魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~
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第七話 叔母 ―イラストレーター―
前書き
お待たせしました。今回はちょっと趣向を変えて、ブレイブデュエルの裏方、第一話から存在は示唆されていた紗那の叔母の登場です。
「……うん、これで全部揃ったね」
「じゃあ行こ、さー姉」
「うん」
歴史を感じるとある店の前で手から下げたビニール袋の中身を確認し、頷いて歩き出した紗那と麻耶。その中にはインクやスケッチブック、鉛筆といった色々な画材が入っている。
「久しぶりだなー、イズミ姉の所に行くの。元気にしてるかな」
「泉さんの場合、元気じゃない姿の方が想像できないけどね」
嬉しそうな麻耶の言葉に、同じく笑顔で返した紗那。そう、彼女たちが会いに向かっている先。それは紗那の叔母に当たる、城戸 泉の家だ。独立したイラストレーターをしており、ブレイブデュエルにバリアジャケットデザインやステージデザインの分野で協力しているのだそうだ。すなわち、紗那がシュテルと黒い剣士のデュエルの映像を見せてもらった相手である。
ちなみに泉は紗那の叔母ではあるが、従妹である麻耶の母ということではない。麻耶の母は紗那の父の妹であるが、泉は紗那の母の姉である。
マンションの一室の前に着いてチャイムを押すと、中から元気な声が返ってくる。
『はいはーい! 待ってたよ~!』
すぐさまドアが開き、満面の笑みを浮かべた女性、泉が現れた。クルクルと巻かれた黒髪を肩のあたりに下げていて、目尻が下がっていつもにこにこしているのであろうことがすぐにわかる顔つきをしている。泉は二人の姿を認めると元気よく手を挙げて二人を歓迎した。
「やぁやぁさーちゃんまーちゃん、おっひさしぶりぃ!」
「やっほー、イズミ姉」
「泉さん、これご注文の品。いつもの店のやつ」
「おーっ、ありがとありがと~! いやー、やっぱりこの店の画材が一番手に馴染むんだよねぇ色合いもお気に入りだし!」
紗那から画材を受け取った泉は二人を家に招き入れ、二人も家の中に足を踏み入れた。泉が紗那が買ってきた色々な画材を作業場に置きに行って二人もそれに付いていき、麻耶は作業場を楽しそうに見回していた。PCやスキャナーといったデジタル機器や、画材関係のアナログの道具がたくさん置いてある。絵のテイストによって画材を使い分けるのか、水彩関係のものや色鉛筆、カラーペンなど画材の種類もいろいろだ。その時、麻耶が何か見つけたように棚に近づいて行った。透明なファイルで、その中からカラフルな色が薄く見えている。
「ん? イズミ姉、これイズミ姉がデザインしたバリアジャケット?」
「そうだよ。色々あるでしょ~?」
そう言って、そのファイルを取り出して二人に見せながらめくっていく泉。甲冑、巫女服、コート、ファンタジー風、学生服……などなど、あらゆるジャンル、あらゆるバリエーションのバリアジャケットのデザイン画がいくつも手描きされており、決定稿らしきもの以外はその中に鉛筆で色々な修正点が書き込まれている。カラーバリエーションなども当然あり、とてもカラフルで見ていて楽しいものばかりだ。
「ホントにいろんなのがあるね、騎士の甲冑みたいなのから巫女服みたいなのまで……」
「この巫女服は結構気に入ってるんだ~。この辺のキラキラがラメっぽいところがポイントでね? 確か爆裂巫女とかって二つ名のデュエリストが着てくれてたかな。あ、こっちの水色とオレンジのやつは“勇者と聖女”って感じのイメージでね、イメージピッタリな姉妹ちゃん達がロケテストの時から着てくれてて!」
と、そんな感じで泉の解説付きで、バリアジャケットの原画という実はかなりレアなものを見ていく二人。と、あるページで紗那が目を止めた。白い法衣に赤いクロスとライン。この衣装は……
「……あれ? これ……セレスタル?」
「セレスタルって、疾兄の使ってるやつ?」
「あぁ、二人の知り合いの少年君が着てるやつだね! これもカッコいいでしょ、色の対比がお気に入りなの。いやーやっぱり誰にでも似合うよねぇ、さすがわたし!」
「……ん?」
と、そこで紗那はその言葉に引っかかるところがあって首を傾げた。まさか、と泉に向き直る。
「泉さん、もしかして……私たちのデュエル、見てる?」
「もっちろん、色んなところの動画見てるよ! わたしがデザインしたジャケットをどんな人が着てくれてるのか実際に見たいからね。当然二人のことも知ってるよ? ……ねっ、風雪の忍ちゃん♪」
「うにゃあああ!? やめてぇええ!!」
悪戯っぽくニシシと笑う泉。そんな彼女にデュエルを見られたどころか自分の二つ名まで知られてしまっていることがわかり、恥ずかしさで錯乱した紗那は泉をガクガクと揺すった。麻耶はというとそれを面白がって見つつ、こちらは自分のデュエルを見てもらっていたことに喜んでいた。
「おぉ、動揺してるねぇ! あ、ちなみに……」
と、揺らされていることを気にも留めずに泉は何やら別のファイルを取り出してパラパラとめくっていく。あった! と言って見せてきたページには……
「……シャドウ!?」
そう、メッシュの入った露出の多いくノ一衣装。紗那のバリアジャケットであるシャドウがあったのだ。そちらに驚き、揺らすことを止めた紗那がそのイラストに注目し、その様子を見ながらえっへん! と胸を張る泉。
「そう、これをデザインしたのはわたしなのだ! いや~、ぶっちゃけさーちゃんをイメージして描いたバリジャケだったから嬉しかったよ~、さすがの着こなしだね!」
「えっ、そっそうだったの!?」
初めて知る事実に驚愕して紗那は固まった。ならもしかして、と麻耶も試しに聞いてみたところ……
「そうだよ、まーちゃんの使ってるフェアリィもわたしが描いたんだ! 運命的だよねぇ、私は嬉しいよ!」
「おおっ。私もあのバリジャケお気に入りなんだよーありがとう素敵なの作ってくれて」
「わたしこそだよ~」
うふふふ~と笑いながら抱き合って幸せを共有しあう二人。それを見つつ、ファイルをパラパラとめくってフェアリィのデザイン画を見つけ、「ホントだ……」とあまりの偶然に固まる紗那。なんともカオスな空間だが、ひとしきりじゃれあった後はお互いに落ち着き、その後もいくつものデザイン画を見て楽しんだ。
バリアジャケットのファイル(の一部)を見終わった後、泉は別のファイルを持ってきた。それを二人が覗き込むと、そこには武器の絵が描いてあった。どうやらこちらはデバイスのデザイン画のようだ。
「こっちは……デバイスのデザイン?」
「そうだね! ほらほら見て見て~」
と、同じようにパラパラとめくっていく泉。日本刀、西洋の剣、曲刀、槍といった近接武器からライフルやサブマシンガン、弓といった遠距離武器、そして何より色々な形状や長さの魔法の杖。ブレイブデュエルが老若男女に人気になるだけあって、カッコいい系から可愛い系まであらゆるデザインのデバイスたちが描かれていた。と、ふと麻耶が期待を込めたような口ぶりで泉に聞いた。
「……もしかしてこっちにも……」
「もっちろんこっちにも二人とか二人のお友達が使ってるのもあるよ! えっとね~……あった! ほらほら、これ!」
「あ、リラ」
と、泉が見せてきたのはメカニカルな銃剣だった。すなわち疾風のデバイスであるリヒトラスターであり、その変形機構やエフェクト等が細かく書き込まれていた。その時点ではまだ仮名だったのか、“デュアルブラスト”と書かれている。
「へ~、リラって名前なんだ」
「うん。リヒトラスターで、略してリラ」
「ほうほう。光続けるもの(リヒトラスター)か、カッコいいね!」
「うん。疾風も気に入ってるって」
「そっかそっか!」
紗那の言葉を聞いて、満足げに満面の笑みを浮かべる泉。自分が作り出した作品を気に入り、愛用してくれていることはそれほど嬉しい事なのだ。続いて泉はページをめくり、紗那に向けて差し出した。そこには見慣れた鍔なしの刀とクリスタル付きの黒い鞘、すなわち紗那のデバイスであるステルスリンクが描かれていた。
「次はこれ、さーちゃんの子! 名前なんていうの?」
「リンク。……ステルスリンクっていうの」
「良い名前つけてくれてありがとう! 嬉しいよ~」
「ふやぁ! や、やめてよ泉さんー」
にゅふふ~、と人懐っこい猫のように笑いながら紗那にすりすりと頬ずりする泉。が、そんな二人そっちのけで、「へー、刀の方にクリスタルが付く案もあったんだ……」と麻耶はデザイン画を見ていた。
「この子はシンプルにまとめた子だね~。基本的には背中に背負う形になるから、鞘にあんまり装飾があってもダメかなってなってね? で、鞘といえば黒だし、それなら小太刀くらいの長さでシンプルに。かつ扱いやすくしようってことになったの! 変形させるのも刀の方にして、鎖鎌とか短刀とか変形するのは刃だけで、柄を共有できるようにしたの!」
「なるほど、それで結構簡潔なデザインなんだね……それでもカッコいいから気に入ってるよ」
紗那の感想を聞いて嬉しそうにした泉。しかし麻耶がこの流れでうずうずしていることに気付き、ファイルに目を戻した。
「ではお待ちかね、まーちゃんの子だよ~!」
と、泉は元気よくページをめくっていき、麻耶のデバイスであるライのページにやってきた。メカニカルな弓形態と分割して刃の出力された短剣形態、その二つが描かれている。
「ちなみにこの子の名前はなんて言うの、まーちゃん?」
「正式名はライティリウスで、縮めてライって呼んでる」
「おぉっ、それもカッコいいね!」
と、麻耶の頭を撫でる泉。嬉しそうに笑う麻耶を撫でながら解説を始めた。
「この子は結構悩んだ子だねー。斬新でしょ、この変形機構? 最初は弓形態のままで……えっと……こんな風に刃が出る案もあったの。でもこれだと近接戦も難しいし弓として使うのも機構として説明がつかないよね、ってなって……じゃあ、分割して短刀二刀流にしちゃおう! ってことになったの!」
「「へー……なるほど」」
ボツ案らしいものを見せてもらいながら説明を受け、興味深そうにイラストを覗き込む二人。弓の形状も和弓からアーチェリーの弓のようなものまで、いろいろな形状があり、刃も直線のものから反ったものまであらゆる形状があった。
「こんな風に、いろんなデザインを考えていくんだねぇ……」
「ボツになっちゃった案もあるけど、そういうのも後から使えるかもしれないからストックしてあるんだよー。……そっちは今後実装されるかもしれないことだから秘密なんだけどねっ」
「そっか……今後もいろいろあるってことだね」
「うん。楽しみだね」
この先にも色々と続いていくということを予見することができ、笑いあった。紗那と麻耶。そんな二人を見て嬉しそうに笑った泉は、ふと思い立ったように立ち上がった。
「そうだ。さーちゃんにはこれをあげよう」
「これって……」
「“ミッドナイト”と“セイクリッド”のデザイン画だよっ」
戻ってきた泉が渡してきた二枚の紙の一枚目は、例の映像に出てきた黒衣の少年のバリアジャケットのデザイン画だった。革のような素材感のロングコートと、同系統のパンツ。二枚目にはシュテルの着ていた紫色の衣が描いてあった。
「さーちゃん、あの映像気に入ってたでしょ? デザイナーさんに送ってもらったんだ~。あの女の子のセイクリッドもカスタム入ってるし、あの男の子のはさらにこれをベースに、かなーりカスタマイズ入ってる特別性なんだけどね。名前は確か“フェンサーオブミッドナイト”で、カスタムした人はレイネルさんって言ったかな? あそこまで凝ったアレンジする人はほとんどいないんだけど、すごいよね! これも良いデザインだよー、カッコいいし可愛いし~」
「……ありがとう……」
憧れのデュエリスト二人のバリアジャケットのデザイン画。そんな貴重なものをもらい、紗那は本当に嬉しそうにそっとその紙を抱いた。が、改めてミッドナイトを眺めているうち、その表情が少し曇っていく。
「……でも、あの男の子の姿が見つからないんだよね……」
「そんなさーちゃんに朗報! じゃあついでだからこれもあげよう!」
と、泉がさらに何かの紙を渡してきた。紗那が受け取ったその紙に映っていたのは……紗那が探し続けていた少年だった。あの時と同じバリアジャケットを纏い、瞳を闘志に燃やして黒白の二刀を振るっている。これは誰かと戦っているデュエルのスクリーンショットのようだ。
「これって!?」
「そう、あの映像の少年だよ! 最近色んなところに乱入してるみたい!」
「そっか……そう、なんだ……」
慌てて向き直った紗那に泉は笑いかけ、紗那は彼女の言葉を聞いて俯いて微笑した。ずっと、本当にずっと探していた少年。もういないのかもしれないとすら思った彼が、今も同じ世界にいる。ということは……
(いつか、会えるかも……!)
その姿を確認できたことで、より現実的になった出会いの日。それを夢見て、紗那は微笑みを深くした。……それがあまり遠くはないことを、彼女はまだ知らない。
「そうそう、二人を誘おうと思ってたんだ!」
さてそろそろ解散しようか、というような雰囲気になったところで泉が何かを思い出したようにパンと手を叩いた。何かと首を傾げる二人の方に向き直り、ニコッと笑う。
「今度ゲームセンターで、新しいバリアジャケットとルールの体験会が催されるんだけど、二人も一緒に来ない?」
「「体験会?」」
「そう! 今度実装される予定の新しいバリアジャケットのビジュアルテストと、新ステージとそれに対応した新デュエルルールの体験会が行われるの! で、実装前テストも兼ねてるから知り合いのデュエリストに声をかけて欲しいって言われててね! 二人とも、どうかな?」
泉に尋ねられ、顔を見合わせる二人。しかしお互いの気持ちが通じ合ったようで二人ともすぐに笑いあい、頷いて了承した。と、そこで麻耶が気付いたように尋ねた。
「あの、イズミ姉。他にもデュエリストの知り合い呼んでもいいかな?」
「もっちろんだよ~大歓迎! あ、いつも遊んでる子たち?」
「うん。ねぇさー姉、疾兄とゲン兄も呼ぼうよ、面白そうだよ」
「そうだね、聞いてみよっか」
「ぜひぜひ~! きっと楽しいよ!」
と、笑いあう三人。と、そこでふと紗那は聞いていないことがあったことに気付いた。
「そういえば、場所は? アズール?」
「ううん、山彦市ではあるけどちょっと違う場所。“ポートロッソ”だよ!」
後書き
という、感じでございました。絵師さんとかそういう裏方の話もしてみたかったのでこういう話を入れてみました。
ちなみに気付いている方は気付いていると思いますが、この風雪のサブタイの付け方はまんま某絆の巨人を踏襲させてもらってますw
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