落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜
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番外編 狩谷鋭美の恋路
前編 ヒーローとヴィランの遊園地デート
アタシは今日、勝負に出ると決めた。
抜け駆けと言われるかも知れない。卑怯と言われるかも知れない。
それでも、アタシはアイツを捕まえたい。
だから今、アタシは仮釈放の期間を利用して、アイツにデートの約束を取り付けた。
今日は近場の遊園地にアイツを呼び出し、二人っきりで過ごす予定だ。
いつも仮釈放でアイツと会う時は、ひかりや瑳歩郎、それにあの桜田舞帆や平中ってヤツも一緒だったが……今日だけは、アイツしかアタシに会わない。
「なんで皆を呼ばないんだ? 多い方が楽しいって思うんだけどなぁ……」なんて言うアイツを説得するのは、苦労したよ。
「アンタ一人で来ること! 絶対! 絶対! ぜぇえぇえ〜っ、たいっ!」って必死に訴えなくちゃ、デートも満足に出来ないなんて……参るわよ、全く。
辺りを見渡せば、親子連れやカップルが和気藹々と遊園地の入口ゲートを通っていく様子が伺える。
うぅ、あそこのカップル、あんなにくっついちゃって……爆発しろっ!
――それにしても、「デート」、か。
今までヒーローのことか、桜田家への復讐のこととかで頭一杯だったのに。いつの間にか……アタシの頭はアイツ一色になってたな。
「Bランク殺し」なんて言われてたこの狩谷鋭美が、Fランクのヒーローなんかに落とされるなんて――考えたこともなかった。
あんな血まみれになってまでアタシに立ち向かった上、勝った後はアタシの味方になろうとした……。
何がアイツをそうさせるかなんて、とっくに答えは出てる。
桜田舞帆……全てはアイツのため、か。
あの一件からしばらく経った頃、アタシはアイツに今まで襲い続けてきたことは謝った。だけど、関係は未だに最悪だ。
復讐のことで根に持たれてるわけじゃない。……船越のことだ。
「今までのことは謝るけど、船越のことについては別よ。アイツは将来アタシと結婚するんだから、アンタはこれ以上アイツにちょっかい掛けちゃダメ!」って言ってやったら、「それは船越君が決めることでしょう!? 後から出てきた、ポッと出のあなたこそ、船越君の人生を勝手に決めないでッ!」とか言って、めちゃくちゃ怒り出してしまったわけ。
以来、アタシ達は顔を合わせては口喧嘩ばかりするようになった。
時々、ひかりや平中ってヤツが加わって来る上に、つかみ合いに発展することもある。その度に船越が仲裁に入ろうとするんだけど、いつも巻き添えを食らってボロ雑巾のようにされてしまっていた。
……ア、アタシは悪くないわよ。アタシは。
……でも、「ポッと出の」なんて言われた時は、さすがにカチンと来たわね。
大事なのは、どれだけアイツが好きかって気持ちでしょ? 後から出てきたとか、そんな順番、関係ないじゃない!
ああもう! 思い出すだけで腹が立ってきた! 大体、一番船越に迷惑掛けてる女ってアイツじゃない! 全然関係なかったはずの船越を、自分の家庭事情に巻き込んで大怪我させたりしてさっ!
……だけど、そのおかげでアタシは船越に会えたのよね。そこは……認めてあげても、いいかな?
でも、だからって! 船越を渡すわけには――
「いかないっ!」
「え、行かないの?」
「……は?」
あれ? 船越――もう、来てた?
声が聞こえた方に振り返ってみると、そこにはポカンとした顔でこっちを見てる船越の姿が!
アタシと初めて会った時のレザージャケットを着てる姿は、やっぱりいつ見てもカッコイイ……って、今はそれどころじゃないっ!
「いや、遊園地に行こうって言ったのはお前じゃないか。『行かない』って……じゃあどうすんの? せっかくの仮釈放なんだし、神室孤児院に行って挨拶とか――」
「あああぁあ〜っ! 違う違う違う違う違〜うっ! 今のはそう言う意味じゃなくってぇ〜!」
「『そう言う意味じゃない』、ねぇ……わかった! 絶叫マシンの類には乗りたくないってことか」
「え? そ、それも違うわよぉ!」
むしろ絶叫系は大好きだからっ! アタシがダメなのは――
「お化け屋敷なんだからっ!」
――あ。
思わず口に出してしまった、誰にも知られたくない、アタシの唯一無二の大弱点。よりにもよって、船越に知られるなんて!
「へぇ、お前ってお化け屋敷がダメなのか? ワイルドな女の子だって思ってたから、ちょっと意外だな」
「ちちちち、違うわよ! お化け屋敷がダメだっては、ええと、その……」
大丈夫、大丈夫! まだギリギリセーブよ! 何か理屈を付けてごまかせば……!
「そ、そう! キャラ作りよ、キャラ作り! ア、アンタってモテなさそうだから、女の子とデートなんて滅多にできないでしょ!? だからアンタがリードしやすいように、そういう設定にしておいて上げたのよ! 感謝なさい!」
……ああ、やっちゃった。大失敗。
我ながら何なのよ、この無茶苦茶で強引な「設定」。そもそも船越は現在進行形でモテまくりじゃないのっ!
「いや、まぁ……確かに俺ってモテない方だし、そこを心配してくれてるのは確かにものすごくありがたいんだけどさ……」
――って、自覚ないんかいっ!? こんの鈍感チビマッチョっ! アタシ達の気持ち、ことごとくシカトしてんじゃないわよっ!
「それを俺に喋ったら、意味なくないか?」
「ぎっくぅ!」
「そんな『キャラ作り』気にしなくていいからさ。今日はお前の行きたいところに行こうよ。リードしようにも、俺ってお前の好みとか全然知らないんだし」
「あ……」
「せっかくの仮釈放なんだし。どうせ二人だけじゃないとダメなんだったらさ、お前のしたいことをした方が楽しいに決まってるよな」
そう言って苦笑いする船越の顔は、あれこれと自分を演じようとしてたアタシが恥ずかしくなるくらい、眩しく映った。
……なんで、アンタはそんなに優しいのよ。アタシは、アンタをあれだけ痛め付けたのよ? 敵視したり、蔑んだりするのが普通でしょうが!
そんなに優しくされたら――アンタしか、見えなくなるじゃないの……。
「……責任、取ってよね」
「うん? 何の責任か知らないけど、お前が取ってほしいって言うんなら、俺が取るよ」
「――バ、バカ!」
そう言って、アタシは素直じゃない言葉を口にしながらさっさと遊園地に入っていってしまった。
病院の時はあんなに積極的になれたのに、二人っきりになると急に緊張しちゃう……。
「バカ」なんて言う気はなかった。「愛してる」って、そう言いたかったのに。
「え、えぇ!? おのれ、どこへ行く!」
焦った表情の船越がチケットを手に、アタシを追って走って来る。あわてふためく姿は、低めの身長も相まってギュッとしたくなるくらい可愛い!
少しばかり走った後、船越はなんとかアタシに追いついた。やっぱり筋肉がやたら重たいせいなのか、アタシよりだいぶ足が遅いみたい。
大した距離を走ったわけでもないのに、ぜぇぜぇと息を荒げている。
「ハァ、ハァ……ここに行きたい、のか……?」
「えっ?」
船越がアタシに追いついたところでアタシ達の眼前にあったのは――まさかの「お化け屋敷」だった。
予期せぬ緊急事態に、アタシは自分でもわかるくらいに顔面蒼白になる。
「い、いや、別にアタシはこ、こに来たかったわけじゃあ……!」
「さっきも言ったろ。キャラなんて作らなくてもいいんだからさ、お前の好きなようにしたらいいじゃないか」
朗らかな笑顔で、お化け屋敷行きを薦める船越に、アタシは思わず頭を抱える。あんなこと、言うんじゃなかった!
で、でも、ここで本当にお化け屋敷が苦手だってことがバレたら、笑われるかもしれないし、なんかお化け屋敷に行かなきゃいけない空気にもなってるし……こ、こうなったらぁぁぁぁっ!
「しょ、しょしょしょ、しょーがないわねぇっ! そ、そこまでアンタに言われちゃあ、こっちも引き下がれないわっ!」
「え? 別に俺は挑発するような事は――」
「さ、ささ、さぁ! 行くわよ船越ッ!」
「ああ、それはいいんだけど……足が震えてるぞ? うんこ行き――あ、違う。お腹痛いのか?」
「ち、ちが、違うわよっ! 武者震いよ、武者震い!」
アタシは目一杯虚勢を張って、船越の手を引いてお化け屋敷に入っていく。
もう、どうにでもなれっ! 「当たって砕けろ」よっ!
薄暗く、おどろおどろしい通路。時々聞こえて来る、他のペアの悲鳴。
自分を包囲している空間の全てに怯えながら、アタシは船越にしがみついていた。も、もうダメ、泣きそう……。
「おい狩谷、歩きにくいぞ」
「デ、デッデデデ、デートっていうのは、そそ、そういうものよっ!」
アタシは両腕で船越にピッタリと引っ付き、恐怖を掻き消そうと奮闘する。胸が当たるとか、そんなの気にしてられない!
すると、いきなり目の前が明るくなり、白い顔の女がヌッと出てきた!
「いやあぁあぁ〜っ!」
「お、おい、狩谷?」
「うえぇ〜ん、怖いよぉ〜! ひかりぃ、院長先生ぇ、船越ぃぃ〜っ!」
もう、堪えられない……。恥も外聞も捨てて、アタシは船越の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。
目を閉じている上に、到底顔を合わせられない状況だから実際のところはわからないけど……きっと、船越は困った顔をしてる。
無理もないわよね、「お化け屋敷なんて平気」みたいな振る舞いをしていた女が、いざ入った途端にべそまでかいちゃうんだから。
その後、アタシはさらに腰まで抜かしてしまうという大失態を犯してしまい、自分より小さい男におんぶされて、お化け屋敷を出ることになってしまった。
うぅ……もう、お嫁に行けない……。
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