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没ストーリー倉庫

作者:海戦型
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御使いのいる家 ぱ~と5

 
前書き
実はまだ終わってなかったけど定期更新はしていないシリーズ。 

 
 
 人間誰しも苦しいのは嫌なもんだ。

 御使いの連中は人間辞めたマンなのであまり苦しむ事はなかろうが、大絶賛ノーマルヒューマンな俺に風邪などの症状は辛い。寝た方がいいって言われても体キツくて寝れないし、布団に入って汗かけっていう民間療法実はウソだったらしいし、さっさと治ってほしいものに限って治らないこんな世の中じゃポイズンと言う名の風邪薬飲むしかねぇ。
 
「ミツル貴様ぁ!!たかが風邪の治療に市販の風邪薬を服用しようなどと愚かなことを考えはおるまいな!?水銀を不死の妙薬と思い込んで飲み続けた始皇帝と同等に度し難し!!ええい、この機会に無知な貴様に時代遅れな市販の風邪薬がどれほど危険な劇物であるかをこのドクトリンが……」
「ドクトリン、五月蠅いです。またアドヴェントに絞められますよ?」
「……説明してやろうと思ったが吾輩はこれから町内会があるので失礼する!!」

 ドクトリンことハゲは明後日の方向を向きながら病室を後にした。
 暑苦しいのがいなくなって我が家に珍しく平和が訪れる。

 さて、俺は現在風邪をひいている。夕べのみんなが寝静まった夜に欲望の赴くままにエアコンの温度を12℃に設定しおったテンプティの悪戯と、無駄に高性能すぎるのが仇になって本当に室内気温を12℃まで下げてきたエアコンのコンボプレイは俺の免疫機能に大打撃を与えてくれたらしい。

 とりあえずアドヴェント達の診断によると普通に夏風邪らしいので養生している。咳はないが、体がダルい。

 永遠の命に興味はないつもりだったが、全身がダルイとちょっとだけ病気しないスーパーボディが欲しくならないでもない。案外エス・テランの人間が人類融合計画を実行したのは、そんな些細な欲望の集合体だったのかもしれない。
 不老不死の夢は今の人類も持ち続ける欲求だ。俺たちの文明も気が遠くなるような先の未来では同じ道を辿り、そして新生激おこ連合とかに滅ぼされるという無限ループを繰り返すのかもしれない。ヤな宇宙だ、きっと地球が日常的に滅亡の危機に瀕しているに違いない。

 ……なんか本当にありそうだが、俺にはあまり関係ない話だろう。

 普段役立たずのサクリファイ姉は俺の額にずっと手を乗せており、この手が柔らかくてひんやりしているから凄く気持ちいい。思春期男子としてはドキがムネムネしちゃうべきなんだろうが、俺としてはなんでサクリファイ姉の手がこんなに冷たいのかが分からん。

「なんでサクリファイ姉の手は冷えピタ並にひんやりなんだ?」
「次元力の応用です。更に次元力によって疲労を抑えているので長時間体勢を維持できます。どうです?私でも次元力さえ使えればこのように人の役に立つことも出来るのです!」
「参考までに、他には何が出来るんだ?」
「色々とできますが、アドヴェントに『決してこの本の内容を逸脱しないレベルに抑えるように』と手渡された本を読んだ限りでは他に出来ることはありません。力を持て余して哀しい……」

 さっきまでのどや顔から急転直下でしょぼくれてるがいつものことだ。次元力まで持ち出して冷えピタにしかなれないこの人の駄目加減に驚嘆を禁じ得ない。
 なお、当人が持っている本には『バアルでも分かる簡単な風邪の治療法 著:柏葉真紀 編:アドヴェント』と書いてある。柏葉真紀……いったい何者なんだ……。

 と、部屋の扉が開いて割烹着姿のテンプティがお盆を抱えて入ってきた。

「はーい、お待たせー!御使い印の栄養満点卵粥とお水だよ~♪」

 割烹着を着た美少女の介抱……ふむ、中身がテンプティじゃなければものすごく嬉しいのだが、この際贅沢は言うまい。何も知らん奴から見たら美少女と美女に二人がかりで看病されてるわけだし。
 諸悪の根源ことテンプティは流石に責任を感じたのか、今日は朝から病人食を作ったりとちゃんと働いている。

 ちゃんと働いている。

 ……………。

 いや、ちゃんと働くテンプティというのはもはやテンプティではないのではなかろうか。ふざけてだらけるのが存在意義のテンプティが真面目になったら、もうそれはテンプティではない。アイデンティティの崩壊したティティ(笑)、即ち別物だ。
 俺は閃いた。熱があるのになんて冴えた頭脳なのだろう。

「そうか分かったぞ!テンプティ、お前さては顔そっくりな偽物だろ!お前が真面目に働くなんて冷静に考えたら絶対ある訳ないッ!!」
「ヒドッ!?テンプティだって暇な時は働いたりしてたんだよ!?激おこ連合で家事洗濯のお手伝いしてた時期もあるし、信頼と実績の家事スキル持ちだよ!?」
「嘘を言うなっ!!猜疑に歪んだ暗い瞳がせせら笑うわ!例え神に最低野郎と罵られたって俺は絶対に信じないからな!」
「……まー無理に信じてほしーとは言わないけどさ。取りあえず目の前にあるほっかほか卵粥を作ったのがテンプティなのは純然たる事実なわけですよ。いま家にはテンプティと残姉ちゃんとミツルしかいない訳だし」
「んあ?ハゲだけじゃなくてアドヴェントもいねーのか?」
「うん。看病するのに人は3人もいらないだろうから、だって」
「……看病はいいんだけどさぁ、本当に薬抜きで治さないと駄目なのか?」

 ぶっちゃけ頭痛いのを誤魔化す鎮痛剤や解熱剤のどっちかくらいは使いたい程度に俺は熱が出ていてしんどい。薬で風邪は治らないが、この苦しみを誤魔化すことは出来るわけで、俺はそれを求めているのである。

「そもそも次元力で病気治せんのか?」
「無理じゃないけどぉ。力加減間違えてうっかりディメンションエナジークリスタルに浸食されてゴジラみたいになっちゃうかもよ?」

 図解で説明される手作り感満載の結晶怪獣エル・ミレニウムくん(138.7m)。確かにゴジラみたいになっとる。流石に怪獣になりたいという奇天烈な夢は持っていないのでなんとかテンプティを懐柔したいところだ。

「別の方法でお願いします」
「怨嗟の魔蠍印のナノマシンポイズンいっとく?」
「よく分からんがそれ絶対飲んだら死ぬだろ!」
「それがそうでもないんだなー♪このナノマシンは精神に干渉するから痛みを消すくらいは出来るよ!ただし前のスフィア・リアクターが超ネクラだったから変な副作用あるかもしんないけど!!」
「駄目だこりゃー!」

 おのれ淫乱ピンクめ、碌なアイテムを持っていやがらねぇ。しょうがないから自然治癒するしかなさそうだ。俺は体を起こし、おとなしく卵粥を食べることにした。

 の、だが。

「ちょ……サクリファイ姉の手がモロに邪魔!手ぇどけて!!」
「で、でも私は良かれと思ってあなたの為に冷えピタになりきっていたのですよ?どうしてそんな悲しいことを言うのですか……私には理解できません。善意が伝わらない……誰か太陽炉搭載機とイノベイダーを……」
「オーケー分かったそれなら横じゃなくて後ろから俺のおでこを冷やそうか!」
「こ、こうでしょうか?」
「わー目が超ひんやりするー……って目ぇ隠してどうすんだよ!!『だーれだっ♪』みたいなベタなことしてんじゃない!!」
「ぬふふ……仕方ない、前の見えないミツルに代わってテンプティがアーンして食べさせてあげる!ほら口開けて、アーン♪」
「誰がやるか誰が……アッツ!!ちょ、アツゥイ!!出来たてホカホカすぎて舌火傷するぅ!?」

 やっぱり御使いに身の回りの事を任せると碌な事にならねぇ。
 ちなみに余談だが、卵粥は超美味しかった。家事出来るんなら普段からやれよ……やれよッ!!


 = =


 ドクトリンは常に何かに怒っている。
 その怒りは割と理不尽なものも多いのだが、時にはこんな面倒くさい人が役に立つこともある。

「へへっ、ピンポンダッシュは楽しいぜ!」

 その日、近所に住む悪ガキはピンポンダッシュで近所に迷惑を振りまいていた。
 ピンポンダッシュ――それは現代では減少傾向にある子供の悪戯の総称である。名前は地域によって若干のばらつきがあるが、「ピンポン」は家のインターホンを鳴らす音、「ダッシュ」は家主が出てくる前に走って逃げることを意味し、無意味に人を呼び出しては逃走して相手が玄関に出てきたときには誰もいない……という行為によって悪戯がばれるかどうかの狭間のスリルを楽しむことは全国共通である。
 だが、やられたほうは迷惑千万。無駄な労力を強いられた挙句に玄関にたどり着いたころには誰もいないのだから腹立たしいものである。そして怒りの体現者たるハゲがこの事態を放っておくだろうか?
 答えは否、断じて否である。

「無意味な行為……なんの精神的成長性も合理性も存在しない無駄な行為に勤しむとは強い怒りを覚えるな………!」
「げっ!?ハゲじじぃ!?な、何でここに!?」
「何故だと?愚問だな。御使いたるこの我が貴様如きの愚かしい過ちに気づかぬとでも思うたかッ!!」

 説明しよう!ドクトリンは町内会に参加したりゴミ拾いの活動に勤しむ傍ら、素行の悪い人に誰彼構わず説教を垂れる迷惑で厄介なジジイだということで有名なのだ!小学生もすでに何度か説教を受けたことがあるため、その顔は渋面一色だぞ!

「大体貴様は以前にも同じことをガミガミガミガミ!!」
「くそっ、また始まった……逃げろぉー!!」
「ぬ、貴様まだ足掻くか!?その悪の心、度し難し!!待たんかぁッ!!」

 数分後。

「どうしていたいけな小学生を追い掛け回して泣かせた!言え!!」
「共に署までご同行願いましょう!!」
「何故だぁぁぁーーーーーッ!?何故こやつらは我が一分の偽りもない説明を理解せぬ!?うぐぐぐ、これだから愚かな旧人類はぁぁぁーーーーッ!!」

 現代社会は小学生を追い掛け回す成人男性を不審者と呼び、その光景を事案と呼ぶ。
 どこぞのイノベーターではないが世界の歪みを感じずにはいられないドクトリンであった。


※ちなみにピンポンダッシュはあまりにも悪質だと住居侵入罪などの罪に問われることもあるので良い子も悪い子も絶対にマネしちゃだめだぞ!


「へっ、ザマーミロハゲが!……ちぇっ、うぜぇ」

 まんまとドクトリンをハメた小学生は、苛立ちを我慢できずに道端の空き缶を蹴り飛ばした。
 すると空き缶はいかにも世紀末っぽいモヒカンの男に命中した。

「今俺の頭に缶を投げつけたナメくさり野郎はどこのどいつだオルァッ!?テメッザッケンナコラァッ!!」
「ひぃっ!?お、おれじゃねぇし!おれ知らねぇ!!」
「ンダガキコラァ!!テメェしかいねえじゃねぇかウソついてんじゃねえぞ舐めてんのかオルァ!!オトシマエどうつけんだダラァ!!」

 気性の荒いモヒカンに子供の苦しい言い訳など通るはずもない。先ほどのハゲと違って理性もなしに平気で子供に手をかけるモヒカンに己の過ちを知った小学生は震え上がった。こんな時に限って守ってくれる大人もいないのに、周囲をよく見ずに好き勝手した報いが訪れたのだろうか。
 恐怖と後悔に苛まれながら迫り来る暴力を前に目を閉じる小学生……しかし、振るわれた拳が小学生に届くことはなかった。

「理性を伴わぬ野蛮な暴力………度し難し!貴様のような男が世界を誤った方向に導くのだ!」

 そこに現れたのは光り輝く頭皮を持つハゲ、ドクトリンだった。
 ドクトリンの正義の鉄拳がモヒカンにさく裂し、モヒカンは吹き飛んだ。

「ぐっはぁぁーーーーッ!?」
「は、ハゲのおっさん……な、なんでおれを助けてくれたんだ!?」
「あのモヒカンは確かに愚かしかったが、貴様の世に対する甘い認識がなければ危機にも陥らなかった。これからは我が怒りを買わぬよう己を見直して生きるがよい!」
「うわぁぁぁ~ん!!おれ、おれハゲのおっさんのこと誤解してたよぉ~~!!」

 こうして少年の間違った精神は正され、無事に事件は解決。
 安心して緊張の糸が途切れたのか、その後小学生は暫く泣き続けた。

 数分後。

「子供を泣かすだけに飽き足らず一般市民に暴行するなんて信じられんッ!!」
「先ほどは後れを取りましたが今度は現行犯!!町の秩序のため、神妙に縛につきなさいッ!!」
「何故だぁぁぁーーーーーッ!?何故こやつらは我が一分の偽りもない説明を理解せぬ!?うぐぐぐ、これだから愚かな旧人類はぁぁぁーーーーッ!!」
「ああっ、ハゲのおっさぁぁぁーーーーーーんっ!?」

 その後、小学生に事情を説明してもらってなんとか豚箱行きを免れたドクトリンであった。
  
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