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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ふわふわ!お好み焼き特集・1

「うわっ、ホンマに鉄板焼き屋になっとるやん!」

 扉を開けて入ってきたのは黒潮。予想通りと言えば予想通り。大阪生まれの艦娘の代表格のような娘だ。

「やっほー提督、リニューアルおめでと。」

 続いて入ってきたのは陽炎。個性のバトルロイアルやってる陽炎型の長女にして良心。素晴らしい姉っぷりの持ち主だ。

「お、お邪魔します……///」

 最後に頬を赤らめながら入ってきたのは浜風。駆逐艦とは思えないボディをしているが、その秘密は実は大食いだった事が判明した事で一応の決着を見た。最近では大和や武蔵なんかと街で食べ歩きをしているらしい。

「おぉどうした?」

「何って……提督も水臭いやんかぁ。ウチがお好み焼き大好きなん知ってるやろ?」

 どうやら、先程工廠に用事があって行った際に妖精さんから聞いたらしく、お好み焼きと聞いていてもたってもいられなくなり、その足でここまで来たらしい。

「黒潮が前々から食べたがってた粉物だしさ、お腹一杯食べさせてあげようと思って。」

 流石陽炎、妹思いだ。そして浜風も食べたくてやって来たと。

「丁度いいや、俺も本格的にお好み焼き焼くのは久し振りだからな。肩慣らしに付き合ってくれよ。」

 そう言いながら俺は鉄板に火を入れ、生地の準備に入った。



「さてと、ご注文は?」

 まずは注文聞かねぇとな。それから生地を練るさ。

「ウチは定番の豚玉かなー。」

「私イカ玉!」

「じゃあ、餅チーズ豚玉をお願いします……」

 いや、浜風よ。控え目に言ってるけど一枚目からヘビーだなオイ。まぁいいや、3人が3人、定番に近いお好み焼きのチョイスだったので、生地も一番ベーシックな作り方をチョイス。

 基本の比率は1:4:8。山芋の比率を1とした時、薄力粉を4、鰹だしを8というのが失敗しづらくフワッと焼き上がりやすい。俺の分も焼くから、取り敢えず4枚分で生地を練る。

 鰹だし400ccを入れたボウルに山芋50gを入れ、薄力粉をふるいにかけて入れたら混ぜる。粉ふるいにかけて入れると粉のダマが無くなり、混ぜやすくなるし空気を含むからよりフワッと焼き上がるぞ。これをそれぞれ小さい器に移し、注文に応じた具材をトッピングしていく。キャベツ100g、揚げ玉大さじ1、ネギと紅しょうが少々。そこに卵を1個割り入れる。これはほとんどのお好み焼きに基本的に入れていく。ここからはそれぞれの注文に合わせた具材。

黒潮は豚玉だから何も加えない。

陽炎のイカ玉にはイカのブツ切りを。

浜風の餅チーズ豚玉には角切りにした餅とピザ用チーズを加えたら、いよいよ生地を混ぜて焼いていく。混ぜるコツは柄の長いスプーンで卵の黄身を潰したら底から掬い上げつつ全体に空気を含ませるように大きく10回程度。混ぜすぎも混ざらなすぎも禁物。何事も程よくが肝心だ。

 鉄板の温度は180℃~200℃。低すぎると上手く焼けないし、高過ぎると焦げてしまう。このくらいがベストだ。油を全体に敷いたら混ぜた生地を一気に鉄板の上に流し込み、混ぜるのに使ったスプーンで表面を均す。この時に生地は均すだけで広げない。折角含んだ空気が逃げてしまうからな。黒潮と浜風の分にはここで豚バラを敷き詰めておく。こっから暫くは放置タイム。焼け具合を確かめる為にコテを差し込むのもご法度だ。



「今の内に何か飲むか?」

 言われなくても俺はビール一択だが。

「うーん、お好みやからごはん!でもエエんやけど……やっぱりビールやな!マスター、ビール大ジョッキでな!」

「あ、アタシもビール!キンッキンに冷えた奴ね!」

「私も同じくビールを。」

 やっぱり熱々のお好み焼きにはビールだよな!間違いねぇもの。俺は冷凍庫から凍らせてあったジョッキを取り出し、サーバーから注ぐ。今日の銘柄はエビス。新装開店(でもないが)のお祝いだ、景気良く行こう。

「ハイよ、んじゃとりあえず乾杯!」

「「「かんぱーい♪」」」

 持つのも冷たい位に冷えきったグラスを打ち合わせ、その勢いを残したまま口に運ぶ。グビリ、グビリと喉を鳴らして黄金色の液体を流し込んでやると、身体に溜まっていた熱気や疲労すらも流されていくような気さえする。

「かぁ~っ、やっぱエビス美味ぇわ。サッポロの黒も好きだが別格だなコリャ。」

「ホンマやなぁ、ただ苦いだけちゃうもんなぁ。」

「そうねぇ、アタシも昔はビール苦手だったけどこれは美味しいって解るわ。」

 浜風は無言でゴキュゴキュと飲んでいる。一気に飲み干しそうな勢いだ。……っと、そんないい飲みっぷりに見とれてる場合じゃなかった。

 生地の縁が黄色くなり、固まりかけてきたら(目安としては4分位かな?)ここでコテを使ってひっくり返す。2本のコテを差し込んで、手首のスナップを利かせて……

「あらよっ!と。」

「お~っ、さっすが提督上手いわねぇ。」

 陽炎は誉め上手だと思うわホント。嫌味が全くなく、素直に相手を誉める。これは中々難しい事だ。ひっくり返したら生地の中央を軽く抑えて厚みを均等にする。押し付け過ぎたり周りを押しすぎたりしないように注意な。

 一度ひっくり返したら、ここで表面が焼けるまでじっくりと待つ。焦ってひっくり返しまくったり、早く焼こうと押し付けるなんてのはもってのほかだ。

「そういや、前に陽炎が話してたアンケートの改善は出来たのか?」

「あぁ、あのアンケートね。提督にも協力してもらって大分改善したわよ?」

 あの時から随分と変化はあった。初風は希望通りに部屋割りを変更。寝不足は解消されたらしい。

天津風は今も島風と走ったりはしているが、他にもランニングのメンバーを見つけてやって適度に休ませている。

一番の不安要素だった舞風だったが、あの後すぐに野分と邂逅、今ではカップルと見紛うほどにベッタリだ。

雪風には大本営から通知が来るのを待つように言ったら、毎朝郵便を取りに行く係を自主的にやっている。アホっぽいが、可愛い。

不知火は目付きの鋭さが原因だと指摘したのだが、更に睨まれた。なんでや。

「……そういや、浜風の感じてた殺気?は消えたのか?」

「あ、それなんですが。どうにも妹の浦風や磯風、後は照月さんとかが着任してからは無くなったんですよね。」

「お、おぅ……。」

「ただ、ふとした時に近くで啜り泣くような音が聞こえるようになって……。司令、これは心霊現象という奴なのでしょうか?」

「いや、違うと思うが……心当たりはある。どうにか出来るか解らんが、話すだけ話してみるわ。」

「……?は、はぁ。」

 浜風は今一要領を得ていない様子だったが、原因は解った。辛いだろうが、踏ん張れよ……誰とは言わんが。

 じっくりと焼いたお陰でいい匂いがしてきている。そろそろ2回目の返しだな。再びコテを使って返す。豚バラの乗っている面はきつね色よりも濃い茶色になっている。この位の「少し焼きすぎたかな?」と思う位の色味が、実はお好み焼きではベストの焼き加減だ。ここから仕上げ……にはまだ早い。ひっくり返して今焼いている面も同じくらいの焼き色になり、生地が膨らんだら仕上げに入る。ここまで焼くから生地全体の水分が抜け、軽い仕上がりになるんだ。

 さぁ、一気に仕上げるぞ。特製ブレンドソースを刷毛で全体に塗り、生地の中央に練り辛子を落としてやってソースと混ぜながら広げる。そこにクリーミーマヨネーズでマヨビームを作りながら全体にかけ、最後に青のりと花鰹を散らせば完成。

「お待ち。『特製豚玉・イカ玉・餅チーズ豚玉』だ。」

 焼き上がったお好み焼きを、食べやすいようにそれぞれの前にコテで押し出してやる。さぁ、食ってくれ。 
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