る声が居る。
それはエウカリスちゃんの声だ。
新しく宮廷画家として陛下に雇われた3人の内の1人だ。
年齢は3人の中では最年長(と言っても、他2人が同い年で、それより1歳上)だが、背丈が小さく一際高い声の持ち主の女の子だ。
彼女が数人とワイワイ楽しそうに会話してるって事は、多分他の2人も一緒に居ると思われ、この時間にカフェに居る理由としては、自分等の城勤めをお祝いしてるのだろうと推測出来る。
エウカリスちゃんは勿論、もう一人の女の子のピクトルちゃんも(ちょっと地味だったけど)可愛かったし、仲良くなれるチャンスを生かそうと僕もカフェへと突入した。
「ゲッ!」
あわよくば“彼女ゲット”なんて甘い夢想も打ち砕く人物がそこには居た。
「何だキサマ……俺の顔を見て『ゲッ!』っつたろ?」
宰相閣下のウルフ君も一緒に居るー!!
「言ってねぇッス! 閣下の聞き間違いッス!」
「まぁいい。お前も一緒にコイツ等の祝賀会に交ざれ! 金は俺が出すから」
金の問題では無く、仕事が終わったんで今日は帰りたいんですけど。
「あの~……今日は……!? そ、そちらのお嬢さんは何方ですか!」
帰りたい旨を伝えようとして気付いた。何故だかリューナさんが一緒に居る事に!
僕個人は彼女が何者か知ってるんだが、この新人等が存じてるのかが解らなかったので、かなり漠然とした質問をウルフ君にぶつけてしまう。
「あぁ……彼女は新人の宮廷画家ラッセルの彼女……名前はリューナさんだ」
「へ、へぇ~……そ、そうなんだ……ラッセル君の彼女さんなんだ……」
完全に帰るチャンスを逃した僕は、ウルフ君から目で合図されたユニさんに手を引かれ、強引に同席させられている。
「え~っと……軍務秘書官のレクルト閣下ですよね? 俺の彼女が気になりますか?」
気になるねぇ……彼女の存在も気になるが、お父上の事がより気になるねぇ!
だが、そんな僕の思いを知らないラッセル君は、美人の彼女を自慢したいのか満面の笑みでこちらを見ている。
「い、いやぁ~……あまりにも美人だったんで目を奪われちゃって……」
僕の立場上、こう言うしか無いだろう。こう言っておけば、彼氏君も満足だろうし、陛下の血筋を暴露する事にもならないし、ウルフ君が余計な事さえ言わなければ丸く収まる。
「そんなに気になるんなら奪っちゃえよ! 別に結婚してる訳じゃないのだし、良い女を奪うのは誰もが持ってる当然の権利だぞ(笑)」
だから余計な事言うなっての!
「ちょ、ちょっとウルフ君……」
「宰相の俺が言うのも何だが、コイツは将来有望だぞ!」
な、何だコイツ……普段褒めないクセに、こう言う時だけ饒舌に褒めちぎり皆さんにアピールするぞ!
「現在までは軍縮していたけど、今後は拡大させていく事になる。何より国家にとって軍隊は絶対必要不可欠な存在だから、その中央で働いてる頭脳労働専攻者は出世する事間違いない! しかも相当大きな失態でもしない限り、首を切られる事は皆無だ」
「あ、いや、その……僕の事はいいよ……新人さんの歓迎会なんでしょ……皆のお話をしようよ」
「何だお前……何時も『彼女欲しぃ』とか言ってるじゃんかよ(ニヤニヤ)」
コイツ凄ー性格悪い。出会い頭に『ゲッ!』とか言っちゃったからか?
「い、いや……人の彼女には手を出さない主義だからぁ……」
「ば~か。そういう事はリュカさんみたいなモテる男が言う権利あるんだよ!」
そんな事は解ってるよ! でも彼氏の前で『僕の彼女になって』とか言えないだろ!
ってか、そうじゃなくて……彼女の血縁関係が問題なんだよ! お前、僕の事を『お義兄さん』って呼べるのか?
「そんな事より平宰相! 私のバイト先の状態をどうにかしろ!」
「バイト先!? 何、如何したの? ウルフ君、どうにかしてあげようよ!」
何だかよく解らないけど、話の流れを変えるがチャンス到来したので、慌ててエウカリスちゃんの訴えに乗っかる。
「何で俺が動かなきゃならないんだよ、無関係じゃねーか!」
「無関係じゃ無いわよ。アンタもあの場に居て、私達の持て成しを受けたでしょ!」
全然話が見えてこない……でも下手に問うて、また話題が僕やリューナさんに戻されても嫌だしなぁ。
「あのねレクルトさん。彼女(エウカリス)のバイトはキャバ嬢なの。それでね先日ウルフ閣下がティミー殿下とカタクール候に連れられて彼女の働く店に行った時、実はリュカ様もお忍びで待ち構えていたらしく、その時の対応が問題になってるのよ」
僕の顔に出ていたのだろうか?
ユニさんが事の顛末を簡潔に説明してくれる。
良い娘だなぁ、ユニさん。
「お忍びって事は“プーサン”になって店に現れたって事ですか?」
「そうだ。そしてカタクール候の子飼いの連中と一緒に、俺達の到着を2.30分前から待ち構えていたらしい……店内で、客としてね!」
「候の子飼いの連中って、あのゴリラみたいな人達?」
「ゴリラなのは1人だけだ。他は真面そうだよ……金は持って無さそうだけどね(笑)」
なるほど……大体話が見えてきた。
「プーサンに変装した陛下と候の子飼い連中だけじゃ、とても金回りが良さそうに見えないね。と言う事は、ウルフ君達が到着して陛下等と合流するまで、女の子達は近寄りもしなかった訳だね……事前に上客たる候が来店する事を知ってたし」
「流石レクルトは話が早い。俺が見た景色は、着飾った女共がウジャウジャ集ってくるモノだったけど、リュカさんは2.30分もの間、むさい男共だけで飲んでたんだと思うね。どうよ、そんな店に行きたいか?」
「結論から言うと絶対に行きたくないですね。楽しくなくても金は取られる訳ですし……」
「そんな事言われたって、陛下が居るって知らなかったんだし仕方ないじゃない!」
「その言い訳は一番ダメな奴ですよエウカリスさん」
「ダ、ダメ!?」
「陛下は変装してた訳ですし、その存在に気が付かなくても問題ないし、陛下は怒ったりしないのです。問題なのはあからさまな選客態度です」
「せ、選客態度?」
「本来であれば、お店に来店した時点で誰もがお客様です。お会計の時に『お金持ってません』とか言われるまでは、お客様を持て成す態度で対応しなきゃダメでしょう。でも陛下の周りには注文をとる男性スタッフ以外、誰も近付かなかったみたいじゃないですか?」
「だから、私達も陛下が居るとは知らなかったんだから……」
「はい、それ! その『知らなかった』を言い訳にしてるトコ! 陛下が変装してる意味を考えて。王様の姿じゃ誰もが良くしてくれる……だから平民の格好をして、一般人と同等の扱いをして貰おうと陛下は考えてるんです」
「そうだな……レクルトの言う通り。一般人と同等の扱いを期待して入った店が、金持ちと貧乏人を差別する店だった時、リュカさんの心境は穏やかなモノじゃ無かったと思うよ」
「だからそれは……」
「うん。解ってる……陛下だとは思わなかったって言うんだろ? でも相手の地位や役職によって態度を変えるって、悪辣な差別主義者じゃない? 相手が奴隷だったら、話しかける事もせず鞭打ちでもしてやろうってことでしょ!」
「別にそんな事は考えてないわよ……」
「お前等が何を考えるかは問題じゃない。今回の問題点はリュカさんがあの時に何を感じたかになる! 金の無さそうな一般人が来店しても2.30分相手にされず、後から来た侯爵を見るなり女共は其奴に群がっていった。しかも侯爵の連れの身分が解るにつれて、女共の態度も二転三転する始末……誰もリュカさん等に興味を示さないから、俺は必要以上に悪態を吐いて嫌われ役を演じたんだぞ!」
「悪態を吐くって……ウルフ君、それを演じる必要がある? 普段通りだと思うんだけど」
「うるさいなレクルト! 兎も角、あの店は誰に対しても平等じゃないと思ったリュカさんは、その鬱憤を色んな人達に言い触らしてるんだよ」
「だ、だからってそんな悪評を放置しないでよ! アンタ宰相閣下でしょ……何とか陛下に取り成してよ」
「確かにちょっと可哀想な気がしますね。誰だってお金持ちの上客を得たいと思いますものね」
本当にユニさんは優しいなぁ……エウカリスちゃんの擁護に回ってるよ。
「ユニさん……君は女だから解ってないけど、キャバクラって場所は男に夢を売ってる仕事なんだよ。なぁレクルト」
「そ、そうですね」
急に話を振られて吃驚した!
「お酒を飲みたいのなら、何もキャバクラじゃ無くても飲めるんです。もっと低料金の店だったり、自らお酒を仕入れて自宅で飲んだりと……でもキャバクラって所は、僕みたいな女性にモテない男性でも、簡易的にモテモテになれる(様な錯覚する)場所なんです」
「なんか……哀しい」
「ユニさん……今そこを指摘しないで!」
解ってますよ……言ってて哀しくなってますよ。
「兎も角、擬似的にでもモテモテ感を味わう為に、薄給の中から無理してキャバクラに訪れてるんです。それなのに見た目がダメそうだからって理由でモテモテ感を味わえず、無駄に高い料金だけ搾り摂られるなんて、誰が行きたがりますか? カタクール候のようにお目当ての女の子が居る人以外、誰も行きたがりませんよ」
「その通りだな。何より俺が気になったのは、店側もそこで働く女共も、先見の明がなさ過ぎるって事だよ」
「おい平宰相……それは如何いう意味だ!?」
ぷぷっ……“平宰相”だって(笑)
「リュカさんは変装してたんだから貧乏人に見えて当然。でもね、その貧乏人が将来大成するとは考えなかったのか? もしその事をちょっとでも脳裏に過ぎらせ、1人でもいいから女の子が……店内人気最下位の女でも良いから、リュカさん等の相手をしてれば状況は全然違ってたんだよ」
「そんなの結果論じゃん!」
「結果論だと!? 違うな……まだ結果は出てないが、リュカさんが連れてた候の子飼い連中は、今度行われる武術大会で上位の成績を収めると、結構な地位を得て国家に仕官する事になってるんだ。 ……って事は未来の上客候補を失ったって事だよ(笑)」
「じょ、上客候補って……そんなの未だ解ってないんだから、気になんてしてられないわよ!」
「誰が如何なるか解らないから、誰に対しても同等の扱いをしなきゃならないって事だよ。チヤホヤしてたカタクール候だって、もしかしたら没落して貧乏人に様変わりするかもしれないだろ! その反面、どの貧乏人が大金持ちになるかだって判らない」
「そうね……確かにウルフ閣下の言う通りだわ。誰に対しても同じ扱いをしてれば、誰が出世しても店に不利益にはならないモノね」
「う゛~……」
少し味方してくれたユニさんも、ウルフ君の言葉に納得してしまい、エウカリスちゃんは悔しそうに唸ってる。
まぁこれ以上口論しても意味ないだろう。
ウルフ君に口喧嘩で勝てる奴が居るとは思えないし。
「分かったわ……私(が勤めてる)の店の問題点が。店長にも話して早急に改善させるから、悪い噂だけでも止めさせてよ! お店を改善したって、客足が減ったら意味ないじゃん」
「そんな事は知るかよ。悪い噂を払拭するのは、その店の営業努力だろう! 悪い噂も自業自得なんだから、払拭作業も自らの努力でどうにかしろ!」
「相変わらず厳しいなウルフ君は……」
「厳しくなんかねーよ……あ、お前この間昇給したんだから、これを機会に通い詰めてやれよ。エウカリス……じゃなくて、サビーネ嬢をナンバー1にしてやれよ(笑)」
「馬鹿なの? ウルフ君は馬鹿なのかな? 昇給したって言っても元々が薄給なんだから、カタクール候が通うような高級キャバクラになんか行ける訳ないだろう!」
僕にだって生活ってモノがあるんだよ!
「月に1回……生活水準を下げれば月2.3回は行けるだろう。頑張って通ってチヤホヤされて、そして悪い噂の払拭に協力してやれよ。どうせ貢ぐ彼女も居ないんだから、親しくなった美女の為に身銭を削って格好付けてみろよ。彼女になってくれるかもしれないぞ……店の中では100%彼女になってくれる!」
この野郎……勝手な事ばかり言いやがって。
「レクルトさ~ん♥ 早速明日ぁ同伴してぇ~♥」
ウルフ君の言葉を聞いたエウカリスちゃんが僕の隣に来て腕に抱き付き同伴出勤を強請ってくる。小ぶりだが胸が当たって何とも言えない……
「頑張れレクルト。キャバ嬢に貢ぐなんて大物になった証だぞ!」
「君は貢いでないじゃないか!」
僕より遙かに大物なウルフ君だって貢いでないのに、何で僕が貢がなきゃならないんだ!?
「俺はホラ……平宰相だし、とても大物とは言えないよね」
「何でこう言う時だけ謙遜するんだ!? 何時もは『俺天才!』とか『俺イケメン!』とか言って、周囲の人々を威圧してるクセに!」
「俺が天才である事とイケメンである事は事実であり、その事を周囲に知らしめてるだけで威圧はしてない。更に言えば俺は女に不自由してないから、ワザワザ女遊びに金を出す必要がない!」
姫様2人と付き合ってるって事自体が、彼の大きなアドバンテージになっている。従って女関係の事柄には、かなり強気に出てくる。
あぁもう……何これ!?
何かもう断れない雰囲気になってない?
レクルトSIDE END
後書き
何の気なしに登場させたレクルトですが、
最近良い感じなキャラになってきた気がする。
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