落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
番外編 生裁戦士セイントカイダーll
最終話 続いて行く、ヒーローの物語
……その後、事件の後始末は警察によって済まされた。
ボンネットに生裁剣を突き刺された車は故障を起こしてしまい、中にいた組織の連中はほうほうの体で逃走した――のだが、駆け付けた警察にあっさり包囲されてしまい、あえなく御用となった。
俺が打ちのめした他の男達も同様であり、停めてあった車の中には、武器の他にも大量の麻薬が積載されていたという。
これだけ多くの麻薬組織の関係者が捕まったのだから、大元の目星が付くのも「時間の問題」らしい。この事件で活躍した宋響学園は、少なからず注目されることだろう。
「やったな、栂」
事件が解決して緊張の糸が解けたせいか、ガードレールに腰掛けたまま動けずにいる俺に、包帯を巻かれた会長が現れる。
道路には多くの警察関係者達が集まっており、野次馬も大勢うごめいていた。
会長は肩の荷が降りたような朗らかな笑顔で、俺の隣に腰を降ろす。
「会長……お怪我は?」
「ふん、生徒会長を甘く見るなよ。こんな怪我、三日もすれば――アイタタタッ!」
「もーっ、栂君並に無茶苦茶するよね。辻木君は!」
「ちょちょ、地坂! 触るな触るな!」
「なによぉ、『三日もすれば〜』なんて強がっちゃってさ。無理言ってないで、早いとこ病院行きなさ〜い!」
続いて、副会長も顔を出してきた。
どうやら動けない俺の代わりに、警察への対応を済ませてくれたらしい。
後で聞いた話だと、会長の応急手当を施したのも彼女なのだそうだ。
「勇亮君! お待たせっ!」
副会長にいじられ、アタフタしている会長をしばらく眺めていると――報道陣への対応を終えた絵麗乃が戻ってきた。
いつものような、明るく優しい彼女の姿に思わず頬が緩んでしまう。
「お疲れ様。カメラやらマイクやらに囲まれて大変だったろう?」
「ぜんっぜん! 勇亮君に比べたら、全然たいしたことないよっ」
「ありがとう。いろいろ助けてくれてさ」
「えへ、えへへ……勇亮にお礼言われちゃったよぉ……これってフラグぅ?」
助けてくれたことは素直にありがたい。ありがたいのだが――「フラグ」ってなんだ?
その意味を考えあぐねていると――野次馬と警察だらけの視界に一人の男の子が映り込んだ。
「ん……?」
生裁重装のセイントカイダーを象った人形を持っている、三、四歳くらいの小さな子供。なぜだかわからないのだが、その子の存在は妙に俺の気を引いていた。
見覚えのある……そう、大路郎先輩の面影を感じるその子は、ニコッと俺に笑いかけると、母親らしき若い女性と一緒に、人混みの中へと消えて行った。
何となくではあるが――赤の他人のようには思えなかった。不思議な子だな……。
それと、人混みの中でこちらを微笑ましそうに見ている少年も気になった。
黒髪の端を赤く染め、黒いレザージャケットを着ていたその人は、目元が大路郎先輩にそっくりだったのだ。
やがて満足げにニッと笑って去って行ったのだが、一体誰だったのだろうか?
「勇亮君? どうかしたの?」
「ん、なんでも……」
「そう? じゃあ、みんなで写真撮ろうよっ! 私達が初めて『団結して活躍した』瞬間だもん!」
そう言って絵麗乃は俺の手を引き、カメラの前で俺達を待つ、会長と副会長の元へと駆け出していく。
――そうだ。俺は今まで、戦闘から事後処理まで全部一人でこなしてきた。警察やメディアの対応も、ヒーローとしてたった一人で。
その俺が今、初めて仲間に仕事を任せた。路郎先輩の言う、「できないこと」を代わりにやってもらったわけだ。
今回の事件、俺一人では戦闘はこなせても、事件後の対応までは身が持たなかっただろう。その結果、メディアの不興を買う事態を招いていたかもしれない。
絵麗乃達のおかげで、俺は「ヒーロー」としての一命を取り留めたのだ。
人間は、たった一人では「ヒーロー」になれない。大路郎先輩が言ってくれた通りだったんだ……。
「はい、チーズっ!」
ボンネットに突き刺さった生裁剣を背景に、俺達四人は自分達の姿を記録に残した。
この日……「ヒーロー」として、俺が輝いて行ける方法。その真理に、少しだけ近づけたような――そんな気がした。
……だからなのか。この時の写真に写っていた俺の顔が、今までにないくらいに明るく笑っていたのは。
これからはきっと――いや、絶対。俺は、一人じゃない。
生徒会のみんながこうして集まり、その中から生まれるヒーローこそ……この時代に生きる「セイントカイダー」の姿なのだから。
以来、俺は「生徒会の役員」として、また「ヒーロー」として、仲間達と協力して無理のないPR活動に貢献していく――
――はずだったのだが。
一ヶ月後の宋響学園。その校門の前を、俺はため息混じりに通り過ぎていた。
……宋響の生徒とは違う制服を着て。
実は、あの麻薬組織事件の顛末を目撃していたうちの生徒が、俺が変身を解く姿を見てしまっていたのだ。
セイントカイダーに変身する人間は、学園の生徒に正体を知られることを避けなければならない。無用な注目を浴びて、コンディションに支障をきたさないためだ。
そのため、「セイントカイダーは誰なのか」「どういう経緯で選ばれるのか」は生徒会の人間だけの秘密とされ、詮索することも公開することも校則で禁じられていた。
舞帆先輩の場合はほとんど学園公認に近い状態だったと聞くが、本人が違うと言い張ったために「もしかして舞帆先輩が〜」という噂話程度で収まっていたらしい。
路郎先輩はそもそも生徒会の人間ではなかったので、噂すら立たなかった(校長先生談)。
しかし、俺は違う。俺は変身を解く瞬間をバッチリ目撃されてしまったわけだ。それも、うちの生徒に。
案の定、その生徒を発信源に俺の素性が学園に知れ渡り、俺は事件の翌日から学園中の注目にさらされ、数多くの生徒(なぜか大半が女子)に追い回される日々を送る羽目になっていた。
下駄箱に謎の手紙を大量に仕込まれ(開封する前に絵麗乃に処分されたので内容は不明)、男子生徒に謂れのない殺意を向けられ(椅子で殴られかけたこともある)、しまいには絵麗乃に「私のことも構ってよ!」と頬をつねられるなど、トラブルが絶えない。
そんな俺を見兼ねた校長先生により、ほとぼりが冷めるまで別の高校に転校して静かに暮らすことになったのだ。
その間、セイントカイダーの任は俺の穴を埋めるために、Aランクのライセンスを取った会長が代行してくれている。
このためだけに、必死の思いで資格試験に臨んだ会長の苦労は計り知れない。ありがとうございます、会長……。
しかし、こんなことがあっても「生裁戦士セイントカイダー」が学園のヒーローとして存続していられるのは、やはり大きい。
俺の抱えていた問題を生徒会のみんなで共有するようになったから、一人が抜けても補える体制になっている。
校長先生がこうなることを想定していたのかは定かではないが、「ヒーロー」の責任を負う人間が俺一人のままだったら、今頃は生徒会が混乱に陥っていただろう。
人は決して丈夫ではない。簡単に崩れてしまうこともある。だから、支え合うことで真価が生まれる。
「人間」は、たった一人では「ヒーロー」になれない。だから、少しずつ寄り添い合って、そこに向かって近づいてみよう。
――たった一人では得られなかった何かが、きっとそこにあるから。
「さて! ため息ついたって仕方がないよな! ――まずは友達作らないと。会長に負けないよう、俺も踏ん張るか!」
宋響学園の校舎を見上げ、俺はやがて自分が通う高校へと駆け出していく。
「自分にできること」。それはまず、仲間を見つけていくことだから……。
後書き
本作はこれにて完結となりました! 長らくの応援、本当にありがとうございました!
セイントカイダーはこれからもこうして、代替わりを続けていくのだと思って頂ければ(笑
さて、来週この時間帯からは、2016年に公開していた「THE 地球防衛軍」の2次創作「うぬぼれ竜士 ~地球防衛軍英雄譚~」のリニューアル版をお送りします。真の最終話を加筆した完全版を、この時間帯の週一更新でお送りして行きますので、楽しみにして頂ければ幸いです。
では、大路郎や勇亮達の戦いを最後まで見届けて頂き、ありがとうございました! よろしければまた来週、お会いしましょう! 失礼します!
ページ上へ戻る