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義理人情も迷惑

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第一章

                  義理人情も迷惑
 椎葉建は名前のせいか高倉健が好きである、それでこの偉大な俳優が出ている映画は全て観ていた。
 そのうえでだ、学校でもよく映画での台詞を出していた。
「自分不器用っすから」
「何言ってやがる」
「またその言葉?」
「本当に高倉健さん好きだな」
「というか尊敬し過ぎよ」
 見れば丸顔で目も丸い、福耳で厚い唇で団子鼻だが髪型はそっくりにしている。クラスメイト達はその彼に言うのだった。
「顔は健さんそっくりじゃないのに」
「髪型は真似て」
「しかも相撲部にも入って」
「太ってないのに」
「高倉健さんが相撲部じゃったからのう」 
 広島弁も影響である。
「それでじゃ」
「うちの高校の相撲部に入ってか」
「相撲に励んでるのね」
「高倉健さんが明治大学で相撲部に所属していたから」
「それでなの」
「建さんになりたい思うたら」
 無理に広島弁を使っていく。
「相撲からじゃ」
「じゃあ南極行け南極」
「それと三代目になったら?」
「網走行くのもいいな」
「もうそうしていったら?」
「ええのう」
 言われてすっかりその気になっている、本人も。
 そしてだ、こんなことを言うのだった。
「わしは建さんみたいな人になりたいわ」
「実際凄い真面目な人だったらしいな」
「撮影で真っ先に来てね」
「謙虚で礼儀正しい」
「そんな人だったらしいな」
「悪い噂はないな」
 女性が好きだったというが離婚の際一生再婚しないという誓いを生涯守ったという、非常な人格者で律儀だったことは間違いない。
「そうした人になりたくてか」
「頑張るのね」
「そうなんだな」
「そうじゃ、わしはなるわ」
 絶対にというのだ。
「切磋琢磨してのう」
「で、進路は明大」
「そこか」
「そこに行くんだな」
「進路についても」
「そうじゃ」
 まさにというのだ。
「大学はそっちじゃ」
「じゃあ卒業したらヤクザ屋さんか?」
「それか自衛隊か?軍人さんの役もよかったし」
「南極行くか駅員さんか」
「そういうのか」
「駅員さんじゃ」
 つまりぽっぽ屋というのだ。
「わしはそうなりたい」
「そっちかよ」
「駅員さんになりたいのね」
「そっちの高倉健さんか」
「目指すのは」
「八条鉄道じゃ」
 希望の就職先はそこだというのだ。 
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