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落ちこぼれの成り上がり 〜劣等生の俺は、学園最強のスーパーヒーロー〜

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本編 生裁戦士セイントカイダー
  第4話 生徒会長、笠野昭作

 翌朝、俺は何となく早起きをした。

 夕べのことを引きずっちまったせいかもしれない。ベッドから身を起こして日に当たっても、洗面台で顔を洗っても、舞帆の涙が頭から離れなかった。

「大路郎、今日は早いのねぇ」

「ん、いつもと変わんねえよ」

「そう。……いつもその調子なら、将来も大丈夫かも知れないのに」

 長年の苦労を思わせる、皺の寄った顔の母さんは、特に昨日の怪我も詮索することなく、食卓にパンや目玉焼きを並べていく。

 いつもの朝食が昨日のことがある分、余計に温かく感じられた。

 いつものように椅子に座り、何気なくアルバムのように写真を貼り付けた壁に目を向ける。

 そこには、「ヒーロー」になる前の俺がいた。

 まだ髪が真っ黒で、マジメな頃の俺。

 初恋の女の子と一緒に笑う俺。

 やさぐれて、髪を真っ赤に染め上げた俺。

 高校二年の終わり、ヒーローライセンスを取る直前の俺。

 ……そしてその隣には、もう会って話すことはないであろう、「アイツ」の写真もあった。
 事故で死別した親父の写真も、そこに。

 家をいつもより十分近く早く出ると、俺はいつしか駆け足になっていた。
 のんびり歩いても昨日のように遅刻はしない。

 ただ、走っている方が気が楽というだけだ。

 息せき切って走り続ければ、余計なことを考えなくて済む。
 過ぎたことで悩むこともなくなる。

 そんな、単純な考えだった。

 短絡思考に身を任せているうちに、舞帆が住んでる住宅街が見えてきた。
 ちょっとした高級感が滲み出る、綺麗に整備された一軒家が建ち並び、通学路をひた走る俺を、平民を見下す貴族さながらに一瞥しているようだった。

「昨日はあそこで舞帆とぶつかったんだっけな」

 先日、近道を企んで舞帆と衝突した曲がり角。
 その時の映像が鮮明に脳裏に蘇る。

「今日は時間はたっぷりだからな。同じ轍は踏ま……」

 そのまま通り過ぎようとしたところへ、人影が立ち塞がった。
 曲がり角から飛び出してきたその人物は、俺をジッと見詰める。

「……おはよう」

「お、おはよう」

 全身に冷や汗が噴き出して来る。まさかの待ち伏せとは。

 舞帆は俺の前に立ちはだかると、品定めをするように俺の全身を凝視した。空港でボディチェックでも受けてるような感覚だ。

「結局あのまま病院にも行かずにまっすぐ家に帰ったみたいね」

 なんで分かるんだよ。

「あなたの悪いところって、これみよがしに滲み出て来るのよ。自分の体くらい大切にしなさい!」

 その表情はいつものように毅然としたものだったが、昨夜の泣き顔を思い出すと、あんまり強く反抗できなかったりする。

 やりづらいんだよ、ああいうの見たら。

 本人もあの時のことを思い出したらしく、頬を染めてバツが悪そうに目を逸らした。

「と、とにかく、もう危ないことして怪我を増やさないこと。わかった?」

 心配するだけしといて、深く詮索しない辺りは彼女なりの優しさなのかもしれない。

「わかってる」

 ……とは言ったものの、正直怪我は今後もガンガン増えて行きそうだ。
 悪いな、舞帆。

「おはよう、桜田君」

 と、いうところで、第三者の声が聞こえて来る。

 舞帆が振り返ると、スラッと背の高い美男子が爽やかに現れた。

「あ……生徒会長、おはようございます!」

 ちょっと神妙な面構えだった舞帆は、必死に取り繕ってなんとか笑顔で挨拶に応える。

 俺達の前に現れたのは、笠野昭作(かさのしょうさく)。宋響学園の生徒会長だ。
 成績優秀・容姿端麗・運動神経抜群と、女の理想像が人間の姿を借りて現実世界に飛び出してきたかのような男だ。

 おまけに航空会社の社長の息子でもあるらしい。

 舞帆に話し掛けたかと思うと、そのまま二人で俺にはわからないような難しい立ち話に突入してしまった。生徒会の仕事の話らしいが。

「ところで、そこの君は?」

 ふと、俺に話を振ってきた。

「え、ええと、彼は私達と同級生の船越大路郎君です! よく登校で一緒になるので……」

「へぇ……」

 笠野は感心したように声を上げると、こちらに歩み寄ってきた。
 敵意はなさそうに見えるが、生徒会長と落ちこぼれという身分差があるせいか、微妙に気後れしてしまう。

 そして、俺に顔を近付けると、

「妬けるな」

 とだけ言い残し、「じゃあこれで」と立ち去ってしまった。

「な、何て言われたの?」

 舞帆が心配そうにこちらを見詰めて来る。
 ……いや、なんつーか、誤解されてんな、俺達。
 
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