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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ながもんの仲直り大作戦!


 ポン菓子製造の音と陸奥の爆発音が勘違いされた一件、通称『むっちゃんポン菓子で撃沈事件』(青葉命名)からはや一ヶ月近く。未だに長門と陸奥の冷戦状態は終結の兆しを見せていない。食事時には同じテーブルに着く事はなく、長門が話し掛けようとするとそっぽを向き、長門を視認すると逃げるように反対方向に歩き出す。そんな『長門完全拒否』の態度を崩さない陸奥に対し、日に日に落ち込んでブルーになっていく長門。その姿はまるで『二足歩行している潜水カ級』のようで、その身体から漂うオーラ(?)のせいで山城が扶桑と勘違い、ならぬ艦違いをやらかすという事態まで起きている。これはどう考えても宜しくない。ここまで酷い事になるとは予想もしていなかったので放っておいたが、いよいよ手を差し伸べないといかん状態になってきている。その為に業務が終わった後に長門を店に呼び出した。

「私はもうダメだ……おしまいだ…このままカウンターと同化していたい……。」

「おいおい、随分な言い草だな。そんなに陸奥との仲は悪化してるのか?」

 カウンターに突っ伏したまま、顔を擦り付けるように頷く長門。その落ち込んで淀んだ空気は、放っておいたらキノコでも生えてきそうな程にジメジメしている。

「謝ろうにも話すら聞いてもらえん……そもそも、顔を合わせる事すら陸奥の奴は拒絶しているのだ。あんな状態では謝りたくても不可能だよ……嗚呼、このまま海の底にでも沈んでしまいたい…。」

 ダメだこりゃ。完全に意気消沈してやがる。陸奥も何となくで意地になっているような気がしないでも無いのだが、互いに意固地になってしまって拗れているような感じだ。

「仕方ねぇなぁ、真っ正面から顔を付き合わせるのが無理なら、手紙なり何なり書けば済むだろうが?」

「手紙……いやダメだ、あの状態の陸奥が私からの手紙を素直に受け取るとは思えん。」

 んな事ぁねぇだろ、と言いかけた言葉を飲み込む。確かに今の状況からすれば十分に有り得る話だ。ならば、

「なら、甘い物はどうだ?」

「甘い物?」

「そう。ウチの店に呼び出して、お前が作ったとは教えずに陸奥に喰わせる。んで、完食した所でお前が謝罪の意味を込めて作った物だと明かす。そこで改めてお前が謝れば万事解決……どうだ?少しは現実的な案だろうが。」

「そ、そうだな。……しかし、私は甘味作りなどほぼ素人だし、その…上手く作れる保証は無い。」

「見てくれなんて気にすんなよ。謝罪の気持ちってのが大事なんだからよ。それに、お菓子作りなら俺が教えてやる。」

「ほっ、本当か提督!?」

「あぁ、ウチの主力の2隻がいつまでも不調じゃ困るしな。」

 どうにか元気を取り戻した長門に明日の午後に再び訪れる事を約束させ、陸奥の好物を聞いてからその日は部屋に返した。さて、何を作った物か……。




 翌日の午後、エプロン姿の長門が執務室にやって来た。黄色の布地で胸元にヒヨコと『PIYOPIYO』のプリント。正直普段の凛々しい長門からはかけ離れた可愛らしいデザインの物だったが、そのミスマッチが逆に斬新で思わず吹き出した。そしたら顔を真っ赤にした長門に殴られかけた。危ない危ない、死ぬかと思った。

「なっ、そんなに笑わなくても良いだろう!」

「すまんすまん、あんまり普段の格好から想像も付かない姿でな。……いや、似合ってるぞ?保育士とか寮母さんだって言われたら違和感ねぇもの。」

「む?……そ、そうか…。」

『嫁ではないのか……』とボソリと呟く長門。聞こえてるぞ、ぽんこつビッグセブンめ。

「それで?今回は何を作るのだ?」

「陸奥が苺が好物だって聞いたんでな。『苺のミルフィーユ(ミルフイユ)』を作ろうと思う。」

「ミ、ミルフィーユか……。食べた事はあるが、作るのは難しそうだな。」

チッチッチ、長門よ。ミルフィーユじゃあない。ミルフイユだ。発音の違いでエラい事になるから気を付けろよ?

ミルフイユとは、ミルが1000、フイユが葉っぱを表す物で、重なりあうパイ生地が葉の重なったような見た目から名付けられたスイーツだ。だが、ミルフィーユだと本場フランスではエラい事になる。

フィーユが葉っぱではなく幼い娘……つまり幼女を示す言葉なのだ。なので、うっかりミルフィーユを食べたと言うと、幼女を1000人食べた(意味深)と勘違いされ、下手すると『お巡りさんこいつです』状態だ。…似たような話にシュークリームがある。フランスではシュ・ア・ラ・クレームというのが正しい発音だが、シュークリームと言うとフランスでは靴墨の事だ。重ねて気を付けよう。

「な、成る程……言葉とは難しい物だ。」

「世界一難解な言語は日本語だと言われてるらしいがな。……っと、そんな話は置いておいて、さっさと作っていくぞ。」

その1.カスタードを作る。

「まずはパイ生地の間に挟むカスタードだ。こいつはシュークリームに詰めたりするカスタードクリームよりもしっかりとした物にしないといかんからな。」

「成る程、トロトロのクリームではダメだという事だな?」

「そう言う事だ。んじゃ、材料出すぞ。」

※分量6切れ分

・卵黄:4個

・グラニュー糖:100g

・コーンスターチ:35g

・牛乳:400ml

・バニラオイル:大さじ1(またはバニラエッセンス数滴)

 まずは常温に戻しておいた卵を卵黄と卵白に分けて卵黄をボウルに。今回は卵白は使わないからな、ジップロック等に入れて冷凍しておけばある程度は保存も利くぞ。卵黄にグラニュー糖を加えて粉っぽさが無くなるまで泡立て器でかき混ぜる。

「ジャリジャリ感が無くなって来たぞ、次はどうすればいい?」

「よ~し、お次はコーンスターチを全部加えて、また粉っぽさが無くなるまで混ぜろ。」

「了解だ。」

 その間に俺は牛乳を温める。ミルクパンよりも大きめの鍋の方が良いな、後々使うから。牛乳を鍋に入れて中火にかけ、沸騰直前で火を止める。

 卵の方の準備が出来ていたら、温めた牛乳を2~3回に分けて入れ、よくかき混ぜて全体に馴染ませる。卵が固まるんじゃ?と思う人もいるだろうが、その心配は無い。説明は難しいので省くけどな。

「よく混ざったら鍋に戻す。中火にかけて、焦がさないように加熱するんだ。」

 最初は溢さないように慎重に。すると、コーンスターチのでんぷん質が熱に反応して固まり始めて、さながらでんぷんのりのようになる。ここで火を止めては行けない。まだ完全に粉に火が通りきっていないから、粉っぽいクリームに仕上がってしまう。大体、粘り気が出てきてからも30秒位は焦がさないように素早く混ぜ続ける。焦がしては台無しだからタイミングが重要だぞ。

 火を切ったら香り付けのバニラオイル(またはバニラエッセンス)を加えて更にかき混ぜる。バニラの香りが全体に行き渡ったら耐熱容器に移し、表面に膜が張らないようにピッタリとラップを被せて粗熱を取り、その後で冷蔵庫で冷やす。これで固くしっかりとしたカスタードの出来上がりだ。

「……ふぅ。お菓子作りというのは中々に手間のかかる物なのだな。」

「そらそうさ。だから間宮とかには感謝して食わねぇとな?ん~?」

「う……うるさいっ!」

 一度に何個も間宮のアイスを食べる長門も、これで少しは身に染みてくれると嬉しいのだが(苦笑)。 
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