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IS ーインフィニット・ストラトスー 〜英雄束ねし者〜

作者:龍牙
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24話『二人の聖騎士』

「っ!? こいつ!」

 ルーンレックスのニードルが振り下ろされそうになった瞬間、もう一機のアメイジング・レヴを射出。その体当たりがルーンレックスの腕を弾く。

「ぐわっ!」

 その隙を逃さずビームライフルを取り出しマシンガンモードでトリガーを引く。至近距離で放たれたビームマシンガンは流石にルーンレックスと言えど後退させる程度の破壊力はあった様子だ。

 素早くシールドバンカーを構えてアリーナの中まで押し返そうとするが、そこで初めて周囲からの悲鳴に気がつく。

(っ!? まだ避難が終わってなかったのか!?)

 戦闘時間を考えていなかったのも有るが、生徒達と来賓の二組の避難誘導に加え、対応する為の教師部隊の編成まで行なっていたのだから、当然ながら避難誘導に廻る教師の数も少なくなる。生徒の方は学園所属の代表候補生も避難誘導に加わっていたが、どうやらまだ大勢の生徒が逃げ遅れていた様子だ。

「何処を見ている!?」

「っ!?」

 ルーンレックスの声に気がつき慌ててルーンレックスのニードルを避ける。

(ドラゴンズ・ロアもブレス・オブ・ワイバーンも使えなくなったぞ、これで!?)

『その様だな。早めに押し返す必要が有る』

(ああ。……それにしても、さっきはどうしてブレス・オブ・ワイバーンが効かなかったんだ?)

『あの一瞬で防御のエネルギーを一点集中したと言う所だな。パイルバンカーの要領で一点集中したエネルギーを打ち込んだ、と言ったところか?』

(多分、それだろう。さっきからニードルビームも破壊光も使ってこない)

 一点集中させたエネルギーを一度に使ったのだから、今のルーンレックスは飛び道具も使えず防御も本体の強度だけと言う状況に陥っていると言う訳だ。それが何処まで続くのかは分からないが、二度目のチャンスと言った所だろう。

「使えないとでも思ったか?」

 だが、そんな四季の考えを理解しているようにルーンレックスの言葉が響くと、ニードルビームが打ち出される。

「っ!?」

「残念だったな、連射は出来ないが単発程度ならば問題は無い」

「そう言う事か」

 要するにトルネードニードルビームや破壊光の様な広範囲にわたる連射攻撃は不可能だが、ニードルによる接近戦の他にもニードルビームも使用可能と言う所だろう。
 ……それでも大技が仕えなく成ったと言う時点でデュナスモンの力を借りた技を打ち破った代償は大きかったと言う所か。

『どうする、ここでは使えないがもう一度使えば何とかなるかもしれんぞ』

「いや、流石にこっちもエネルギーが無い」

 ブレス・オブ・ワイバーン……ロイヤルナイツの一角たるデュナスモンの最大の必殺技であり、四季の専用機Hi-νガンダム・ヴレイブのアメイジング(デュナス)の持つ最大の必殺技でもある。強力な必殺技である反面エネルギーの消費も大きい。

『流石にオメガモンの技よりも下だがな』

「それを聞いて安心した」

 関心があったが、デュナスモンの言葉に四季はそう返す。弱体化している状態でオメガモンと同等の攻撃力など敵に持って居られたら、既に四季は負けている。

(仕えるのはドラゴンズ・ロアだけか。片腕のエネルギーをカット)

 ドラゴンズ・ロアの為のエネルギーを片腕に集中させ弾数を上げる。シールドバンカーが何処までルーンレックスに通用するかは分からないが、ルーンレックスをアリーナ内に押し返す為に有効な武器ではある。

 とは言え、相手の弾幕が薄くなった以上それは四季にとっての好機である事に変わりない。ヴレイブのスピードならば単発ならば避けるのはそれほど難しくは無い。

「貰った!」

「ガァッ!」

 零距離でドラゴンズ・ロアを叩き込み吹飛ばすが、ヴレイブの肩の装甲の一部がルーンレックスのニードルに砕かれる。



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「早く! 早く前に行ってよ!」
「ちょっと、押さないでよ!!!」



「っ!?」

 吹飛ばされた先に居た女生徒たちが悲鳴を上げる。シールドの穴まで近づけたのは成功したが、運悪くその近くには逃げ遅れた生徒の一部が居た。
 タダでさえ混乱状態に陥っている上に、直ぐ近くで戦闘が繰り広げられているのだから混乱状態は更に酷くなり、一つの出口に殺到した事で避難は滞ってしまう。

 ……ルーンレックスにとって人間の価値は鬱陶しい虫以下だろう。それでもISサイズまで小さくなった事で“以下”の二文字が消えているだろうが、それは寧ろ悪い事だとしか思えない。

「きゃあっ!」

 そんな生徒達に押されて避難誘導に当たっていた青い髪の少女が突き飛ばされ、慌てて駆け寄る四季のクラスメイトの本音の姿が見えた。

「鬱陶しい……」

「ひっ……!」

 ルーンレックスの瞳が少女と本音を捉える。翳される腕とその先に居る少女と本音。目の前に迫る死の恐怖に脅え、小さく悲鳴を零す少女。

「……詩乃……?」

 髪の色も違う、髪型が少しだけ似ていたり、眼鏡をかけている所が共通点になるだろうが、性格も違うだろう。……だが、目の前に迫る死の恐怖に脅える彼女の姿が何処か詩乃と重なってしまう。

「止めろ、この負け犬のガラクタ野郎!!!!!!!」

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気にルーンレックスへと肉薄し、

「モード・フルバースト!!!」

 ルーンレックスに叩き付けた掌からドラゴンズ・ロアの残弾全てを零距離から叩き付ける。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」

「オマケだ!!!」

 最後にシールドバンカーを叩きつけ、アリーナ内まで押し戻す事に成功する。そんなルーンレックスを追って四季もまたアリーナに再突入する。

「……ヒーローみたい」

 そんな助けられた少女の呟きなど気にとめる事も無く四季の意識はルーンレックスだけに向けられていた。








「っ!?」

 アリーナに戻った瞬間、ヴレイブの姿が通常の元に戻ってしまう。

『今のドラゴンズ・ロアでエネルギーを使い果たしたようだぞ』

「しかも、もうSEがない」

 辛うじてヴレイブの展開を維持している事だけは出来るが、既に戦うだけの力は残されていない。

「どうやらこれまでの様だな……」

 流石にもう再生能力も働かないのだろう、全身の装甲がボロボロになりながらも健在なルーンレックスの姿があった。

「貴様を始末し、この脆弱な体を捨て……再び聖機兵へと戻る時だ!」

「くっ!」

 ルーンレックスの姿を見据えながら四季は必死に逆転の一手を模索するが、現状では一つしか思い浮かばない。…………デュナスモンのリアライズ…………。

 現実世界に於いて、デジモンの持つ力は最も戦闘力の低い成長期の段階でも戦車に匹敵するだろう。
 完全体……究極体への過程として見られる進化段階では有るが、“完全”の名が示すとおり、戦う為に完成した完全なる姿である。現実世界での攻撃力は核兵器にも匹敵する力を持つ。
 そして、それらのデジモンの進化段階において数えるほどしか存在しないのがデジモンの進化の最終段階である『究極体』である。
 デュナスモンは究極体の中でも上位に位置するデジモン、弱体化しているルーンレックス相手には十二分に対抗できる。

『どうやら、他に手段は無さそうだな』

「悪い、この先どうなるかは分からないけど」

『気にするな』

 混乱の中にあるとは言えこんな場所でデジモンを呼び出す事に対するリスクを考えるとデュナスモンに対して申し訳なさを覚えるが、現状でルーンレックスに対抗する手段は四季にはそれ以外に残されていない。完全に人造クロンデジゾイドの精製が成功した事が仇になった。

「死ね!」

「リアライズ……」



『止めろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』



 ルーンレックスがニードルを振り下ろそうとした瞬間、四季がデュナスモンをリアライズさせようとした時、巨大な盾を構えた一夏がルーンレックスへと突っ込んできた。

「なに!?」

 一夏の構えた盾にニードルを受け止められた事に驚愕を浮べるルーンレックス。

「一兄……?」

『あの盾は、我が同胞『クレニアムモン』の魔盾アヴァロン』

 デュナスモンが一夏が構えた盾を見てそう呟く。

「……魔盾? 聖騎士なのに?」

『……すまんが、本人にあってもその事と外見の事には触れないで居てやってくれ。気にしているんだ、初見で暗黒騎士と間違われる事が多くてな』

「そ、そうする」

『列記としたワクチン種の聖騎士なんだ』

 暗黒騎士と間違われると言うのはどれだけ凶悪な外見をしているのか気になるが、それは気にするべきところでは無いだろう。

(でも、武器がない……動く力も無い……どうする?)



『ふっ、ならば私が力を貸そうかな?』



 四季の目の前に薔薇の花弁が舞いながら誰かの声が響く。

『おお、お前は『ロードナイトモン』!』

「って、知り合い!?」

『ああ、君が中々戻らないので、こうして私も出向いたわけだが、どうやら放置しては置けない様だな』

 四季の目の前に現れる……と言うよりもモニターに直接己の姿を移しているのであろうショッキングピンクの聖騎士型デジモン『ロードナイトモン』の姿がしっかりと見えていた。
















 時間は僅かに遡る。

「くそっ……」

 辛うじて僅かなSEが残っているだけの白式は先ほどのルーンレックスの攻撃に曝され穴だらけにされダメージレベルC、当分は修復に専念させる必要が有る状態だ。だが、そんな状態になっても白式は辛うじて己の核と登場者である一夏の命を守りきっていた。大破と判断されても、褒められるべき状況だろう。

「……本当に、情けないよな……」

 シャルロットには『負けないで』と言われて送り出された。一夏は『負けない』と言って応えた。……だが、片腕こそ切り落としたものの結果は一夏は地面に倒れ付していて、ルーンレックスは健在だ。

 …………負けたのだ…………。

「畜生……っ!」

 動こうと必死に体を動かそうとするが、パワードスーツのはずのISは先ほどの攻撃で何処かの機能に異常が出てしまっているのか、逆に一夏の自由を奪う拘束衣になり果てている。

 苛立ちに任せて地面を殴りつけたくても全身を拘束する白式の重量で動くことは出来ない。

 今もルーンレックスと戦っている四季を見ていると、己の情けなさに涙が零れそうになる。……己は無力だ、何一つ守る事はできないのだと思わずには居られない。

『顔を上げろ、前を向け、男子たる者が涙を流すものでは無いぞ』

「っ!?」

 突然聞えた声に驚いて頭を上げると、其処がアリーナでないことに気付く。青空と何処までも続くように広がっている草が風に揺れている草原のような風景。ISは纏っておらず簡単に立ち上がることが出来る。

 そして、そこで初めて己へと声をかけた相手のことに気付く。

「っ!? うわぁぁぁあ!!!」

「……其処まで驚くか?」

 直視した瞬間驚きの声を上げる一夏の姿に若干声の主の声のトーンが下がる。……まあ、その反応も無理は無いかもしれない。髑髏をモチーフとした黒い甲冑を身に纏った漆黒の騎士が巨大な双刃の剣と盾を持って自分を見下ろしていれば誰だって驚くだろう。

「お、お前は!? それに此処は!? オレはさっきまでアリーナに……」

「この場所について詳しい事は私から説明するより相応しい者が居るだろう。故に私から教える事が出来るのは私自身の事についてだけだ」

 黒騎士はそこで一旦言葉をとめる。

「我が名は『クレニアムモン』。ロイヤルナイツの一角を担う者だ」

「クレニアム……モン? ロイヤル……ナイツ?」

 突然の専門用語に戸惑う一夏だが、分かったのは目の前の騎士の名前だけだ。

「残念ながら長く会話している暇は無さそうだ。何れ君とはゆっくりと話をしよう。今は……」

 クレニアムモンは地面に剣と盾を置き、一夏へと片手を向ける。

「私に力を貸してくれないか? 私と共に二つの世界を救うために、君の力を借りたい。君の弟とその仲間達が我が同胞達と共に戦っている様に」

「同胞と共にって……四季の事なのか?」

「その通りだ」

 秋八では無く直ぐに四季の名前が浮かんで来た理由は分からない。だが、クレニアムモンは一夏の言葉を肯定する。

「力でも何でも貸してやる。……それで何かが守れるって言うならな」

 一夏は差し出された手を取る。目の前の相手が何であっても、それは関係ない。誰かを守れる力が有るなら……。

「悪魔と相乗りだってしてやる」


 ―グサッ―


 クレニアムモンの胸に一夏の言葉が突き刺さった。……堅牢なブラッククロンデジゾイドでも流石に言葉の刃から精神を守ってくれなかったようだ。

「え? お、おーい……」

 暗い雰囲気で膝を抱えて落ち込んでいるクレニアムモンに思わず声をかけるが……

「……悪魔。ふふふっ……私は聖騎士なのに、ワクチン種なのに」

 色々と気にしている様だった、外見について。『スカルナイトモン』やら『ダークナイトモン』やら似たようなモチーフの悪の騎士と時折間違われるようになってからは本気で気にしている様だった。本人……と言うか本デジモンは寧ろ忠実で誠実な聖騎士である。断じて悪の騎士などでは無い。

 落ち込んだクレニアムモンを一夏が励ましていると、一夏の意識が何時の間にかアリーナへと戻る。
 先ほどまでの事が難だったのかと疑問に思っていると、何かのスイッチが入ったように今まで動かなかったはずの白式が動く。

「こ、これって?」

 失われていたSEの回復と同時にクレニアムモンの色が混ざりながらルーンレックスにやられたダメージが強制的且つ急激に修復されていく。深刻なダメージと急速な修復、確実に白式に深刻なダメージを残すであろう状況だが、今はそんな事を構っている暇は無い。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 雪片は手元には無いが、咄嗟に巨大な盾……クレニアムモンのアヴァロンが手の中に出現する。振り下ろされた盾によってルーンレックスのニードルを一夏が受け止める。

『織斑一夏、我が魔盾アヴァロン、紛い物の肉体しかない者に砕かれるほど柔ではない』

「ああ!」

 疑問を抱く余裕など無い一夏はクレニアムモンの言葉に返す。









『四季よ、話は後だ。今は君の兄上の努力を無駄にするべきではない』

「ああ」

 力を貸す。そう言ったロードナイトモンの言葉に応える。手近にあるシールドバンカーを手に取ると再びヴレイブの姿が変わる。青がメタリックピンクに変わり、装甲が軽量化されたものに変わり、背中から四本のビームが延びる。

「Hi-νガンダム・ヴレイブ……モード、(ロードナイト)!!!」

 金色に染まったシールドバンカーを構えながら四季はルーンレックスを見据える。

(先ずはラウラ・ボーデヴィッヒを助ける)

 ゆっくりと地面を蹴ると一瞬でルーンレックスの懐へと飛び込む。ルーンレックスが四季の姿を認識するよりも早く、四季は舞うようなステップを踏む。

「スパイラル・マスカレード!!!」

 一回転と同時に背中の四本のビームが刃となりルーンレックスのボディを切り裂く。

「貴様の再生よりも早く……切り裂くのみ!」

 砕けたボディの隙間から伸びる手を掴みラウラの体を引き抜く。

「ぐ、ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 核となっていたであろうラウラを失ったルーンレックスの全身の文字が消え、ビームニードルが消える。ゆっくりとルーンレックスの体が崩壊を始めていく中、四季は最後となる一撃を放つ。

「これで終わりだ……」

『私の最大の武器は華麗なる身のこなし。たとえオメガモンが一撃で全てを破壊しようとも私はその全てを交わして見せよう。そして、この一撃を持って全てを砕く』

「『アーデント・フィアー!!!』」

 シールドバンカーを叩きつけられたルーンレックスの頭部が砕け散る。

「お、おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」

 ルーンレックスの絶叫が響き渡ると同時にルーンレックスは砕け散っていく。

「やった……」

 通常のヴレイブに戻りながら地面に落ちるとISが解除される。

(…………またこれか)

 全身を襲う疲労感。抗えない感覚に四季はゆっくりと意識を手放すのだった。

(まったく、少しは格好良く終われないのか?)

 最後に思うのはそれだったりする。 
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