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巻き添え

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第三章

「だからだ、他の奴にも言うか」
「パリを出ようって」
「出るなら今のうちだ」
 まさにというのだ。
「荷物、商売道具も持ってパリを出るぞ」
「具体的に何処に出るの?」
「ロンドンにするか」 
 イングランドの首都のそこにというのだ。
「船で行くぞ、いいな」
「じゃあ今から?」
「店を畳め」
 ミシェルは妻にはっきりと言った。
「御前達は出る用意だ、俺は知り合いに声をかけに行く」
「パリを出た方がいいって」
「急がないとな、近いうちにえらいことになるぞ」
 ミシェルは貴族の馬車達を見ていた、新旧両教徒達がいるがだ。 
 彼等はそれぞれ睨み合っていた、誰もがその目に憎悪の炎を宿していた。
 その憎悪の炎を見てだ、彼は言ったのだ。
「殺し合いになるな」
「殺し合いなんて」
「まさかと思うだろ」
「そうよ、だってユグノーの王様とカトリックの王女様のご結婚よ」
 だからというのだ。
「それでどうして」
「そう思うだろ、けれどな」
 ミシェルはカロリーネに言った。
「俺にはわかったんだ」
「殺し合いになるって」
「それも相当なな、うかうかしてるとな」 
 それこそというのだ。
「巻き添えを食うぞ」
「だからそうなる前に」
「パリから逃げるんだ、いいな」
「宝石さえあれば」
「何処でも売れるからな」
 それこそロンドンでもだ。
「ロンドンにも宝石が手に入るルートがある」
「あっちでも商売は出来るし」
「ロンドンに逃げずぞ」
「それじゃあ」
「俺はすぐに言って回る」 
 知り合いにというのだ、縁のある。
「御前は子供達と一緒に店を畳んで引越しの用意をしろ」
「それじゃあ」
 妻も夫の言う言葉があまりにも強いので頷くしかなかった、まさかと思いつつも。そしてだった。
 ミシェルは知り合いに事情を話しパリを出る様に勧めてだった、畳んだ店からすぐにだった。
 家族と商売道具、持って行けるだけの家具を持って行ってだった。パリを後にした。その彼等を見たパリ市民達はいぶかしんで口々に言った。
「何だあの店」
「急に店を畳んだぞ」
「折角のご成婚でものも売れるだろうに」
「貴族の方々が集まってるから宝石も売れるだろう」
「それでどうしてなんだ?」
「店を畳むんだ」
「訳がわからないな」
「何を考えているんだ」
 殆どの者が首を傾げさせていた、だが。
 ミシェルは家族を連れてパリを出てロンドンに向かった、彼は遠くになったパリを見てそのうえで言った。
「危険からは逃げないとな」
「逃げられるうちに」
「ああ、そうしないとな」
 それこそとだ、妻にも言うのだった。
「巻き添えを受ける」
「そういえば私達は」
「何かあればだろ」
「ええ」
 ユダヤ人としてだ、カロリーヌも答えた。
「攻撃されるわね」
「異教徒だからな」
 キリスト教の世界においてはというのだ。
「だからな」
「黒死病でもそうだったわね」
「あの時も俺達のせいにされた」
 実際にあった過去のことをだ、ミシェルは言うのだった。 
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