おたく☆まっしぐら 2016年の秋葉原
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戻れぬ道を今も生きる
前書き
ひさしぶりの投稿です。
妄想たれながしですが、気にしない!
本郷にとってオタクとは自身の生活に根ざしたもの。
オタクの今を本郷は眺めていく。
明「だが俺には関係のないことだ」
去るものを追わず。オタクの世界は強制されるものではない。
今日の秋葉原は月末の金曜日。
『エロゲの発売日』である。
とはいえ本郷もすべてのエロゲはプレイしない。
明「俺の股間に響くものを買うのだ(気になったエロゲを買いたい)」
もちろん発売前のチェックに余念はない。
明「やはり萌エロは捨てがたい」
本郷は抜けない剣の物語を手に取る。
超大手作品だが、クォリティは高い。
明「マイナーもいいが、大手の力も捨てがたい」
本郷は並ぶ。そこは戦場。リアルではモテぬものたちが集う楽園。
そこがエロゲコーナー。
集う世代はさまざま、それぞれに趣味を異とするものたちだが、その日は皆同じ趣味となる。
明「この行列に並ぶ、それも醍醐味だな」
今の時代、本体を買わずともエロゲはプレイできる。
ならなぜわざわざ秋葉原まで買いに行くのか?
明「やはり手にとってこそのエロゲ」
物質に依存するのがオタクなのだ!
明「さぁ、帰ってエロゲするぞ」
だが、その期待はもろくも打ち砕かれる。
???「ライトオタクどもよ! 消えうせやがれ!」
誰かが投げたボールのようなものがフロアに複数投げ込まれる。
本郷は持ち前の野生の勘で地面に伏せる。
オタクA「な、なんだ!?」
オタクB「テロか!」
すると破裂音とともに煙が充満する。
明「ごほっ、なんだ、この煙っ」
白い煙はオタクたちを昏倒させていく。その姿に本郷は過去の情景を思い出していた。
明「……くそっ、漢度を下げる煙か……」
しかし脱オタさせて廃人にするほどの威力はない。もしもそれほど強烈なら本郷は立っていないだろう。
明「オタク力によって威力が変わるわけではないのか」
そう漢度によって威力が変わった前の世界とは違い、効果は薄い。
明「なぜだ……」
本郷は持ち前の目の良さを生かして犯人を捜す。
???「そうか……君が立ちふさがるか」
目の前に現れた人物は一人の若者であった。
本郷よりも若いかもしれない。本郷の年齢はすでに20の後半だ。
明「お前か。どうしてオタクを減らすようなことを……」
???「それが幸せに繋がるんだ」
明「アホか! そんなことでオタクが幸せになるわけないだろう!」
???「どうしてそう言いきれる?」
明「オタクは学生時代に苦しんだものたちの救済だ」
???「救いはしなかったんだ」
相手の顔は見えない。しかし、本郷の額に汗が流れる。
???「2次元はあまりにも大きくなりすぎた。ここで全てを戻さなければならない」
本郷は伏せる。なぜなら何かを投擲したからだ。
明「お前は一体!」
???「ただのオタクだよ、かつて、この地を歩いた。アキバはオタクの街だ。にわかの街じゃないんだ」
もう一度爆発音がする。それは周囲にきらきらとした粉末を撒き散らした。
その粉末はエロゲを瞬く間に粉々にしていく。
本郷「なんだと……これは」
そう、オタク力の高いものを粉々にできる粉末の存在であった。
明「そうか、オタクを……」
すべてのものがオタクで居続けることはできないのだ。
アキバでテロが行われた。この情報は瞬く間にネットを駆け巡る。
本郷のラインにもいくらか連絡が入る。しかし、それを観ている余裕はない。
近くのアキバ神社で座り込む本郷。
中央通りの喧騒とは違い、大きな猫が本郷の足元で昼寝している。
明「オタクが……オタクを攻撃するだと……」
そう、彼の時代は口撃はあってもリアルに同胞に危害を加えるものなどいなかった。
明「なぜ……」
本郷には分からなかった。
萩音「……それは、起こる必然だったんです」
足元にいる猫の首元を触る、未来からきた女、宮園 萩音の姿がそこにあった。
明「猫触る前に声かけろよ!」
萩音「あ、つい……かわいくて、すいません」
顔を赤らめながらも猫を抱えて満面の笑みを浮かべる。
明「いや、まあいい。それより――」
萩音「本郷さんが遭遇した人、彼が未来のジョンブラウンになりました」
明「奴隷解放運動の人間か」
萩音「よくご存知で、”端末操作” 歴史 ジョンブラウン」
空間に映し出される、ひげ面のおっさんの姿がそこにあった。
明「あいつは……オタクという感じじゃなかった」
萩音「未来では弱者救済の革命家です」
彼の名前は三木 俊輔(みき しゅんすけ)
未来では少子化をなくす、エンゲージという制度を作った政策者であり、
政府官僚である。容姿ではなく、実際の実力さえあれば誰でも優秀な遺伝子を持つものと結婚できる仕組みを作った。
明「…………」
萩音「それによって、恋愛というものを大勢の人々は知らずに育っています」
明「なら、エロゲは」
萩音「とっくの昔になくなって、それこそ恋愛物なんてものは過去の遺物です。すいません……」
本郷は愕然とした気持ちになった。
明「オタクたちは?」
萩音「もう存在しないでしょう。いたとしても確認されないくらい極少数……」
未来ではオタクは消える。それも本当の意味で。
明「……俺達のせいなのか」
二次元こそ至高、三次元はクソだ。
この言葉は本当になった。
萩音「いえ、それこそ高齢化社会になんの対策も取れなかった政治の所為です」
苦笑いする彼女の言葉に、本郷は少し安堵する。
明「それで……俺にどうしてほしいんだ?」
萩音「……あなたは私たちの世界の人間ではない。だから――」
風が境内の木を揺らし、萩音の胸の中で寝ていた猫はどこかへ立ち去っていく。
萩音「彼を……倒してください。それが私たち組織の最終目標です」
彼女の真剣な瞳は本郷を貫く。
明は黙ったまま、遠くにある秋葉原を眺めていた。
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