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提督はBarにいる。

作者:ごません
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労いの一杯


 さて、約束の2230。年越しの宴会があちこちで行われているのか、普段ならこの時間は(一部を除いて)静かなこの鎮守府も、今日はまだ昼間並みの騒がしさだ。しかし、ウチの店『Bar Admiral』は静かな物だ。なにしろ、今日は特別なリザーブ客だ。そしてこの日は、出すメニューは決まっている。俺は今そのメニューを絶賛仕込み中。とそこに、コンコンと扉をノックする音が。

「おぉ、いらっしゃ~い。入ってくれ。」

「お邪魔しますね~。」

 そう言って入ってきたのは鳳翔・間宮・伊良湖・雷・浦風。俺と一緒に今日の大忙しの厨房を支えてくれた頼りになる部下……いや、戦友と言い換えても良いかも知れんな。

「さぁさぁ、そんな入り口に突っ立ってないで、座ってくれ。」

 俺にそう急かされて5人はカウンターに着席する。特に伊良湖は居心地悪そうにモジモジしたり、店の中をキョロキョロと見回していた。そこでようやく、伊良湖の不審な様子の意味を理解した。

「あぁそうか、伊良湖はウチの店に来るのは初めてだったか?」

「わひゃあ‼ は、はい……。そうです。」

 俺が話しかけただけでそんなにビックリしなくても。そんなに俺って怖い顔してるかね?ちょっとショック。そんな様子を見て、間宮が肩を揺らしてクスクスと笑っている。

「提督さん、伊良湖ちゃんはほとんど提督さんと会話した事ありませんから、緊張してるんですよ♪」

 なるほど、そういえばそうか。確かにたまに『間宮』に行っても応対は間宮だったし、裏方で忙しそうにしていた伊良湖は俺の前に姿を見せた事はほとんど無かった。

「伊良湖。」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 敢えてしかめっ面で話しかけ、ニッと笑い

「そんなに緊張するな。お前の作る最中のお陰でいつも大規模作戦の時は助けられてるんだ。もっと自分の仕事に自信を持て。な?」

 そう言うと伊良湖は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「あらあら、提督さんてば伊良湖ちゃんみたいな娘が好きなんですか?」

「何言ってんだよ全く。あんまり茶化すと出してやらんぞ?」

 これは毎年恒例の行事。一年の締めくくりの忙しさを一緒に潜り抜けた戦友への特別メニューだ。



「さ~て、さて。メニューを仕上げる間に飲み物はいかがかな?」

 これも毎年のお決まり。リクエストに応じて一番いい酒を俺の持ち出しで提供する。要するに、俺の奢りだ。

「では、私と間宮さんは赤ワインを。」

 鳳翔と間宮は普段日本酒等が多いからか、この時は洋酒の注文が多いよな。

「ウチは洋酒は好かんから……日本酒、熱燗で貰えるかなぁ?」

 浦風は日本酒か。イメージ通りといえばイメージ通りか。

「伊良湖ちゃんはどうする?」

 意外にも今回が初参加の雷が伊良湖に尋ねる。

「あ、私はあんまりお酒が強くないので……。」

「ふ~ん。じゃあ、私と伊良湖ちゃんはお任せで!」

 成る程、承りましょう。まずはワインか。この日の為にとっておきを仕入れてある。俺は秘蔵のセラーから木箱を取り出した。その側面には『Domaine de la ROMANEE-CONTI』と印字されている。

「て、提督これって……‼」

「ディ、DRCじゃないですか!こんな高いものをわざわざ……」

 DRC。ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ=コンティ。世界中で最も語る者が多く、口にする物が最も少ないとされるブルゴーニュワインの最高峰の生産者(ドメーヌ)を示す物。その証が印字された箱が今、目の前にある。そう、特別に箱買いしちゃったぜ。

「さぁさぁ、そんなにビビってないで。高級っていったってワインなんだからさ。飲まなきゃソンソン、ってね。」

 俺は手早く箱から1本を取り出し、何の感慨もなくコルクを抜く。途端に広がる華やかな葡萄の香り。確かに匂いだけで判る、こいつぁスゲェや。しかし酒は飾る物じゃない、飲む物だ。グラスを2つ取り出し、並々と注ぐ。

「さ、どうぞ。」

 鳳翔と間宮、2人に渡す。しかし2人共恐縮してしまったのか、口を付けようとしない。

「何だよ、飲まないの?なら、俺が貰っちまうぞ~?」

「だ、ダメですっ!」

「い、頂きますっ!」

 2人同時にグラスを傾けた。途端に2人の顔に驚きの色が浮かぶ。

「「お、美味しい……!」」

 2人同時にリアクション。どうですか?世界最高の赤ワインのお味は。

「何と言い表してよいやら……」

「とにかく美味しいです!」

 だろうね、俺も食レポ出来るとは思えねぇもん。さて、伊良湖と雷にはこの開けた赤ワインでちょっと贅沢な飲み方を提供しよう。



 まずは鍋に水とシナモン、クローブ、スターアニス、乾燥させたオレンジピールを火に掛けて香りと風味を煮出す。香りが立って来たら火を弱め、砂糖とワインを鍋へ。弱火で砂糖を溶かしつつ、アルコールが飛びすぎないように暖める程度。濾過器を準備し、スパイスを取り除いたらマグカップに移す。

「さぁ、特製『グリューワイン』だ。お好みでベリージャムやレモン汁を足してな。」

 本来はクリスマスのお祝いの時なんかに飲む物らしいが、まぁ年越しのお祝いでも良いだろう。

「初めて飲んだけど、すっごく美味しいわ!」

「はい、シナモンやクローブの香りが良いアクセントです……♪」

 流石に伊良湖は料理が専門の艦娘なだけあるな。解説が上手い。さぁて、お次は熱燗ですか。 
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