ガンダムビルドファイターズ ~orbit~
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逃避行の果て 前編
「セ、セシリアっ!? 」
突然の事で驚き、慌ててセシリアから離れていく。
「なんでこんな所にいんだよ!? 」
「レイをサガしてたら、ナンかツいた」
「はぁ!? 」
ということは、勘で探してたってことかよ!どんだけ鋭いんだよ!
「ミンナ、レイのコトをサガしているから、カエろう? 」
「っ────ほっといてくれ!! 」
叫ぶと同時に立ち上がり、すぐに走り出す。
「あっ、マって……! 」
セシリアも立ち上がって追いかけてくるが、すぐに転んでしまった。そのあまりにも場違いな出来事に、思わず足を止めてしまう。
幸い芝生の上だったから怪我はしてないと思うが、そこからセシリアが動くことがなかった。というか微動だにしてない。
打ち所が悪かったのか、気絶してんのか?このままほっとけばいい話だけど、流石にこの時間帯じゃ冷えるよな?なら、せめて俺の上着でも被せていくか?
と、身体が固まった状態で考え、結局セシリアの所へと戻った。そして、それが罠だというのに気づいたのはすぐだった。
近づいてしゃがんだ瞬間、陸上のスタートダッシュみたいに俺の腹へと飛び出してきた。
「ぐふっ……! 」
「ツカまえた……」
腰に手を回し、抱きつくような形で言われた。
「ゴホッゴホッ!ゲホッ! 」
「…………ダイジョウブ? 」
「いや…………大丈夫じゃねぇよ……」
鳩尾に頭突きが入ったんですけど。地味に石頭で痛ぇんですけど。
「って、それより離せ! 」
「イヤ」
即答しやがった!
「ゼッタイハナサない……」
頑なに拒否され、抱きついてくる力が強くなる。
無理矢理引き剥がそうとするが、また鳩尾に頭突き(本人は捕まえようとしているつもりだろうけど)を入れられて身体から力が抜けていく。
「ま、待てセシリア…………一回落ち着け……これ以上やると俺が死ぬ……」
「ドコにもイカない? 」
「分かった分かった!だから離せ! 」
「…………ワカッタ。けど、ネンのためこのまま──」
「誰かに見られたら誤解を生むから離れろ! 」
「…………ワカッタ」
しぶしぶと力を抜いたが、抱きついたままで一向に離れる気配が無い。
「…………離れよ」
「…………ツカれてウゴけない………キョウはチカラシゴトばっかだったから。レイをトめたり、サガしたり、またトめたりしたから」
「………………悪かったな」
小さく呟き、セシリアを隣で寝かせる。
「ここでレイがドコかにいったら、ワタシはずっとココにいる…………タブン、ネちゃうからカゼもヒいちゃう」
立ち上がろうとした瞬間に、この後どうするか分かっているかのように釘を刺された。
「上着をかけてやっから」
「トる」
「このやろう………! 」
この強引っぷり。アマネの奴と同じだな。アイツから悪影響受けてんじゃねぇのか?
……………って、そうだ!結局アマネはどうなったんだ!?
「なあセシリア。アマネから連絡とか来たか? 」
「…………キになる? 」
「まあ…………一応な」
「ダイジョウブ。マヒルはブジ。イマもレイのコトをサガしているから」
「そうか…………無事ならいいか」
安堵のため息を吐いて、無事なことに安心する。そのせいか、身体から力が抜けて芝生に座り込む。昨日から気を張っていたから、かなり疲れていたのだろう。
「レイ…………ジジョウはマヒルからキいた。ミンナもナットクしてた。だから、キノウキョウのコトはキにしてないとオモう」
横になっていたセシリアは、上体を起こして言ってきた。
「…………もう、手遅れなんだよ。だから、これ以上お前達と関わんねぇよ。邪魔だし鬱陶しいし、その上、俺の事を探し回ってるとか、余計なお世話なんだよ。うぜぇんだよそういうの」
顔を背けながら次々と言い放つ。だが、顔は見えないがセシリアは不思議そうな表情をしているのがなんとなく分かった。
「じゃあ…………ドウしてレイは、そんなカナしそうにしてるの? 」
「してねぇよ。お前に何が分かるってんだ」
「ワカル…………だって、イマのレイのカオ、とてもツラそうで、クルしそうで、ナきそうだもん」
「っ! 」
「…………レイ。ナニがあったの?よかったら、ハナして。ワタシタチ………ナカマ、でしょ?」
っ────!
「…………仲間じゃ、ねぇよ」
「………じゃあ、トモダチ」
………………どうして、お前はそこまで俺に関わってくんだよ?
「友達でもねぇよ!他人だ他人! 」
「じゃあ、チームメイト」
「それ結局仲間に戻ってるじゃねぇか! 」
どうして、何事も無かったかのように接してくんだよ………?
「じゃあ、ナカマだ……」
どうしてお前は………………。
「……………どうして、お前は俺との関係を切ろうとしねぇんだよ………?ただの他人だろ?さっきのヒデェ言葉や、事情があっても昨日今日迷惑もかけてんだぞ?なのに、何でお前は俺と関わろうとすんだよ? 」
「…………ナカマであり、トモダチでもあるから。それに、レイはヤサしい」
「俺が優しい?どこがだよ? 」
「だって、ニホンにキてばっかのワタシにシンセツだった。ナニかあったらタスけてくれるし、マヒルやトーヤ、サクラにセーヤもタスけてくれた。コンカイもそうだった。
それに、ワタシがタオれたトキ、ムシすればよかったのに、レイはモドってきてくれた。ワタシがずっとココにいるっていったトキも、レイはいてくれた。だから、レイはヤサしい………」
「っそれは…………」
「レイは、とてもナカマオモい。ミンナのナカで、イチバンナカマをタイセツにしている」
そう言い切ると、小さな両手で俺の手を握ってきた。
「だけど、あまりヒトリでカカえこまないで……………レイには、ワタシやミンナがいるから……」
「ぁ……………」
「レイ、ハナして。ワタシもイッショにセオうから……」
慈しむように優しく微笑みかけ、セシリアは再び言ってきた。
何があろうと真っ直ぐで、いつもと変わらないセシリアは、あまりにも眩しかった。だからなのか、俺は自然と言葉を紡ぎ出していた。
「………………俺は、中二の時に記憶喪失になったんだ。知識だけは残ってたみたいだけど、思い出や過去に何があったのか覚えてねぇんだ。
その時に孤児院に引き取られて、レイナや子供達と過ごした。
どこか抜けて、世話焼きのレイナ。危なっかしくて、元気一杯な子供達。俺がしっかりしてなきゃいけなかったから、過去の事を気にする余裕が無かったんだ。
だから、この際前を見て進もうって思ってたんだ」
だけど、それは過去から目を背けているのと同義だった。
「けど、最近になって妙な事ばっか起き始めたんだよ。急に頭痛がするわ、頭に靄がかかったかのような映像が流れるわ、変な夢を見るようにもなったわ。オマケに昨日今日の出来事。本当、散々な目にばっかあってんだ。
そして、さっき言った変な夢の中で、知らない男に言われたんだ。あの日…………多分、俺が記憶喪失になった原因の日の事を、レイナから聞けって。だから、さっき聞いてきたんだ」
俺の過去を、知るために…………。
「いざ聞いたら、信じられない事ばっかだったんだよ。
俺は小さい頃から天之川学園に行きたがってたとか、命に関わるほどの重い病気を患っていたとか、記憶喪失になった日。
その日は親子行事で、殺人事件が起きて俺以外の全員が死んで…………そして、その時に母親も亡くなったらしい…………」
実の母親との記憶も思い出せずにいるのに、悲しみが溢れてくる。それと同時に、レイナと話していた時に頭に流れた映像を思いだし、空いてる手で顔を隠し、セシリアから顔を背ける。
「俺、は…………どうし、て…………いつも大切な人を、傷つけていくんだよ……」
母親のこと、レイナのこと、アマネやセシリア、皆のこと…………全て俺が関わっていることだ。だから、俺は離れなきゃいけないと思ったんだ。俺と関わっていたら、また傷つけてしまうかもしれないからと。
『全部レイ自身の責任だ。
そう………………全部レイ自身が起こした問題だ。現にレイは、敵や仲間を沢山傷つけたじゃないか?仲間を助けるために仲間をね。
その結果、君は独りだ。誰も仲間なんていない
別にいいんじゃない?信頼関係も無く、仲も悪い。そして、差し出してきた手も拒絶した。これで仲間なんて言えるわけない。いや、そもそも関わる資格も無い』
「アイ、ツの言う通、り…………俺に、お前達と関わる、資格なん、て…………無いんだ」
「レイ…………ナかないで? 」
セシリアに言われ、俺は涙を流していたことに気づく。ああ。無意識に顔を隠してたのは、泣いていた事を隠すためだったのか。
「悪、い…………落ち着くまで、少し待ってて……くれ……」
「ウン………」
セシリアは短く答え、距離を詰めて俺の背中を擦ってくれた。
ーーー--
次々と溢れてくる涙がようやく止まり、小さくため息を吐く。
「ダイジョウブ? 」
「ああ…………ありがとな、セシリア。それとごめん」
お礼と謝罪をし、星空を見上げる。それにつられてか、セシリアも顔を上げる。
「レイ………さっきのコトだけど、ダレにナニをイワれても、レイはワタシタチのナカマ…………そこにシカクなんてカンケイない………とオモう」
「思うかよ…………けど、俺が俺じゃない時は、お前達を傷つちまうかもしれねぇ。そんなの仲間って言えねぇだろ? 」
「チガう…………レイはレイ。ワタシや、ミンナがシっているレイ。マけずギラいで、ナカマオモいで、ヤサしい。だから、レイはリッパ。
けど、ナカマだからって、エンリョしなくていい。トキにタスけアって、トキにケンカしてキズつけアう。それがナカマであり、トモダチ。
だから、エンリョしなくていい」
「そ、そうは言うけどよ…………」
「レイは、コワいの…………? 」
「…………怖いよ。これ以上、大切な人を傷つけたくないし、失いたくもない。出来るなら、離れたくもないし、られるのも嫌だな………」
今の気持ちを、素直に言う。離れなきゃいけないと思いながらも、本音は嫌だったんだと今分かった。
「…………ダイジョウブ。スクなくても、ワタシはハナれない…………ミンナもきっとそう。ホントウにタイセツにオモっているなら、もっとワタシタチをタヨって」
「え? 」
最後の言葉に、思わずセシリアの方を見る。
「レイはなんでもヒトリでガンバりスぎ…………だから、ダレかをマモるどころか、ジブンもマモれてない…………。
けど、ヒトリでムリなら、フタリ。フタリでムリなら、サンニン。サンニンでもムリなら、ミンナとやればいい……………それなら、ミンナもレイもマモれる」
セシリアが星空から俺の方へと顔を向け、微笑みながら言ってきた。
「レイは、ヒトリじゃないよ…………ワタシやマヒル、トーヤにサクラにセーヤもいる。どんなコトがあっても、ずっとイッショ………」
「っ────! 」
その言葉を聞き、 俺は再び泣きそうになる。しかし、先ほど号泣したばかりなため、芝生に寝そべり、腕で顔を隠してなんとか堪える。
「…………本当にありがとな、セシリア……」
聞こえるか分からないぐらいの小さな声で、もう一度お礼を言う。
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