提督はBarにいる。
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6月第3日曜日・9
さて、全ての調理班の料理が出揃った。とは言え味見をしてからという事になり、調理班以外の面子が一同に会しての試食会となった。
「う~ん、どれもdelicious!」
一通りの料理を味見した金剛は、お世辞などではなくそう感想を述べた。
「うむ。提督や間宮さんの熟練の技巧はないが、それでも十分に美味しい料理だと理解できるな」
いつの間にやら金剛の隣に寄ってきていた長門がそう言った。彼女も一通りの料理を食べてはいたが、予想通りというかなんというか、駆逐艦達の作った料理を何度もお代わりしていた。
「そういえば、大和型以外の戦艦の皆さんは調理に立候補しなかったんですね」
その大和型のオニオングラタンスープを啜りながら、比叡が近付いてきた。行儀悪いデスよ、と咎めつつも金剛もそれは疑問に思っていた。
イベントの進行役やまとめ役に回った金剛の姉妹は料理を出せないにしろ、長門姉妹や伊勢姉妹、扶桑姉妹は料理を出せたはずだ。
「そ、それはだな……」
「だってさぁ、アタシらの見た目じゃ提督は『お父さん』じゃないでしょw」
言い淀んだ長門に代わって、言葉を続けたのは伊勢。少し酒も入っているのか顔が赤い。
「そうね……出来る事なら『旦那様』としてお祝いしたいわ」
そう言いながら近付いてきたのは扶桑だ。睦月型の作ったトライフルを切り分けて貰ったらしく、それを少しずつ切り分けながら口に運んでいる。さっきの発言はほぼ告白のような物だと思うのだが、堂々と正妻の前で言いのける辺り、遠慮するつもりも退くつもりもないらしい。
「まぁ、私もテートクの判断を尊重するヨ。……でも、あの人の妻は私ですからお忘れなく」
伊勢と扶桑から飛んできた牽制球を、思い切り打ち返す金剛。長門も譲るつもりは無いらしい。
「……放っといていいんですか?アレ」
「まぁ、殴り合いの喧嘩とかにならなければ大丈夫でしょ?」
「まぁ、そうなるな」
そんな殺伐とした雰囲気を遠巻きに見つめながら、黙々とご馳走を食べているそれぞれの姉妹の妹達。
「そういえば、空母の皆さんが面白い事を言ってましたよ!」
見えない火花を散らしていたその雰囲気をブレイクさせたのは、青葉だった。
「いや~青葉も同じ事が気になりましてね?加賀さんに聞いてみたんですよ!そしたら…」
~青葉の回想~
『戦艦組が料理を出していないのに、空母組が出している理由?』
『えぇ、その辺りがどうにも腑に落ちなくて』
『簡単な事よ。私達は家族なの、娘同然の駆逐艦の娘達に頼まれたら、“母親”として、あの人の“妻”として協力するのは当然ではなくて?』
「な~んて事を仰ってましてね?いや~想像力豊かというか、なんというか……」
長門をはじめとする3人は、まさに愕然、といった表情で固まっていた。『そういう捉え方があったのか』という感じだろう。金剛自身もその考え方はいい発想だと認めざるを得なかった。……まぁ、駆逐艦の中にも提督の妻の座を狙っている者が居るようだが。空母勢は正妻ではなく『2号さん』を狙っている辺り、流石に分を弁えている。他のLOVE勢もそういう気遣いをしてもらいたいものだとぼんやり考えていると、提督に持たされていたプライベート用の携帯が鳴った。
「もしもし?」
『おぅ、俺だ。今から帰るからよ、晩飯の支度はいらねぇや……じゃあな』
手短なやり取りではあるが、こういうのも夫婦らしいのだろうと金剛は密かに笑う。
「さぁ、テートクが帰って来ますヨ!パーティは終わり、バレないように撤収デース!」
そう言って金剛は声を張り、急いで試食会の会場を片付けた。
そして、その夜。提督と金剛の私室。
「ただいま~」
「テートクぅ、お帰りなさいデース!」
その厚い胸板に飛び込むように抱き付くと、唇同士を重ね合わせる。
「おいおい、随分と熱烈な出迎えだな。寂しかったか?」
からかうような苦笑いを浮かべて笑う夫に、
「寂しくないと思ってますカ!?付き合いは長くても、一応新婚なんデスよ!」
と、半分本音、半分冗談の憎まれ口を返す。二人とも鎮守府にいれば四六時中ベッタリでなくとも、その気配や空気感は感じ取る事が出来る。しかし丸二日も提督が鎮守府を空けていたのだ、多少の寂しさを感じる位は権利があるだろう。
「へいへい、そりゃ悪かったよ。今晩はたっぷり可愛がってやるから、それで許してくれや」
そう言ってわしゃわしゃと金剛の頭を撫でてくる提督。折角セットした髪が乱れてしまうが、この乱雑な感じがなんともこの提督らしい。
「そういえば、今回の会議は何だったんデス?」
上着を受け取りながら金剛が尋ねた。
「まぁ、色々とな。ウチに大きく関わる内容は3つだ」
「1つはウチの保有艦娘数の増加だな。南方に居た艦隊を幾つか、本土近辺の守りの為に『引っ越し』させるらしくてな。コッチの守りが手薄になるのを防ぐのに、20ばかり枠を確保した」
「なんで本土の守りを強化するんですカ?」
「さてな。大本営のモグラ共は、自分等の手近な壁が薄いと不安なんだろ」
苦々しげにそう語る提督の目は、本当に嫌悪感に満ちていた。
「まぁ、暗いニュースはこれくらいだ。2つ目はウチに新たな海外艦娘が来る事になった」
「Wow!それはgoodnewsデス!……で、どこの国デス?ドイツ?イタリア?まさかイギリスですか!?」
「いや、アメリカだ。アイオワ級戦艦の1番艦・アイオワが試験運用という形でウチに着任する」
「Really?(マジで?)」
思わず素で英語が出る金剛。
「あぁ、大マジだ。クルツの野郎が俺に押し付けやがった」
過去の大戦では敵国だった国の艦娘がやって来る……ドイツやイタリアの艦娘を受け入れるのとは訳が違う。どれだけの動揺が広がるかは未知数だ。この件は慎重に扱わなければいけないだろう。
「OK、それは後の問題デス。そして3つ目は?」
「あ~……これはダメだ。本人に言うべき話だからな」
そう言ってはぐらかす提督。その煮え切らない態度にムッとする。
「隠さずに教えるネー!」
「一応お前にも関わってくる話だが、まだダメだ」
「ケチー!」
むぅ、と膨れている所に、ドアがノックされた。
『提督?お休みになられましたか?』
「起きてるぞ。何か用か?」
「あぁ、よかった。ちょっと失礼しますね」
そう言って部屋に入ってきたのは大淀だった。
「なんだ、何か緊急か?」
「えぇまぁ。ある意味緊急です。実は明日、艦娘寮と本館の一斉設備点検をしたい、と妖精さん達から申し入れがありまして……」
これは金剛の策略だった。明日まで休暇を延長させて、その間にサプライズパーティのセッティングを済ませる。それまで金剛が提督をデートに誘い出し、鎮守府に戻らせないようにする。その為の口実だった。
「そこで、明日からの業務再開の予定を1日引き延ばして欲しいとの事です」
「ふむ……」
提督は腕組みをして暫く思案していたが、
「まぁこの建物も古いからな。解った、明日は点検の為に休業日とする」
その場で書類にサインをし、認可の判を捺す。
「では提督、明日は奥様とデートでも楽しんで来てください♪それでは」
「大淀め、余計な事を……」
「まぁまぁ、明日は久しぶりのデートするデース!」
「じゃあ、今晩は無しか?」
提督が意地の悪い笑みをニヤリと浮かべた。
「うぅ~…それはNO!絶対にNOなんだからね!」
そう言って金剛は提督に飛び付いた。
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