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提督はBarにいる。

作者:ごません
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手打ちの唐揚げ

「竜田揚げはあの唐揚げには無いカリカリサクサクの衣が良いんです!そして幅広いソースのバリエーション!唐揚げじゃなくても『鶏肉を揚げる』料理なら竜田揚げが一番です!」

 羽黒の熱弁にも一理ある。竜田揚げは下味はあくまでも薄味で、それ単品で食べるならば鶏肉の旨味と衣の食感で食べる料理だと、俺は思っている。しかし竜田揚げの本領は、そのシンプルな味付け故のアレンジの幅広さだ。

 タルタルソースを載せればチキン南蛮風に。

 刻みネギと糸唐辛子を載せて酢醤油ベースのタレを掛ければ油淋鶏(ユーリンチー)風に。

 おろしポン酢や甘酢餡掛けなんかもさっぱりと食べられる。しっかりとした味付けをする唐揚げでは難しい、竜田揚げの強みだと俺は思う。

「しかしな羽黒、私と足柄は既に唐揚げ口なのだ。竜田揚げも不味くはないが満足できん。」

「そうよ羽黒、竜田揚げは今度にして今日は唐揚げにしましょ?ね?」

 羽黒を怒らせるのはマズイと思ったのか、先程まで喧嘩していた二人が羽黒を宥め始めた。しかし羽黒は余程怒っているのか、頑として譲らない。

「いいえ、ダメです!私もお腹空いてるのに我慢してたんですよ!?それなのに姉さん二人はいつまでも決めてくれなくて、もう限界です!絶対譲りません!」

 羽黒の色白な頬が怒って上気しているのか赤い。あまり感情的にならないから珍しいな。




 未だ尚、三つ巴の論戦は侃々諤々、終わる気配がない。

「司令……じゃなかった、店長。」

 先程まで静かに仕事をこなしていた早霜が口を開く。

「何だ?このめんどくさい論戦を終わらせる手段でも思い付いたか?」

 俺の冗談半分の発言に、早霜は目を細めて微笑んだ。

「えぇ、まぁ。賄い用に準備していた『アレ』をお出ししましょう。」

「え、『アレ』出すの?俺楽しみに取っといたのに……。」

「でも、この下らない論戦を終わらせるにはうってつけだとは思いませんか?」

 早霜の追い討ちにうぅむ、と唸る。今日の賄いは偶然にも、「唐揚げ」の予定だった。しかも塩でも醤油でもない、全く違う味付け。そして衣は小麦粉ではなく片栗粉を使って、竜田揚げのような歯応えも味わえる一品だ。しかし、普通の唐揚げよりも仕込みに手間がかかる上に、このレシピは俺の好物なのだ。3人に食べさせるのが惜しい、正直に言えば。

「賄いはいつでも作り直せますよ、今はこの場を収めるのが先決だと思いますが?」

 そう言われると背に腹は変えられない。仕方ないか。俺は下味用のタレに漬け込んであった鶏肉をボウルごと取り出すと、中華鍋に油を張った。




 バットに片栗粉を広げる。漬け込んだ鶏肉をその上に落として粉をまぶす。このレシピのコツは漬け込んだタレを落としすぎない事。このタレがレシピの要だから落としすぎると味がボヤけてしまう。

 粉をまぶした鶏肉を油に滑り込ませる。適温に熱された油に入った鶏肉が、ジュワアアァァァ……と小気味良い音が店内に響く。途端に喧しかった議論がピタリと止まり、調理中のこちらを凝視している。そりゃそうだ、揚げ物の音と香りってのは堪らなく食欲を、そして『酒が飲みたい』という欲求を刺激する。大人しくなった3人はそれぞれに、飲み物を注文してこちらを待ち構える体勢に入った。

 一旦油から引き上げる。まずは低めの油温で中の鶏に火を通す。そして表面をカリッとさせる為に温度を上げて二度揚げ。カラカラカラカラ、と揚げ始めの時よりも乾いたような音が響く。これが聞こえ始めたらそろそろ完成だ。ゴクリ、と生唾を飲み込む音が聞こえた。待ちきれないようだな。

「早霜、キャベツの準備頼む。」

「了解です。」

 皿に千切りキャベツを乗せ、その上に軽くマヨネーズを絞る。これはウチの店の唐揚げの定番の盛り付けだ。唐揚げにマヨネーズを付けてもいいし、キャベツとマヨを混ぜて唐揚げに乗っけてもいい。後は油を切った唐揚げを盛り付ければ完成だ。その見た目は普通の唐揚げに比べて全体的に黄色い。

「ヘイお待ち、『若鶏の唐揚げ・タンドリーチキン風』だ。大体なぁ、ウチは唐揚げだけでも30以上レパートリーあるんだよ。塩だ醤油だ細けぇ事で悩んでねぇで、たまには違うの頼めば良いじゃねぇか。」

「いや、しかしだな……」

「議論の途中だから…」

 まだうだうだ言おうとしている那智と足柄。あんまり五月蝿いから唐揚げの山の上でレモンを握り潰すようにかける。

「まだ何か文句あんのか?あ゛ぁ?」

 俺が凄むと途端に青くなる二人。

「い、いや、無いっ!さぁ二人とも折角の唐揚げが冷めてしまう。早く食べよう!」

「そっ、そうね!折角の唐揚げだもの!熱い内に食べなくちゃ!」

 無理に笑いながら食べ進める足柄と那智。羽黒はマイペースに味わいながら食べているようだ。唐揚げを食べ終えると3人はそそくさと逃げ帰るように帰ってしまった。

「全く、俺にビビる位ならハナっから喧嘩するなってんだ。」

 しかし、折角仕込んでおいた唐揚げが無くなってしまった。改めて仕込み直しておこう。

《タンドリーチキン風唐揚げ》

・鶏モモ肉:2枚

・プレーンヨーグルト:1/2カップ

・おろしにんにく:少々

・カレー粉:小さじ2

・酒:小さじ1

・サラダ油:小さじ1

・塩:小さじ2/3

・胡椒:適量

・片栗粉、揚げ油:適量

 鶏肉は余分な脂肪を取り除き、5~6等分にカット。片栗粉と揚げ油以外の材料を全て混ぜ、鶏肉を入れて揉み込んで5~10分置く。これだけでも十分味が付くのだが、冷蔵庫で寝かせた方がスパイスが肉に馴染んで更に美味くなる。後は片栗粉をまぶして揚げるのだが、粉をまぶす時は皮をしっかりと広げてまぶす事。こうする事で揚げた時にムラが出にくくなる。

 油を中温に温めてフライパンにギチギチになるように肉を敷き詰めて揚げる。衣が固まってきたらたまに引っくり返しながら7~8分揚げる。竹串を刺して中から透明な肉汁が出てきたら一旦取り出し、油の温度を上げて二度揚げ。衣が良い色になったら完成だ。……まぁ、今日は揚げずに漬け込んで寝かせておくさ。

「全く、喧嘩するほど仲が良いとはよく言ったモンだぜ。」 
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