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初詣

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第一章

                 初詣
 娘を送ってからだ、由貴は眠そうな顔でこんなことを言った。
「さて、寝ましょう」
「おい、朝だぞ今は」
 夫の羽久はそう言った妻に呆れた顔で突っ込みを入れた。
「お正月のな」
「だから寝るのよ、朝御飯食べたし小雪も出たし」
「寝るのか」
「暖かいお布団でね」
「今年もそうするんだな」
「お正月は寝正月って決めてるのよ」
 セーターのうえにどてらを着込んでコタツに入ったままだ、由貴は一緒にそのコタツの中にいる夫に話すのだった。
「それずっとじゃない」
「初詣とか行かないのか」
「今日行っても混んでるから」 
 だからというのだ。
「まして小雪みたいに淀川越えて住吉さんまで行くとか」
「気が知れないとか言うんだな」
「そうよ、そこまでして初詣行きたいの?」
「日本人だから当然だろ」
「私オーストラリア人とのハーフだし」
 それでと言う由貴だった。
「お家は臨済宗だし」
「じゃあお寺でも行け」
「だから寝たいから」
「全く、毎年毎年寝正月で」
「寝ることが一番気持ちいいじゃない」
「だからか」
「お正月も寝るのよ」
 全く悪びれない言葉だった。
「じゃあベッドで寝るわね」
「全く、困った奴だ」
「そう言うあんたはどうするのよ」
「どうするってお酒飲むだけだよ」 
 おとそという名目でとだ、羽久はこう妻に答えた。
「今日はな」
「大して変わらないじゃない、私と」
「違う、元旦こそだろ」
「飲む時っていうんだね」
「おとそをな」
 こう言いつつだった、羽久は一升瓶を出していた。つまみは正月らしく紅白の蒲鉾に卵焼きそして数の子だった。
「飲むからな」
「じゃあ私寝てるからね」
「そこまで言うのならそうしろ」
「じゃあね」
 由貴は口を大きく開いて欠伸をしてからだった。寝室に入った。羽久は羽久で飲みはじめた。二人はそれぞれの元旦を過ごした。
 住吉大社は大阪一と言っていい社だ、敷地の広さだけでなく社も立派なものだ。
 元旦なので中は初詣の客でごった返していた、そしてその初詣客達は出店にも集まっていたがその中でだ。
 葵と彩菜はそれぞれ振袖を着ていた、二人共かなり可愛い着物と帯だったが。
 その振袖を邪魔そうに見てだ、葵はムキになって射的をしつつ彩菜に言っていた。
「おかんの着せてくれた振袖動きにくいわ」
「しかもおトイレも行きにくいしな」
 彩菜はこのことを言った。
「結構難儀な服やな」
「制服かジーンズの方がええわ」
「そっちの方が動きやすいからな」
「ほんまや、射的するにしてもや」 
 景品を狙って撃っているが全く当たらない。
「動きにくくて全然当たらんわ」
「折角のお正月やし振袖着るもんやけど」
「動きにくいわ」
「夏の浴衣よりずっとな」
「あっ、久しぶりやな」
 文句を言いながら遊ぶ二人にだ、一人の老人が声をかけた。ブルゾンにジーンズを着ていて足元には柴犬と猫が二匹いる。
「あんた等j初詣はここかいな」
「あっ、お爺ちゃん久し振り」
「奇遇やな」
 二人は晴明神社で会ったその老人に顔を向けて応えた。 
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