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兄はコミケ好き

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第一章

                  兄はコミケ好き
 加藤侑花は朝起きてだ、兄の昭一が玄関に向かうのを見て尋ねた。
「お兄ちゃん、まだ六時だよ」
「もう六時なんだよ」
 昭一は黒髪をショートにしたあどけない顔に小さな耳がショートヘアから出ている芋内鬼言った。目は丸い感じだがやや垂れている。口元と眉の形が可愛らしい。小四であり自分とは十歳離れている妹である。
「もうな」
「ってお兄ちゃん今大学夏休みでしょ」
「ついでに言うとバイトも今日はオフだよ」
 昭一は近所のペットショップで働いている、バイト料はかなりいい。ボサボサの黒髪が目を隠しているが毎日入浴しているので不潔な感じはしない。背は一七二程でひょろりとした外見だ。
「けれど今日は行くんだよ」
「何処に?」
「コミケにだよ」
 彼が大好きなそれにというのだ。
「夏のな」
「コミケって」
「そこでお店に売ってない漫画一杯買ってくるんだよ」 
 同人誌を妹にわかりやすく話した。
「そうしてくるんだよ」
「そうなの」
「ああ、今から行ってくるな」
「こんなに朝早くから」
「というか御前夏休みでも早起きだな」
「自然と目が覚めるの」
 ピンクのパジャマはだらけていて寝ぼけまなこだ、その顔で兄に答えた。
「私はね」
「六時には」
「早寝早起きだから」
「それは健康的だな、とにかくな」
「コミケ行って来るの」
「今日はな」
「折角宿題教えてもらおうって思ってたのに」
 大学生の兄にだ、侑花は少しぶすっとして言った。
「どうしてもわからないところがあるから」
「帰ってきてから教えてやる」
 昭一は妹にこう返した。
「それまで待ってろ」
「教えてくれるの」
「帰ってきたらな」
 そのコミケからだ。
「交通事故には遭わない様に注意してな」
「そこは注意してね」
「ああ、じゃあ帰ってからな」
「何時帰って来るの?」
「今日の夜までにはな」
 その時まではというのだ。
「そうするからな」
「それじゃあ夜にね」
「ああ、夜にな」
「宿題教えてね」
「どうせまた算数だろ」
「どうしても算数は駄目なの」
 侑花の唯一苦手な教科だ、他の教科の点数はいいのだが算数だけはいつも得点が低いのだ。
「苦手で」
「まあ誰でも得意不得意はあるな」
「お兄ちゃん大学生だから」
「まあ小学生の算数位はな」
「だから教えてね」
「わかったわかった、じゃあ帰ったらな」
「うん、それじゃあね」 
 兄から約束を取り付けてだ、侑花はとりあえずほっとした。そうして兄に玄関で言うのだった。
「行ってらっしゃい」
「行って来るな」
「車には気をつけてね」
「ああ、じゃあな」
「夜にね」
 こうした話をしてだ、侑花はコミケに行った兄を送った。やがて父も出勤し母の侑子と五歳の妹の侑美だけになったが。
 その母にだ、朝御飯の後でむっとした顔で言われた。
「宿題全部終わった?」
「算数以外は」
「またなの」
「またって」
「あんたいつも算数の宿題だけ最後になるじゃない」
 夏休みのものだけでなく冬休みのそれもというのだ。
「熟の宿題だって」
「だって算数苦手だから」
 侑花もむっとした顔で話した。
「だからね」
「苦手でもよ」
「苦手を克服して?」
「ちゃんとしないと」
「そう言うけれどね」
「苦手なものは苦手っていうのね」
「そうよ」
 実際にというのだ。 
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