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提督はBarにいる。

作者:ごません
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提督の採用テスト・問2-3

 早霜は何をそんなに上がっているのか、ガチガチに緊張して固くなっている。

「早霜、あまり緊張するな。肩の力を抜け。」

「は、はいぃ……。」

 那智にリラックスしろと言われてはいるが、先程までの妖艶でミステリアスな雰囲気はどこへやら、その怯えたような表情は、まるで雨に打たれて衰弱したずぶ濡れの子犬のようだ。ぶっちゃけた話、可愛い。

「で、では何かリクエストは有りますか?」

 少しは平静を取り戻したか、那智と木曾に尋ねる早霜。俺は敢えて第三者の視点から観察させて貰おう。

「そうだな。ベースの酒はウィスキーがいいな。出来れば達磨を頼む。」

 那智はホントにウィスキー好きだな。それもほとんど達磨。前に聞いたら、

『し、仕方なかろう!私は達磨以外のウィスキーに馴染みが無いんだ。古臭い女で悪かったなっ。』

 と、拗ねられてしまった。誰も悪いとは言ってないんだがなぁ。

「俺は何でもいいんだが……そうだな、スッキリした飲み口の方が嬉しいかな。」

「わ、解りました。では……。」

 早霜はそう答えて、先程とはうって変わってぎこちない手つきで準備を始めた。

「しかし、世界と比べて日本のウィスキーというのはどうなんだ?美味いのか?」

 ウィスキーの瓶を眺めながら、木曾が頭に浮かんだ疑問を口に出した。

「美味いんじゃないか?何せ日本のウィスキーは『世界5大ウィスキー』に数えられる位だからな。」

 日本のウィスキー、ジャパニーズウィスキーと大別されるらしいが、スコッチ、アイリッシュ、バーボン、カナディアンと並ぶ5大ウィスキーに数えられるらしい。実際、ウィスキーの世界的な品評会なんかでも世界一を獲ったりしてるしな。

「ほぅ、そうなのか。ならわざわざ他国のウィスキーは飲まなくてもいい、という事だな!」

「いや、その理屈はおかしい。」

 なんてアホな会話を交わしている間に、早霜の作業はかなり進んでいる。

 ミキシンググラスに氷を入れて、そこに達磨を36ml。更にドライベルモットを12ml、ポートワインを12ml、オレンジビターズを1dash。これをゆっくりとステアしていく。

「そういえば提督、ポートワインって美味しいのか?」

「は?何だよ藪から棒に。」

「いや、この間足柄が合コン帰りに買ってきていてな。羽黒が貰って飲んでいたのだ。それもお代わりして。」

 羽黒の話は聞いていた。ウチには珍しい下戸の艦娘。飲めなくは無いのだがアルコールに弱いらしくあまり飲めないらしい。

「フム。飲みやすいかは知れんが、ポートワインは普通のワインよりも度数が高いハズだ。」

 ポートワインとは、ポルトガル北部特産のワインで、別名酒精強化ワイン。ワインの発酵途中に葡萄から作られたグレープ・スピリッツと呼ばれるアルコールを添加し、発酵を止めて葡萄の甘味を残すように作られる物だ。必然的に甘いが度数の高いワインに仕上がる。

「そのせいか。羽黒が淫らになったのは。」

 おいおい、穏やかじゃねぇ会話が出たぞ。

「羽黒が酔っ払うと近くにいる人に絡み付いて甘えてくるんだ。お陰で一人で飲みに行かせるワケにもいかん。」

「あぁ、よく見張っといてくれ。」

 なんて会話を交わしている内に、目の前にカクテルグラスが置かれている。

「『アイアン・レディー』です。イギリスの女性首相・サッチャーをイメージして作られた一杯です。」

 では、いただきましょう。



「うん、スッキリした口当たりだ。」

「ワインとウィスキーの組み合わせ……アリだな、これは。」

 確かに美味い(悔しいが)。ワインの甘い口当たりに母親らしき母性を感じつつ、ウィスキーのガツンとくる風味に意思の強さを感じる。確かに『鉄の女』と呼ばれたサッチャーのイメージピッタリだ。

「さて、お次は何を?」

 一杯作って緊張がほぐれたか、早霜は此方に尋ねてくる。

「そうだな、では春先の洋上はまだ寒い。暖かい一杯を貰えるか?」

 憧れの那智からのリクエスト。早霜はどう答える?

「…提督、コーヒーを淹れる機材は有りますか?」

 ホットコーヒーと聞いた瞬間、俺はピンと来た。あの一杯を出すつもりか。

「あぁ、あるぞ。コーヒー淹れるのは俺がやろう。」

 コーヒーとウィスキー。よく紅茶とウィスキーの組み合わせは聞くが、コーヒーはあまり聞いたことが無いだろう。

「あ、コーヒーはブラック以外で頼むぜ?」

 おやま、木曾から意外な注文。ブラック飲めないのか。

「天龍は意地張って飲めないクセに、ブラック飲んで大人ぶってるからな。俺は見栄なんて張らずに自然体でいたいのさ。」

 いい心がけだ。どこぞの見栄っ張りビッグセブンに爪の垢でも煎じて飲ませてやろうか。そんな事を考えながら、ゆっくりと豆を入れたフィルターに湯を注いでやる。一方早霜はアイリッシュ・グラスを準備し、それぞれにカルーアを15mlずつ注ぐ。そこにホットコーヒーを適量注ぎ入れ、更にアイリッシュ・ウィスキーを倍の30ml注ぐ。コーヒーの後に注ぐのはウィスキーの香りを飛ばさない為だな。ウィスキーを入れたら軽くステア。そこに適量の砂糖を加えてホイップした生クリームをフロートしたら出来上がりだ。

「『アイリッシュ・コーヒー・ア・ラ・カルーア』です。ブラックコーヒーが苦手との事でしたので、少し甘めに仕上げてみました。」

 本来は泡立てていないクリームを浮かべるのだが、今日は少しだけアレンジを加えた。カルーアを加えない『アイリッシュ・コーヒー』というレシピもあるんだが、カルーアを入れるとコクと深み、それにローストしたコーヒーの香ばしい香りが加わって更に美味しくなる。秋から冬にかけての寒い時期に、コーヒー党の人には是非試して貰いたい一杯だな。 
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