FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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カノッコ村編
負けたくないから
前書き
昨日更新しようと話を作ってたのに、やり忘れるという凡ミス・・・完成はしてたのに、「前書きは後でやろ」って遊びに行ったらそのまま忘れてました。
「それじゃ、行ってくるわ」
「お土産待っててねぇ!!」
ジュラさんが依頼を持ってきてから一週間が経過し、ついにその時はやって来た。ギルドの前でリュックを背負った少年と翼を出した猫を見送るべく、俺たちはそこに集まっている。
「お土産って・・・」
「遊びに行くんじゃないんだよ~」
のほほんとしているラウルに対し、苦笑いのシャルルとセシリー。そもそも二人が行くところに名物なんてあるのだろうか?お土産なんか買う暇はないだろうけど、それが気になって仕方ない。
「無理だけはするなよ」
「わかってるわかってる」
ジュラさんから危険を感じたら引き返していいと言われていたこともあり、生還することを最優先にすることを確認しているリオンさん。レオンもそれはよくわかっているので、適当にうなずきながら聞き流している。
「頑張ってね」
「応援してるから」
俺とウェンディからも少年たちにエールを送る。彼はそれに小さくうなずくだけで、緊張しているのか、言葉を発しようとしない。
「レオン!!」
そろそろ行こうかとしていたところ、みんなの後ろに隠れ声をかけようか迷っていた少女が一念発起し、少年の名前を叫ぶ。呼ばれたレオンは振り返り、その主が目の前にやって来るのを待っている。
「き・・・気を付けてね」
非常に緊張したような、震えたような声でそう言った少女の瞳が、微かにウルウルとしていた。それを見た少年は驚いて目を見開いた後、平静を装いそれに答える。
「心配しなくていいよ。ラウルもいるからいくらでも逃げれるし」
自身を持って空を飛べる少年は、非常時の撤退手段として最適だ。本当はもっと違う声をかけた方がいいと思うけど、彼らしい返答に安堵した少女は、ニッコリと笑みを浮かべる。
「うん!!そうだね」
もしかしたら最後の会話になるかもと不安視していたシェリアだったけど、彼ならきっと大丈夫。そう自分に言い聞かせ、先頭で見えなくなるまで幼馴染みを見送っていた。
「行っちまったな」
「行っちゃいましたね」
振り返ることもせずに目的地へと向かって歩いていった一人と一匹が見えなくなってから、俺とサクラが小さくそう呟く。レオンの実力はよくわかっているけど、依頼が依頼だし、心配じゃないといったらウソになる。でも、俺たちにできることなんて他にはないし、無事に帰ってくるのを待っているしかないか。
「シェリア、中に入ろ」
「・・・うん」
ギルドの皆さんも徐々に中に入っていくので、俺たちも暖かい中へと戻ろうとする。しかし、少年と幼馴染みの天神はなかなか戻ろうとせず、友人から声をかけられ渋々といった感じで入っていく。
「ほら、そんな顔しないの」
「胸揉むよ~」
「キャッ!!」
寂しそうに顔をうつ向けギルドに入ってきた少女を元気付けようと、セシリーがソフィアみたいに彼女の膨らんだ胸を鷲掴みにする。
「セシリー!!やめてよ!!」
「わ~!!シェリアが怒ったぁ!!」
茶猫娘の攻撃に怒ったシェリアが彼女を追いかけ回す。図らずもシェリアが元通りになったので、セシリーの狙いは成功したと思っていいのだろう。ただ、シェリアに早々に捕まえられてお仕置きに胸を揉み返されていたけど。
「どうせ一、二ヶ月すれば戻ってくるだろう。空腹でな」
「否定しにくいこと言うなよ」
さすがは従兄、相手の行動パターンを完全に読み切っており、もっともなことを行ってくる。むしろ今すぐ忘れ物で戻ってくるのではないのだろうか?そんな気がしてならない。
「昨日二人とも荷物の確認してたから大丈夫だと思うけど・・・」
「主に食べ物を入れてたけどね」
そもそも服とか入れたところで着替える暇もないだろうし、洗う場所もないだろう。だから生命線となる飲食物を大量に補充しておき、餓死する可能性だけはなくしたかったのだろう。
「まぁ、気にしても仕方ない。大丈夫なことを信じるだけだろうな」
心配ばかりしていたら体に悪いので、この話題からは手を引こうとその場から離れていくリオンさん。俺たちもレオンなら大丈夫だと割り切り、みんなで集まったテーブルへと座り雑談をし始める。
「シリル先輩!!今日はこの魔法を!!」
「また?」
座ったと同時にどこからか魔導書を取り出しページを捲って俺の前に出してくるサクラ。毎日一つずつ新たな魔法に手を出そうとしてるけど、今までやった魔法はちゃんと覚えているのだろうか?まずはそこを確認するべきか。
「昨日までにやった魔法は?」
「もちろんできますよ!!ほら!!」
そう言って席から飛ぶように立ち上がると、ゆっくりと魔法陣を書こうと腕を振っていく。
「ここで・・・こうやって・・・」
昨日のことを思い出しながら宙に見えない文字を書き上げていくのだが、時間がかかりすぎている。これバトルなら二、三発攻撃受けてるんじゃないの?
「こうだ!!」
そう言って手を止めると、彼女の周囲に魔法陣が出現する。その魔法陣から打ち出された光線が、ギルドの壁を撃ち抜いた。
「「「あ」」」
運良く上がり気味の弾道だったこともあり、街の方に被害はない。でも、ギルドの壁には大きな穴が開いてしまい、周りの空気が固まった。
「あんたたち・・・」
唖然としていると後ろから老けた女性の声が聞こえ、ビクッと体が一瞬震える。恐る恐る振り返ると、そこには怒りに震えるオババ様が立っていた。
「こんなところで魔法を使うんじゃないよ!!」
「「ごめんなさ~い!!」」
ギルドの中で魔法を・・・それも攻撃性の物を使うなんて普通はしない。そんなことをすればこうなるのは目に見えているからだ。オババ様に怒られた俺たちは、外の広い場所でやろうとギルドから逃げるように出ていった。
「新しい魔法より、今ある魔法の速度を上げることにしようか」
「はい!!シリル先輩!!」
マーガレット祭のゲーム大会で使用した広場へとやって来た俺たち。さっきの魔法を見る限り、サクラは技の威力はそこそこあるけど、速度があまりにも遅すぎる。これでは戦闘になったら話にならないので、今日からはそれを解消するために今までの魔法をおさらいしていこうと思う。
「どれからやればいいですか?」
「簡単なのがいいけど・・・」
今までやって来た魔法陣の詳細が書いてあるページに目を通すが、どれがいいのか全然わからない。
「シェリア、どれがいいと思う?」
魔法学校を飛び級で卒業したシェリアならいいアドバイスができるかもしれない。そう考えて彼女に意見を求める。
「あれ?シェリアは?」
しかし、肝心の少女の姿がどこにも見えない。ギルドを出てくる時はいたはずなのに、いつの間にかどこかに行ってしまったようだ。
「シェリアならギルドに戻ったわよ」
「何か忘れ物でもしたのかな?」
サクラの修行の様子を見守りに来たシャルルとウェンディがシェリアの所在を教えてくれる。ギルドに戻ったのか、何か急な依頼でも来たのかな?
「もうシリルが決めちゃえばいいんだよ~」
「そうね、一応師匠なんだし」
「一応って・・・」
ずいぶんと失礼な物言いだったが、気にしても仕方ない。なので、元々サクラがここに来る前から覚えていた魔法でトレーニングしてみることにした。
「じゃあ、早速やってみて」
「了解であります!!」
敬礼して魔法陣を書き始めるサクラ。だけど・・・
「待った待った!!」
すぐさまそれをやめさせる。
「どうしたんですか?」
不思議そうに首を傾げるサクラを見て、ため息をつき額を抑える。なんでこいつはこんな顔をしているのだろうか、もっと考えてほしいものだ。
「今日のテーマは?」
「魔法発動の速度を上げることです!!」
ちゃんと課題を把握していてひと安心。しかし、今の彼女の動きを見ているとそれを全く理解していたようには見えない。なぜなら・・・
「だったらなんでそんなゆっくり魔法陣を書いてたの?」
「え?」
今は実践の時ではない。つまり、失敗しても何も問題がないのだ。それなのに、彼女はいつもと変わらぬスピードで魔法陣を書いており、トレーニングの意味がないのである。
「ゆっくりじゃなきゃ書けないですよ?」
「いいから、スピードを意識してやってみて」
どれだけ失敗しようが問題はない。まずは早く書くことに体を慣らしていかないとな。
「うぅ・・・できるかな・・・」
彼女にしては珍しく弱気な発言。しかし、頑張るしかないと考えたサクラは、さっきよりも遥かに早い速度で腕を振っていく。
「おおっ!!結構早いね!!」
「速度は問題なさそうね」
「問題は別なところだよね~」
いきなりのペースアップに感心しているウェンディたちだが、セシリーの言う通り問題はここから。例えどれだけ早く書くことができたとしても、発動自体がきちんとできなければ意味がない。
「はぁっ!!」
声を張り上げ最後の文字を書き切ったサクラ。その周りに魔法の文字が・・・
「出ないね」
「出てこないわね」
「失敗だね~」
出てくることすらなく、あっさりと失敗に終わってしまった。
「やっぱりダメなんですね・・・」
元気な普段とは打って変わり、涙を滲ませ悔しさを露にしている少女。この辺は年相応といったところなんだな、以前のウェンディを見ているようで微笑ましい。
「大丈夫。失敗してもいいんだよ、練習なんだから」
頭を撫でながら諭すように声をかけ、彼女を慰める。いきなり成功するなんて思っていなかったから、これは許容範囲内。少しずつできるようになればいいんだ、まだまだやり始めたばかりなんだから。
「シリル先輩はどうやって魔法を発動してるんですか?」
すると、見本を見せてほしいらしくそんなことを言ってくる愛弟子。
「俺とサクラの魔法は扱い方が違うからね」
俺たちのは体の部位がドラゴンのそれへと変換されて魔法を発動しているらしいから、魔法陣を書くサクラとは要領が違う。だから彼女の手本には成り得ないことが正直なところだ。
「それでもいいです!!シリル先輩の魔法を見せてほしいです!!」
キラキラと輝く瞳でこちらを見つめてくるので、思わず表情が引き釣る。どうしようかウェンディたちに意見を求めようとそちらに視線を向ける。
「やってみたら?」
「うん!!サクラのお願いなんだも~ん!!」
シャルルとセシリーはサクラの考えに賛成な様子。そしてもう一人の少女に視線を向けてみることにした。
「まずはやってみないと見本になるかわからないもんね」
俺に味方なんて一人もいなかったんだな。最後の希望にもあっさり裏切られてしまい、見本を示さなければならなくなった。
「わかったよ」
「やったー!!」
両手を上げて大きく万歳するサクラは期待の眼差しで俺のことを見つめてくる。こんなに見られながらやることを意識したことがなかったから、緊張で実力を発揮できるかわからない。
「ふぅ・・・」
一度大きく息をつき、心を落ち着ける。間近で観察している少女と離れたらところから見守る三人の幼馴染み。意識したら体に力が入って失敗しそうだ・・・
(気にしない、周りの視線は気にしない)
いいところを見せようとか、失敗したらどうしようとか考えるだけ無駄。いつもと変わらないように・・・周囲に迷惑をかけない程度の力でやってみよう。
「水竜の・・・咆哮!!」
なるべく人がいないところを狙って放たれた魔法。それはちゃんと発動することも、コントロールすることもできており、近くの林に衝突して止まった。
「わぁ!!さすがシリル先輩です!!」
威力はいつもより抑えていたけど、発動時間は問題ない。ただ、これで手本になるのかどうかはわからないけどね。
「なるほど!!つまりこうやればいいんですね!?」
今の魔法で何を掴んだのかはわからない。しかし、少女は黙々と魔法陣を書き上げていく。
「え?今ので何を掴んだの?」
「さ・・・さ~?」
様子を見守っていた二人の猫耳娘もサクラがなぜこんなにイキイキと動き出したのかさっぱりわからないでいる。それからほんの数秒程、先程とほぼ同タイムで魔法陣を書き上げたサクラ。
ビュンッ
「「「きゃあっ!!」」」
宙に浮かび上がった魔法陣。その中から現れた無数の武器がそばで見ていたウェンディたちに飛んでいき、三人は大慌てで頭を下げて回避する。
「うおっ!?大丈夫!?みんな」
三人の安否を確認すべくそばへと駆け寄っていく。顔を上げた彼女たちは傷はないようで、ホッとひと安心といったところか。
「どうでしたか!?シリル先輩!!」
「まずあんたは謝りなさいよ!!」
誉めてもらえると駆け寄ってきた少女に怒鳴り声をぶつけたシャルル。それを受けてサクラは平謝りをする。
「でもすごいね、今のシリルのでどうやってコツを掴んだの?」
プンスカしているシャルルとそれを宥めるセシリー。その二人を放っておいて、怒る様子もなくサクラの頭を撫でるウェンディ。サクラはそれに気持ち良さそうに目を閉じた後、ことの成り行きを話し出す。
「シリル先輩の魔法って基本の動きはいつも同じ気がするんですよね。さっきはとにかく早くやろうって思って形がグチャグチャでしたけど、基本の動きで速度を早くするだけで大丈夫だと思ったんです!!」
言われてみると、俺やウェンディは魔法を放つ時、入り方が違うだけで動作に大差はないと思う。ブレスなら空気を吸い込み、上体の捻りや反らしを使って魔法を放つ。他の技も基本の動作は同じで、その前後の動きがわずかに違うくらいだ。
「よく気付いたね」
「私たち気にしたことなんかなかったもんね」
やっていた本人たちも気付けないことに一度見ただけで気付いてしまう少女に感心する。もしかしてこの子はセンスの塊?
「他のものも同じようにやればいいですよね!?」
「そ・・・そうだね」
コツを掴んだサクラは魔法を使うのが楽しくて楽しくて仕方ないらしく、次から次へと魔法陣を書き上げていく。でも、力の加減ができていないから、街を壊しそうで不安かも・・・
それから夕方まで修行をした俺たちは、そろそろ帰ろうとなったのでギルドへと戻ってきた。扉を開けて中に入ると、それに気付いたシェリアが笑顔でこちらにやってくる。
「おかえり!!どうだった!?」
「うん!!サクラもすごく成長してるみたい!!」
笑顔で今日のことを報告しているウェンディ。それを聞いたシェリアの表情がすごく悪者の笑いになったのを俺は見逃さなかった。
「どうしたの?シェリア」
「なんですか?今の笑い」
何か悪いことを考えているのではと思った俺とサクラで疑問を投げ掛ける。すると少女は、ポケットから一枚の紙を取り出し俺たちの目の前に広げる。
「みんなでこの依頼に行くよ!!」
山賊退治の文字が書かれた依頼書。彼女が先にギルドに戻っていたのは、この依頼書を取りにいくためかな?でも、山賊退治なんてそんなにレアなものでもないし、彼女がワクワクしている理由がわからない。
「なんでそんなに嬉しそうなのよ」
「山賊退治ならこの間もしたじゃ~ん」
同じようなことを考えたシャルルとセシリーがそれについて質問を問いかける。それを聞いたシェリアは待ってましたと言わんばかりにこの依頼についてのことを話してくれた。
「これね、S級クエストなの!!」
「「「「「S級クエスト!?」」」」」
通常の依頼よりも難しく、普通の魔導士では受けることのできない依頼。この依頼がそれってことで、シェリアは楽しみにしていてテンションが高いのか。
「オババ様にお願いしてみんなとなら行ってもいいって言われたの!!もちろん行くでしょ?」
断られるなど微塵も感じていないように見えるシェリアの目。まぁ、俺たちもやってみたい気持ちがあるから、断ることはしないけど・・・
「いきなりどうしたの?そんな依頼を持ってくるなんて・・・」
いつもならこんなにすごいクエストに行こうなんて言わないと思う。でも、今回に限ってこうして持ってきたのには何か理由があるはずだ。
「だってレオンに負けたくないもん!!このクエストを絶対成功させてみせるんだ!!」
理由を聞いて納得する。彼女はレオンのことを“愛”しているんだけど、ライバルとしても気になっている存在なんだろう。おまけに、ジュラさんが100年クエストの依頼に来た時にシェリアの心を傷つける発言をしていたから、それを覆したい気持ちもあるのかな?
「いいよ!!一緒に頑張ろうね!!」
「ありがとうウェンディ!!」
彼女の気持ちが痛いほどわかるといった感じのウェンディが少女を抱き締め、それを受けた少女も抱き締め返す。
「シリルもサクラも頑張ろうね!!」
「うん!!」
「はい!!」
ウェンディを抱き締めたままのシェリアの呼び声うなずく俺たち。こうして俺たちは初めてのS級クエストへと向かうことになったのだ。
後書き
いかがだったでしょうか?
早くストーリーに入りたくて終盤が適当になった気がするけど、そこは大目に見てください。次からは依頼に入って行きますが、どのくらいの長さになるかは気分次第となります。あと仕事の関係で更新が遅くなるかも・・・orz
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