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真田十勇士

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巻ノ七十二 太閤乱心その一

                 巻ノ七十二  太閤乱心
 石田、大谷、家康、前田をはじめとしてだった。
 秀次を守ろうとする者達は名護屋やそれぞれの領地に戻らさせられた。他ならぬ秀吉の言葉によって。
 都に残ったのは幸村だけだった、幸村はここで十勇士達に言った。
「御主達を皆呼び戻したのはじゃ」
「はい、関白様ですな」
「関白様をお護りする」
「その為にですな」
「呼び戻されたのですな」
「そうじゃ」
 まさにとだ、幸村は十勇士達に真剣な顔で答えた。
「それで皆に集まってもらった」
「では」
「我等がですか」
「今はですな」
「お護りするのですな」
「そうじゃ、治部殿も義父上もおられず」
 二人共既に名護屋に発っているからだ。
「そして内府殿も前田殿もな」
「どなたもですな」
「大坂にも都にもおられない」
「それではですな」
「今都にいるのは我等だけ」
「だからですな」
「ここは我等でお護りするのじゃ」
 こう言うのだった、それでだった。
 幸村は秀次の周りを十勇士達と共に護っていた、だがこのことを見逃す秀吉ではなかった。確かに年齢故の衰えはあったが。 
 幸村が秀次の傍に常にいると聞いてだ、即座に言った。
「そういえば伊勢についてじゃ」
「と、いいますと」
「何かありますか」
「わしの代わりに参る必要じゃった」
 伊勢神宮だ、言うまでもなく皇室の社である。
「それに行かせる者が決まった」
「ではそれは」
「どなたでしょうか」
「都におる源次郎じゃ」
 幸村、彼だというのだ。
「あの者を伊勢に送ろう」
「真田殿を」
「そうされるのですか」
「これより」
「そうされますか」
「うむ、すぐに行かせよう」
 こうしてだった、幸村に使者を送ってだった。彼は周りの者達を下がらせて一人笑った。
「これでよし、邪魔になる者はいなくなった」 
 こう言って笑うのだった。
「拾が次の天下人になる」
 秀吉の次のというのだ。一人そうなることを夢見て笑っていた。 
 幸村に使者が来たのはまさにその日のうちにだった、早馬が彼の屋敷に来てこのことを伝えた。それを聞いてだ。
 幸村は驚愕してだ、使者に問い返した。
「それがしが伊勢に」
「すぐに行ってもらいたいとです」
「太閤様がか」
「お命じになっています」
「では」
 秀吉の命ならばだ、他の者と同じくだった。幸村も従うしかなかった。
 それでだ、使者にもこう答えるしかなかった。
「これより」
「それでは」
「参ります」
 こう答えてだ、そしてだった。彼は伊勢に参拝することを了承した、そこにある秀吉の意図を察したうえで。
 だがここでだ、使者は幸村にさらに話した。
「十人の供の者達も」
「共に」
「そう言われています」
 秀吉、彼がというのだ。 
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