逆柱
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第一章
逆柱
岩隈哲章は家を新築することにした、それで妻の真弓と相談した。
「もう子供達も皆家を出たしな」
「私達二人だけのお家にするのね」
「そうしたことを考えてな」
そのうえでとだ、還暦間近を感じさせる厳しく皺のある顔で言う。眉は太く顔立ちも逞しい。髪型も整っていてがっしりとした体格によく合っている。
「新築するか」
「そうね、もう私達もね」
真弓は夫の言葉に応えた、やはり年齢を感じさせる皺が顔にある。童顔であるがその皺が顔に刻まれていて家鴨口と垂れ目の周りにもある。縮れ気味の髪は短くしている。背は小柄で一五〇程だ。
「若くないしね」
「若くないというか年寄りだろ」
哲章は笑って妻に言った。
「だったらな」
「そうした年齢のことも考えて」
「新築していかないか」
「バリアフリーね」
「そう、それだよ」
考えることはまさにこのことだった。
「それを考えてな」
「新築するのね」
「そうした業者さん考えるか」
「そうね、じっくりとね」
妻も夫の言葉に頷いた、そしてだった。
二人で業者も選んだ、そして見付けたのは。
有名な業者だった、しっかりとバリアフリーも考えてくれていて誠実な仕事をすると評判だ。何かあった時のアフターケアも万全だという。
「八条住建ね」
「ああ、八条グループのな」
「それって」
真弓は夫の言葉を聞いてこう返した。
「あなたの勤務先と」
「同じグループだよ」
「あなた八条タクシーだから」
そこで高校を出てからずっと運転手をしているのだ。
「それならね」
「同じグループだしな」
「その縁でなの」
「同僚に紹介してもらったんだよ」
「そうなのね」
「ああ、それでな」
「八条住建に頼むのね」
家の新築、それをというのだ。
「そうするのね」
「それでいいよな」
「ええ、あそこは評判もいいから」
真弓も八条住建のことは知り合いから聞いている、いい仕事をしてくれてアフターケアも万全であるとである。
「それならね」
「そこでいいな」
「よし、じゃああそこに頼むな」
「私もそれでいいと思うわ」
真弓もこう返した、これで話は決まった。二人は八条住建に家の新築を依頼することにした。すると早速八条住建から営業の者が来た。
真面目な顔をした眼鏡をかけた若い女性だった、スカートの着こなしも髪型も真面目で隙がない。
「諏訪美佳といいます」
「諏訪さんですか」
「はい」
口調も生真面目な感じだった。
「これから宜しくお願いします」
「それでは」
哲章も真弓も諏訪の言葉に頷いてだ、そのうえで。
新居の話をしていった、金の話もだ。
そうした話がとんとん拍子に進みあっという間に家を建て替える段階まで至った。この時哲章は諏訪と新居の建築を担当する池田勇五にこう申し出た。
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