魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第3章:再会、繋がる絆
第78話「終わらない戦い」
前書き
中々終わらないなぁ、この戦い...。(自業自得)
まだ司戦が控えているんですよね。
=out side=
「(....なに....これ.....?)」
暗い、暗い闇の中。何かに纏わりつかれるような感覚に、司は動揺する。
「(知らない...こんなの、知らない...!)」
....それは、“負”。
悲しみ。後悔。怒り。憎しみ。様々な“負の感情”を織り交ぜた“ナニカ”だった。
「(嫌...嫌...!嫌ぁ...!!)」
どんどん纏わりついて行く“闇”に、司はもがき苦しむ。
「(もう皆を不幸な目に遭わせたく...ない..のに.....。)」
意識が薄れていく司の脳裏に、優輝の顔が浮かぶ。
「(....優輝...君...。)」
それは、助けを求めてかは司にはわからない。
だが、司はただ大切な親友の事を想い続けた....。
―――....残された時間は、そう長くはない...。
=優輝side=
....そこは、一つの地獄と化していた。
辺りにはいくつもの剣や槍といった武器の残骸が広がっている。
ただ弾かれ、地面に刺さっただけなものもあり、まさに戦場のようだった。
「っ....!」
偽物が僕に対し大量の剣を展開する。どれも大きく、簡単には逸らせないものだ。
それを見て、僕もすかさず魔力結晶の魔力を使い...。
「“創造開始”....!」
ギギギギギギギィイン!!
全く同じ数、種類の剣を創造し、相殺する。
その間にも僕は走り、偽物との距離を詰める。
「....先ほどから同じだな。分かっているはずだ。それでは押し切れないと。」
「っ....!」
偽物が、離れた所から僕にそう言ってくる。
...そう。先程からこれの繰り返しだ。
ほぼ無制限の魔力による、圧倒的物量での蹂躙。
一度距離が離れてから、ずっとそれが続いている。
僕も何度も創造魔法で対抗しているが、距離は一向に縮めれない。
短距離転移をしても、偽物は距離を保つのを優先にしているのか、僕の攻撃を凌ぎつつ距離を取られてしまう。
「それぐらい...わかっているさ...!」
再び展開される武器群。同じく僕も創造し、相殺し続ける。
リンカーコアの代わりに使っている魔力結晶も、既に50個を切った。
「(このままでは魔力結晶が尽きるか、僕が力尽きるだけ!突破口は...。)」
ギギギギギギギギギィイン!!
もう一度一気に相殺し、間合いを詰めるために一歩大きく踏み込む。
「(前だけ!!)」
〈“Lævateinn”〉
相殺しきれなかった剣を、リヒトで薙ぎ払いながら突っ込む。
だが、ただ突っ込むだけでは意味がない。
偽物もトラップを大量に用意しているだろう。だから...。
「全て、薙ぎ払う!!」
「なに...!?」
煌く10個の魔力結晶。僕十人分の魔力全てを使って、術式を発動させる。
グリモワールに載っていたその大魔法は、辺りを極光に染め上げる...!
―――“Komm,Nova”-来たれ、新星よ-
....刹那、周囲が極光に埋め尽くされた。
ッ、ギィイイン!!
「気づかれたか...!」
「っ....!」
未だ閃光が治まらない中、偽物が僕に斬りかかってくる。
魔力結晶での術の行使だったため、僕も魔法の反動なしに受け止める。
「やはり、幻術魔法...!」
「ああそうさ...!さっきまであそこにいたのは、ただの幻影...!」
そう。ずっと僕を見下ろすように佇んでいた偽物は、幻術魔法による幻だった。
だけど、斬りかかってくる偽物の姿はボロボロだった。...僕もだけどね。
大方、さっきの魔法の余波を咄嗟に防いでから転移して攻撃してきたのだろう。
ちなみに、僕がボロボロなのは魔法の威力の反動だ。
「驚いたな...!僕でさえ、余波だけでだいぶ魔力を削られた...!」
「へぇ...そりゃ、いいこと聞いた...なっ!!」
瞬間的に力を強化し、一気に押し切る。
さらにもう一度瞬間的に、今度は速さを強化し、背後に回り込む。
「っ!」
「ぜぁっ!」
ギギギギィイン!!
回り込む際にも斬りかかり、偽物を中心に弧を描くように斬りかかりながら動く。
「一度張りつけば...こっちのものだ...!」
「くっ...!」
瞬間的な身体強化魔法は、魔力結晶を通していない、僕自身の魔力だ。
やはり、魔力結晶を使わない自分の魔力の方が扱いやすいようで、身体強化魔法もいつもより上手く行使でき、効果も大きかった。
「畳みかける!」
「舐める...なぁっ!」
ギギギギギギギィイン!!
閃光が治まっていく中、僕と偽物は創造魔法による双剣で斬り合う。
互いに導王流を用い、受け流し、反撃し、攻撃を誘導して攻防を繰り広げる。
それだけなら、ただの千日手になるだけだろう。
...だが、今の僕は一味違う。無意識にかけていたリミッターが外れた今、頭は冴えわたり、いつもの僕の一歩先を行く....!!
「そこだ!」
「っ!?」
―――“導王流二ノ型、流貫”
瞬間的な身体強化で一瞬だけ導王流の動きを乱し、それにより生じた隙を突く。
偽物の右の剣は弾かれ、左の剣は僕の右の剣で受け流され、そして僕の左の剣が貫いた。
「ぐ...ぅぁあああああっ!!」
「っ!」
会心の一撃が決まった瞬間、偽物は魔力の衝撃波を放つ。
...だが、威力は少ない。やはり魔力をだいぶ使ったのだろう。
僕はむしろその衝撃波を利用して間合いを取る。
「まだだ...!まだ、終わらない...!」
「....!」
次々と繰り出される剣群。
それらを飛び退き、逸らし、受け流して回避や防御で凌ぐ。
「ぁぁあああああ.....!!」
「なっ....!?」
唸るような雄叫びと共に、偽物の周囲にこれでもかと言う量の武器が創造される。
それは、文字通り埋め尽くすようだった。
「凌いで...みろ!」
そして、それが一斉に射出された。
無数とも見間違えそうなその武器群。防御は不可能。回避も難しいだろう。
短距離転移による射程範囲外への離脱は予想されているだろう。よってこれも却下。
...なら....。
「(迎撃、あるのみ...!)」
シャルを構え、炎剣状態にして武器の海へと突っ込む。
「シャル!カートリッジロード!!」
〈Explosion.〉
カートリッジが一気に三つロードされ、僕に魔力が漲る。
そして、目の前の武器群を見る...!
「(幸い、弾いた武器が他の武器にぶつかる程所狭しとなっているな...。)」
その間の思考時間、僅か0.01秒。
ほぼ本能的に目の前の光景をどういうものか理解し、術式を練り上げる。
「(つまり、これは....大したものではない!!)」
そう確信した僕は、その術式をシャルに込め、そのまま飛んできた一つの剣を弾いた。
―――“Kettenreaktion”
ギィン!ギギギギギギギギギギギギィイン!!
けたたましい金属音が、僕の耳に届く。
それが止んだ時には、目の前には落とされた武器の山があった。
「なっ...!?馬鹿な....!?」
「大量すぎたのが、仇になったな...!」
起こした事は、そこまで難しい事ではない。
弾いた武器が他の武器にぶつかる。...その性質を利用しただけに過ぎない。
つまり、お互いを弾き合って僕に被害が来ないようにしたのだ。
「終わりだ!!」
「っ..!」
ギィイイン!!
動揺する偽物に対し、シャルを振りかぶる。
辛うじて防御魔法で逸らされたが、攻撃の瞬間に力を強化していたため、そのまま偽物は吹き飛ばされる。
「リヒト!」
〈Kanone form.〉
「なっ...!?バインド!?」
吹き飛ばされた先には、予めバインドを仕掛けてあり、偽物はそれに引っかかる。
それと同時に、僕はリヒトをカノーネフォルムに変え、弾丸を撃ちだした。
「っ、が、ぁ....っ!?」
その弾丸は、見事に偽物を貫通した。
だけど...。
「(まだだ...!)」
それは、偽物にとって大ダメージでも、致命傷ではない。
ジュエルシードを封印しない限り、何度でも再生してしまうだろう。
「だけど、これで...。」
だいぶ魔力は削った。こちらには魔力結晶が残っており、まだ余力はある。
そう思って、何とかしてトドメを刺そうとした時。
―――ドォオオオオオオオオン!!!
「っ....!?」
離れた場所...椿たちが戦っている場所で、大爆発が起きた。
「くっ...!」
ギィン!ギギィン!
つい意識が逸れた事で、偽物の射出した剣を咄嗟に弾く。
...復帰してしまったか...!
「....やられたか。」
「あれは....。」
腹に穴を開けたまま佇む偽物の傍には、一つのジュエルシード。
それを見て、偽物は爆発した方を見ながらそう呟いた。
「椿は...無事か。...!それに、葵も...!」
型紙を確認し、椿が無事なのを確認する。
また、見知った気配を感じ、それが葵だと理解してつい嬉しくなる。
「(待て...だとしたら、葵の偽物はやられた事になる...。なら、あのジュエルシードは....いや、それよりも...!)」
すぐさま、身体強化魔法を使って偽物に接近する。
しかし、それは一歩遅く...。
―――偽物は、そのジュエルシードを呑み込んだ。
「ぐ....!?」
魔力の衝撃波が発せられ、僕は弾かれるように後退する。
幸い、ダメージはあまりなかった。
「しまった...!」
偽物はジュエルシードを核にしている。
つまりは、力の源もジュエルシードとなっている。
そんな偽物がもう一つジュエルシードを取り込んだらどうなるか?
...答えは簡単だ。...途轍もなく強化される。
「形勢...逆転だな。」
「っ....!」
包囲するように武器群が創造され、その一部が射出される。
さらに、偽物自身も斬りかかってくる。
「くっ...!」
「はっ!」
咄嗟に偽物が斬りかかってくる方向以外に、僕を守るように大き目の剣を包囲するように創造して地面に刺しておく。また、上には御札を展開し、霊力の障壁を張っておく。
そして、武器群の心配がなくなった所で偽物の剣を受け止めるが...。
ッ、ギィン!!
「っ、ぐ、がはっ!?」
呆気なく力負けし、壁として刺しておいた剣に叩きつけられる。
「(身体強化が並外れてる...!ジュエルシード二個分の力...ここまでなのか...!)」
一個ずつならどうにかなった。現に僕も椿たちも追い詰めていた。
だけど、それが集まっただけで、形勢が逆転される程だった。
...その事実が、今の一太刀だけでわかってしまった。
「死ね...!」
「ぐっ...!」
創造した武器を射出すると同時に、偽物は突きを放ってくる。
...背後を守るために創造した剣が仇となった。これでは逃げられない。
「(なら...!)」
瞬時に術式を構成。短距離転移で包囲網の外に逃げる。
罠が張られていようと、確実の死よりはマシだ...!
「なっ...!?」
「範囲外だと思ったか?残念、まだ範囲内だ。」
だが、包囲網の外だと思ったそこは、未だに武器群の中だった。
先ほどまでいた場所に向いていた武器群は、全てこちらに向き...。
「っ...!」
ギギギギギギィイン!!
局所的に展開した霊力の障壁で何とか武器群を凌ぐ。
弾ききれないものはシャルで逸らし、無事に済ませたが...。
ギィイイン!!
「っぐ...!」
短距離転移からの横から振るわれる剣を、シャルを盾にする事で防ぐ。
しかし、それだけで僕は吹き飛ばされてしまう。
何とか体勢を立て直すも、その時点で偽物は僕の目の前に来ており...。
「はっ!」
「ぐ、ぜぁっ!!」
再び振るわれる剣。対抗し、全開の身体強化で迎え撃つ。
「な...!?ぐ、ぅ....!」
だが、それでも足りない。
迎え撃つように振るったシャルは、徐々に押されてしまう。
「(ここまでの強化でも...なお届かないのか...!?)」
そして、踏ん張れずに吹き飛ばされ、近くにあった木に叩きつけられる。
「ぐ、く...!」
「...まだ、諦めないよな?」
偽物は無慈悲に、下からの斬撃を繰り出す。
それを咄嗟にシャルで防ぐが、先程と違って身体強化の効果も落ちている。
あっさりと僕は上に吹き飛ばされ...。
「吹き飛べ。」
ギィイン!!
「がっ...!?」
飛ばされた僕に追いつき、横から繰り出された一撃に吹き飛ばされる。
幸いなのは、それも咄嗟にシャルで受け止めれた事だろうか...?
だが、それを考える余裕すらなく、そのまま僕は飛ばされていった。
=out side=
優輝達が戦っている頃、クロノ達は...。
「...なんて、激しい戦いなんだ...。」
ユーノによる結界の中で、クロノがそう呟く。
今、クロノ達はユーノ達に保護された後、奏が持っていた魔力結晶で魔力を回復し、互いに回復魔法で傷を治し合っていた。
「...傍から見ても、見切れません...。あれは、シグナムさん程の腕前でないと、対処も難しいかと...。」
「優輝....。」
「...信じよう、優輝を...。」
リニスの言葉に、優香と光輝が祈るように戦いを見つめる。
互いに創造した武器をぶつけ合い、技と技がぶつかり合う。
魔力に決定的な量の違いがあるにも関わらずに、一進一退の攻防を繰り広げている。
「...かつてのジュエルシード事件の暴走体と違い、人格まで併せ持っているから、あそこまでの強さを持っているんだろうね...。」
「....ああ。事実、今回の暴走体は複数人でも苦戦した程だ...。ジュエルシードに、あそこまでの力が秘められていただなんてな...。」
ユーノの見解に、クロノが頷く。
かつてのジュエルシードは、それほど脅威がなかった。
攻撃魔法に適正がないユーノでさえ、力尽きたとはいえ一つは封印できるのだから。
しかし、優輝や葵の人格を得たジュエルシードは、本人の戦闘技術を惜しみもなく使い、また魔力の心配をほとんどせずに魔法を使ってくるのだ。
「っ.....。」
「優輝さん...。」
なのはと奏は、ただじっと二つの戦いを眺める。
なのはは自分が役に立てない事を悔しく思いながら。
奏は優輝を信じ、またいざという時の事を託された事に緊張しながらただ見つめる。
「.........。」
ぎゅっと握る奏の手の中には、優輝に渡された魔力結晶があった。
握られているものだけでなく、デバイスにいくつも収納されている。
「(...私に、できるの...?)」
奏は懸念するのは、優輝に託された事。
その事とは、“神降しを使う際の足止め”だ。
優輝でさえ苦戦する相手の足止め。...それができる自信が奏にはなかった。
だが...。
―――...トクン...。
「(...ううん。できる、できないじゃない。やってみせる...!)」
自身の胸を軽く押さえ、決意して戦闘の様子を見つめなおす。
その鼓動は小さくとも、自分に確かな希望を与えてくれるモノだと信じているから。
「....奏ちゃん?」
「....!」
なのはに声を掛けられ、戦闘を見るのに集中していた事に気づく。
それと同時に、奏は確かに実感した。
「(見えた....!)」
そう。一瞬とはいえ、奏は優輝達の戦いが見て取れた。
剣戟や攻防の一つ一つがはっきりと理解できたのだ。
「っ....!」
動きがはっきり見える。...それだけでも戦闘に影響が出る。
この僅かな短時間で、確かに奏は動きが見えるまでに成長していた。
まるで、誰かに影響されたかのように。
―――トクン...
「(優輝さん...どうか...。)」
奏の思う彼に呼応するように、奏の鼓動が耳を打つ。
転生してもなお在るソレが、優輝と共鳴するかのように...。
「な....ぁ...!?」
「なに、これ....!?」
その時、圧倒的な魔力をクロノ達は感じ取る。
葵の偽物がやられ、優輝の偽物がジュエルシードを呑み込んだのだ。
「優輝...!」
「まずい...!あの偽物、さらに強く....!」
圧倒的魔力と、優輝が追い詰められるのを見て、クロノは焦る。
優輝達が負けると、あの偽物を倒せる程の戦力が今のクロノ達にはないからだ。
「っ.....!」
....だからこそ、奏は来るべき時のために、覚悟を決めた。
「ぁああっ!?」
「優輝!?」
偽物に吹き飛ばされた優輝は、椿の傍に叩きつけられる。
辛うじて受け身を取ったため、ダメージは最小限に抑えられた。
「...状況は?」
「っ、芳しくない...!ジュエルシードを取り込んだから、途轍もなく強くなっている...!」
ダメージを受けている優輝を庇うように椿と葵は立ち、優輝が簡潔に説明する。
「そう...!」
「通りで、自爆したのにジュエルシードが見つからない訳だよ...!」
感じ取れる魔力に冷や汗を掻きつつ、納得する椿と葵。
「....再会を喜ぶ暇がない。悪いな、葵。」
「気にしないで、優ちゃん。....今は...。」
刹那、降り注いだ武器群を葵と優輝で弾ききる。
「アレを倒さないと...!」
「ああ...!」
弾き終わると、視界に偽物が入る。
偽物は離れた場所で武器群を浮かべながら、悠々と佇んでいた。
「っ...!」
「“創造”...!」
「行け...!」
椿が拡散する霊力の矢を、優輝は創造した武器群を、葵は創り出したレイピアを放つ。
三人による遠距離攻撃に対し、偽物は...。
「....足りん。」
ギギギギギギギギィン!!
...全て、創造された武器群に叩き落された。
三人に対し、偽物は一人で物量を上回ったのだ。
「くっ...!物量じゃ敵わない!椿、葵!」
「分かったわ!」
「了解!ユニゾン・イン!!」
量でダメなら質で。そう決めた優輝は椿と葵に指示を出し、二人はユニゾンする。
霊脈とのパスにより、普段よりも強くなった上でのユニゾン。
それは、優輝の力量すら上回るが...。
「は、ぁっ!!」
「っ...!」
ッ、ギギギギギギギギィイン!!
優輝による援護で接近を可能にし、椿はレイピアを構えて斬りかかる。
葵の偽物では力負けしたその連撃は....あまりにあっさりと受け止められた。
「なっ....!?」
「っ...こっちも、力が増している...だが、まだ足りない!」
優輝と同じように、椿たちもパワーアップしている事に偽物は驚くものの、身体強化魔法でその力を上回る。
「くっ....!(相殺しきれない...!)」
「っ...!奔れ、“火焔旋風”!!」
椿が仕掛けて減っているとはいえ、三人ですら相殺された武器群を相手にしていた優輝が、相殺しきれずに一部の武器が椿に迫る。
咄嗟に椿は火の竜巻を起こし、目くらましと同時に攻撃を凌ぐ。
「椿!」
「はぁっ!」
ギィイン!
しかし、その目くらましも躱され、椿は背後から斬りかかられる。
咄嗟に優輝が割り込み、シャルを全力で振るって攻撃を防ぐ。
「ぐぅ....!」
ギギギギギィイン!
鍔迫り合いになり、優輝は押されながらも次々創造される武器群を相殺する。
もちろん、椿も黙って見ておらず、偽物の横に回り込んで斬りかかる。
「はぁっ!」
「このっ....!」
創造される武器群を相殺しながらの連携。
二対一で、ようやく互角に近い攻防を繰り広げていた。
「っ、“霊撃”!」
「“アォフブリッツェン”!!」
椿が霊力で武器群を弾き飛ばし、弾け飛んだ武器の合間を潜り抜けて優輝が一閃を放つ。
「っ、くっ....!」
―――“Aigis”
ギィイイイイン!!
そこでようやく、偽物に防御の行動を取らせる事ができた。
だが、そこで気を抜くなど優輝達はしない。
反撃に繰り出される創造されたナイフが、素早く二人に襲い掛かる。
「「っ...!“霊壁”!!」」
咄嗟に霊力の障壁を張り、ナイフを防ぐ。
「...“stoß”。」
パリィイン!
「っ、ぁあっ!」
しかし、その霊壁は偽物の一突きによって貫通する。
貫通したその剣は、優輝が逸らして何とか当たらずに済ませる。
「優輝!」
ギィイイン!
だが、さらにその背後からもう一人の偽物が斬りかかってくる。
椿が庇うように防いだため、事なきを得る。
「分身魔法..か...!」
「正解...!ただ、僕が分身で力も本体と7:3って所だな...!」
それは、今優輝を相手にしている分身の方が弱いという事だった。
つまり、オリジナルである優輝を偽物に軽く見られているという事に他ならない。
「確かに、今は椿の方が強いからな...!ならば...!」
分身の攻撃を、優輝は上手く捌いて蹴りを入れる。
椿と背中合わせの状態から抜け出し、さらに分身に斬りかかる。
「分身を倒すと元に戻ってしまう。...だから、しばらく相手してもらうぞ...!」
「椿が本体を倒すと?...はっ、思い違いも甚だしい!」
ギィイイン!
そう言って分身は剣を振り抜き、優輝を後退させる。
「っ、この力は...!?」
「僕と本体は、確かに魔法の効果で力が分断された。だが、ジュエルシードが核なのは変わらない。そして、そのジュエルシードから僕らの体は作られている。」
本体も分身も、どちらも一つのジュエルシードが核となっている。
ジュエルシードは一つずつに分かれているが、力の源が“二つのジュエルシード”なのには変わりがない。
「...それが、どういう...。」
「細胞分裂...って言えばわかるか?それと似たようなものだ。」
細胞分裂...それは、単細胞生物であれば個体の増殖となる現象だ。
...つまり、この分身は細胞分裂に似たような過程を踏み、本体に近い力を有するようになっていたのである。
「力が分かたれたのは、分身魔法を使用した直後のみ。そこから徐々に力は本体に近づいていくのさ。...尤も、それでも一人の時よりは力は劣るが。」
「...くそっ...!」
苦虫を噛み潰したような気分で、分身との攻防を再開する。
分身のいう事が正しければ、本体も分身も椿の力量を上回る程の力を有しているのだ。
「っ、きゃぁっ!」
「椿!」
物量に押し負けたのか、本体と戦っていた椿が吹き飛ばされてくる。
追撃に来る本体と、自身が相手をしていた分身に、優輝は挟まれる。
ギィイイン!!
「ぐっ....!!」
力を重点的に身体強化し、大剣二振りを創造して両サイドからの攻撃を防ぐ。
導王流を使わなかったその防御は、衝撃が徹される。
徹された衝撃に耐えつつ、優輝は魔力結晶三つを解放する。
「薙ぎ、払え....!」
―――“Twilight Spark”
三つの魔力全てを使い、極光を薙ぎ払うように二発放つ。
さすがにそれは逸らす事も防ぐ事も難しいのか、偽物たちは飛び退く。
「椿....。」
「...ええ、わかっているわ...。」
再び優輝と椿は背中合わせになる。
...ようやく偽物との決着が着くかと思えば、また劣勢に逆戻りだった。
...だからこそ、優輝達も切り札を使う事にする。
「神降しを...。」
「...でも、時間がないわ。葵だけだと、どうしても...。」
しかし、それを行う隙がないと、椿は言う。
「.....手はある。だけど、賭けに近い。」
「...信じるわよ。」
確実ではない。だが、それでもやるしかないと、二人は覚悟を決める。
「葵は時間稼ぎに出す。...だけど、奏とユニゾンしてくれ。」
「奏と?けど、それは...。」
優輝の指示に椿が訝しむ。
ユニゾンは、相性の問題がある。同じ式姫であった椿と、今は切れているものの霊力のパスを繋いでいる優輝以外では、ユニゾンできるかわからない状態だ。
「...大丈夫だ。奏は、僕の心臓を受け継いでいる。...物理的じゃない。魂や精神に関わる分野でな...。」
「だから、奏ともユニゾンできると...?」
優輝に言われ、椿もどこか腑に落ちる事があった。
椿は神の分霊であるが故に魂の質が見える。
...そして、暴走体を倒した後の奏の魂を見た時に、感じ取ったのだ。
―――優輝に、魂の質が似ている....と。
「(以前までは魅了のせいもあって魂がよく見えなかったけど...なるほど、そういう事ね。)」
どの道、追い詰められた状況。賭けるのも悪くない。
そう考えた椿は、優輝に全てを任せた。
「奏と葵でユニゾンして、時間を稼ぐ。いいか?」
「...ええ、いいわよ。聞いたかしら?葵。」
〈もちろんだよ。...っ、避けて!!〉
ユニゾンしている葵からの声に、二人はハッとする。
迫りくるのは、多数の武器群に加え、大量の魔法。
「“転移”!」
「“霊撃”!」
さすがに、二人も予想していた。
その場に留まって会話など、恰好の的だ。対策はするに決まっている。
すぐさま優輝の転移で移動し、跳んだ先にある罠を椿が吹き飛ばす。
....が。
「あれだけの時間、転移先を予測できていないとでも?」
「っ、チィ...!」
同じく転移してきた偽物達に斬りかかられる。
罠に罠を重ね、確実に仕留めに掛かってきたのだ。
それも、優輝達が切り札を使ってくると分かった上で。
「きゃっ...!?」
「が、ぁっ!?」
再び襲う武器群に魔力弾。さらには砲撃魔法まで放たれる。
一つ一つが並大抵の威力じゃないそれらは、容赦なく優輝達を地面に叩きつけた。
「優ちゃん!かやちゃん!」
叩きつけられた優輝は気絶し、椿もすぐには立てない傷を負ってしまった。
ユニゾンが解け、二人を庇うように立つ葵は、二人に呼びかける。
「っ....優輝が言った作戦を、実行しなさい...!」
「でも...!」
「それ以外に、方法はないわ...!」
「っ.....!」
優輝は気絶し、椿も満身創痍。
例え回復できても焼け石に水である状況に、葵もそうせざるを得ないと理解する。
「終わりだ。オリジナル。」
「くっ....!」
創造した剣を浮かべる偽物に対し、葵は二人を庇うようにレイピアを構える。
その、瞬間...。
ギィイイン!!
「っ....!なに...!?」
横合いから、偽物は斬りかかられる。
「させない...!私が、相手になるわ...!」
斬りかかった人物は、奏だった。
―――決着は近い...。
後書き
Komm,Nova…“来たれ、新星よ”。術者の周囲を極光に埋め尽くし、薙ぎ払う広域殲滅魔法。それはまさに新星の誕生のように神秘的で、圧倒的な破壊力を持つ。
威力ははやての“ラグナロク”を軽く凌ぐ。また、しばらくの間目くらましにもなる。
グリモワールに載っている魔法の中でも、上位に食い込む威力。
Kettenreaktion…“連鎖反応”のドイツ語。文字通り連鎖反応を起こす魔法で、術式を込めた武器で攻撃→攻撃された対象から衝撃波が放たれる→その衝撃波を受けたものがまた衝撃波を放つ→以下ループという現象を引き起こす。
魔法の対象が所狭しと存在しなければならないので、使う場所を選ぶ。
火焔旋風…火+風属性依存の術。この小説では火の竜巻を起こし、攻撃する技。
まだ続く偽物戦。...もう、あれですね。DBのザマス編並にしつこい...。
一応、次回で決着(予定)です。
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