魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Eipic20-B幕間~Great Healer~
†††Sideアイリ†††
フェイトから事情を聴いたアイリは、集中治療室のベッドに横たわるマイスターの元へとやって来た。そこには、変身魔法が解けちゃってて本当の姿、はやてくらいの身長に戻ってる状態なマイスターが居た。アイリがその秘密を知ったのは、本局の局員寮に引っ越してからだね。本当に偶然だったけど、マイスターが風邪で寝込んだ時にPON♪と変身が解けた。
(あれにはとっても驚いたけど、はやて達すらも知らない2人だけの秘密ってことでアイリはずっと黙ってきた)
それなのにもうマイスターとアイリだけの秘密じゃなくなっちゃったね、残念。でも2人だけの秘密はまだあるし、アイリのやる気パワーはまだまだいっぱいだよ。
(マイスター、待っててね。すぐに目を覚まさせてあげるから!)
マイスターの遺伝子で生み出されたクローン、フォルセティ。アイリにとっては弟のような存在で、一緒に過ごして来た時間はすごく楽しかった。そんなフォルセティが、どうやら遠隔洗脳か何かで突如豹変し、アイリを始めとした護衛班を撃破した。マイスターだって魔術状態の魔力槍で貫かれて意識不明。
――アイリ。もし俺がまた重体化し、1日以上の意識不明に陥ったら・・・俺とユニゾンして精神世界に潜り込み、俺を叩き起こしてくれ――
マイスター直々にお願いされた大仕事だ、しっかりこなさないと笑われちゃう。だから「それじゃ! アイリ・セインテスト、行っきま~す!」マイスターとのユニゾンを果たす。視界が一瞬、何も見えない真っ白な世界に放り込まれて、視界が開けた時は真夜中みたく暗いけど完全に真っ暗じゃない世界。
「マイスターに意識があれば、ここから外の世界が見られるんだけどね・・・」
ここがユニゾン時に居られるマイスターの内なる世界。ヴィータとのユニゾン時も共通してこんな世界だね。普通はここから奥、精神世界に潜り込むのは無理。でも今のアイリは特別に許可を貰ってるから問題無し! しかも、アイリのためだけに新しく作ったパスって話だし、も~最高!
「えーっと・・・。わたしアイリ・セインテストが、マイスター・ルシリオン・セインテスト・アースガルドの世界へと入りま~す!」
最初は小難しい呪文とかが必要なのかな~って思ってたけど、自分の名前をしっかり言うこと、あとアイリだっていうもう1つの証拠、魔力を放出する。魔力パターンというのがあって、個人でそれぞれ違うから魔導師の判別にも使われてるね。
「お? 来た!」
足元に浮かぶのは、サファイアブルーに輝くアースガルド魔法陣。中心に十字架があって、その四方から4つの剣が伸びてる。そしてその剣を繋げるように三重の円環があって、その円環の間に無数のルーンが刻まれてるっていう紋章だ。今度は綺麗な蒼色で視界が染まる。
「よいしょっと♪ 英雄の居館に到着~♪」
アイリが入ったのは創世結界・“英雄の居館ヴァルハラ”。現実世界に具現化するためのパスが使えないマイスターだけど、創世結界そのものを奪われたわけじゃないから、こうやって中に入ることも出来るんだよね。
(でも早く取り戻してあげたいよね・・・)
豪華絢爛な“ヴァルハラ”の中で、アイリが今居るのは赤い絨毯の敷かれた六角形のエントランスホール。シャンデリアが3つあって、大きなのが中央、小さいのが左右に設けられてる。目の前には大きな∩字の中央階段があって、階段室の壁面には子供姿のマイスター、それにお姉さんと妹が描かれた絵画が飾られてる。
「えっと、中央階段を上がって2階へ行って・・・」
マイスターの使い魔・“異界英雄エインヘリヤル”の居る世界へと繋がる大きな両開き扉・“ヴォルグリンド”をチラッと見る。ちょこっと冒険した気持ちもあるけど、今はマイスターを目覚めさせるのを最優先。中央階段を上がって2階へ。ここ創世結界・“ヴァルハラはとんでもなく広くて、いっぺん迷ったら自力でエントランスに戻って来る自信は1ミクロンも無い。
「玉座の間、玉座の間・・・っと」
“ヴァルハラ”は一辺が約5kmっていう巨大な八角形をしていて、内部の部屋数は4ケタはある。アイリが目指すのは3階の中央塔にある玉座の間。そこにマイスターの意識、そしてマイスターのお姉さんである“エインヘリヤル”・ゼフィランサスさんが居る。
「待っててね、マイスター!」
廊下の壁にはランプが張り出てるからぶつからないように気を付けて、魔法で廊下をビュン!って飛んで3階へ上がるための階段室を目指す・・・んだけど、最悪なことに「迷った!」ことで、一度廊下に降り立つ。教えてもらった通りに進んだって思ったんだけどな~。
(助けを呼ぼうにも、マイスターは意識ないし、ゼフィランサスさんも玉座の間から出ないし。他のエインヘリヤルが宮殿内に居ることもほとんどないって、マイスター言ってたし・・・)
あ゛~って頭を抱える。ここから脱出して現実に戻って、もう一度ユニゾンしてここに来ることも出来るけど、脱出するにはゼフィランサスさんと会う必要がある。すでに八方塞がりなのである。
「マイスター! ゼフィランサスさ~ん!」
テクテク歩きだす。廊下という廊下を曲がって、扉という扉を開けては室内を確認。中にはさらに方向感覚を狂わせてくる「ぎゃーっす! 別の廊下!」みたいなトラップが発動してくる。この☓☓☓間取りの畜生建築め。まるで迷路だよ。
「玉座の間じゃなくて謁見の間で良いのに~!」
謁見の間は、1階∩字中央階段の間にあるドアの先にいきなりバァーンと出てくる。あそこなら迷う要素なんて無いのに。溜息を吐きながらトボトボ歩いてると、奥の方の部屋の扉がガチャっと開いた。そこから・・・
「お? アイリが居るぞ」
「本当であります!」
「こんにちは~♪」
「レヴィ、フラム、ユーリ!?」
今は遠い異世界に居るはずの3人が手を振ってきた。驚きはしたけどすぐに“エインヘリヤル”だってことに思い至った。アイリはそれを念頭に「助けて!」駆け寄ってヘルプを出す。
「ど、どうしたんですか、アイリ? そんなに慌てて・・・」
「んん? ひょーっとしてアイリ、エインヘリヤルじゃなくてオリジナルだったりする・・・?」
アイリの事を心配してくれるユーリと違って、レヴィは少し無礼な感じで顔を近付けてジロジロとアイリの顔を覗き込む。フラムが「そうなのでありますか!?」万歳して大げさに驚きを表した。アイリは「うん、そうだよ」頷いて見せる。“ヴァルハラ”は“エインヘリヤル”の世界だから、まずオリジナルが居ることはないからね。
「どうしてまたヴァルハラに・・・?」
ユーリの問いにアイリは「マイスターを起こしに来たの」事情を伝える。“エインヘリヤル”の記憶は、創世結界に登録された時点で止まる。そこからは“ヴァルハラ”内で過ごした記憶が追加されてくし、マイスターの正体も登録された時点で知ることになる・・・みたい。
「――というわけで、玉座の間に行きたいんだよね・・・」
「そうでしたか~。マスターがそんな事に・・・」
ユーリが沈んだ表情を浮かべる。“エインヘリヤル”になったことでマイスターの真実を知ると、マイスターの力になりたいって子が多く出始めるってゼフィランサスさんが言ってたね。ユーリも、マイスターのことをマスター呼びしちゃってるし。
「しかしそういうわけなら、玉座の間に案内するでありますよ」
「ありがとう、フラム!」
「我らが主君のためでもありますからな!」
「蒼ハネを早く故郷のなんとかガルドに返してあげたいしな!」
「アースガルドですよ、レヴィ」
フラムは主君呼びで、レヴィは変わらずに蒼ハネ呼びだったね。とにかく、“エインヘリヤル”のユーリ、レヴィ、フラムの3人に案内してもらえることになった。廊下を歩きながら「でもどうして宮殿内に居たの?」3人に訊いてみる。
「そりゃ冒険だよ。宮殿の外もそれなりに冒険したし、次は王のお城を攻略だ!」
「私たちは腕試しをしているのでありますよ。エインヘリヤルの中には、エルトリアのモンスターなんて目じゃないような強者がゴロゴロ居るでありますからな!」
「私は2人の付き添いです~」
とのことだった。異世界の強者が集う唯一の場所が、ここ“ヴァルハラ”だしね。本物の神様や悪魔や怪物がゴロゴロ居る。ちなみにディアーチェとシュテルとアイルは、宮殿の外で別行動中みたい。
「それにしても、マスターの創世結界ってすごいですね~。こんな大きな宮殿があって、外には国があるんですから」
「だから全然退屈しないぞ。吸血鬼なんて初めて見て、初めて戦ったけど、すっごく強かったもんな~。あと見込みがあるのは、なんとかの撃墜王って奴! アイツの速さもなかなかだった」
「ローズレッド・ストラウス王と閃撃の撃墜王リヒトー・バッハさんですよ、レヴィ」
「私個人としては、ディアーチェとエミヤの料理対決が一番すごかったでありますな~。見て良し食べて良し。もう一度やってほしいであります」
じゅるりと涎を垂らすフラム。オリジナルのディアーチェの料理を食べたことあるけど、確かに美味しかったもんね。そんなユーリ達と喋りながら廊下を歩いて、「玉座の間前に到着です!」とうとう到着した玉座の間の大扉へと続く階段。
「よかった~。一生出られないかと思ったよ・・・。ありがとう、ユーリ、レヴィ、フラム」
「はいっ♪ マスターをどうぞよろしくお願いします♪」
「それじゃあね~、アイリ~」
「さらばでありますよ」
ユーリ達と手を降り合って別れて、アイリは階段を上がって3mくらいの高さがある両開き扉を内側に向かって開ける。そこは六角形の大広間。六芒星のレッドカーペット、向かい合うように設けられた2つの玉座。天窓や壁の窓にはステンドグラスがはめられてて、壁のは歴代セインテスト王の肖像、天窓のはアースガルドの紋章だ。
「って、居ないし!」
ゼフィランサスさんが普段座ってるっていう玉座に居なかったし、マイスターの意識も無いし、一体どうなってるわけ。もし、別室に居るとなるともう捜し出すなんて不可能だよ。玉座の側にまで歩み寄って、ふかふかな台座に座る。そして天窓のステンドグラスを見上げると・・・
「あれ、開いてる・・・?」
吹き抜けの壁面に設けられてる廊下から外のベランダへ出るための普通の窓が開いてるのが見えた。となれば、マイスター達はベランダに居るはず。アイリは「とう!」ギャラリーに上がる階段を律義に上るんじゃなくて、飛んで窓へとショートカット。窓からベランダへ出ると、“ヴァルハラ”の世界が広がる。城下町や海や山や森や荒野、“エインヘリヤル”によっては住処が違うから、こういった世界になるんだって。
「居た!」
ベランダをぐるりと見回して、捜してたマイスターとゼフィランサスさんを発見。
「しー。ルシルが起きちゃうから」
マイスターとおんなじ銀の髪に蒼と紅の光彩異色、配色がサンタクロースみたいなコート姿のゼフィランサスさんが「ね?」って人差し指を唇に当てた。マイスターは、ゼフィランサスさんの膝枕で眠ってた。
「もうボロボロなの、愛弟は・・・。少し休ませてあげたかったのよ」
マイスターの頭を優しく撫でるゼフィランサスさん。でも「みんな、マイスターの帰りを待ってます」そう伝える。フォルセティだってきっと、パパの助けを待ってる。ゼフィランサスさんがキッと睨みつけてきた。
「たった・・・たった数時間で、ルシルは4%の複製物を消失したの。4%よ! 人数で言えば3022人! 術技で言えば約1万! 武装で言えば2911個! 大損害よ! エグリゴリを救うためじゃないのに!」
「でもそれがマイスターの意思だった!」
「それでも姉として、弟がこれ以上苦しむのを黙って見ていられない!」
「・・・だけど・・・」
アイリだってマイスターが苦しむのは嫌だよ。キュッと握り拳を作ってゼフィランサスさんを見下ろしてると、「ありがとう、ゼフィ姉様」マイスターがゆっくりと目を開けて、そう漏らした。
「マイスター!」「ルシル!」
「俺、行かないと・・・。みんなが待っている・・・」
上半身を起そうとするマイスターだったけど、「待って!」ゼフィランサスさんが肩を掴んでやめさせた。
「もうやめよう? あなたはエグリゴリとの闘いに集中しよう?」
「そうはいきません。今の戦いが、エグリゴリとの戦いに繋がるのです。・・・お心遣いありがとうございます、ゼフィ姉様。俺は・・・目を覚まします」
ポロポロ涙を零すゼフィランサスさんの両頬に手を添えて、親指で涙を拭ったマイスターが微笑んだ。ゼフィランサスさんは目を伏せて「どうしても?」って訊くと、「どうしても、です」マイスターは力強く答えた。
「・・・判った。現実へとお帰りなさい、ルシル。・・・ああもう、ホントお姉ちゃんの言うことを聴かなくなっちゃって。お姉ちゃん、さびしい」
マイスターの肩から手を離したゼフィランサスさん。マイスターは改めて上半身を起こして、「アイリも、約束を果たしてくれてありがとうな」立ち上がった後にアイリの頭を撫でてくれた。
「うんっ❤」
「ゼフィ姉様。・・・いってきます!」
「はぁ・・・。いってらっしゃい、ルシル。しっかりね。アイリも、弟をよろしくね」
「ヤー! この命に代えましてもマイスターをお護りします!」
ゼフィランサスさんはアイリの頭も撫でてくれた。そしてアイリとマイスターの足元に銀色に輝くアースガルド魔法陣が展開された。
「あ、最後に! ルシル、あなたが複製能力を具現するための権限。誰かがそれを使って、勝手に具現を行ってる。今はまだ、あなたが気付かないような低ランクなおかげで記憶の消失は免れてるけど、最悪ハイランクな何かを具現でもされてしまったら・・・!」
視界が銀色に満ちる前にゼフィランサスさんからそんな報告があった。マイスターは「レーゼフェアかプライソンか、どちらにしろ警戒が必要だな」って漏らした後、「十分気を付けます!」ゼフィランサスさんに手を振った。そして、アイリとマイスターは現実世界へ帰還。
『アイリ。エイルを発動する。サポート頼むぞ』
『ヤー!』
現実世界のマイスターの意識が回復したことで、すぐにマイスターは上級の治癒術式を発動。重体になってたマイスターの体がみるみるうちに回復してくのが、ユニゾン状態だからこそよく判るね。
『治癒完了。ありがとう、アイリ。ユニゾン・アウトだ』
『ヤー!』
――ユニゾン・アウト――
「っと。ただいま、フェイト」
ベッドの脇に佇んでるままのフェイトに挨拶。“ヴァルハラ”内で過ごした時間は結構経ってるように思えるけど、現実では3分も経ってないはず。
「おかえり、アイリ。ルシルは・・・大丈夫そうだね」
フェイトの視線を追ってベッドに目を向けると、「ああ。戻って来たぞ」マイスターが上半身を起こしながらそう言った。そして目をフェイトに向けて、「・・・・」固まった。アイリとフェイトで小首を傾げてると、「アイリ。ひょっとして、解除されているか?」マイスターがまた横になりながら訊いてきた。
「あ、うん。マイスターの変身能力、残念ながら解除されちゃってるね・・・」
「フェイト。何も見なかったことにしてくれ。おやすみ」
頭が隠れるほどにまで掛け布団を被った。けどすぐにフェイトが「そんな場合じゃないから!」そう言って、布団を勢いよく捲った。マイスターは縮こまってて、ちょっと可愛いって思った。
「ルシル! 起きて、緊急事態なの!」
「・・・ああくそ! チビだからってなんだ!」
フェイトに体を揺さぶられること10秒弱。マイスターはそんなことを言って上半身を起こすと、「今、ミッドや管理局が置かれている状況を教えてくれ」ベッドから降りた。するとフェイトが「あ、つむじ・・・」マイスターを見下ろして、そんなことをポツリと漏らした。するとマイスターは「っ!」慌てて頭頂部を両手で隠した。
「ご、ごめん・・・」
「はぁ。同年代の女子に見下ろされると言うのは、やはり悔しいと言うか切ないと言うか・・・」
「私もまさかルシルを見下ろす日が来るとは思いもしなかったよ。っと、そんな場合じゃなかった。現状は・・・――」
フェイトから伝えられる今の状況。さっきアイリも聴いたけど、改めて聴き直すとかなりまずいんだよね。マイスターも「本格的な進撃か・・・」顎に手を添えて唸った。
「エヴェストルムは回収されているか?」
「あ、うん。はい、エヴェストルム」
フェイトが上着のポケットから指環形態の“エヴェストルム”を取り出して、マイスターに手渡した。マイスターは“エヴェストルム”を「セットアップ」して、病衣から騎士甲冑へ変身。さらに柄に収められた魔石に魔力を流し込んで・・・
「エイルは4人分か。フェイト。重傷者で4人、教えてくれ」
僅かに回復した魔力で、大怪我を負って完治まで時間の掛かる隊員を治すみたい。フェイトは「ありがとう」お礼を言った後、アリサとザフィーラとヴァイスの3人の名前を挙げた。その他のみんなはエイルじゃなくてラファエルや、ここ医院の治癒魔導師の魔法で十分だって。
「判った。じゃあその3人の病室へ案内してくれ」
「うん、お願い」
そういうことでアイリ達は、集中治療室棟から一般病棟へ移動。まずは一番近いザフィーラとヴァイスの病室から。フェイトがドアをノックすると「はい、どうぞ」ヴァイスから返答があったことで、「失礼するね」アイリ達は入室。
「フェイトさん、アイリ先生、それにセインテス・・・ん?」
ヴァイスがマイスターを見て、目を擦ったり瞬きしたりする。そして「小っさ!? えっ、なんで!?」混乱した。マイスターは「気にするな。ほら、じっとしていろ」若干不機嫌になりつつもベッドに歩み寄ってく。
「ザフィーラが一番ダメージが大きそうだな」
「え、あ、あぁ。旦那が俺やアリサ姐さん、アリシアさんを庇ってくれたんすよ」
ザフィーラは頭や胴、両足にも包帯が巻かれてる。マイスターは指環モードに戻した“エヴェストルム”にそっと触れて、「よしっ」強く頷いた。
――女神の祝福――
マイスターが発動したエイルの光が、ザフィーラとヴァイスを包み込んだ。ヴァイスが若干「うお!? 折れたところがムズムズする!」変な動きをしたけど、ほんの1分くらいで・・・
「すげえ! 骨折だけじゃねぇ、他の傷も完治してやがる!」
ヴァイスと・・・
「・・・む? ここは・・・?」
意識不明だったザフィーラのダメージを全て治した。驚くヴァイスに「俺のエイルに不可能はない」マイスターは自慢げに胸を張った。死亡以外ならどんな怪我や病気も治せるのがエイルだしね。こんな魔術を創り出したマイスターはホントにすごいよね。
「次だ、フェイト」
「あ、うん! ヴァイス陸曹、ザフィーラ。退院手続きはこちらで済ませるから、帰る準備はしておいてね!」
「うっす!」「ああ」
次に目指すのはアリサの居る病室で、「失礼するね」さっきと同じ要領で入室しようとしてたところに、アリサが「そういやあたし、トイレここでやんないといけないんだっけ!? マジかー!」絶望に叫んでた。そしてアリシアが「おしっこ? 尿瓶、借りて来ようか?」少しばかりウキウキしてる感じで訊いた。なんか変態っぽい。
「コホン。失礼するぞ、アリサ、アリシア」
「うえ、ルシル!? まさか今の聞いて・・・、聞いて・・・、はい?」
「うそ・・・」
小さくなっちゃってるマイスターの姿に、アリサとアリシアは目を丸くした。アリシアはマイスターに歩み寄って頭や頬を撫でたり、自分の頬を抓ったりして「え、なんで小さいの?」って訊いた。
「ルシル。あんた、変身魔法をわざわざ使ってまでそんな姿にならなくてもいいじゃない。というか、そうする理由がサッパリだわ」
「逆だ、アリサ。今の俺が本当の身長なんだよ、嘆かわしいことにな。この姿に付いて一々説明するのも面倒だから、今は黙っていてくれ。あとではやて達の前で一緒に説明するから」
「それじゃあ今までのルシルの身長は、変身魔法か何かだったってこと?」
「あとで説明すると言っているだろうが。ああ、そうだよ。低身長が嫌でわざわざ魔法を使って高身長を偽っていたんだよ。笑いたきゃ笑え、こんちくしょう」
「「わ、笑えない・・・」」
結構本気でヘコんじゃってるマイスターの姿に、2人も察して笑わなかったけど同情の眼差しも結構つらいものがあるかも。大きく溜息を吐いたマイスターは「一先ず、アリサ、君の体を完治させる」そう言った。
「マジで!? 出来れば早くお願い! お、お手洗いにね、その、行きたいのよ。自力でお手洗いに行きたいの、マジで」
恥ずかしそうに頬を赤くしたアリサに、「言わなければいいのに、自分で」マイスターがツッコんだ。黙ってれば、マイスターが席を外した後でダッシュでトイレに行けばいいのに。
「う、うるさいわね! 急ぎなの! お願い、ルシル!」
「わ、判った! 今すぐに発動する! 漏らすなよ!」
「ば、馬鹿!」
アリサがもじもじし始めたからマイスターも慌ててエイルを発動。アリサの身体が蒼い光に包まれた、その時「っ・・・?」マイスターがフラついた。フェイトとアリシアが、マイスターの両側から支えてくれたから倒れ込むことはなかった。
「「「大丈夫!?」」」
「あ、あぁ、大丈夫。エイルの3連続発動は、魔力に少しの余力があるとはいえさすがに堪えるな」
そう言って苦笑するマイスターを、病室の椅子に座らせてくれたフェイトとアリシア。そして骨折が完治したアリサは「ありがとう、ルシル! ちゃんとしたお礼はまた後で!」ダッシュで病室から去って行った。
「はぁ。これで重傷者は全員だな、フェイト?」
「うん、そうだよ。地上本部組は軽傷で済んでるし。ロングアーチも明日には退院できるレベルだから」
「そうか」
マイスターはそうポツリと漏らした後、「出来ればトリシュに連絡を取り、会いに来てもらえるよう頼んでくれ」アイリ達にそう伝えた後、一瞬で眠りについた。
†††Sideアイリ⇒ルシリオン†††
完治まで1ヵ月は必要となる重傷者だったアリサとザフィーラとヴァイスを、上級術式のエイルで完治させた後、俺は急激な眠気に襲われて一瞬にして眠りに付いてしまった。記憶消失に陥らずに済んだのは幸いした。
「アンタ、本当に大丈夫なわけ?」
「結構眠ったね、ルシル。もう夜だよ」
「はやて達にはもう連絡を入れておいたから、準備が整ったら寮に帰って来てって」
寝起き直後に、ベッドの上で横座りするアリサと、女の子座りするアリシアからは気遣いを、側の椅子に座っているフェイトからは報告を貰った。アリサとアリシアには「ありがどう、もう大丈夫だ」礼を、フェイトには「身長の事は?」と訊ねる。
「話してないよ。私から話すような話題じゃないし」
「そうか。ありがとう」
俺の成長が止まった原因は、おそらくこの体が魔力で構築されているからだろう。成長期に、シュヴァリエルとの戦いで過度の魔力消費、複製物――記憶消失が続いたからな。今に思えば当然な結果だ。もう人間の体としての成長は望めないから、ずっとこの低身長のままだろう。泣きそう・・・。
「おーい、ルシル。トリシュが来てくれたよ!」
アイリが病室に入って来た。遅れて「ルシル様!」トリシュ――トリシュタン・フォン・シュテルンベルクが駆けこんで来た。服装はカリムやシャルと同じ女性騎士団服。髪型は俺とそっくりのインテークで、髪色は茶、瞳の色は青。
彼女も20歳となり美人になったが、エリーゼの色素と同様に体の起伏の乏しさも受け継いでいるようだ。身長はなのはくらいあるが、胸のサイズはアイリ並(中学生ほど)だ。なんて口にしたら、大顰蹙を買うだろうから口が裂けても言わない。
「アイリからの連絡で、ルシル様が私を御指名とのことでしたから、急いで参上しました!」
「わ、わざわざすまない、トリシュ。まずは、息を整えようか・・・」
本当に急いで駆け付けてくれたようで、トリシュは大きく肩で息をしていた。アリシアが「水、水っと」病室隅の脚長テーブルに置かれたポットの水をコップに注いで、「はい」トリシュに手渡した。
「ありがとうございます、アリシア。・・・ぷはぁ、ごちそうさまでした。では早速、私は何をすればよろしいでしょう?」
コップをアリシアに返したトリシュに俺は、「クス・デア・ヒルフェを、俺に使って欲しい」単刀直入に願い、頭を下げた。クス・デア・ヒルフェは、シュテルンベルク家直系の女子、しかも長女にしか受け継がれない固有スキルだ。
受け継いだ長女は生まれながらにリンカーコアを2つ有している。1つは自分用、もう1つがスキル用だ。その効果は、対象に唇で触れると、スキル用のリンカーコアの魔力を、対象へと流し込む事が出来るというもの。オーディンと名乗っていた頃、エリーゼのこのスキルに何度も助けられた。
(いつプライソンの進撃が開始されるか判らない今、魔力が自然回復するのを待ってはいられない)
アリサ達を治癒するために、彼女たちの病室へ向かう間にフェイトから聞いた話だと、プライソンは本格的な戦争を起こすために準備を進め、整い次第にミッドを制圧して自分が支配者にとって代わると言う。
(そんな緊急事態につき、内務調査部から正式に俺を戦力として機動六課に協力するよう辞令が出た)
正式な辞令だ、最高評議会も文句は言えまい。そういうこともあり、のんびりと構えている場合じゃないのが現状だ。トリシュは「アイリから伺いましたが、本格的に参戦なさるとか」そう言った後・・・
「あれ? ルシル様、遠近法ですか? 何かこう・・・小ぢんまりしていると言うか・・・」
今さらな指摘をしてきた。俺はベッドから立ち上がり、両手を腰に置いての仁王立ちをして見せる。まぁトリシュからも見下ろされるから泣きそうになった。なのはに逢っても泣くかもしれない。
「・・・ルシル様。ギュってします。いいですよね?」
「いいですよね?と確認しておきながら、俺の返答を聴く前にハグするのはやめてくれないか」
「あ、すいません。でもクス・デア・ヒルフェのお代ということで」
そう言われてはもう何も言い返せない。トリシュに成されるがまま、俺はひたすら彼女の腕の中で佇む。
「フォルセティの親権ははやてに取られてしまいましたが、シャルと同じように私は、ルシル様の事は絶対に諦めませんから。覚悟してくださいね❤」
――乙女の祝福――
不意打ちだった。いきなり頬にキスを貰い、トリシュの魔力が俺に流れ込んできた。トリシュの魔力量はランクでS-だからな。この回復量は正直ありがたい。
「ありがとう、トリシュ。助かったよ。これで俺は気持ちよく戦いに臨むことが出来る」
「はいっ。ルシル様も戦場に立たれるようですし、お役に立てて私としても嬉しいです♪」
本当に俺のことを慕ってくれているんだと判るほどのトリシュの満面の笑顔。なんで俺みたいな奴を想い慕ってくれているのか、申し訳なさが半端じゃない。早々と振ってあげた方が良いんだろうが、あの子たちに何を言っても諦めてくれないからな・・・。
「あ、申し訳ありません。兄から早く帰って来るようメールが来ました。私はこれで失礼いたしますね。ルシル様、アイリ、フェイト、アリシア、アリサ。共に戦場に立てること楽しみにしています」
そうしてトリシュは教会本部へと帰って行った。彼女を見送った後は、シャマル達の治療だ。アイリと「ユニゾン・イン!」して、魔力炉への負担を可能な限り軽減させる。
「よし、行くか・・・!」
「ヤー!」
フェイトの案内で、俺たちはシャマルとすずか、さらにはロングアーチの病室へ向かうことになった。
後書き
カリメーラ。ヘレテ。カリスペラ。
ルシルとアイリのコンビは本当に扱い易くて助かります。原作ではヴァイスやザフィーラは長く入院していましたが、本作ではたった1日で完治しての退院です。そして何気にユーリ、レヴィ、フラムがエインヘリヤルとして再登場。ヴァルキリーのエインヘリヤルと少しばかり戯れるストーリーも考えていましたが、なんか面倒になってうやむやに。
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