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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第43話『災厄』

 
前書き
メリークリスマス!! 今回はそういう回じゃないけど!!
とりあえず予定としては、

・午前…受験勉強
・午後…友人呼んでクリスマスパーティー(ゲームするだけ)

ーーーてな感じです!(ほぼニート)
ゲーム大好きですから仕方ないですよ、全く。

ではでは、こんな流れで申し訳ないですが今回の話をどうぞ! 

 
門から離れているにも拘らず、ハッキリとした音で耳に入ってくる雄叫び。それは恐怖を揺り起こし、命の危険を掻き立ててくる。

間違いない。魔獣だ。


「うっせぇな・・・つか、どうなってんだよ」


まだ耳にある残響を振り払い、ラグナは困惑を乗せて言った。彼だって雄叫びを上げた魔獣の正体は掴んだはずだ。

『人喰いのウォルエナ』。それが、今王都を襲った犯人であろう。
先程、晴登とユヅキが倒したウォルエナは、実は群れがバックに潜んでいたということだ。
では、なぜ奴は単体で現れたのか。……よくわかんないけど、たぶんたまたまはぐれたとかではなかろうか。


「あいつ…一匹じゃなかったのか」

「とすると、最初から周りを囲まれていたのかな。それなら嫌な気分だね」


店から外を見て一言。
ちなみに窓から見える景色はあくまで大通り。門付近の様子は確認できない。

だが、ウォルエナが王都に来たというのが判明した以上、不毛な解析は後回しだ。
まずは奴らの魔の手から逃れなければならない。


「今大通りに出ると奴らと鉢合わせる。裏口を使うぞ」

「「はい」」


ラグナの意見に返事し、裏口へ向かう。

幸い、裏口から出た路地裏には特に異変はなさそうだった。
出待ちを予想して構えていたが、杞憂に終わる。


「ここからどうやって?」

「まだウォルエナの様子を見てないから何とも言えねぇが・・・やっぱ西か東を目指すしかないだろう」


晴登の質問にラグナは答える。
西か東しか選択肢がないのは、薄々気づいていた。何せ北は大討伐の真っ最中。そこに逃げ込むなんて、まさに『飛んで火に入る夏の虫』だ。

ただ面倒なことに、西や東に行くのに少々問題がある。
というのも、王都で大通りを使わないとなると、後は網の目のような裏路地を進まないといけなくなるのだが、如何せん複雑なのだ。いかに王都に慣れたユヅキやラグナでも、この迷宮を迷わずに進めるかは賭けだと思う。
加えて、王都全体が森だけでなく高い壁で囲まれているのだ。おかげで路地裏を行こうが、結局は誰しもが門へと辿り着いてしまう。端的に言えば、王都の出入り口が東西南北の四ヶ所しかないということ。
もし全てを敵に塞がれていれば・・・チェックメイトだ。王都の中で地獄の鬼ごっこのスタートである。
ウォルエナが北だけでなく南にもいるなら、東西にいないとも限らない。よって移動には細心の注意が必要なのだ。


「にしても意外だぜ、お前ら。ウォルエナが街中入ってきてるってのにそんなに冷静でよ」

「さっき経験したから慣れたんでしょうね。嬉しくないですけど」

「そう言うラグナさんは恐くないの?」


晴登が考え込むと、ラグナが口を挟んでくる。
晴登は普通に応対するが、子供扱いが滲み出ている発言に、ユヅキは少しムッとしていた。最後の言葉も仕返しの意だろう。


「はっ、恐くねぇよ。大人をナメんなよ?」


鼻を鳴らしながら、親指を立てて余裕を宣言するラグナ。そのあまりに堂々とした態度に、少なからず感心してしまう。
ユヅキも納得したのか二の句は継がなかった。


「じゃあここからの動きだが・・・まず大通りの様子だけでも確認してぇ。ウォルエナがどれくらい来てるのかも把握しねぇとだし」

「なら何で裏口を使ったんですか」

「成り行きだよ。でもって、今さら店に戻んのもあぶねぇし、そもそもここに留まるのも危ない。別の場所から確認してぇな」


ラグナの意外ともいえる作戦に、2人は納得の表情をする。
となると、まず監視に適した場所に向かわなければならない。土地勘のない晴登は、この場合戦力外だ。


「ウォルエナの被害を受けないためなら、高い所が良いんじゃない?」

「それだ。だが俺の店の屋上じゃ高さが足りねぇから・・・」

「だったらあそこしかないね」

「みたいだな」

「え、どこ?」

「ハルトはついてきて」


戦力外も戦力外。完全に蚊帳の外で話が決まる。しかし晴登はそれに納得するしかない。
3人は決まった目的地へ向けて走り出した。






目的地は、店から数分の距離にある高台だった。元々高低差のある王都ではあったが、ここは周囲と比べると特別に高い。近くに公園もあり、普段ならば穏やかな雰囲気の観光スポットだと思われる。
そんな高台から見える景色なので、それはそれはさぞかし絶景で──


「…こりゃやべぇな」

「うっ…」

「ウォルエナが、あんなに…」


予想とは裏腹な惨状を前に、3人は戦慄を隠せない。
ここから見える範囲、恐らく王都の南側だけだが、その視界の全てにウォルエナの姿が映ったのだ。
しかも所々には人間の姿も。ウォルエナに襲われる人々が大勢見えた。


「酷い…」

「人喰いがこんな大都市に来ちまったんだ。仕方ねぇ」


ユヅキが洩らした言葉に、ラグナは投げやりに言う。
しかし、その発言を晴登は聞き逃せなかった。


「仕方ないって…いくらなんでもその言い方は・・・」

「そのまんまの意味だろうが。早く逃げねぇとここも危なそうだぞ」

「う……はい」


ラグナが正論だと判断した晴登は、渋々承諾する。

しかし、王都に被害を出さないため奮闘した、さっきの時間は何だったのだろうか。
現時点で、既に被害者も出ている。助けに行きたいのが本音だが、心のどこかでは逃げたいと少なからず思っていた。


「とりあえず状況は分かった。後は西か東かに逃げるだけだが・・・」

「どっちに行っても変わんないんだよね」

「そこが地味に厄介だな…」


流れでユヅキとラグナの話を聞いていると、どうやら東西のどちらに逃げるか迷っているらしい。確かに、どっちにも可も不可もないのなら決め難いというもの。
けれども、ここは一点突破で行くしかない。


「じゃあ東に行きましょう!」

「ん? 何でだ、ハルト?」

「迷ってても仕方ないじゃないですか! どっちに行っても変わらないんですよね?」

「あぁ…まぁ。でも何で東だ?」

「適当ですよ、そんなの」


晴登の最後の発言に、ラグナは苦い顔をする。
「勘」という理由は、それほどまでに頼りにならないだろうか。晴登がどう言葉を繋げるか迷っていると、


「いいじゃんラグナさん。どうせ決め手はないんだし」

「ぐ……そうだな、迷う時間はねぇんだったよな。わかった、ハルト。東に行こう」

「はい!」


自分の意見が通ったことよりも、ラグナの表情が綻んだことが、晴登は嬉しかった。ユヅキのフォローに感謝しないと。

晴登はユヅキを向き、礼を言おうとすると、


「グルル…」

「「「なっ!?」」」


突然に背後から聞こえた唸り声。それには聞き覚えがある。
振り返って見ると、案の定1頭のウォルエナがこちらに近づいてきていた。
距離は約5m。いつの間に接近されていたのか。
目を血走らせて睨みつけてくるウォルエナは、先程見たサイズより若干デカい気がした。

・・・ということは、危険度が大分上がっている。
ユヅキとまた共闘するか? けど、さっきみたいに上手くはいかないかもしれない。
ラグナは、戦えるのかもよくわからないし・・・


「お前ら、下がれ」

「え?」


そう考えていた矢先、誰かの腕が晴登の行く手を阻んだ。
見ると、指をポキポキと鳴らしながら準備運動を始めているラグナの腕だ。


「ラグナさん!?」

「大丈夫、心配すんな。大人をナメんなよ?」


晴登の心配を振り払い、彼は構える。
驚くことに、その構えからは寸分の隙も感じられない。素人目の晴登でも、「ラグナは戦える」とわかった。


「お前らは先に行け」

「え、いや…」

「いいから行け。ここは俺が死守する」


典型的な死亡フラグに、晴登は一瞬困惑する。
が、実際にそんなことを言われてノコノコ逃げる訳にはいかない。


「3人で戦った方が楽に勝てますよ!」

「それじゃダメなんだ。お前らは先に逃げろ。これは店長命令だぞ」

「そんなの、今は意味なんて…」

「あぁもう、たまにはカッコつけさせろよ。大人の甲斐性ってやつを見せとかねぇと、お前らは俺をバカにし続けるだろ?」

「けど・・・っ」


そこまで言いかけたところで、晴登の袖が引っ張られる。
見ると、ユヅキがこちらを真剣に見ていた。


「ユヅキは…3人で戦った方が良いって思うよね?」

「思う……けど、ボクは少しでも生き残る人数が多い方を選ぶ」

「どうして…!」

「ハルトもだけど、ラグナさんもボクの恩人だ。恩人の頼みは聞かないとね」


期待を込めて晴登は訊いたが、ユヅキにキッパリと切り捨てられる。彼女はラグナを置いていく選択をしたのだ。


「ユヅキ……」

「行こう、ハルト」


ただただ情けない声を洩らすと、今度は手を掴まれる。そして手を引かれながら、晴登は最後にラグナを見た。

彼は無言で頷く。それが答えだった。


「…すいません、ラグナさん」

「お前が謝る必要はねぇよ。無事に逃げ切ってくれれば、それでいいんだ」

「…はい。必ず!」


その言葉を皮切りに、2人は駆け始める。
向かうは高台を降りる階段・・・ではなく、高台から落ちないよう仕切られている柵。


「飛び降りるよ、ハルト、着地お願いできる?」

「任せろ!」


何の躊躇いもなく柵を越えて跳んだ2人。その高さもまた5mはある。しかしその高さに怯えることなく、晴登は下に掌を構え、風を放った。
すると巻き起こった風がクッションとなり、2人の足がゆっくりと地面につく。

そして、後ろ髪を引かれる思いを断ち切りながら、東へ向けて駆けていった。



「頑張れよ、2人とも」


ラグナは見えなくなった2人を案じ、そう溢したのだった。







「やっぱり大通りは人が多いね」

「別の道はないの?」

「ボクはラグナさんの店以外は特に行かないから・・・正直わかんない」

「マジか…」


路地裏から顔を出して大通りの様子を見ながら、2人は話し合う。
ウォルエナが侵入してきたことで、避難する人でごった返す大通り。遊園地のアトラクションの行列でも比較にならないくらいの人の多さだ。東で既にこの量なのだから、西にもこれくらいはいるのだろう。となると、外に出るのは容易ではない。


「この人数を4つの門だけで出入りさせるのは無理がないか?」

「こういう事態に陥ることを想像してなかったのかな」


ユヅキの言う通り、恐らくこの王都では避難訓練など行われていなかっただろう。そりゃ人口が多すぎるからできないのも無理はないが。
つまり、大勢の人々がパニックになって一目散に逃げ出すのは、そういう裏があったのだ。
であれば、ここからスピーディーに避難ができるとは思えない。


「大通りは無理だな。大通りに沿う感じで裏を行こう」

「それしかないね」


2人は再び、大通りを外れて路地を進む。

しかし、晴登たちと同じ考えで路地を進む人々も多くいた。そのため、さらに奥に奥にと進む羽目になる。
右に左に、複雑に入り組んでいて思うように前に行けない。

次第に焦りが募り始めたため、一旦止まって様子を窺ってみる。

──そして気づいた。


「…迷ったな」

「…迷ったね」


知らない道を走ると、結果は大概こうなるだろう。
2人は肩を落とし、頭を抱える。


「どっかの建物に入れないか?」

「無理そうだね。裏口があったとしても、大体鍵がかかってるはずだよ」

「うわぁ…」


大通りから外れれば外れるほど、路地はドンドン狭くなる。おかげで日光が遮られ、辺りはさらに薄暗い。
正直言って、右も左も同じ景色に見える。気分的には、いわゆる無限回廊を歩いている感じだ。


「風を使って屋上に登ってみる?」

「あまり魔力は使いたくないな。いざって時に戦えなくなっちゃうし」

「…ホントに手が無いな。せっかくラグナさんが逃がしてくれたのに」

「だから、ボクらは走り続けなきゃいけないんだ。絶対に生き延びないと」

「そう…だな」


ユヅキの言葉に納得し、晴登は重い脚に鞭打つ。2人はまた走りを再開した。

どんな迷路にも出口はある。そう信じて。







「ん?」


走り始めてすぐのことだった。ふと晴登の足が止まる。
進行方向とは別の右の通路。その視界の先には延々と通路が続いていた。


「どうしたのハルト? 止まっている暇はないんだけど・・・って、ハルト!?」

「……っ!」


ユヅキの声を無視し、晴登は右の道に入って走り始めた。
実は、今しがた見ていたのはただの長ったらしい道ではない。見ていたのは、その数瞬前に視界を横切ったものだ。


「智乃……?」


親愛なる妹の名を呟きながら、晴登は道を突き進む。
間違いなく、さっきの瞬間に少女が見えた。その顔が……智乃と酷似していたのだ。
この世界にいるはずのない存在。真実かどうかを確かめなくてはならない。


「たぶん…こっち」


少女が見えたのは一瞬だけ。今は勘を頼りに後を追っている状態だ。
自分が今どこを走っているのかなんてとうにわからないけど、もはや関係ない。
晴登は智乃らしき少女を必死に捜す。





「見つけた…!」


そしてついに、少し開けた路地でその少女を視認した。
数頭のウォルエナが車座になって囲んでいたという状況たが。


「…智乃、じゃない」


そんな危険な事態でも、晴登は確認を優先する。
目の前にいたのは、金髪の少女だった。顔こそ智乃と瓜二つだが全くの別人である。
しかし晴登はその事実を察してもなお、その少女の元へ飛び込んだ。

少女が・・・恐怖で涙を流していたから。


「グルッ…?」


突然の獲物の増加に、戸惑いを見せるウォルエナ。
それもそうだ。わざわざ輪の中に飛び込むなど、バカ以外ありえない。


「絶対に…見捨てない」


智乃ではない。それがわかれば一段落。
だったらその後は、この少女を守ることに決めた。自分の妹と似た顔をした人物が喰われるなんて、想像するだけでも気分が悪いのだ。

少女を庇うように立ち、努めて全てのウォルエナに隙を見せないようにする。
全部で4頭。輪に入るのは容易だったが、出るのは困難だろう。
であれば、必然的に戦わなければならない。が、1人で4頭を相手など、無謀にも程がある。勝率・・・もとい、生存率は絶望的。

けど、後悔はしていない。


「…やってやるよ」


この娘がどんな経緯でここに逃げ込み、襲われたのは知らない。
でも、囲まれて今にも喰われそう。それが見てとれた時点で、見捨てるなんてできる訳がない。

晴登の戦う気を察したのか、ウォルエナは唸りを上げ始める。完全に臨戦体制だ。


「おにぃちゃん…」


刹那、足元から声が聞こえた。幼く、可愛い声だ。声質まで智乃とそっくりとか、反則だろこの世界。

…こんな弱々しい少女を放っておける訳がない。
晴登は大きく深呼吸し、そして・・・


「この娘には、指一本触れさせねぇよ!!」


最後に上げた晴登の怒号を合図に、晴登を殺さんとウォルエナが動いた。


そして、ある人物も動いた。


「いい啖呵だ。気に入ったぜ、ガキ」


突如として降ってきた衝撃。
それはウォルエナは愚か、晴登たちも吹き飛ばす。

壁に背中を打ちつけ、晴登は悲痛な声を洩らした。だが、腕に抱いていた少女は無傷。ただ、今の衝撃で気を失ったようだ。
そして晴登は、何事かと前を見る。砂やら埃やらが舞い、視界が悪い。誰かの声が聞こえて、何かが降ってきたというところまでは分かったが・・・


「無事か? ガキ共」

「へ!?」


突然に耳元から聞こえた声。晴登は驚いて飛び退き、尻餅をつく。
目の前にいたのは男性。屈んでいるからよく分からないが、かなり長身だと思われる。また、燃えるような赤い髪色をしていた。


「あなたは…?」


異世界感丸出しな容姿の彼に、晴登は名前を問う。
すると彼はその質問が面白かったのか、豪快に笑い出した。
そんな男性を晴登は怪訝そうに見ると、男性は笑いを止め、


「俺を知らないってことはお前よそもんだな? 不幸だな、こんな事態に遭遇して」

「え?」


質問とは違う答えが帰ってきて、晴登は眉をひそめる。ヘラヘラとしていて、なんともいけ好かない奴だ。
そんな不機嫌な晴登の様子を見た男性は「あぁ悪い悪い」と手を振りながら、答えを訂正した。


「俺は王都騎士団団長、アランヒルデ・ストフレア。最強で最恐の男だよ」


そう言って男は、アランヒルデはニカッと笑った。

 
 

 
後書き
ようやく出てきたアランヒルデ。あまりにも遅いのでヘンテコな名前付けてやりましたよ、グヘへ。

そんなアランヒルデですが、次回にどんな活躍をしてくれるのでしょうか。
少しは盛り上がりそうな気配・・・?

では、また次回に会いましょう! 
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