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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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■■???編 主人公:???■■
広がる世界◆序章
  第六十九話 ここはどこ

 
前書き
ミズキが世界の秘密に迫ります。 

 
 シスター・アザリアはとても厳しそうな人物で、初めて会った際には少々萎縮してしまったが、アリスの言葉添えもあり、幸いにも彼はしばらくの居場所を確保することに成功した。それも一日二日ではなく、記憶が戻るまで、あるいは生活の術を見つけるまで居ても良いという。シスター・アザリアとこの世界の唯一神ステイシアの施しに感謝しつつ、彼は客間のベッドに腰を掛けた。改めて、この世界が一体どこなのかを考える。
 この世界に来てから4日が経過した。その間、とりあえず彼は村人たちと交流し、情報を収集して分かったことは、村人たちの言葉を信じるなら、どう考えてもここは異世界か何かだということだ。

 いわく、人間の居住地域をぐるりと取り巻く山脈があり、その外側は魔物が跋扈している。山脈を超えるのは国の法律より上位にあたる教会の法律、『禁忌目録』で禁じられている。
 いわく、この村の南に生えている樹は、高さ70メル(1メルは1メートルより少し短い)程度もあり、太さも直径4メルある。こいつを切り倒そうと300年の木こりが世界一硬い斧で切り進めているが、切れ込みはせいぜい1メル程度だとか。
 いわく、村の中央にある鐘は人の手で鳴らしているのではなく、ひとりでに鳴る『神器』である。
 いわく、セルカは教会で『神聖術』と呼ばれる魔術のようなものを習っている。

 正直、神器だの神聖術だのといったものが出てきたあたりで、ミズキにはお手上げであった。彼は現実に対して努力するのが精いっぱいで、実のところあまり読書経験はないし、ゲームもしなければ映画も見ないため、ファンタジー関連の知識が少ないのだ。
 ともかく、彼の今後の方針はすでに定まりつつあった。まずはこの世界がミズキのかつて暮らしていた世界と同一なのかどうかを確かめなくてはならない。なにせ、現状はまるで異世界に連れてこられたとしか思えない状況なのだ。


 まずは最初の実験だ。天井の高い部屋の一角を借りて、ロープで天井から石をつるし、思いっきりゆする。最初石が往復する経路に印をつけておいて、停止直前に往復する経路と比較をするのだ。
 なんのことはない、いわゆるフーコーの振り子の実験である。ここが自転する地球上なら、石は地球の自転の影響を受け、往復経路がしだいに方向を変えるはずだった。
 しかし、その予想に反して、振り子の往復経路は決して変化することはなかったのである。30回以上の実験を重ねてもその結果は変わらず、彼はその実験結果を受け入れざるを得なかった。なんということか、この世界では地球は自転していない。いよいよ異世界にやってきたという感が否めなかった。
 とすると、次は『神器』や『神聖術』といった、今までいた世界には存在しなかったものを検証する必要がある。


 次の実験で、彼はこの世界の仕組みをわずかに知った。シスター・アザリアに頼み込んで、手伝いをする代わりにアリスの授業の様子を観察させてもらったのだ。
 その時の彼の驚きは言葉に表せないほどだった。連呼される「システム・コール」。打ち出される炎や氷の矢。カタカナ発音の英語で魔法としか思えない現象が引き起こされているのだ。
 『システム』が具体的に何を意味しているのかはよく分からないが、他の言葉の意味は非常に簡単だった。例えば、炎の矢を打ち出す神聖術は「システム・コール(system call)ジェネレート・サーマル・エレメント(generate thermal element)フォームエレメント・アローシェイプ(form element arrow-shape)ディスチャージ(discharge)」である。順番に日本語に訳せば、「システム呼び出し。熱元素生成。元素を矢型に形成。放出」という感じだろうか。アローシェイプをバードシェイプにすれば追尾に優れた羽のある形に形成されるし、サーマルエレメントではなくクライオゼニックエレメントなら氷が打ち出される。ミズキはクライオゼニックという単語を聞いたことがなかったが、きっと冷気とかそういう意味なのだろう。

 ともかく、彼は基礎的な神聖術の仕組みを知り、そして確信した。この世界は、間違いなく彼がかつていた世界の人間、それも日本人が設計したものだ。日本語が話され、そして英語で超常現象をあやつる。まるでゲームの世界である。
 しかし、やはり分からないことは多い。これだけの広さがあり、物理現象がすべてが通じるわけではなく、超常現象を操れる世界といえばバーチャル・リアリティの世界しかありえないが、これほど精巧な仮想空間など存在しないはずなのだ。
 彼が知る最新の仮想空間技術は直接神経結合環境システムNERDLESと呼ばれる、神経細胞に微弱な電磁波を直接与えて五感情報を上書きする技術を用いたもので、その技術を用いた最初の家庭用ゲーム機が近々発売される予定となっていた。しかし、そのNERDLES技術であっても、このような現実世界そっくりの環境を作成できるはずがないのだ。ならば一体、この世界はどういう技術のもとに作られた世界だというのだろうか。

 他にもわからないことは多かった。最も分からないのは、この世界で暮らす住民たちはどう考えても生まれてから現在までずっとこの世界で暮らしているようだ、ということだ。また、彼らの話すことが正しければ、この世界は少なくとも200年程度の歴史がある。そんな昔から仮想世界が存在するとしたらまさにオカルトである。神隠しにあった人間は実はこの世界に運ばれていたのだ、とかいうことだろうか。
 もはや科学技術ではなくオカルトの方が信じるのがたやすい気がしてきて、ミズキは頭を振った。彼は科学の人である。オカルトは信じない。

 残念ながら、ミズキの頭で考えて分かるのはここまでだった。時間の謎は情報が少なすぎて解明のしようがない。まさか時間を操作する技術が存在するとは思えないが、何らかの操作がなければこの世界に歴史がある理由を説明できない。

 はーあ、とため息をついたところで、彼は誰かの視線を感じて顔を上げた。つぶらなライトブラウンの瞳がこちらを見つめている。ミズキがまばたきをすると、その瞳もまばたきを返した。
「おにいさん、だあれ」
 教会の長机の向こう側から目だけをこちらに覗かせて、その子供は尋ねた。五歳か六歳くらいの小さな女の子がミズキを凝視している。
「俺はミズキ。お嬢ちゃんはなんていうんだい」
「あたしセルカ」
 それだけ言うとセルカは沈黙した。一分くらいにらめっこした後、セルカは再びミズキに尋ねた。
「ミズキはおねえちゃんのともだちなの?」
 おねえちゃんって誰だ、と一瞬思ったが、そのライトブラウンの瞳からすぐに分かった。アリスのことだろう。
「そうだぜ。お嬢ちゃんはアリスの妹なのか。何歳かな?」
「んー、6歳。ねー、ミズキはいま何してるの?」
「いや、なんもしてねぇよ。ちょっと考えごとを、な」
「ふぅん。ひまなの?」
「まあ、暇っていえば暇だけど」
 するとセルカはぱあっと顔を明るくし、身を乗り出して顔全部を長机から上に出した。
「あのね、お父さんがてんしょくで忙しくて、おねえちゃんも外に行っちゃったから、だれもあたしのことお手伝いしてくれないの。ミズキ、ひましてるんならあたしのお手伝いして」 
 

 
後書き
セルカ登場です。当時6歳なので、現実世界では小一ですね。ちっちゃい。
原作ではユージオから「会うといつも母親や祖母の背中に隠れていた」と言われるほどの人見知りですが、この話では暇すぎて思い切ってミズキに話しかけてみた感じです。ミズキも意外と子供の扱いがうまいですね。
 そういえばミズキは人にものを教えるのがとてもうまいので、もしかしたら今後セルカはミズキの教育で相当頭の良い子に育ったりするのかもしれません。
 ミズキの教育能力は非常に高く、SAO時点でのシリカに、教材なしで高校で習う高分子化学を理解させるだけの力があります。……ぶっちゃけ、塾講師のアルバイトをしている私からしてみればチートに近いです。まあシリカがもともと賢い子であったことは確かなのですが、それにしてもすごいです。

次回は、例の超重要な原作登場人物との初対面(意味深)があります。
たぶん読者は結構興奮する展開だと思うのですが、当の登場人物たちは初対面なので、話は淡々と進んでいきます。

裏設定。
アリスは生まれつき与えられた『システム・コントロール・オーソリティ』つまり神聖術レベルの成長速度が大きく、詠唱を一回するごとに伸びる神聖術レベルが大きいです。要するに神聖術の天才です。加えて努力家でもあるため、このまま訓練を続ければその実力は相当なものになるでしょう。
原作ではその前に整合騎士に連れていかれてしまうわけですが、さて、この小説では一体どうなるのでしょうか……。この後の展開についてはまだ悩み中です。 
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