提督はBarにいる。
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出撃・礼号作戦!~前哨戦~
早速だが霞を旗艦とした艦隊に作戦海域へと向かってもらう。今回は鎮守府の近くの為、輸送船は無しで直接現場に向かってもらう。事前にスタート地点にすると打合せしていたポイントに着いたら連絡が入る手はずだ。
『こちら霞。提督、聞こえる?』
噂をすれば影、って奴だな。霞からの入電だ。
「あぁ、感度良好だ。作戦海域に着いたか?」
『着いたら連絡しろって言ったのはそっちでしょ!?ホント、使えないわねぇ!』
少し苛立ったような様子の霞。多少入れ込みすぎに感じるが、初めての旗艦だ。緊張して当然だ。
「何だ、柄にもなく緊張してんのか?霞。声が上ずってんぞ?」
『なっ!?何言ってんのよこのクズ!私は緊張してなんて……』
「ははは、その位の口が利けるなら大丈夫だな。戦闘があったらその都度報告。損害状況と敵の情報は正確にな。」
『わ、解ってるわよ!じゃあねっ!』
そのままブツンと通信を切られた。まぁ1度目の出撃だ。威力偵察程度のつもりで、ボスの下まで辿り着けたらめっけもん、位の感覚で送り出してるからな。
「相変わらず性格悪いネー、テートクぅ。」
「まぁそう言うなって。霞はあの位の方がいつもの調子が出るんだからよ。」
ウチの艦隊には調子を崩さない限り、敵に怖じ気付くような柔な鍛え方をした奴はいない。そう信じているからこそ、普段通りの力を出せるようにするのが俺の務めだ。自信の無い奴には励ましの言葉をかけ、緊張している奴には軽薄な言葉をかけてからかい、その緊張を解す。
「普段通りにやれ、必要な力は付けてある。」
ってのが俺の口癖だ。霞は励まして褒めるよりも、今の位の方が反骨精神に火が点いて調子が出てくるんだ、艦娘1人1人の個性を理解して運用するのが提督の器量ってモンだろ?
「それを世間一般では女ったらしとか、ジゴロとか、スケコマシというのでは?」
辛辣すぎるぞ、加賀。
そんな会話を交わしている間にも霞の率いている艦隊は前進を続け、どうやらボスである潜水棲姫の下にまで辿り着いたらしい。
『こちら霞。敵のお姫様がおいでなすったわ。どうすんの?』
「沈められるなら沈めて構わん。どうせ複数回沈めないといかんからな。」
鬼・姫級の深海棲艦が作り出す『巣』は、その核となる棲姫を倒せば消滅する。但し一度沈めただけでは『巣』は消滅しない。一度沈められた棲姫は、『巣』を構成している資材を喰らって復活する。そうやって『巣』の規模をどんどん小さくしてやり、最終的には破壊する。地道な作業だがそれしか手がないのが現状だ。
『了解、全力でぶっ潰してやるわ!』
『マタキタノネェ……?エモノタチガァ!』
霞のヘッドセットのマイクから聞こえてきたのは、敵の『巣』の主である潜水棲姫の甲高い声。姫級ともなると人語を理解して言葉を発する事がある。大概が怨み言で聞くに耐えないような代物だが、時折意味深な言葉を発する者もいる。それを聞くと、やはり深海棲艦は艦娘と生まれを同じくする者なのではないか?と考えてしまう。
艦娘は嘗ての軍艦の魂……『艦魂(ふなだま)』が人の姿に転生した者だという。ならば深海棲艦はその負のエネルギー……沈められた痛みや苦しみ、孤独感やある種の怨念…それらが形作られた者なのでは無いか?と。まるでコインの表と裏のように。
『クソっ、倒しきれ無かった……!提督、夜戦はどうすんの?』
っと、いかんいかん。考え事を始めるとどうにも回りの声が聞こえにくくなる事がある。気を付けねば。
「夜戦はしなくていい。いくら手負いとは言え夜戦の潜水艦は脅威だ。それにこちらの攻撃も殆ど当たらんしな。一旦帰投しろ。」
『了解。追撃せず、ね。だけど大破までは追い込んだわ。』
よしよし、最初の出撃にしては上出来だ。
「わかった、詳しくは帰ってから聞く。油断せずに帰ってこい。」
そう言って今度はこちらから通信を切る。通信の内容を聞いていた嫁艦達がクスクスと笑っている。
「あんだよ?」
「いえ、なんだか提督がお父さんっぽいなと思いまして。」
俺も結婚して所帯染みて来た、という事だろうか?そこまで老いて落ち着いたつもりは無かったんだが。
「潜水棲姫と交戦、鹿島が中破、日向が小破に追い込まれるも、敵棲姫を大破まで追い込みました。以上、報告終わりっ!」
霞からの帰還報告を受け取る俺。
「ご苦労だった、引き続き同じ陣容で頼む。中破した鹿島は入渠ドックで高速修復剤を使用、補給・疲労回復の後に再出撃。『間宮』に甘い物を頼んである。各自、適宜補給してくれ。以上、解散。」
やはり甘い物には目がないか、我先にと駆け出していく出撃メンバー。
「提督さ~ん……私達にオヤツは無いの~?」
手持ち無沙汰にしていた瑞鶴が不満げに漏らした。時刻を見ると既に午後3時を回っていた。ここにいるメンバーは今の所は頭脳労働ばかりだからそれほど空腹にはなっていない筈だが、頭を使うと糖分が欲しくなるという欲求は解る。
「ちょっと待ってな、貰ったチョコで作った奴が……」
冷蔵庫に入れてあった。貰いすぎたチョコ(もちろん義理チョコだぞ?)で作ったお手軽チョコラスク。
フランスパンを1.5cm幅にカットして、トースターではなく電子レンジで加熱して乾燥させる。これによって焦がさずにサクサク食感が作れる。今度は常温に戻して柔らかくしたバターを練ってトロトロにしたら砂糖を加え、シュガーバターを作る。これをパンに塗って、仕上げに湯煎したチョコをかけて冷蔵庫で冷やし固めれば完成。本来ならチョコソースを作ってフランスパンに染み込ませたタイプを作りたかったが、市販ではなく手作りチョコも混ざっていたので早めに消費する為にこのような形にした。
「ん~♪サックサクで紅茶に合うわ~。」
「ホント、提督の料理の幅は広すぎますよ。」
「花嫁修業する気が失せて来ますよねぇ~。」
おいお前ら、どんどん干物女臭くなってきてるぞ、気を付けろ。
「金剛、コーヒーお代わり。」
「ハイハーイ、淹れてくるヨ~。」
そう言いながら給湯室に向かう金剛を見送る。
「でも、あの金剛さんがコーヒーを淹れてくれているなんて意外ですね。」
チョコラスクをかじりながら、そんな感想を述べた。まぁ確かに、金剛といえば紅茶、紅茶といえば金剛というイメージは根強い。
「そうでもねぇさ。昔の海軍のお偉方にはコーヒー党が多かったらしいし、金剛の艦内で催された晩餐会ではコーヒーが出されていたって史実もあるしな。艦としてでもそれを眺めてれば美味いコーヒーの淹れ方の1つや2つ、身に付こうってモンだ。」
それにアイツは、俺の好みに合わせてくれる器量を持ち合わせている。奨めはするが押し付けはしない。良くできた嫁だよ、全く。
「おアツいですねぇ、いつもながらw」
からかうな赤城、お前の分のチョコラスク没収すんぞ。
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