提督はBarにいる。
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今からでも遅くない!大人のBar使いこなし講座・Q&Aコーナー
前書き
ここからは読者の皆様から寄せられたバーに関する疑問や質問に、よく聞かれる定番の質問をプラスしてお答えしたいと思います。但し、作者本人はバーの仕事をしている訳ではなく、知り合いのバーテンダーに尋ねたり独自に調べた物である為、確実な正解ではない可能性があります。それを踏まえてお読み下さいm(_ _)m
さぁて、こっからは教え子である駆逐艦達から湧いた疑問に答えていこうと思う。
Q:バーに飲みに行きたい!けどお酒飲めない……どうすればいいの?
A:バーのお洒落な雰囲気を味わってみたいとか、仕事上の付き合いで下戸だけれどもバーに行かなければいけない、なんて状況はままあるもんだ。それに最近だとハンドルキーパーなんて考え方も浸透してきてる。安全上の面から考えても大変喜ばしい事だ。そういう人はバーで何を頼めばいいのか?答えは簡単、遠慮せずにソフトドリンクやノンアルコールカクテルを頼めばいいのだ。
カクテルを作る際にはオレンジジュースやコーラ、ウーロン茶等のソフトドリンクを使うものも多いし、酒が飲めない人の為にソフトドリンクを準備している店も多い。皆がカクテル飲んでいるのにソフトドリンクが気恥ずかしいというなら、バーテンダーに素直に話してノンアルコールカクテルを作って貰う方が場の雰囲気も楽しめると、俺は思うがね。
Q:バーの雰囲気ってどんな感じ?マナーはあるの?
A:バーの雰囲気は店の形態によって大きく違うが……オーセンティックなカウンターバーの事を言っているなら、俺が初めて行った時には『薄暗くて若干恐い』ってのが正直な感想だったかな。まぁ、あの時ゃ俺も18かそこらの小僧だったから……っと、酒は20歳超えてからだぞ?念の為。他意は無いからな?バーってのは簡単に言えば『静かに一人で酒を楽しむ場』だと思ってくれて間違いない。自分だけの世界に浸れるように店内を薄暗くして、他人の顔が見えづらくしている部分もある、ってのは俺の知り合いのバーテンダーの談。だから多くても3人くらいの塊で訪れるのが限度なワケだ。騒がしくされて自分だけの世界が壊されたらいらっとするしな。
まぁ、マナーとしてはそういう空間だから大騒ぎしないってのは最低限度のマナーだな。後は……そうだな、乾杯はやめとけ。バーのグラスはその形等で酒を美しく見せるために薄く作ってある物が多いから、ぶつけ合うと割れる可能性が高い。もしそれが数万もする高級品だったりしたら……目も当てられねぇ。軽く持ち上げて乾杯の挨拶を交わす位がスマートだし、周りから見てもカッコよく見えるだろう。あと最近迷惑してるらしいのがスマホやSNS関連の事だと、知り合いのバーテンダーはぼやいていた。綺麗なカクテルを出されて、思わず写真を撮ってSNSにアップ……なんてのを女子の皆さん方はやったりしてるんじゃねぇのかな?偏見かも知れんがね。いきなり写真を撮ったりするのは店側にも迷惑だし、スマホの画面の光やカメラのフラッシュのせいで気分を害されて怒って帰ったりする常連さんも、中には居たりするらしい。出来れば店の中ではケータイ・スマホはマナーモードにしてポケットに、写真を撮りたいならマスターに了承を得てからにしよう。断られたら大人しく引き下がるのも正しい対応だろう。
Q:バーに行くとたまに本を読んだりしてる人いるけど、あれってマナー違反じゃないの?
A:前述の通り、バーってのは究極『自分の世界で一人静かに酒を嗜む場所』だ。バーテンダーってのはその手伝いをしてるだけ。だから、他人に迷惑でなく店に咎められる事が無ければ読書も何ら問題はない。中にはバーのマスターが常連さんとモン〇ンやってる、なんて店もあったりするから、どうしても不安ならマスターに聞いてみるといい。知ったかぶりで恥をかくよりも、知らないから教えてほしいと素直な方が、後々の良好な関係を築きやすいだろう。……まぁ、モン〇ンに興じていた常連ってのはそれ即ち俺の事なんだが。
Q:バーテンダーさんが嫌がる注文、気分が悪くなる注文ってあるの?
A:前回辺りでも軽く触れたが、『オススメのカクテルを』という頼み方を嫌うバーテンダーは少なくない。客の事をよく知りもしない相手の好みなど解る訳もないし、例え常連さんでも店に訪れる前にどんな食事をしたかによっても、カクテルの印象はガラリと変わってしまう。少し話は変わるが、『オススメを嫌うバーテンダー』の話をここで紹介したい。
その店のマスターはバーテンダー歴が50年を超える大ベテランで、俺も懇意にしていた。ある日、初めて見る顔の客が俺の隣で『オススメを』と注文した。しかしマスターは『ウチは全てがオススメです』とバッサリ切り返した。それで気分を害されたのか、そのお客は会計を済ませて帰ってしまった。『今のはキツすぎたんじゃないか』と俺が尋ねると、マスターは
『私は店のメニューにある全てのカクテルに自信をもっています。特にこれが美味い、等という優劣は付けられません』
そう言われて納得した。バーテンダーは職人なのだ。職人は全ての仕事に誇りと自信を持って臨んでいるからこそ、全てがオススメだ、という他人から見たらつっけんどんな受け答えになってしまうのだな、と。
後は嫌われる注文としては『他店のオリジナルカクテル』を注文する、というのも失礼だろう。そりゃそうだ、す〇家で吉〇家の牛丼を出せ、と言われたらそりゃ店側が怒る。それに似た感覚だ。もしも他の店で変わったカクテルを頼んだ時には『これはこの店のオリジナルですか?』とバーテンダーに聞いてみるのもいいだろう。知っておけば他店で粗相をする事も無いし、その店のマスターと顔見知りになるきっかけにも繋がるだろう。
Q:なんでバーはナッツとかの軽いつまみや軽食しか出さないの?
A:知り合いのバーテンダーの受け売りになってしまうが、カウンターバーのような形態のバーでは、お酒と真摯に向き合ってほしいから……らしい。お酒と料理の組み合わせを楽しみたいなら、それこそレストランや居酒屋、ダイニングバーで事が足りてしまう。カウンターバーのような店では、バーテンダーの技を楽しんで欲しいので、酒の味を誤魔化してしまいかねない本格的な料理は出さない事が多いらしい。それが日本におけるバーの最初のスタイルだった為にそういうイメージが根強いんだろう。
Q:味の当たり外れが少ないバーは?
A:そもそもバーの酒の味の優劣は、使われている酒の味と、バーテンダーの腕に比重が大きい訳だ。そうなれば本格的なカウンターバーや有名ホテルのメインバーなんかは間違いない腕をしている、と言える。勿論、街中にあるカウンターバーでも、名人と呼ばれる程の腕前を持つ人はいる。そういう意味ではカウンターバーは当たり外れは小さいだろう。
Q:会話を楽しむバーを初心者オススメにしてたけど、本当にそれでいいの?
A:カウンターバーは総じて、薄暗くて近寄り難い雰囲気の店が多い。そういう意味で初心者にオススメとさせてもらった。勿論、薄暗くて物静かな雰囲気の方が落ち着くからいいという人はカウンターバーの方が性に合っている。要は俺の話を全部鵜呑みにしないで、自分の好みで選べって事さ。なんでもかんでも他人任せじゃあ、人生つまらないだろ?
Q:いいバー・悪いバーの見分け方は?
A:こいつぁ難問だ。バーってのは美味い酒を楽しい気分で味わう為の場所だからな。楽しい気分で味わうには、自分の好みに左右される。客層、バーテンダーの雰囲気、店の佇まい、流れているならBGMのチョイス……そういう物から好きな店を選ぶしかない。
美味い酒を、って観点で見るならそこはバーテンダーの腕に差が出てくる。名人と呼ばれる人なんかだと、シェイクの回数で同じカクテルでも0.5度の温度差を生み出したりする事が出来る、なんて芸当を持つ人さえいる。……まぁ、これはバーテンダーの技術の世界大会のチャンピオンの話だから、出来るレベルの方が少ない。それでも注目するポイントがあるとしたら、バーテンダーのカクテルを提供するまでの所作の美しさと、グラスが綺麗か?という点だ。
技術の卓越したバーテンダーほど、カクテルを提供するまでの所作・動作は美しく、格好良く、様になっている。バーテンダー曰く、カクテルをお客様に出すまでがバーテンダーの『魅せ所』であり、その所作の美しさに拘りを持てない人間は二流だそうだ。……俺はプロでもねぇから、そんなのに拘りはしねぇが。早霜の奴は気にしてるみたいだな。
グラスの綺麗さは言わずもがな。カクテルは目で楽しみ、鼻で楽しみ、舌で楽しむ物だ。グラスを指紋1つなく綺麗に磨きあげるなんてのは、バーテンダーのイロハのイだ。完成して置かれたカクテルの美しさに拘りを持てないバーテンダーも、これまた二流以下だそうだ。その辺をチェックするといいんじゃないか?
Q:ドレスコードに注意しないといけないらしいけど、ビジネススーツじゃダメ?
A:勿論問題ない。商談を詰める為の接待などでバーを利用する営業マンは実際多い。馴染みの店を何軒も持っている知り合いも俺にはいる。ただし、酩酊して着崩れていたりジャージやスウェットのようなラフすぎる格好だと入店を断られるケースもある。歩きタバコやくわえタバコなんてのは論外だ。清潔感のある服装……例えば、友人や家族と美術館に行く、位の気持ちで服装を整えればまず問題ないだろう。(これも知り合いのバーテンダーからの受け売りだが)
Q:おつまみを頼みたい場合は、このお酒に合う物をって頼むのがいいの?
A:それが無難だろうな。酒の知識がバーテンダーより乏しいのは当たり前、という前提でバーテンダーはお客様と接している。このお酒に合うつまみを、と頼まれればそこはバーテンダーの腕の発揮される場だ。ただ、純粋にお酒を楽しんで欲しい店だと最低限のチーズやサラミ、ナッツ類位しか置いていない店もあったりするので注意。カウンターバーなどでがっつり夕食を、なんて考えは止めておこう。夕食の後に少し一杯、位の気持ちでバーを利用するのがスマートな使い方だ。
Q:バーの最低限抑えておきたいマナーは?
A:前述でも幾つかマナーは書いてきたが、店に入ったら自分はもう紳士淑女なのだという意識を持つ事から始めてみてはどうだろうか。そうやって自分を律する事で、周りへの配慮や見られても恥ずかしくない行動が取れるだろう。
後はカウンターやトイレ、座席は自分の私有のスペースではなく共用のスペースだと意識しよう。カウンターには不必要な物は置かない、トイレは綺麗に使う、座席に荷物を置いて席を余分に取らないなど、最早常識的な部分すら出来ない客もたまにいる、と知人は嘆いていた。
煙草もそうだ。基本バーでは禁煙の所は少ないが、分煙していたり灰皿を客に言われるまで出さない店などもある。香りの強いパイプや葉巻を吸う時なども店の人に確認を取るなど、周りへの配慮を忘れずに。
「長々となってしまったが、こんな所か。他にも解らない事などあれば、店にまた来たときにでも聞いてくれ」
「まぁ、酒なんてのは楽しんで飲むのが一番さ。な?提督」
「隼鷹、お前も今日くらいは大人しい格好なんだからも少し女らしくしとけよ!あとちょっとの我慢だろ!?」
「え~、ヤダよ。アタシは気楽に飲む方が好きなんだからさぁ」
そんな俺と隼鷹のやり取りに爆笑する駆逐艦達。どうやら今回の講座は中々に成功といえる形だったらしい。そして数日後……
「提督ぅ~、なんとかしてくれよぉ~コレ」
隼鷹が俺に泣きついて来た。原因は、
「ヤ~ダ~、あかちゅきはぁ、じゅんようおねぇたまともっとのむにょお~♪」
泥酔した暁が隼鷹の腰に抱き付いていた。どうやら講座の時の美しい隼鷹に自分の目指すべきレディのゴールを見たらしい暁が、隼鷹を『お姉様』と呼んで異様になつき、毎晩金魚の糞のようにくっついて歩いているらしい。そして毎晩のように酔い潰れ、隼鷹が暁達の部屋に送り届けているらしい。
「良かったじゃないか、心強い随伴艦が出来てよ?」
内心笑い出したいのをこらえ、そう言ってやる。
「そ…そうですよ……とってもお似合いです…ぶふっ!」
俺の隣で早霜の奴が堪えきれずに噴き出しているので、俺の我慢は台無しだが。
「そ、そんなにアタシの困り顔が楽しいかい!?」
「じゅんようおねぇたまぁ、怒っちゃヤっ!」
ヤバい、なんだこれ。面白すぎるんだが。そしてカウンターの隅では響が
「……やれやれだね」
といいながら『ウォッカ・スティンガー』のタンブラーを傾けている。自分の師匠とぶっ壊れた姉を肴に、少し面白がるような顔で今宵の酒を楽しんでいる。隼鷹がこのあとも講師を続けて、暁以外の駆逐艦達からも懐かれてしまい、一部の艦娘達から怨嗟の視線を送られる事になるのは、また別の話。
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