提督はBarにいる。
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トマトと女殺し・3
「……しれぇ。」
あれ、幻聴か?一瞬雪風の声が聞こえたような気が。と思って周りを見回していた瞬間、不知火が俺の腹に抱き着いてきた。
「しれぇ……しれぇだぁ…………///」
雪風の声かと思ったら、発信源はお前か不知火!流石は姉妹と言うべきか似すぎなんですけど。ここ最近運動不足で少し出てきた腹に抱き着いて、更にはギューッと抱き締め&ほっぺスリスリ。これはヤバい、破壊力抜群。ロリ〇ンの提督だったら間違いなく轟沈不可避ですわ。
「え、えぇ~と不知火?大丈夫か?」
「ら、らいじょうぶですよぉ……ヒック!///しらぬいにはぁ……にゃにも落ち度なんてない、ですよぉ……?」
何この可愛い生き物。普段の猛禽類みたいな鋭さが無くなって、寧ろ雪風とか時津風が持ってる小動物的な雰囲気なんですけど。フェレットとか、子犬とかそんな感じの。
「な、何か落ち度が…ありましたかぁ……?」
来ましたよコレ、上目遣いでウルウルお目目攻撃。陽炎がこれで陥落してたけど、マジでヤバいわコレ。(この間、抱き着かれっぱなし)
「い、いや?特には無いが……。」
それを聞いた途端、不知火がにへらっと笑い、
「よかったぁ……///」
と再びスリスリ再開。あぁもう、俺にどうしろと。
「しれぇ?しらぬいの悩み、聞いてもらえますかぁ……?」
「お、おぅ。なんだ?」
ケッコン出来ないとかじゃないよな?と少し思ったがあまりにも突拍子が無さすぎるな。
「実はしらぬい、陽炎お姉ちゃんよりも、そして妹の黒潮よりも背が低いんです。」
それは初耳。てっきり、姉妹の中では1番か2番目位には背がデカいかと思っていた。やっぱ、普段の大人びた雰囲気がそう錯覚させるんだろうか。
「もちろん、雪風とか他の妹よりかは大きいんですが、それでも気になって…しれぇは背の小さい娘はお嫌いですか?」
普段の不知火からは想像も付かないほどに子供らしい悩み。……いや、案外こういうコンプレックスをひた隠す為に気張っているのかもな。
「んな事気にすんな、不知火。」
俺はそう言いながら不知火の頭を撫でてやる。不知火は驚いたような、戸惑ったような顔をしているが大人しく撫でられている。
「俺は4人兄妹でな。男3人女1人の構成で長男が俺なんだが、弟は2人は俺よりもデカいぞ?身長よりも、兄弟姉妹ってのは『器』のデカさとか、そういうモンが大事だと思うぞ?」
……あら、ずいぶん静かになったと思ったら寝入っちまってら。随分と気持ち良さそうに寝ちゃってまぁ。娘を持ったらこんな感じで飲むのも良いかもな、なんて事を思ってたら。
「提督さ~ん、飲みに来たよ~っ!」
「美味しそうな匂いがしたのでこちらに……♪」
「ちょ、ちょっと赤城さんに瑞鶴も……」
入ってきたのは赤城に瑞鶴、そして霧島。
「あっ?」
「「「……あっ(察し)」」」
霧島がスマホで写真を撮り(現在、泥酔して寝入った不知火を膝枕&ナデナデ中)、赤城と瑞鶴は『おじゃましましたー』と棒読みで言いながらドアをそっ閉じしようとしている。
「いやいや待て待て勘違いすんなお前ら。」
「いやぁ、まさか提督さんがこんな事してるなんて、ねぇ?」
「以前からストライクゾーンは広いと思ってましたが、まさか駆逐艦にまで手を出されようとするとは、ねぇ?」
「さっきの写真、青葉に売ったら幾らで買ってくれるでしょうか?」
3人が3人、ニヤニヤした面でカウンターに座っている。対して俺は、再びキッチンに立つ羽目に。畜生、どうしてこうなった。(不知火は赤城に膝枕を換わって貰った)
「だってまさか、店に来たらカッコカリでも旦那様が幼い娘を酔わせて如何わしい行為をいたそうとしてたら、ねぇ?」
「だぁから、それがそもそもの勘違いなんだって赤城ぃ。」
俺はそう弁解しつつも、調理を進めている。3人の提示した条件は、『今宵の飲食代をタダにする事』。それで黙っていて貰えるなら安い物だ。
「まったく、こんな小さな娘にこんな強いカクテル飲ませて。お姉様に知れたら大変でしたよ?『お義兄さま』?」
霧島は最近、俺をからかうとき等はそう呼ぶようになってきた。まぁ確かに関係としては間違ってないし、本命は別に居るのだから問題ないのだが。
「だから、勘弁してくれって霧島もぉ。ちゃんと今日の飲み代は持ってやるから。」
俺はそう言いながら、手製のトマトケチャップを作っている。不知火の為に多めに入荷しておいたトマト缶が余分にあまりそうなんでな、幾つかはストックしておくが調理してしまおう。
《手作り意外と難しい?手作りトマトケチャップ》
・ホールトマト:1缶
・砂糖:大さじ8
・粒マスタード:小さじ2/3
・塩:小さじ2/3
・白ワインビネガー:大さじ4
・ハーブミックス:少々
・レッドペッパー:2つまみくらい
・シナモン:小さじ2/3
・コンソメ顆粒:お好み
・隠し味にウスターソース等:適量
まずはホールトマトを潰す。めんどくさいから手で荒々しくでいいや。鍋に移して火にかけたら、調味料を全部ぶちこんで強火で加熱して酸味を飛ばしつつ、香りが変わってとろみが出てきたら中弱火まで火を弱めて煮詰める。もしも具入りのがお好みなら、最初から人参や玉ねぎ、セロリなんかを細かいみじん切りにして加えよう。今回はシンプルに行くから具なしで。
十分に煮詰まったら隠し味に泥ソース。こいつはウスターソースなんかを作る時に出る沈殿物で、とんかつソース等よりもスパイスや野菜、フルーツの濃度が高い。普通に使うよりも料理の隠し味やコク出しなんかに使うと抜群に美味くなる。ここで一旦味見。……う~ん、市販品には劣るが、手作りとしては十分に美味い。やはりプロの仕事は侮れない。
「提督さ~ん、まだ~?私お腹空いてきたんだけど。」
「もう少し待て、瑞鶴。今特製ケチャップに合う料理作るから。」
ぶぅ、と口を尖らせてカウンターに突っ伏している瑞鶴。なんだろうな、コイツも若干酔うと幼くなるタイプなのか?
さてさて、それじゃあフライドポテトでも揚げるとしますかね。
ジャガイモは皮付きのまま櫛形に切って、今回は粉をまぶしておく。まぶすのは強力粉。薄力粉でもいいんだが、強力粉の方が衣がバリッとして歯応えが心地好い。
後は油で揚げるんだが、ここに一工夫。ジャガイモを点火前に油に入れてしまう。油の量はイモがヒタヒタになるくらい。こうすることで大きめにカットしたフライドポテトでも、焦がすことなく生焼けにもならない。
点火して油が温まって泡が立ってきたタイミングで、油にローズマリーを適量。こうすると油に香りが移ってポテトにもいい香りが移るんだ。
イモが揚がったら油を切り、ザルに空けて塩・胡椒・ガーリックパウダーで味付け。仕上げに盛り付けてさっきのケチャップとマスタードを添えて完成。
「ハイよ。『フライドポテト~手製のケチャップを添えて~』だ。熱いから気をつけろよ?」
「「「いただきま~す♪」」」
3人は男前ジョッキ(用量1リットル)をそれぞれ持ち、ビール片手にポテトに舌鼓。
「うーん、やっぱり提督の料理は絶品ですねぇ♪」
「ホントよねぇ、花嫁修業する気が失せちゃいそうよっ。」
「アハハ、けれどやっておかないと後々大変ですから……」
そんな会話を繰り広げている3人。そう言えば霧島と例の憲兵の彼はどうなっているんだ?
「霧島、彼氏とは上手くいってるのか?」
「んぐっ!?」
焦りすぎだろ。イモがつかえるぞ。霧島はビールを流し込んでハァハァと荒く息をしている。
「し、死ぬかと思った……。交際は順調ですよ?その内良い報告が出来るかと。」
そうかそうか、それは何よりだよ。
「さて、お三方。そろそろ〆の料理だと思うんだが……何がいい?」
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