魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第80話「決着、神降し」
前書き
神降しが相当なチート仕様になりそう...。
デメリット...というか、使用制限はありますけど、それでもチートだ...。
=優輝side=
「っ、ぐ...!」
「目が覚めたわね?」
ちょっとした衝撃を感じ、僕は目を覚ます。
見れば、椿が覗き込むように僕を見ていた。
「状況は分かってる?」
「...偽物にやられた。」
「分かってるわね。」
やはり瞬間的な出力で負けていたため、一気に弾幕を展開されて落とされてしまった。
...そこへ、耳をつんざくような金属音が連続で鳴り響く。
「....奏...。」
「長くは持たないわ。それぐらい、貴方もわかっているはずよ。」
...確かに、奏が時間稼ぎをするのを指示したのは僕だ。
しかし、それは僕が気絶しなかったのが前提だった。
だから、気絶してしまった分、既に奏は限界のはず。なら、急がなければ...!
「陣は書いておいたわ。ここに乗って。後は私に合わせてちょうだい。」
「分かった!」
椿の指示通り、描かれた陣の上に乗る。
そして、椿が霊力を迸らせ、何かを呟き始める。
「(奏...皆....!)」
遠くの方では、奏の助太刀に来たのか、なのはや父さんの姿が見えた。
...それでも、長くは持たない。
「....道は拓けた。...後は任せるわよ。優輝。」
「...了解...。」
そういって椿の姿が消える。死んだ訳でもない、消失した訳でもない。
霊力の...いや、僕の知らない力の塊のようになって、僕に纏わりつく。
「.....来たれ、草祖草野姫....!」
ただ一言、霊力を言葉に込めた言葉...言霊を使って椿が用意した術が起動する。
何かが僕の体に降りてくる。...そして、それが弾けるように僕に入り込んだ。
その瞬間、僕の体は神秘的な光に包まれる。
「......!」
...まるで、生まれ変わったかのような感覚だった。
溢れる力は、今までの僕や椿を軽く凌駕していた。
「....あれ?」
そして光が晴れた時....僕は体の違和感に疑問の声を上げざるを得なかった。
「....“創造”...。」
目の前に等身大の鏡を創造して、自分の姿を確認する。
「...椿の姿?」
いくらか僕の面影は残ってはいるが、僕は椿の姿になっていた。
黒髪黒目だったのが、茶髪の茶色の目になり、髪は伸びていた。
さらに服装も、いつもの椿の着物の上に五つ衣という煌びやかな着物を着ていた。
水色の着物に青鈍色の袴。その上に青、紫、赤紅色の着物を三重に羽織っている。
赤紅色の着物には、白い花の模様が散りばめられている。
...一見すれば明らかに動きにくそうだが、それらは一切感じられなかった。
「....なるほど、ね。」
神降しすれば、その神の影響を受けて姿も変わるのだろう。
...性別まで変わっているのはさすがに驚いたけど。
「....戦況は...まずい...!」
すぐさま奏達のいる場所へ飛び立つ。
巨大な魔力弾が降り、偽物が奏を倒そうと追い詰めている。
距離も少し離れており、以前なら間に合わないと思いがちだったが...。
「(....届く!)」
溢れ出る力...神そのものの力とも言える“神力”は、それをいとも簡単に可能にした。
そして、辿り着いた時には、偽物の剣が奏を貫こうとしていたため...。
「.....させないよ。」
その腕を掴んで止めた。
「....よく頑張った、奏。」
「....優輝、さん....?」
「....ここからは、任せて。」
僕を見て、奏が驚いた顔をする。
...というか、この姿でも僕ってわかったのって凄いな。
「椿....?」
「...分霊じゃないよ。僕が、志導優輝が椿の本体を宿した姿。」
「優輝....?」
母さんや父さんが驚いた顔をしている。
...いや、全員が驚いていた。あの偽物でさえも。
「くっ...!」
だが、偽物はすぐに自身の腕を切り落とし、僕から離れた。
「...まさか自ら不利になったとは思わないよな?」
僕が持っていた腕を投げ捨てると、偽物がそういう。
...思う訳ないだろう。再生する事ぐらい、もう知っているのだから。
「馬鹿にしないでほしいな。」
懐から御札を取り出し、斜め後ろに投げる。
ギンッ!
「...この程度の罠、さっきまでの僕でも見破れる。」
投げた御札は、切り落とした腕が変化した剣を破壊する。
...そう、切り落とした腕そのものが罠だったのだ。まぁ、無駄だったが。
「...時間はあまりない。早々に決着を着けさせてもらおう。」
「っ、何を....!」
「...“撃”。」
神力を用い、衝撃波を放つ。
無造作に、瞬間的に、強力に放たれたそれは偽物を捉え、遠くに吹き飛ばす。
「気絶した皆を頼みます。」
「....行ってらっしゃい。優ちゃん、かやちゃん。」
いつの間にか奏とのユニゾンを解いたのか、唯一驚愕していない葵が言ってくる。
それに微笑み返し、僕は偽物を追いかけた。
「....なんだ、その力は...!」
「...そういえば、貴方は霊力を感じる事は出来なかったな。...ただ、“力の流れ”としてしか捉えていなかった。それでも、この力は感じ取れるのか。」
二人称が丁寧になる。神降しの影響だろうか?
...何かある気がする。時間はかけられないな。
「くそ...!」
「っ!」
瞬時に展開されるいくつもの剣。
それを見て、僕も神力を使って剣を五つだけ創造する。
「...行け。」
ギギギギギィイン!!
五つの剣が、途轍もない速度で偽物の剣を蹂躙する。
「なっ...!?」
「シッ!」
驚く偽物に対し、僕は刀を創造し、一気に間合いを詰めて斬りつける。
「ぐぅ....!」
「...浅いか。」
だが、その一撃はギリギリ逸らされ、肩を切り裂くのに留まる。
「....なるほど...これが神の力か...。」
「なんだ、わかっていたんだ。」
偽物は、何か嬉しいように笑う。
「...なにがおかしい?」
「...いや、なんでも。....さぁ、これで存分に全力が出せる!」
刹那、偽物からさらに魔力が溢れ出す。
そして姿が掻き消える...が、今の僕には見える!
「甘い!」
ギギギギギギギギギィイン!!
「ちぃっ...!」
縦横無尽に駆けるように斬りつけてくるのを、全て刀で受け流す。
「『...悪いなリヒト。さすがに神の力は試せそうにない。』」
〈『わかっています。今はこの戦闘を終わらせる事に集中してください。』〉
愛機であるリヒトが使えない事に少し申し訳なくなるが、すぐに思考を戻す。
「“撃”。」
「っ...!」
僕がそう呟いた瞬間、偽物は距離を取る。
...あれに反応して回避するのか。
「だけど、これはどうする?」
今度は椿が使っていた弓を取り出し、矢を番える。
今から放つのは、かつて式姫や陰陽師が使っていた技...その極致...!
―――“弓技・瞬矢-真髄-”
「っ、ガッ!?」
それは、文字通りの“神速”。音を超え、空気を切り裂く矢が偽物を貫く。
咄嗟に体が動いていたからか、心臓ではなく少しずれた所を穿った。
「速、い...!?」
「もう一射行くぞ?」
「っ....!」
すぐさま偽物は魔力弾で阻止しにかかる。
さらに創造された武器群が視界を埋め尽くし、僕へと迫る。
...だけど...。
「無駄だ。」
宙を蹴り、駆ける。
飛来した魔力弾は、紙一重で躱し、武器群も間をすり抜けるように避ける。
体を通せそうにない場面では、刀を振るい、武器を切り裂いて進む。
「斬る。」
―――“戦技・双竜斬-真髄-”
キ、キンッ!
金属を断ち切る音が響く。
...だが、それは僕の予想していた手応えとは違った。
「...なるほど、知覚能力を上げ、導王流で受け流したか。」
「くっ...!」
一撃目で剣を断ち切り、そのまま切り裂くはずだった。
だが、一撃目は受け流しで凌がれ、二撃目で断ち切ったものの、傷は浅い。
「我ながら、厄介だ。」
「ほざけ...!規格外な力を宿しておきながら、何を言う...!」
...まぁ、確かに言う通りだな。
この力は、あまりにも規格外だ。無闇矢鱈に使えば力に呑まれそうだ。
そんな事になる前に椿や本体が切り離すだろうけど。
「.......。」
「...本気になったか。」
偽物は魔力を身体強化メインに使い、剣を消して素手で構える。
...導王流の本領、素手による戦い方に変えたのだ。
今まで剣を使っていたのは、手加減。導王流の勢いで殺してしまうのを避けるためだ。
「いくら神速と言えど、簡単に倒せると思うな。」
「...わかっているさ。偽物でも、僕そのものだからな。」
僕も刀を消し、右手に扇、左手は素手で構える。
ちなみに、この扇。神降しの際に自然と持っていたものだ。
「「っ!!」」
互いに同時に宙を蹴る。
刹那の如く接近し、僕が先手を取って手刀で斬りかかる。
だが、それは一瞬だけ与えられた下からの衝撃で上に逸れる。
反撃に繰り出される拳を、同じく添えるように衝撃を与え、逸らす。
...これが導王流。最小限の動きで相手の攻撃を無効化し、反撃を繰り出す流派。
この導王流を以って、かつての覇王流や、エレミアの武術と対等に立っていた。
「ふっ!」
「っ...!」
―――導王流壱ノ型“流撃衝波”
―――導王流弐ノ型“流貫”
放った拳は手を添えて躱され、その勢いを利用して貫き手を放ってくる。
身体能力が格段に上がった僕の攻撃を利用したため、その威力は計り知れない。
相手の動きさえ利用し、高威力のカウンターを放つのも導王流の特徴だ。
...だが。
バシィイッ!
「っ...!」
「まだ、甘い。」
それを、畳んである扇で受け止める。
神力の込められたその扇は、いとも簡単に偽物の貫き手を遮る。
「っ、ぁあっ!!」
「...!」
受け止められた偽物は、咄嗟に魔力の衝撃波を放つ。
僕は、飛び退く事で吹き飛ばされるのを回避する。
「止まる暇は与えない...!」
「なるほど、そう来たか。」
間髪入れずに放たれる剣に魔力弾。さらに砲撃魔法の魔法陣まで展開される。
ジュエルシード二つの魔力を存分に使った弾幕展開。
おそらく、接近されれば勝ち目はないと分かったのだろう。
「(さっきまでなら回避も防御もできないな...。やっぱり、手加減されていたか。)」
どちらかと言えば、状況に応じて限界を突破したと考えるべきか。
とりあえず、その弾幕に対し、僕は空を駆けまわりながら凌ぐ。
だが、弾幕は一切薄まる事はなく、このままではただの鼬ごっこだった。
「...そろそろ、慣れてきたな。」
...だから、僕はそこで立ち止まり、弾幕に対して手を向ける。
「護れ、“扇技・護法障壁-真髄-”。」
扇から神力が溢れ出し、五芒星を模した陣が出現する。
大きく展開された障壁は、放たれていた弾幕を悉く防いだ。
「な....!?」
「神力の扱い方も理解できた。もう、終わらせようか。」
ギィイイン!!
そういった瞬間、障壁から金属がぶつかる音が聞こえる。
見れば、偽物が剣を持って突貫しに掛かっていた。
「貫けぇっ!!」
―――“Twilight Spark”
さらに、極光を放ってくる。
...だが、それでも障壁は破れない。
「な、にぃ....!?」
「ここまでしなければ勝てない事に、改めて凄いと思ったよ。」
―――“旋風地獄-真髄-”
御札を取り出し、暴風を引き起こす。
風の刃も混ざったそれは、偽物を吹き飛ばし、背後から狙っていた剣も切り裂いた。
...何気に、あの状況でも偽物は裏を掻こうとしていた。無意味だったが。
「(これほどの速度、力量差になっても機能する導王流...我ながら、便利な体術だ。)」
緋雪との戦いでも、僕は力で圧倒的に劣っておきながら近接戦で緋雪を凌駕していた。
そして、神降しで強くなった僕の攻撃も、偽物は凌げていた。
「(だからこそ...。)」
神力を手に纏い、吹き飛ばされた偽物に肉迫する。
「シッ!」
そして繰り出す貫き手。それは寸分違わず、偽物の胸を貫こうとして...。
「そこ、だっ!!」
―――導王流壱ノ型奥義“刹那”
紙一重でそれは躱され、カウンターに魔力を纏った拳が繰り出される。
それを喰らえば、いくら神降しをしている僕でも大ダメージは必至だろう。
「...だからこそ、自分の最も頼れる“技”を使う。」
―――“神撃-真髄-”
「な...かはっ....!?」
だが、それすらも僕は躱し、カウンターにカウンターで返した。
「...導王流弐ノ型奥義“刹那返し”。...カウンター対策の奥義さ。」
神力の一撃を喰らった偽物は、見事なまでの風穴が開いていた。
開いた穴の中には、神力で魔力を持っていかれたジュエルシードが二つあった。
「....僕の勝ちだ。偽物。」
「.......ああ。...そして、僕の負けだ...。」
ジュエルシードをすぐに掴み、霊力を纏う。
...これで、偽物は魔力をこれ以上使う事はできない。再生も封じただろう。
「...正直、ここまでしないと勝てないとは思わなかった。」
「はは...反対に、僕はやっぱりと思ったけどな。」
ジュエルシードを引き抜く。...まだ、封印はしない。
封印してしまえば、偽物は消える。だけど、その前に聞いておきたい事があるからな。
「...あぁ、やっぱり...オリジナルは乗り越えてきたか...。」
「....記憶を模倣したのなら、諦めの悪さは理解できていたはずだが?」
感慨深そうに言う偽物に対し、僕はそう言った。
「ああ。だからこそ、やっぱりと思ったさ。...さすがに、それは反則だと思えたけどな。」
「文字通り“切り札”だ。早々使う訳にもいかない。」
神降しは、本当に規格外な力だった。
偽物の攻撃を悉く防ぎ、そして圧倒したのだから。
「....っ!」
「っ、ぁ...!」
その時、僕の中から急速に力が消えていく。
そして、その力が形を為し、椿となって隣に現れた。
...初めてだから、神降しの時間切れも早かったか。
「...っと。」
「っ、いきなり力をなくすのはびっくりするな...。それと、助かった。葵。」
眠った状態の椿が落ちそうになるのを、いつの間にかやってきていた葵に支えられる。
僕自身もふらついたが何とか体勢を立て直す。
もちろん、ジュエルシードは霊力を纏って持ったままだ。
「決着が着いたってわかったからね。皆も追いついてくるよ。」
「そうか...。」
次々とクロノやユーノが集まってくる。父さんと母さんもだ。
リニスさんや、なのはがいないのは気絶している皆を見るためだろう。
椿も葵が気つけをしたのか、目を覚ました。
「...さて、と。...本当の目的を喋ってもらおうか。」
「...いいよ。この力があるのなら、きっと大丈夫だから。」
そう言って、偽物は語りだす。本当の目的を。
「...簡単に言えば、僕の...いや、“僕ら”の目的は、我らが主を助け出す事さ。」
「っ...!それは...!」
「...この中で覚えているのは、オリジナルと椿と葵...後は...。」
空中に映像が現れ、そこにエイミィさんとアリシアが映る。
「...アリシアだな。」
『皆!』
『状況はどうなってるの!?』
ようやく通信が繋げられたからか、慌てた声で僕らに聞いてくる二人。
「...続けるよ。...オリジナルが気づいた通り、僕らの目的は主である司さんを助ける事。」
「...当然と言えば当然か...。ジュエルシードは本来は天巫女が所有するモノ。つまり、司さんを主と仰いでいてもおかしくはない。」
「でも、だったらどうしてあたし達と敵対なんて?」
当然の疑問を葵がぶつける。
「....自身の力の証明。もしくは、僕の力を乗り越えられるかどうかを試すため。」
「...そういう事か。」
言われて、僕はある考えに辿り着いた。
「ジュエルシードの力を最大限に使い、僕らが負けたらお前自身が、勝ったら僕らが司さんを助けに行く事になるって訳か。僕らが負ける程度じゃ、自分がジュエルシードを取り込んで助けに行った方が可能性がある。逆に、勝てたのなら僕らに救助を託す...。」
「そうだ。...僕らのような、所詮は所有物でしかない存在が助けても、主の心までは救えない。だから、オリジナル達の可能性に賭けたんだ。」
「所詮は僕や葵の人格をコピーしただけ...。本物の命には程遠いって訳か。」
それでも納得しがたいだろう。遠回りな事をしているのだから。
僕自身、それでは理由が足りないと思っている。
「もう一つ、理由はある。」
「...だろうな。」
やはり、もう一つ理由はあった。...こっちが本命でもあるのかもな。
「....信じていたんだよ。皆が僕程度、乗り越えると。僕なんかに負けていたら、主は絶対に助けられないからね。」
「態と詰めを甘くしていたのは、“芽”を摘んでしまわないように...か。」
短期間での成長も見込んでいたのだろう。...尤も、それが叶うのはほんの一握りだが。
「特にオリジナル。...いや、志導優輝。」
「...僕か?」
「僕がお前の記憶をコピーしたのと同じように、主の記憶も持っているのさ。僕は。」
「っ....!」
司さんの記憶を持っている...それはつまり、聖司の時の記憶も持っているという事。
そして、その上で“僕を信じていた”となると...!?
「...助けてほしいのさ。主は。」
「やっぱり...!」
本当に、本心では司さんは助けてほしいと願っていた。
その記憶がこの偽物に...ジュエルシードに流れ込み、僕を信じてこんな事を...。
「他のジュエルシードもそうさ。皆、助けてもらいたいから、手掛かりとなるように地球に来た。だけど、ただ助けに来てもらうだけでは主の“闇”に薙ぎ払われる。だから、最低限の強さを測るため、主の記憶に残る者達を再現した。」
「そうか...。」
“一つは僕が拝借したけどな”という偽物。
多分、葵をコピーするのに使ったジュエルシードの事だろう。
「....百も承知だろうが、改めて...僕らの主を....聖奈司を、救ってくれ....。」
「.....ああ。任せてくれ。」
緋雪の二の舞にはさせない。必ず、救い出して見せる。
「...あぁ、安心した...。」
「....お前、自分で封印を...。」
霊力を纏ったジュエルシード二つに、封印の術式が編まれていた。
しかも、偽物のなけなしの魔力で霊力の保護を突き破って封印できるようになっていた。
「...最後に、一つ伝えておく。...ジュエルシードは後一つ、この海鳴市にある。」
「何..?」
アースラで見つけたジュエルシードの反応は全て封印したはず。
なのに、もう一つ...?
「それは、主の始まりの場所にして、帰るべき場所....。」
...それだけ言って、ジュエルシードは封印され、偽物は消えた。
「どういう...事だ...?」
最後の言葉は十中八九場所を示しているのだろう。
しかし、なぜ最後の最後に謎解きのような要素を残したんだ...?
「....とにかく、アースラへ戻ろう。」
「...そうだな。気絶した皆も回収しないと。」
偽物が張っていた結界も解けた。すぐに張り直したから一般人に見られてはいない。
「...話は聞いたわ。...皆、今は休んで頂戴。最後のジュエルシード捜索は私たちで行うわ。」
話を聞いたリンディさんの指示により、全員が各自休憩を取る。
「...優ちゃん、かやちゃん、結局神降しはどんな感じだったの?」
僕に宛てられた部屋に椿と葵が集まり、葵がそう聞いてくる。
「どんな感じって言われてもなぁ...。やっぱり神様は格が違ったとしか...。あ、椿は意識とかどうなっていたんだ?解除された時は眠っていたけど。」
「そうね...。意識はなかったわ。...でも、漠然とだけど優輝に力を与えていたのは分かったわ。...おそらく、本体と一体になっていたのに近いのかも...。」
神降しの様子を曖昧とはいえ葵に伝える。
「へー、まぁ、見ただけで“凄い”ってのは分かったね。」
「...そういえば、葵は椿の所に来るまでどうしていたんだ?」
ふと思い出して、葵に聞く。
「そうよ!皆心配してたんだから!...その、私だって...。」
「...ん?後半が聞き取れなかったけど...?」
「な、なんでもないわ!」
...バレバレだよ椿...。葵もわかっていて言ってるし...。
「...それで、結局経緯はどうだったんだ?」
「あ、そうだったね。...あたしがいなくなったタイミングは覚えてるよね?」
確かジュエルシード捜索に向けて就寝中の時だったと思い出しながら頷く。
「あの時に偽物に襲われてね。抵抗はしたけど、銀製の武器を創造されてからボロボロにされちゃって...。再生もそれで封じられたんだよ。おまけにその時に優ちゃんとのパスも切られて、偽物が持っていたジュエルシードであたしをコピーするし...。」
「だから復帰も遅かったのか...。」
ここで休むまでに椿に少し聞いたが、助太刀に来る形で葵は現れたらしい。
葵は再生も早いのになぜここまで復帰が遅かったと思ったが、そういう事か。
「おまけに、国守山の奥に転移させられてね。ホント、大変だったよ。」
「八束神社のある山か...。そこで回復を待ったのか?」
奥...という事は、以前僕らが偽物に飛ばされた場所よりも奥深くだろう。
そこだと、助けが来るのも望み薄だが...。
「...ギリギリ...本当にギリギリ動ける程度にはね。でも、それだと今回の戦いには間に合わなかった。だから無理してまで八束神社まで下ったんだ。」
「そうか...。そこなら霊脈もあるし、久遠や那美さんと会えるかもしれない。」
二人がいなくても霊脈に繋げられる時点でだいぶプラスになる。
「...で、そこで霊脈とのパスを繋ぎなおして、巫女さんに回復の術を掛け続けてもらったんだ。それで、しばらくしたら銀による再生の阻害も打ち破って粗方回復して参戦したって訳。」
「葵も葵で相当大変だったんだな...。」
傷が治らないのは相当きつかっただろう。
...でも、結果的にはこうして無事に合流して偽物を倒す事もできた。
「それにしても、二人とも一段と強くなってなかったか?」
「霊脈の力を借り受けたからよ。本来、式姫はもっと強いんだから。」
「あたし達だって、まだ全盛期には程遠いんだよね。」
それを聞いて驚いた。...まだ、上があったんだな。
「まだまだ上には上がいる...か。」
「これでも百年単位で生きているのよ?二十年も生きていない人間に負けたら泣きたくなるわよ。」
「とこよちゃんには負けたけどねー。」
...改めて二人の前の主の規格外さに驚く。
この二人でさえその“とこよ”という人物の式姫の中位ぐらいの強さ扱いなのだ。
「...とこよも優輝も規格外なのよ。優輝は転生してきたからまだこじつけができるけど、とこよは本当に...。」
「...一度会ってみたいとさえ思える程だな。それ。」
ちょっと手合わせしてみたいと思うのは、おかしいだろうか?
「ああもう、この話はやめよ。今は目の前の事。」
「最後のジュエルシードの場所...だよね?」
「始まりの場所にして、帰るべき場所...か。」
何ともありがちな言い回しだ...。
「とりあえず、今は休もう。激戦で疲れた...。」
「そうね...。」
「あたしも。ずっと体が痛かったしね。」
そういって、僕らは備え付けのベッドに沈み込むように休んだ。
後書き
撃…神力を用いた簡易的な一撃。衝撃波として放ったり、掌底にも使える。
威力は軽く放っただけでも優輝の魔力による衝撃波を上回る。
真髄…かくりよの門では、“真髄枠”というスキルレベルが拾壱以上になった技や術をそれぞれ一つだけセットできるものがあり、所謂“極めた”スキルを表す。
この小説では、元の技を速度や威力などが一線を画すものに昇華させた事を表す。
まさに、“極致”に至った証である。
戦技・双竜斬…かくりよの門では斬属性依存の二連撃。小説でも扱いは同じ。
簡易的な二連撃だが、上記の真髄ともなれば、威力は馬鹿にできない。
刹那…チート染みてきた導王流の奥義。相手の攻撃を直感的に瞬時に見切り、全てを躱すか受け流すかし、相手の攻撃の回数分&威力を上乗せしたカウンターを放つ。まさに奥義。
38話にも登場しており、神夜の九連撃を全部躱してカウンターで吹き飛ばしていた。
刹那返し…導王流弐ノ型の奥義。カウンターに対しさらにカウンターで返す技。
同じ導王流を使う偽物が相手との事で編み出した“対刹那”の技である。
神降しした姿は、かやのひめのひな祭り衣装を元にしています。(式姫大全から見れます)
初めてなため制限時間が短かったですが、慣れて行けばもちろん時間は伸びます。
その代わり、ある“デメリット”とも言える事態を引き起こしますが...。
次回は久しぶりの戦闘なしの回...になるはず。
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