ソードアート・オンライン〜Another story〜
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マザーズ・ロザリオ編
第242話 ボス第2戦目
前書き
~一言~
また……遅れちゃってごめんなさい……。
季節は冬、師走に入っちゃって、更にさらに……… と、言い訳をさせてくださいぃ……。
それに、話もあまり進んでないのも、……ごめんなさい……。
でも な、何とか投稿する事が出来ました。次回は、キリトくんの《あのセリフ》を言う所までは、絶対に行くと思いますので(いかないとおかしいレベルですが……)、何とか頑張ります。
とても遅れ続けているのですが、この小説を読んでくださって、本当にありがとうございます。
……遅れてはいますが、投げ出したりはせず、これからも、頑張ります!
じーくw
リュウキは、ボス部屋から背を向けた。
いったい何をするのだろうか? とその場にいた全員が疑問に思ったのは言うまでもない事だが、その疑問を誰も口にする事は無かった。……それは、好奇心旺盛で元気溌剌なユウキも例外ではなかった。
でも、口にはしないものの、ユウキは、何処かワクワクさせながら 目を輝かせてリュウキを見ていた。他のメンバーも以下同分である。
「……ん」
リュウキは、腰に備え付けられた剣を杖に変えた。
それを見て、アスナとレイナは、武器を変えたリュウキを見て、――付加魔法の類をかけてくれるのだろうか? と思った。重ね掛けは効果的である事は実証済みだから。
因みに、アスナとレイナ以外の他のメンバーは、皆ただただ目を丸くさせていた。
勿論、リュウキが杖を使う、と言う点にだった。直接的な攻撃力は無く、魔法特化の武器であるのが杖。魔法も使う剣士と言うのは、杖を必要としない簡易だが 発動速度が速い魔法を主に使うから。それがセオリーだとも思っていた。
勘違いされがちだが、リュウキは剣だけじゃない。
魔法の腕も剣に負けずと劣らない。当の本人は謙遜しているんだが、超が何個もつく程一流だと言っていいだろう。それは 風妖精族や火妖精族の大魔導士様たちも舌を巻くほどである。
つまり、剣の腕に関しては、ユウキ達もランを打ち負かした事からよく判っているけれど、魔法に関しては、そこまで熟知はしていなかったからこそ、目を丸くしていたのだ。
ここでリュウキの魔法の実力。それを思わせる所以を少しばかり説明しよう。
この世界の魔法の使用に関しては、自身の感覚で大体が使用できるソードスキルとは違う。それなりに、使用者本人のシステム外スキルが必要だったりするのだ。
まずは、詠唱文。
より高位の魔法であればある程、要求される数は比例していくのは言うまでもない。だから、しっかりと全て暗記していなければ、実践では役に立たない、と言ってもよいだろう。……勿論、前衛がしっかりと後衛の魔法使いを守る事が出来れば、良いだけの事だが、難易度の高い迷宮区やそのBOSSが相手ともなれば、話は変わってくるのは これまた言うまでもない。
一瞬のミスや魔法発動の遅れが命取りになる戦いの連続なのだから。その長文とも言える詠唱文を丸暗記しなければならないから、より高位の魔法程、難しいのは言うまでもないだろう。……そんな魔法をあっさりと使ってのけるのが、リュウキの魔法の実力の高さを示す1つである。
そしてもう1つが魔法自体の習得。
基本的には、其々の種族が得意とする魔法は、熟練度が上がりやすく設定されており、水妖精族であれば、回復系、火妖精族であれば、攻撃系と言った具合にされている。
忘れがちにされているが、リュウキの種族は、水妖精族。上記にある通り、回復系の魔法を得意とされている種族なのだが……、当てはまらない。
これらの条件をクリアする事で、実践で魔法が使用する事が出来るのだ。
そして、遅れてしまったが、リュウキが超がつく程魔法が使える、と言われている(仲間内以外でも)所以は次にある。
数多くある魔法の中で例外なのが、最近のアップデートでソードスキルが導入されたのと同時に、《新魔法習得イベント》が追加された事だ。熟練度を上げるだけでは習得する事が出来ない最高位の魔法取得イベント。勿論、相応の難易度、狭き関門ではあるが、無事習得出来れば、接近戦では圧倒的なソードスキルにも決して負けずと劣らないだけの魔を操る事が出来るのだ。
その代表例が、リュウキも使っている《根源元素》が良い例だ。……一部のプレイヤーにトラウマを植え付けてしまった程の超魔法を使える。
少々長くなったが、これらの事があって、リュウキはまたまた色々と伝わっているのだ。
「こほん……っ」
何やら不快感があった様で、リュウキは咳払いを1つした後、再び精神を集中させた。
「(ねー、姉ちゃん。リュウキ、どんな魔法使うのかなぁ?)」
「(うーん……、ちょっと想像がつかない、かな。でも 凄い事をしてくれるんだって事は、判るよね)」
声を小さくさせて、ユウキはランに耳打ちをした。色々と感じる見えない圧力が、ユウキにそうさせるのか、はたまたたまたまなのかは判らない。ランも同じ様子だった。
「(凄くドキドキしますね?? さっきの対人戦があるかもっ? と思った時とは違った感覚ですっ)」
シウネーも同じ魔法使いだからか、魔法には興味があった。このパーティーは基本的に、アスナ達が思っている様に脳筋パーティー。だから、魔法に頼る事は回復を除けば殆ど無いから、あまり見ない。それが高位の魔法であれば尚更だ。ジュンやテッチ、ノリにタルケンも以下同文、と言った様子で目を離すことができないでいた。そんな皆を見てニコリと笑うのは、アスナとレイナ。
一しきり微笑んだ後は、リュウキの方を見た。本当に頼りになる超勇者の腕を括目する様に。
「レイ・アストル・フォルテ……」
そして、詠唱を開始するリュウキ。
詠唱の文字がリュウキの周囲を回り、光の柱となって頭上へと延びていく。それ自体は、通常の魔法のエフェクトと変わらないから、別に驚く事は無いのだが……、直ぐに、前言撤回する事になる。
その回る呪文は、通常よりも遥かに高く――このボス部屋前の回廊の高い天井に届きかねない程高く伸びていったのだから。
「なななっ!!! なに?? なにっ??」
最初こそ黙ってみていたユウキだったが、こればかりは想定外だった為、やや大袈裟だと思われるかもしれないが、両手をめいいっぱい上げて、驚きを身体で表現していた。
ほかの皆は、我が目を疑うが如く、大きく見開いていた。
慣れているアスナとレイナは、ただただ笑っていた。
そして、通常のよりも遥かに長い詠唱を終えたと同時に、この回廊の横幅いっぱいに光のカーテンの様なモノが、降りてきたのだ。……先ほどから、隠れているあの連中と自分達の間に壁を作る様に。
「よし、終わった」
すべてを終えたリュウキは、くるっ と腕を回すと皆に合流する。
驚いていたメンバー達はなかなか返事を返す事が出来なかったが、見た事が当然あるレイナやアスナは やっぱりいつも通り。でも、使用した理由が気になった様だ。アスナが一歩前に出て疑問を聞いた。
「リュウキ君。アレって、聖の属性魔法。防護系、実装された中でも最上位魔法の《フォース・シールド》だよね?? 今ここでする必要ってあったの? リュウキ君。確かアレしちゃうと、他の魔法が効力が続く限り、使えなくなっちゃうんだったと思うけど……。 ボス戦で、魔法はどうするの? まぁ、リュウキ君なら 剣だけでも十分だし、私やシウネー、レイがいるから、補助系の魔法は十分だと思うけど……」
リュウキが使用した魔法は、リスクはあるものの、それに補って余りある効力を秘めている。それは、約30分もの間、如何なるモノも通さない無敵の盾。
《イージス》
そうとも呼ばれている堅牢な盾。……盾だと呼ばれているのに、攻撃的じゃない印象があると言うのに、それはそれは、一部では凶悪で有名だったりするのだ。攻撃を通さないのは勿論であり、魔法の類も一切遮断する。云わば絶対防御魔法。
物理攻撃も勿論通じなない。
でも、リスクの1つ効力の難点を挙げるとするなら、発動してしまえば、その堅牢な盾は、敵味方問わず、通れなくさせてしまう、と言う点だ。 故にもしも 発動した時に、反対側に残ってしまっていたら、取り残されてしまう。
そして、もう1つ、その魔法習得条件自体が恐ろしく高難易度だという事。《根源元素》の魔法と対を成すとも言われており、現サーバーに習得出来ている人数は、片手で数えても余る程度だ。
「まぁ、あまり良い趣味をしている、とは言えない連中だった様だからな。……対処しただけだよ。それに、今回は初見で様子見。つまりはその次、第二戦目が本番だろう? 魔法は次に取っておくよ」
「え? どーいうこと??」
ユウキは、リュウキの話を聞いて、意味がよく判ってない様だった。でも、意味深に笑うリュウキを見て、何かはある。と言う事は理解できたが……、その《何か》が凄く気になった様だ。
「とりあえず、BOSSとの第1ラウンドを終えた後で、な? 後で教えるよ。今はこっちに集中しよう」
「わぷっ……っ! えへへ、そーだね」
45度に、頭を傾けて不思議がってる、ユウキの頭をリュウキは軽く撫でた。位置的に程よい高さであり、今までのユウキの見てきた印象……、落ち着きがあまりなく、いつも笑顔で楽しそう。天真爛漫さ。その事から、ユウキは、リュウキにとっても、何処となく、世話の焼ける妹を持った気分になった様だった。
リュウキには、兄弟姉妹はいないから……新たに芽生えた感情に、少しだけ頬が緩む思いだった。
でも―――、そんなリュウキにとっては喜ばしい事でも、やっぱり そんな姿を見てしまえば、頬が緩む~ではなく、膨らませてしまうメンバーもいたりする。
「むー……」
「もー、ユウったら………ずるいなぁ」
本当に楽しそうにしてるから、邪見する事は出来ないけれど、それでも、この程度くらいなら良いだろう、とちょっぴり嫉妬オーラを向けている某歌姫と剣聖だった。
そして、全員が改めてボス部屋の扉の前へと集合したその時、リュウキは、後方へと振り返り、言った。
「……たまには、自力で挑戦をしてみれば良いんじゃないか? 情報収集を含めた全てがボス攻略だと言えるが、オレは、それは完全に他力本願だと思うがな。……恰好良いとは言えないぞ」
誰に対しての言葉なのかは、最早言うまでもないだろう。
ただ、仲間達の中で、リュウキの言葉を聞いていた者は、誰もおらず ただただ、目の前の大きな扉……、この層のボス戦へと向けて、気合を入れていたのだから。
リュウキは、踵を返すと、皆の元へと足早に駆け寄った。その後ろ姿を……、恨めしそうに睨む者達を置き去りにして。
~第27層 ボス部屋~
その大きな扉を勢いよく開いたのは、ジュンとテッチ。
そして、殆ど同時に全員がそれぞれの武器を手に後を追いかけた。身体で覚えているフォーメーションを取り、武器を音高く構えたのとほぼ同時に、部屋の中央に粗削りの巨大なポリゴン塊が立て続けに湧き出てくる。黒いキューブ上のそれらは、衝撃音を発して大まかな人型へと合体し――みるみる内に情報量を増していき、完全にボスモンスターが実体化した。
その姿は、身の丈4~5mはあろうかと言う黒い巨人。筋骨たくましい胴体から、二つの頭、そして四本の腕を生やし、それぞれの手に凶悪なフォルムの鈍器が握られていた。
威圧感が凄まじく、まだ距離があると言うのに、その圧力には思わず身体を仰け反ってしまいそうなのだが。
「うわーーーっ! すっごく強そうだねぇ~~!」
「おうっ!! ボスっていうのは、やっぱりこうじゃなくっちゃ!!」
フォーメーションを取りつつ、しっかりと自分のポジションを確保しつつも、湧き出る衝動が抑えきれない、と言わんばかりに、目をキラキラと輝かせてみているのは、ユウキとジュンだ。 如何にもな、姿をしているボスモンスターを見て、その迫力を肌で感じて、やはり興奮してしまったのだろう。
「(あはは……、やっぱりとっても嬉しそうだねー……?)」
「(狂戦士集団って、思っちゃうかなぁ……、辛口、辛辣って言われてもさ……?)」
レイナとアスナが殆ど同時に感じてしまったのは言うまでもない。
ワクワク感を全面に押し出しているユウキとジュン、そして にこやかに笑いつつも、やっぱり楽しそうに笑顔を見せているほかのメンバーを見てしまえば、そう思ってしまうのも無理はない。……あまりの迫力に身震いしかねない凶悪なボスモンスターを前に、初見で笑えるというのは本当に大したものだと言えるのだから。……それが、たとえゲームだとしても。
「……巨人型、か。ふむ」
そんな中、リュウキは ただただボスの現在の数少ない情報を、集めていた。
二つの頭に四つの腕。そこから導き出されるのは、手数が多いであろう事と、視野が異常に広いという事。……攻撃範囲も恐らくは、180度、とは絶対いかないだろう。それぞれの視線から180度見れるとして、顔の傾き具合や視線から、270度は余裕で視界の範囲内だと言える。 つまり、ボスの死角を取るのは難しいという事だ。
ボスが武器を構えて、突撃してくるまでの身近な猶予時間。リュウキに倣って、アスナとレイナも今までの経験則を踏まえて、意見を出し合った。
「武器の形状や、あのボスの見た目から言っても、相当威力も高そうだよね。……打撃系の武器だから、躱せたとしても、地面に当たって、衝撃波の追加攻撃とかありそうだよね。うん……ナミングにも注意しないといけないと思う」
「うん……。テッチさんやジュン君、ちょっとしんどいかもだけど、壁役には頑張ってもらわないと、だね。正面をきっちりと作れたら、やりやすくなると思うし――」
積み上げられていく戦略。
傍で聞いていた、シウネーは あまりの頭の回転の速さに、眼を丸くさせていたが、本当に心強い人達だと思い、微笑んでいた。
「さて、……ここで気合の1つくらいほしいかな? ユウキ。ラン」
リュウキは、前にいるユウキとランに聞こえる様にそう言った。
その意図を理解した2人は、笑顔で頷くと。
「さぁ、皆っ!」
ランが武器を高々に掲げ、ユウキが言葉を紡いだ。
「勝負だよっ!!」
~第27層 ロンバール~
「だぁぁぁぁぁ!! 負けた負けた!」
転移したノリが、先に転移していたタルケンの背中に飛びつきながら愉快そうに笑っていた。
「お、重たいですよっ!」
苦しそうにそういうタルケン。……幾ら仮想世界だとは言え、女性にその言葉は……と、思いたくなるのだが、そのあたりはご愛敬。皆の付き合い方を見てみればよく判るというものだ。
「なんだよ、あれー! 反則じゃんかーー!」
「い、いたた、く、苦しいですっ!」
続いてばんばん背中を叩き、ぐいっ、と首に腕を回した。チョークスリーパーだ。……さっきの暴言を根に持ってる? ……と言う訳ではない様子。
「防御も堅かったですしねー。アレはランダム行動なのでしょうか?」
おっとり、のんびりとした声が続く、その主はテッチ。
さて、ここまでの会話から判ると思われるが、少数精鋭。アスナやレイナ、リュウキを含めた10人のパーティーで挑んだボス戦に、敗北をしてしまったのだ。
「うぅ~……」
「ほーら、ユウ。元気だして。今までで一番良かったじゃない」
無念そうに肩を落とすユウキと、そんなユウキの肩を優しく触り、慰めているラン。
ラン自体も、悔しそうに表情を落としている様だったが、思いっきり感情を表に出すユウキがいたから、薄れてしまった様だ。
「でも、ほんと頑張ったんだけどなぁ……、あの最後、ボクが麻痺貰ってなかったら、もうちょっと行けたって思うのに……」
慰めてもらったんだけど……、やっぱり 悔しさが残ってしまっているユウキ。
そんなユウキの頭の上に、手が乗った。
「んっ??」
「悪い。悔しがってる暇も無さそうだ」
声の主は、リュウキだった。
「え……? どういう事ですか?」
ランはリュウキの言っている意味が判らない様子で、首を傾げた。
リュウキの隣に立つアスナとレイナ、2人の表情もやや険しくなっていた。
「ごめんね。ボス攻略の時に、ちょっと時間を貰っちゃって。……それで、判った事があったの」
アスナが一歩前に出て、説明を始めた。
「リュウキ君が、ボス戦の前に張ってくれた防護結界の事、覚えてる?」
「え? あー、うん。回廊にぴったりバリア張ってくれた事、だよね? あっ 今更思ったんだけど、あれってボクたちの挑戦中に、別の人が入ってこられない様にしてくれたの?? ひょっとして」
教える、とリュウキは言っていたが、ユウキは自分の考えを手を挙げながら言っていた。
宛ら、先生に質問をする生徒。元気いっぱいの生徒の様に。
その答えを聞いたリュウキは。
『大体あってる』
と言っている様に、軽く頷いた。
だが、それだけではないのだ。
「リュウキ君。……私が説明するね?」
「ああ。任せる。オレはメッセージの確認をするよ。あの後から何通か届いてるみたいだ」
リュウキは、そういうとウインドウを呼び出し、世話しなく指先を動かし始めた。
一体何を言うのかが気になった皆の視線がアスナに集まる。
「ボス部屋の入り口にいた3人の事、覚えてるでしょう? 皆」
「ええ。はい」
「あの人達の事、ですよね? 戦闘になるかもしれない、って思っていた」
シウネー、ラン、そして 皆は頷いた。
忘れるハズもないだろう。ボス部屋の前で、隠蔽していたのだ。強すぎる印象だったから。
「あれは、ボス攻略専門ギルドの斥候隊だったらしいの。……リュウキ君が色々と調べてくれてて。23層から26層までは ずっと同じ手口でボスの情報を集めて攻略に繋げていた、って可能性が高いわ」
「え……? 23層から、と言う事は、私たちが挑戦した層でも?」
「全然気が付かなかった……」
アスナの説明を聞き、驚く面々。
それも当然だろう。スリーピングナイツのメンバーは、コンバートしたてだという事もあって、戦闘能力が高くても、索敵といったその他の分野は まだまだ未熟だと言っていい。今回の件もそうだが、隠蔽を看破するには、僅かな空間の歪みや感覚で見破らなければならない為、センスだけでなく、経験が必要だからだ。アスナやレイナ、リュウキはそれを盛大に発揮して、見破る事が出来たのだから。
視る力に長けているであろうランであっても、四六時中集中しっぱなし……、と言うのは無理であり、最も集中する事が出来る戦闘の時のみに限られてる、と言っていい。だからこそ、簡単なトラップにも引っかかり、ダンジョン攻略は強引な力押し攻略となってしまったのだろう、と推察できる。(純粋に気になったから、わざと引っかかった、と言う理由もあると思われるが)
「――情報は武器だ。それも、ラン達程のギルドの戦いを見る事が出来たとなれば、それだけで十分すぎる。……攻略動画を見ている様なものだからな。だからこそ、25、26層の攻略は、時間がかからなかったんだろう。……それ程までに、皆はボスを追い込んでいた、と言う事だ」
ウインドウを覗きながら、リュウキが説明を繋げた。
ユウキは自分達の事を褒めてくれてる……と、ちょっぴり思ったんだけど、手放しで喜んだりはしていない。
「えと、でも、今までもワタクシたちがボス部屋に入った後 直ぐに扉は閉まりました。情報収集をするにしても、中の様子は見る事は出来ないんじゃ……?」
「えとね、闇魔法の中に、《盗み見》っていうのがあって……、プレイヤーに使い魔をくっつけて、視界を盗む呪文なんだけど、えと…… リュウキくん、出来るかな? 実演をして見せてあげた方が、判ると思うけど」
「ああ、一応出来るよ。……正直、好ましくない魔法ではあるが、別の魔法の習得の条件にも含まれていたから」
リュウキは、そういうと 手早く詠唱を開始。
すると、数秒後には、水色のトカゲが生まれて、足元をはい回っていた。
「わわっ!」
ユウキの傍にきて、足元をうろうろしだしたトカゲ。驚き、飛びのきそうになったが、何とか我慢する事が出来た。
「ユウキ。HPゲージの下のアイコンを見てみてくれ」
「え? うん。……えーと、あれ? なんだか、目みたいなマークが追加された。あれれ?? 直ぐに消えちゃったよ??」
きょろきょろしているユウキを見て、レイナが補足をした。
「それ、約1秒だけなんだ。そのアイコンが出てくるの。……だから、私の《戦いの歌》やお姉ちゃん、シウネーさんの補助魔法でのアイコンと紛れ込ませちゃったんだと思う。ちょっとうっかりしてて、ごめんね。リュウキ君が壁を張っててくれなかったら、きっとひっつけられてたって思うから」
リュウキの防御結界のおかげで、回避する事は出来たが、もしそのからくりに気付いてなかったら、高確率で、情報を盗み見されていた可能性が高いのだ。その手際の良さから見ても。
「うーん、そーだったんだー。ボクたちの後にすぐに攻略されちゃったのは、偶然じゃなかったんだねー? あっ! って事はそれ程までに、ボクたち、ボスを追い詰めてたんだね!?」
敗戦直後は、悔しそうにしていたユウキだったが、以前の件。過去のボス攻略でのからくりを知っても、決して恨みや憤慨の響きは無く、ただただ前向きな姿勢。……そして、それ以上に喜びの声も上げていた。その事には、アスナやレイナは勿論、リュウキも仄かな敬意を覚えていた。
正直に言えば、この手の手段は、キレイだとは言えない。自分達の手を汚さず、手をかけずに、他人の努力の結晶を横取りする様なものなのだから。だからこそ、リュウキは『格好良いとは言えない』とあの時言っていた。……かつての世界でも、そう言った手法は無数にあったから、どうしても 負の感情は抱きがちだった。
だけど、このメンバーにはそれが無かった。……何だか、とても気分が良くなる、と言うものだ。
だからこそ、そんな皆だからこそ、リュウキは改めて強く思った。
『絶対に勝たせてみせる。……他のプレイヤー達にとってみれば、オレのエゴかもしれない。……だが、それでも無粋な真似はされたくない』
~第27層 迷宮区~
そこから先は、本当に怒涛のラッシュ、と言ってよかった。
プランは、《僅か30分の間で、ミーティングを終え、そのまま強行突破》と言うもの。
アスナが、『30分で終えて、速攻でリベンジ!』を言い出した時は、さすがのスリーピングナイツの面々も、『げーー! 鬼教官だーー!』と声を上げていた。
因みに、声をあげちゃったのは、ジュンであり その後軽く、鬼教官に折檻されてしまったのは言うまでもない。
かつての攻略の鬼が舞い戻った気分で、何処か懐かしみ、リュウキは仄かに微笑んでいた。……でも、何やら察したアスナに 睨まれてしまったのも言うまでもなく、つられてレイナも笑っていたのだった。
そして、前回、ボスの第一戦目。
皆は、ベストを尽くすのは当然だが、深追いは、しすぎる事はせずに、言わば情報収集に特化したスタイルで戦っていた。 リュウキも、あの壁を作った事で見られる心配は無くなって、1つの懸念が取り払われた事で少し安心があり、そのスタイルに集中していた。
安全性を第一に考え、1分でも、1秒でも長く戦い、ボスのパターンを全て丸裸にする為の戦い方だ。これまでのボス攻略でも何度かしてきている為、手慣れたものだった。
そしてその戦い方は、ボスに与えるダメージはやはり少ないのだが、長く戦える為、相手の手の内を引き出しやすい。アスナやシウネー、レイナの補佐も必要最低限のものに限定し、なるべくアイテムを使わない様に徹底した。
そのかいもあって、メンバーの何人かが戦闘不能になってしまったものの、大体のパターンを把握出来、次の戦いを優位に進める事が出来る……、と思った矢先に、リュウキにメッセージが入ったのだ。
ボス戦で、悠長にメッセージの確認などできる訳がないのは当然だが、メッセージの本文は見る事は出来なくとも、そのメッセージの『宛名』と『件名』は直ぐに確認する事が出来る。誰からどの様な内容のメッセージが届いたのか、直ぐに判明した。
急を要するその2つを見て、人数が少なくなり、危うくなってしまっているのだが、それでも仲間達に了承を取り、前線を一時離脱してまで、リュウキは内容を確認した。
元々、様々なパターンを考え、その中で順位をつけて考えていたリュウキ。……その幾つか候補に挙がっていたものの中でも、最も厄介極まりない内容がそこには書かれていたのだ。
だから、リュウキがアスナとレイナに提言した。このまま続けていてもジリ貧になる可能性があって、更に ボス攻略前に、『一度死んでもすぐには戻らず、多くを見て覚えて』と言っているから、何人かが死に戻りしてしまう可能性があるのだ。更に『アイテムを使ってまで無理をする必要なない』とも言っている。
もしも、初戦で倒せそうなのであれば、アイテムを使っても――とも言っているものの、完全な勝機が見えてるとも言い難い。それに何より、もうそろそろリメインライトの効果が切れるころだ。その後、ボスを倒せたとしても、駄目だ。
このギルドの目的を考えたら、それが一番好ましくない。
――全員で、あの黒鉄宮に名前を刻んでこそ、価値があるのだから。
かつての世界では、あれは負の象徴。……墓石も同然だった。だけど、今は違うのだ。苦楽を共にしてきた仲間達の名前が残される。ここは、平和な世界だから。
と言う訳で、まだ最後まで残っていたメンバーはいたが、示し合わせて、一旦撤退する道を選んだ。次の戦いで万全を期すために。
そして、一度攻略をした道を突き進む一行。
だが、ここで1つ変化があった。それは、今メンバーで数が1人足らない事だ。
現在、パーティーメンバーは、9人しかおらず、1人欠けていたのだ。
「ねー、アスナ。リュウキは大丈夫かなぁ……? ここまで結構長い道だったし、幾ら一度は突破したとはいっても、リュウキ1人じゃきついって、思うんだけど……」
迷宮区内を突き進んでいく間、ユウキはアスナにそう聞いていた。
そう、今かけているのはリュウキである。
「大丈夫。リュウキ君、今は別行動をしてるけど心配しないで」
「そうだよっ。リュウキ君だからね? 私も正直……私も1人で無茶は……、って思ったんだけど、リュウキ君、とても真剣だったから。きっと何か考えがあるんだよ。私たちの事……、ユウキさんたちの事、すっごく考えてくれてたから」
「そ、そっか! うんっ」
「……リュウキさん」
アスナとレイナは、笑顔でそう答えて、聞いていたユウキとランは心配顔から笑顔になった。
リュウキが時折見せる、一層真剣味を帯びた表情は、レイナもアスナも覚えがある。何か考えがある、と言う事もよく判ってる。詳しく説明をしてもらいたかったが、状況が状況だったため、詳しくは聞けなかった。
そう、メッセージはアルゴからだった。
『アのギルドが、盛大に動イタ。今沢山集まっテル』
本文は短いが、それだけで十分理解出来た。
あのギルド――つまり、23層から26層まで、連続で攻略をしてきている大規模な攻略ギルド同盟が集まっている、と言う事だ。目的ははっきりしている。ユウキ達からの、情報収集が失敗した今、強行突破でボス攻略に挑むのだという事だ。
だからこそ、アスナも強行突破の手段に打ってでたのだ。
「ボス部屋まで行ったら、リュウキさんを待つ手筈ですか?」
「うん。そのつもりだよ。リュウキ君にも一応そう伝えてるから。………(もし、リュウキ君が言ってた事が、的中しちゃったら、その次第じゃないと思うけど)」
ランの質問に、アスナはそう答えた。
ボス攻略だが、リュウキがいるのといないのでは、難易度が遥かに違ってくる。リュウキが後から入ってきても、パーティメンバーである以上、特に問題は無いのだけれど、全員揃ってからの方が断然良いのだから。
「よーし! さっきよりも、ずっと早くに攻略して、後から来たリュウキに『おそーい!』って言ってやろうぜ!」
「あはは……、でも 1人ですからね。仕様がないと思うけど……?」
「何言ってるんだ、テッチ。油断しちゃうと、追い抜かれちゃうかもしれないぜ? ほら、ランに勝っちゃう男なんだから。何しても驚かないよ!」
まさにジュンの言う通りだ。どんな事でもやってのけちゃう人だから、驚かない。
ついさっき、披露した魔法もそうだが、それ以上にこのメンバーにしてみれば、ランと戦い、勝った事実だけでも十分すぎる。
「あははは………、さすがリュウキくん、だね。でも、スリーピングナイツの皆も、十分すぎる程凄いんだけどなぁ」
「あ、それ判る。……私たち、完敗しちゃったから」
アスナとレイナの2人は、ジュン達の話を聞いて、軽く苦笑いをしていたのだった。
軽く話をしながらも、せっせと攻略を進めていき、先ほどよりもはるかに速いペースで走破した。
ボス部屋前の回廊に到着したタイムが約30分。如何に、一度攻略しているとはいえ、驚異的な数値だと言える。……リュウキがいない上でのこのタイムだから、やっぱり脱帽ものだ。
「よーし! いっちばーーんっ!」
「あーー、コラまてーーーっ! ボクが一番だよーーっ!」
ジュンが勢いよく駆け抜けていくのをユウキが追いかける。皆も2人に続いた。
軈て……あの大きなボス部屋に通じる巨大な扉が見えてきた。
そして……もう1つ、見えてきたものがあった。
それは、メンバーにとって……、完全に想定外のもの。
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