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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第3章:再会、繋がる絆
  第75話「お礼」

 
前書き
段々とパワーインフレが激しくなっていく...。
さすがに制限がかかりますけどね。
 

 






       =優輝side=





「...真っ暗だな。」

 夢の世界が決壊し、僕は暗闇の中を漂っていた。

「...闇の書が実際にそうだったのか、司さんの記憶にない場所なのか...。」

 ...おそらく、後者だろう。闇の書の中の割には、あまりに静かすぎる。
 “闇”の中なのだから、怨念やプログラムの一部が何かしてくるはずだ。

「ゲームでいう“裏世界”みたいなものか。」

 となれば、下手に動き回れば碌な事にはならなさそうだな。

「リヒト、シャル。何かわかるか?」

〈....厳しいですね。サーチが阻害されています。〉

〈おそらく、司様の記憶にない領域...空白の領域なため、ジュエルシードの魔力が霧のように漂っているのだと思います。〉

 ...言われれば、やけに辺りには魔力が多い。
 幸い、魔力中毒になるほどではないため、防護服で十分に防げているが。

「....僕がこの魔力を吸収するから、その魔力でサーチを続けてくれ。できるだけこの空間にはいたくないが、それでも動き回るのは危険な気がする。」

〈わかりました。〉

 そう言って、僕は周りの魔力を操り始めた...。













       =椿side=





「はぁっ、はぁっ、はぁっ....!」

 幾重にも思考を巡らせ、ついに暴走体に会心の一撃を与えた。
 私の放った矢は、暴走体を貫き、ジュエルシードを...。

「っ...!?そんな...!」

「嘘...だ....。」

 ...信じられなかった。貫かれた暴走体は普通に再生してしまったのだ。
 再生するのはまだいい。その事は既に優輝の姿の暴走体で知っていたわ。
 ...だけど、“再生する”という現象が起きた時点で、信じられなかった。

「....外した....?」

 外した。一言でいえばたったそれだけだが、絶望感は大きかった。
 せっかくの会心の一撃、逆転の一撃を外してしまったのだから。

「っ、まだ...!ユーノ!回復しなさい!」

「っ...!わかった...!」

 私はユーノに魔力結晶を渡し、私自身も御札を取り出して回復の術を行使する。
 焼石に水としか思えないが、ないよりはマシよ...!

「希望を捨てないで!まだ終わった訳じゃない!」

「分かってる...けど....!」

 ...ユーノが弱音を吐きたくなるのも無理はない...わね。
 私だって、勝てる光景が思い浮かべられないもの...。

「(....それでも...負けられない!)」

 優輝...!早く出てきなさい...!
 私たちが、倒れる前に...!















       =優輝side=







「っ....?」

 ...今、何か感じたような...。

「....椿?」

 式姫として契約しているからか、椿の念らしきものが感じ取れた。

「...もたもたしてられない...か。」

 早く、奏を見つけないと...。

〈っ、見つけました!〉

「どっちだ!?」

〈二時の方向...そこを真っすぐです!〉

 リヒトの声を聞き、その方角へ一気に跳ぶ。
 飛行魔法と霊力の足場を利用し、加速に加速を重ねる。

「.....見えた....!」

 見えてきたのは、球体に包まれた天動説の地球のような場所。
 ...と言っても、それは夢で再現されている範囲までなので、そこまで大きくはない。

 ...大きくは、ないんだが...。

「....広い....!」

 それでも、人一人の記憶から夢を作り出しているのか、途轍もなく広かった。

「(....焦るな。僕と同時に取り込まれた奏がまだここにいるという事は、彼女は夢に囚われている....もしくは、まだ夢の世界で意識が目覚めていないかもしれない。)」

 その状況で、無理矢理僕がこの世界を壊したら、どうなるか分かったものではない。

「...まずは降り立つか。」

 夢の世界は結界の壁のようなものがあったが、転移魔法ですり抜けられた。
 そのまま、夢の世界の中に降り立ち、辺りを見回す。

「....?(この光景...どこかで....。)」

 辺りを見回して、僕はどこか既視感を覚える。
 明らかに海鳴市ではない。遠くの方を見ても、海は見当たらない。
 ...いや、まだ夢の世界の端っこの方なのだから、当然かもしれないが。

「リヒト、シャル。この光景に見覚えはあるか?」

〈...いえ、ありません。〉

〈該当データなし...私もです。〉

 記憶としてではなく、記録として僕が見聞きしたものを知っているリヒトとシャルでさえ、見覚えがないという。
 だけど、確かに僕は見覚えがあった。

「...とにかく、移動してみるか。」

 この場所に留まっていても、なにかわかる訳でもない。
 そういう訳なので、早速僕は移動する事にした。





「あはは、ほら、こっちだよー!」

「このー...待てー!」

 ....歩いて移動している途中、子供たちが遊んでいるのが目に入る。
 さすがに、その子供たちにまでは既視感はない。

「.......。」

 違和感が付きまとう。...何だろうか...思い出せそうな...。

「っ....!」

 そこで、ある建物が目に入り、動きを止めてしまう。
 ...その建物は...病院だった。

「ぁ.....。」

〈...マスター?どうかされましたか?〉

 リヒトの声が聞こえるが、それどころじゃなかった。

「...思い出した...そうだ...ここは....。」

 海鳴市ではなく、リヒトとシャルも知らない。....当然だ。
 なぜなら、ここは...。

「.....前世の世界....。」

 僕が前世で過ごしていた街...それがこの世界の光景だった。
 思い出してみれば、そこら中が見覚えのある場所だ。

「なぜ.....。」

 夢の世界は囚われた者が深層意識で願う光景を元に構成されているはず。
 だとすれば、この世界を生み出した者...奏の前世は、僕と同じ街に住んでた事になる。

「っ....!」

 思わず走り出す。目指す先は...僕の家。
 まずは本当に僕の前世での街と同じなのか、確かめたかった。



「.....っ、はは...マジか...。」

 三人が暮らすにはちょうど良さそうな家。表札には...“志導”。
 前世と現世は同じ姓だからわかりにくいが、現世での家とは明らかに違う。
 ...間違いなく、僕の住んでいた家だった。

「っ...!次!」

 今度は、病院へと戻る。“確信”を得るために。
 ...先に確認しておけと思うが、これでも慌てていたんだ。仕方ないだろう。



「.....失礼...。」

 自動ドアが開き、僕は病院内へと入っていく。
 ...そういや、僕の夢と違って色んな人が再現されているな。
 しかし、その人達に僕は認識されていないようだ。
 ...当然か。元々僕はこの夢の住人じゃないのだから。

「確か...この階の....。」

 エレベーターを使わず、階段を跳んで上る。こっちの方が早いしな。
 そして、一つの病室の前で止まる。

「.....違う...か。」

 そこに、僕が予想していた名前は書かれていなかった。

「...ただの思い過ごしか?」

 だが、そうだとしてもこの夢は...。

〈...マスター?どういう事なのか説明を要求します。〉

「...っと、悪い。そうだったな。」

 どうせ誰にも認識されていない。ここで適当に話すか。

〈“前世”という単語から、この夢の世界はマスターの前世の世界と酷似していると推測していますが...。〉

「多分、正解だよ。だけど、少しばかり相違点はあるけどね。」

 ...なんだ。説明するまでもなく大体わかってるじゃん
 さすがリヒト。優秀すぎる。

「この世界はまさに僕の前世の街を再現している。建物の内部、街の雰囲気、僕の家までほぼ全てを...ね。さすがに内部構造が一般に知られていなく、複雑な建物とかは再現しきれていないだろうけど...。」

〈...この世界に囚われているのは奏様ですよね?〉

「そうだ。...だからこそ、気になってな...。」

 あまりに条件が合いすぎている。...と、言うより僕が目を逸らしていたと言うべきか。
 これほどまでに共通点があって、“違う”と言える訳がない。

「....奏と僕の前世の知り合い“奏ちゃん”は同一人物...。というか、“奏ちゃん”が転生したのが今の奏というべきか。...その可能性が高い。」

〈それは...なんとも奇妙な縁ですね...。〉

「そうだな...。」

 前々世にシュネー、前世に聖司と奏ちゃん...ホント、奇妙な縁だな。
 ...ちなみに、リヒト達には既に聖司について教えてある。

〈緋雪様に司様に奏様...ここまで集うとは....“導き”でもあるのでしょうか?〉

「...導王な僕にはあまり冗談とは思えないな。それ。」

 変に捉えれば僕が導いてしまっているから転生したとも思えてしまうぞ?
 さすがにリヒトはそんなつもりで言っていないだろうけど。

「...だけど、そうだとしたら少しおかしいんだよ。」

〈...この病室がですか?〉

 さすがリヒト。言わなくてもわかってるな。
 ...僕が今いる病室には、本来いるはずの人がいないのだ。

「もし、奏が“奏ちゃん”なら、この病室にいるはずなんだ。...だけど、今は空室だ。」

 他に入る人もいなかったらしく、本当に無人の病室だ。

「夢に囚われているのは奏で、“奏ちゃん”の可能性は高い...。でも、だとしたら...。」

〈...あの、この夢は深層意識で望んだ世界ですよね?〉

「...そうだが...?」

〈...なら、入院していれば“退院する”という事も望んでいると思いますが...。〉

「......あ。」

 ...どうして、忘れていた...というか、病室にいると思ったのだろうか。
 僕だって皆が幸せでいるのを望んであの世界ができてたじゃないか...!

「...ありがとう、リヒト。」

〈...マスターは稀に抜けている事がありますね。〉

「否定できない...。」

 実際、今だってそうだったからな。

「...とにかく、病院を出るか。」

 窓を開けてそこから外に飛び降りる。
 入る時もこの手段を使えばいいと思うが、さすがに外からは場所が把握できてない。





「....見つからない...。」

 気配や魔力を探ろうにも、上手くいかない。
 まるで水と油のように、僕という異物とこの世界に何か隔たりがあるようだ。

「...子供が目立つな...。」

 公園を見ると、大抵子供が無邪気に遊んでいた。
 ここは深層意識が望む光景を具現化した世界。そんな頻繁に子供が出るという事は...。

「っ、時報か...。」

 夕方を知らせる音楽が聞こえてくる。
 それに気づいた子供たちは、一斉にどこかへ帰ろうとする。

「...?それぞれの家じゃなくて、一緒の場所...?」

 全員が全員、同じ道を通ってどこかへ帰ろうとしている。
 ...気になるな。ついて行こう。



「....ここは....。」

 見えてきたのは、一軒の施設。そこには、“孤児院”という文字が書かれていた。

「...そういえば、あったな。」

 僕も何度かお世話になった事があったな。
 親戚よりも孤児院の先生の方が信用できるっていうのもどうかと思うが。
 ちなみに、お世話になったと言っても近所づきあい的な意味でだ。

「...まぁ、いいか。次だ。」

 奏を探しに戻ろうと、踵を返す。





     ―――トサッ...





「....ん?」

 ビニール袋を落とした音が聞こえ、そちらを振り向く。

「....ぇ.....?」

「...“奏ちゃん”...?」

 そこには、僕を見て驚いている“奏ちゃん”が立っていた。
 ...そう。“奏ちゃん”だ。奏と違って茶髪な事から間違いない。

「それに....っ!?」

 そして、その隣に立つ男性を見て、今度は僕が驚いた。

「前世の僕か...!」

 僕を成長させたような男性。...それがそこに立っていた男だ。
 見間違うはずがない。前世では鏡を見ればいつもあの顔があったのだから。
 ...ちなみに、僕の前世と現世での容姿は然程変わっていない。子供相応にはなったが。

「(....いや、だが...あれは...!?)」

 “奏ちゃん”の様子を見て、おかしいと気づく。
 ...どう見ても健康体だ。つまり、心臓病は治っているという事。

「(ドナーは僕が死ぬ寸前まで全くと言っていいほど手掛かりすらなかった。そして、僕が死んだことでドナーは手に入ったはずだ。....なら。)」

 健康な“奏ちゃん”の隣に僕が存在する事はありえない。
 そして、そんなありえない光景を生み出したのが奏ならば....。

「.....それが、君の望んだ光景....という事か?」

「....なんの...事.....?」

 自然と“奏ちゃん”...奏ちゃんへの接し方になる。
 ...前世では僕の方が年上だったからな。僕は社会人で、奏ちゃんは学生だったし。

「....魅了の弊害か?僕が“僕”である事なんて、この状況にでもなれば嫌でもわかるはずだが...。」

「っ......。」

 よくよく見れば、奏ちゃんは僕と同じ気配がするし、この世界の中心なのもわかる。
 だから、ただの夢の住人じゃないのは間違いない。

 ...そう考えていたら、奏ちゃんは何かの痛みを感じたのか、片目を瞑る。

「っ...何か....何か、忘れている...よう、な....?」

「(...“僕”が固まっているな。“僕”ならば何かしら行動を起こしているはずだが...。)」

 苦しんでいる奏ちゃんから目を離さずに“僕”を見る。
 ...奏ちゃんが今ああなっているから固まっているのか?

「魅了の弊害による記憶障害....リヒトとシャルはどう思う?」

〈私も同意見です。〉

〈同じく。魅了の効果は原因に対して妄信的になる事。...重要なファクターとなる人物の記憶が上書きや消去されていてもおかしくありません。〉

 リヒトとシャルに意見を聞いてみるが、同じように魅了の弊害という推測だ。
 魅了は誰かが好き...デバイスの場合は主を信頼していたら無効化されるという事は、奏ちゃんには好きな人はいなかったのだろう。
 ...ただ、シャルの言った事が正しいのなら、少なくとも“僕”に何かしら大きな感情を抱いていたのだろう。

「そうか....なら。」

 僕はリヒトに収納しておいた魔力結晶を取り出す。
 奏ちゃんの魔力はなのは達に比べて比較的少ない。だから...十個ぐらいでいいか。

「自らの志を見失いし者よ、今こそ思い出せ...!」

〈“Göttin Hilfe(ゲッティンヒルフェ)”〉

「なに、を....!?」

 久しぶりにリヒトを杖の形態にし、魔法陣を展開する。
 魔力結晶が共鳴し、僕の魔力不足を補い、奏ちゃんを術式の環が囲う
 シャルにも制御を手伝わせ、大魔法の負担を軽減する。

「女神の救済という意味を冠する魔法だ。....戻ってきなよ、奏ちゃん。」

「ぁ....ぁあああ....!?」

 奏ちゃんが光に包まれ、彼女は声を上げる。
 同時に、夢の世界に罅が入り、“僕”の姿が欠ける。
 その光景は、さながらグラスが割れてそれに描かれていた絵が崩壊するかのようだ。

「....ちょっと無理矢理だったかな?」

 緋雪の時は暴走してたからだったけど、この子の場合は苦しんでいただけだ。
 それなのにいきなり魔法をかけるのは...なんか...うん。罪悪感がある。
 ...まぁ、成功したしいいか。

「(魔力結晶...だいぶ減ってきたな。)」

 作り置きしておいた魔力結晶は、既に半分以上が使われている。
 おまけに他の皆にも渡してある。...この事件で一度なくなるかもしれないな。

「(...まぁ、また作ればいいか。)」

 奏ちゃんで成功したという事は、魔力結晶があればなのは達も魅了を解除できる。
 ...例えそうだとしても、魔力量に応じて必要な魔力が指数関数並みに増えるのは些か理不尽に思えるのだけど...。

「.....大丈夫か?」

「......。」

 光が治まり、へたり込んでいる奏ちゃんに声をかける。
 ...あ、夢の世界に亀裂が走ったからか銀髪に戻ってる。

「....“優輝”さん.....なの....?」

「.....ああ。志導優輝...前世の名前は、現世と同じだ。...どちらかというと、現世が前世と同じ名前だと言うべきか。」

 茫然と言った形で僕を見上げる奏ちゃん。

「...どう...して、今まで....。」

「...魅了による弊害だろう。まさか記憶にまで影響を及ぼすものとは知らなかったが。」

 頭を抱えて、どうして今までわからなかったのかと俯く奏ちゃん。

「...聞かせてくれるか?どうして、転生してしまったのか。」

 心臓の移植は、例え適性が高く成功しても、寿命は短い。
 できれば、その寿命ぐらいは全うしてほしいけど...。
 ...それなら、転生するとは思えない。あれって、大抵がイレギュラーな死が理由で転生させてくれるのだから、普通に死んだ場合はそう簡単に転生するとは思えない。

「.....はい....。」

 小さく呟き、奏ちゃんは語り始める。

 心臓移植は僕のおかげで無事に成功し、退院できた事。
 その後は、この空間にもある孤児院にお世話になっていた事。
 子供の世話をし、そして僅か十年程で心臓に限界が来て死んでしまった事。

「....そっか...。」

 奏ちゃんは、心臓のもつ限り天寿を全うしていた。
 ...でも、だとしたらどうして転生を...。

「....っ!そういう事か...。」

 僕はイレギュラーな死で転生した。そして、奏ちゃんはそんな僕の心臓で助かった。
 ...つまり、“奏ちゃんが僕の心臓で助かる事”自体がイレギュラーだった。
 だから、その十年後に死んだ後に転生する事になったのかもしれない。

 ...確証はないし、そう考えると奏ちゃんはあそこで死んでしまう事になるけど...。
 いや、もしかしたら他にドナー提供者が見つかるかもしれないし...。

「転生する時の事は覚えているのか?」

「....はい。...ただ、転生してから魅了を...。」

「...転生の理由は?」

「えっと....。」

 聞けば、僕の推測はほとんど当たっていた。
 存在そのものがイレギュラーになったので、人生のリトライという事らしい。
 特典は態々やり直すからと、餞別としてくれたらしい。

「...まぁ、この際は転生に関してはいいさ。」

 とにかく、これで魅了が解け、この空間からも脱出ができそうだ。
 ...だけど、まだやる事がある。

「...このままだと、また魅了されてしまうな...。」

「っ....!...嫌....!」

 僕の言葉に、奏ちゃんは助けを乞うように僕に縋りつく。

「ちょ、いきなりどうした!?」

「...嫌...嫌なんです...!もう、優輝さんの事を忘れたくない...!ずっと....ずっとお礼を言いたかったのに...!」

 ...そっか。知っている人を忘れてしまうのは、忘れられた人物だけじゃなく、忘れてしまった本人も辛いものだよな...。

「お礼....?」

「はい...。私は...優輝さんのおかげで生き永らえた...!生きる喜びを教えてもらった...!...ずっと、ずっとそのお礼が言いたかった....!」

「そっか....。」

 僕が死んでしまったから、お礼を言える事もなく、一生を終えた...って訳か。

「本当に...本当にありがとうございます...!私に、生きる素晴らしさを教えてくれて...本当にありがとうございます....!」

「........。」

 涙を流しながら僕に縋りつくように言う奏ちゃんを、僕はただ受け止める。
 ...本来なら、もう会えない人物だったんだ。感動は相当なものだろう。

「....ねぇ、奏ちゃん。」

「...はい...。」

「...君は、僕が死んでからの残りの人生、幸せだったか?」

 これだけは聞いておきたかったと、僕は静かに問う。

「....はい。...けど、優輝さんがいないのは....。」

「そうか....。」

 しばらく奏ちゃんを抱き締め続け、そして一度離す。

「奏ちゃん。僕らは転生した。だから、前世の全てを捨てる訳じゃないけど、またここから始めよう。一から...いや、例えゼロからでも。」

「....はい...!」

 まだ目尻が涙に濡れているが、満弁の笑みでそういった。

「...年も近くなったんだし、これからは“奏”と呼び捨てにするけど...いい?今じゃ、呼び捨ての方がしっくりくるからね...。奏ちゃんも、敬語はなくていいから。」

「はい....うん...。優輝さん....。」

 奏ちゃん改め、奏も僕に対しての敬語が少し抜ける。
 さん付けは前から変わらないようだが。...まず、魅了状態で名前を呼ばれた事がない。

「....さて、後回しになったけど、魅了の予防をしよう。」

「...!忘れてた...。」

 忘れてたって結構重要な事なのに...。
 ...まぁ、それだけ僕の事が大きかったと考えれば、悪い気はしないが。

「意志を強く持てる程、この魔法は強くなる。....行くよ。」

「....うん。」

 魔力結晶を五個取り出し、準備を整える。
 既にこの空間には、魔力中毒にはならないものの、相当な魔力がある。
 その魔力と魔力結晶で、この魔法は使える。

「其れは全ての害意、全ての禍を防ぐ我らが魂の城....我らの意志は、何人たりとも侵させぬ。....顕現せよ...!“魂守護せし白亜の城(ゼーレ・キャメロット)”!」

 杖形態のままのリヒトを地面に突き刺す。
 すると、五つの魔力結晶から魔力が開放され、魔法陣が展開される。
 魔法陣の中心にいる奏を覆うように、光が柱となって迸った。

「...この魔法は、心、精神、魂を不朽の城の如き力で守るものだ。強き意志がある限り、例え神であろうと奏の想いを乱す事はできないよ。」

「っ....ありがとう...!」

 光はまだ治まらない。それどころか、さらに空間に影響を与えている。

「...結界が崩れる。すぐに暴走体と戦闘になるだろう。」

「っ、わかった。」

「ああ、ちょっと待ってくれ。...戦うのは僕だけでいい。奏は椿とユーノを頼む。」

 戦闘のために態勢を整えようとする奏を引き留める。

「え、で、でも...。」

「...大丈夫だ。僕を信じろ。」

「.....うん。」

 リヒトをグローブ形態にし、シャルは僕の身体保護に回す。
 ...武器は必要ない。...というか、創り出せる。

「...さぁ、奏。その意志を解き放て!」

「っ.....!!」

 “志導優輝”である僕と再会し、魅了も解けた奏に、もう何も悩む事はない。
 だからこそ、目を見開き、自身の意志を開放した奏の光は、凄まじかった。















       =out side=







「っ、ぁああっ!」

     ギィイイン!!

 背後からの強襲を、咄嗟の防御魔法で何とか凌ぐユーノ。

「(僕を狙ってる...!)」

 バインドに加え、一撃で防御を破壊した事により、暴走体のヘイトはユーノに向いていた。

「はぁっ!」

     ギィイン!

「っ、ぐっ!?」

 気を引こうと短刀で斬りかかる椿だが、パイルスピアで防がれた後に魔力による衝撃波で吹き飛ばされる。

「(くっ...まずはユーノを仕留めるつもりね...!)」

 理性がないにも関わらず、厄介な相手を先に潰そうとするのに椿は歯噛みする。
 ...尤も、狙う相手をとことん狙うというのは、やはり理性がないからこそである。

「(私が飛べないのも理解して吹き飛ばしてくる...。例え足場で即座に体勢を立て直したとしても、それでも少しの時間だけ遅くなる。あの暴走体...そこまでわかっているっていうの!?)」

 椿を適度にあしらい、その間にユーノを仕留めようとする暴走体。
 理性がない故の合理的行動なのだが、それが二人にとってはとことん厄介だった。

「くっ...!」

 体勢を立て直し、椿は再び斬りかかる。
 しかし、それは躱され、背後から反撃が繰り出される。
 それを足場に手を付き、倒立する要領でそこから飛び退いて回避する。
 ...が、そこへ魔力の衝撃波が飛び、椿は再び離される。

「ユーノ!」

「ぐっ...くっ....!」

 暴走体は再びユーノに襲い掛かる。
 魔力弾ではなく、移動魔法を利用した物理攻撃にユーノは翻弄され...。

     パキィイン!

「ぐ、がはっ...!?」

 ついに防御魔法が破られ、まともに一撃を喰らってしまう。
 バリアジャケットのおかげで、その一撃で流血などはしなかったが...。

     ドンッ!

「が、ぁっ...!?」

 そのまま柱に叩きつけられ、その衝撃でユーノは吐血してしまう。

「っ、このっ...!」

 体勢を立て直した椿が、矢を放ちながら暴走体へと接近する。
 しかし、矢は躱され、距離もまだ遠かった。

「は、ぁっ....ぐぅぅぅ....!」

 追撃とばかりに暴走体はユーノへと襲い掛かる。
 叩きつけられたダメージを負ったまま、ユーノは咄嗟に防御魔法を張るが...。

「ぐ、ぅ...!(耐え切れない...!)」

 徐々に広がる罅。このまま突破されるとユーノは確信してしまう。

「させないわよっ!!」

 そこへ追いついた椿が暴走体へ斬りかかる。
 躱され、再び魔力で吹き飛ばされそうになるが...。

「っ、“霊撃”!」

 同じく霊力の衝撃波で相殺し、ユーノを庇うように割り込む。

「ぐ、くっ....!」

 短刀とパイルスピアが拮抗する。
 しかし、暴走体はそれだけで終わらない。

「っ、“霊壁”!!」

 防いでいるパイルスピアの穂先が光る。
 瞬間、椿は咄嗟に霊力を壁のように固める。
 ...そこへ、一筋の閃光が突き刺さり、魔力の衝撃が徹って椿はダメージを受ける。

「ぐ、ぅ....!」

 一筋、二筋と、一度だけでなく何度も放たれる閃光。
 椿はそれを何とか適格に霊力で防ぐが、威力を殺しきれずにダメージが蓄積する。
 しかし、それでも椿はユーノを庇っているため、動けない。

「(まずいわ....!このまま、だと...!)」

     ドンッ!

「うぐっ!?」

「きゃぁっ!?」

 “やられてしまう”。そう椿が思った瞬間、再び衝撃波が二人を襲う。
 叩きつけられるように二人は柱に押し付けられ...。

「あ.....。」

 少し離れた位置に暴走体。翻す手には三角形のベルカ魔方陣。
 椿とユーノはそれが砲撃魔法だと確信し、その後の“死”を覚悟した。

「(優輝...ごめんなさい....。)」

 目を閉じ、来るだろう衝撃に備え....。















「させる...かぁっ!!」

「ガードスキル“Delay(ディレイ)”!」

 暴走体は上から繰り出された蹴りで海に叩き落され、二人はその場から助け出された。

「っ、何が...。」

「....無事...ではないわね....。」

「奏...?」

 二人を助け出した奏は、角のように海から出ている柱の上に二人を降ろす。

「じゃあ、さっきのは...!」

「優輝...!」

 先ほどまで暴走体のいた所を見て、二人は歓喜する。

 ...そこには、待ち望んでいた人物が佇んでいたのだから。









「....さぁ、反撃の時間だ。」















 
 

 
後書き
霊壁…霊力による障壁。扇技・護法障壁の下位互換。所謂プロテクション。

Göttin Hilfe(ゲッティンヒルフェ)…女神の救済の意を持つ魔法(由来もそれをドイツ語にしたもの)。正気に戻す効果を持つ。第6話に登場して以来の出番である。

露骨なセリフパロ。この小説には度々そんなパロが入ります。
奏さん救済。ヒロインが増えるよ。やったね優輝!
...とまぁ、これから奏は普段はクールなままだけど、優輝の前ではデレる形になります。(描写できるとは言っていない。)
一応、まだ“好き”という感情は抱いてません。飽くまで“恩人”です。

...さぁ、ようやくこのジュエルシード戦も終わります。
後に偽物戦が控えていますが。 
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