提督はBarにいる。
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山雲農園の春野菜スペシャル!その3
さて、と。お次はチャチャッと出来る、レタスを使った炒め物と行こう。
《簡単スピード調理!レタスと牛挽き肉の中華炒め》※分量2人前
・牛挽き肉:120g
・レタス:5枚
・細ねぎ:適量
・しょうが、にんにく(各みじんぎり):各小さじ1
・サラダ油:大さじ1/2
《タレ》
・酒:大さじ2
・オイスターソース、醤油、豆板醤:各小さじ1
これは手早くいくぞ。まず先に合わせ調味料のタレを作っておく。勿論普通の酒でもいいんだが、俺は本格的な味を求めて紹興酒を使う。
紹興酒は中国の紹興市の辺りで仕込まれている醸造酒で、日本酒同様米を醸した酒なのだが、大きな違いは蒸したもち米に麦麹と米粉、蓼(たで)、更にカラメルを加えて熟成させる。濾過する事なく飲むのでドロリとした口当たりと、どぶろくに糖分を加えたようなべたつく感じの甘さが特徴だ。しかし濾過しない分発酵の際に生じるアミノ酸等も豊富で、『クセが強いが調理酒としても一級品』というちょっと変わった酒である。今は中国との流通はほとんどないが、その前に知り合いから大甕で買い付けてあったのでそれを少しずつ使っている。
合わせ調味料が出来たら、中華鍋に火を点けて油を熱する。十分に温まったら牛挽き肉としょうが、にんにくを一緒に入れて中火で炒めていく。強火でもいいんだが、にんにくと生姜が焦げると苦味が出ちまうからな。
牛肉に火が通ったら、合わせ調味料を加えて一煮立ちさせ、アルコールを飛ばす。そこに食べやすい大きさにちぎったレタスを加えてサッと炒め合わせる。レタスのシャキシャキ感を残したいからな、レタスを加えてから1分も炒めずに皿に盛り付けて、最後に長めにざく切りにした細ねぎを散らしたら完成。合わせ調味料さえ作ってしまえば、5分もかからずに出来上がってしまうお手軽さなのに、本格的な中華のピリ辛味に仕上がる。
「どうだ、美味いだろ?」
「……あぁ、こいつはたまらん。シンプルだが箸が止まらなくなる。」
「レタスを炒めると~、こんなに美味しいなんて知りませんでした~♪」
武蔵と山雲は競うように、レタス炒めを肴にビールを煽っている。先程持っていった『酔鯨』の一升瓶は既に空だ……大和型二人もだが、そのペースに着いていく山雲も恐るべし、だな。…しかし山雲の言う通り、レタスを加熱する調理法は中華がほとんどだな。メジャーな所だとレタスチャーハンとか。中国人はあまり生野菜を食べる習慣が無いらしいからな、それも当然っちゃ当然か。美味い美味いと食べ進める二人に対して、大和の箸の進みが遅い。
「ん、どうした大和?美味くなかったか?」
「いっ、いえ!そんな事は……。ただ…」
「ただ?」
大和が赤面して俯く。
「白いご飯が欲しいなぁって……そのぅ…」
成る程な、確かにこのレタス炒めの味は酒だけじゃなく飯のおかずにも最高だ。だが……
「駄目だ」
「何でですかっ!?」
絶望した!とでも言いたげな顔の大和。落ち着け、ちゃんと理由はある。
「次の料理が今日の食事会の〆の料理だがな……メニューは『春野菜のカレー』だ。だから白飯は出せん、すまんな」
流石に白飯食わせた後にカレーは、幾ら大和型とは言え食わせ過ぎだ。大和も理由を聞いて納得したのか、
「まぁ、そういうことなら……」
と、大人しくなった。さて、そんな腹ペコな大和が怒り出す前に、さっさと作っちまおう。
《提督流春野菜カレー》※分量10皿分
・鶏モモ肉:3枚
・キャベツ1/4玉
・アスパラガス:1袋
・蚕豆:1袋
・人参:1/2本
・玉ねぎ:1個
・カレールー:10皿分(箱の分量に合わせましょう)
・その他サラダ油、水、塩、胡椒、ご飯等:適量
まずは具材のカットから。キャベツは一口大のざく切り、アスパラガスは根元から1cm位を切り落とし、下1/3位の皮をピーラーで剥いてやる。玉ねぎは半分に割って繊維に沿って縦薄切り、人参は薄い半月切りにし、蚕豆はサヤから取り出す。鶏モモ肉を一口大に切ったら完了だ。
「提督さん~?山雲ぉ、聞きたい事があるんだけど~」
「ん、何だ山雲?」
「蚕豆(そらまめ)ってぇ、何で蚕の豆って書くんですか~?」
「蚕豆の旬は5月……ちょうど養蚕の始まる時期に食べ頃になるんだってのと、サヤの形が蚕の繭に似てるからだってのは聞いた事あるな」
「へぇ~そうなんですかぁ~。てっきり蚕が食べるから蚕の豆って書くんだと思ってました~」
そら豆の別名は意外と多い。『空豆』、『夏豆』、『四月豆』、『天豆』、『野良豆』……これらは全て蚕豆の別称だ。食べ方としては塩ゆでか、サヤごと焼いてサヤの中の豆を食べるのが一般的だな。……あぁ、揚げて塩振ったいかり豆も美味いな。後は煮物やスープにしたり、中華に欠かせない豆板醤の主原料だったりと、案外活躍の場は多い。
※因みにだが、酸化還元酵素の一部に先天的異常があると、蚕豆を食べて溶血性貧血を起こし、最悪の場合死に至る事がある(ソラマメ中毒)。気を付けましょう
……話が逸れたな。具材のカットが終わったら鍋にサラダ油大さじ1~2を引いて熱し、鶏モモ肉を皮目から焼いていく。こんがりと焼き目がついたら返して、玉ねぎを加えて全体を混ぜるように炒める。
玉ねぎが薄く茶色く色付いてきたら、水を加えて沸騰させ、アクを取りながら30分煮込む。煮込んだら一度火を止め、カレールーを入れて溶かしつつ再点火して更に10分煮込む。これでカレーソースは完成。
お次は野菜の調理だ。フライパンを熱し、サラダ油大さじ1~2を引いたら蚕豆をフライパンの中に。塩を振り、強めの中火で炒めていく。焼き目が付いたらアスパラ、人参、キャベツの順に加えてから、全体に焼き目が付くまで炒めて塩、胡椒で味を整える。
「わざわざ野菜を別に炒めるのか?一緒に煮込んだ方が手間もかからんと思うが……」
「春野菜ってのは総じて柔らかく、香りが良いのが多いからな。カレーと煮込んじまったら、溶けちまったり香りがカレーに打ち消されたりで良さが出ないからな。手間でも別に炒めてやった方がいい」
「そういう物か。やはり私には料理は向かんな」
苦笑いするようにくっくっと喉を鳴らして笑う武蔵。
「そうか?勿体ねぇなぁ。お前も大和も美人なんだから、家事が出来れば文句なしの嫁さんだと思うがなぁ」
俺がそう言うと、途端に『お前は何を言ってるんだ』という顔になる武蔵。
「それなら大和共々、お前が貰ってくれれば良いだろう?別に戦争が終結すれば日本に義理立てする必要も無かろう。一夫多妻が認められてる国にでも行って、レストランでもやりながらハーレム状態で暮らせば。……なぁ大和、いい案だと思うだろ?」
「ふえっ!?ななな、何を言ってるのよ武蔵!」
「ん?だって今『満更でもない』って顔してたじゃないか」
……おいおい、勘弁してくれ。青葉にでも聞かれてたら厄介だ。武蔵の案は具体的過ぎて実現出来てしまいそうだから困る。青葉が広めちまったら、LOVE勢が結託してその方向に動きかねん。
「あらあら~?提督さんもモテモテで大変ですねぇ~。昼ドラみたいな展開にならないといいですねぇ~」
ニコニコしながら傍観者を決め込んでいる山雲は、スプーン片手に準備万端だ。
「おいお前ら、不毛な言い争いはその辺にして、今日の所はカレー食って帰れ」
皿にご飯を盛り、炒めた野菜を載せて、そこにカレーソース。見た目も美味い、香りも美味い、ホントに食べても美味い。さぁ、冷めない内に食っちまえ。
「うむ、野菜の香りもカレーのスパイスに負けてないな」
「それにシャキシャキで美味しい~♪」
「そりゃ新鮮だからな。山雲ありがとうよ」
「どういたしまして~♪」
その後も山雲の為に毎週食事会を開いていたのだが、アスパラの時期が終わるまで〆は春野菜のカレーだったのはまた別の話。
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