ソードアート・オンラインⅡ〜隻腕の大剣使い〜
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第79話 《隻竜》と《女神》の同盟
ライリュウside
GGO内、BoB本戦フィールド
間に合わなかったーーー目の前でペイルライダーが殺された。橋の支柱の陰から突然現れて、あらかじめ居場所を特定したシノンの狙撃をかわして、麻痺で動けなくなったペイルライダーを1発の銃撃で殺害ーーークソッ!!こうなるならペイルライダーの方を撃ってもらえばよかった!!今さら後悔しても仕方ねぇのにーーー
「《死銃》の野郎・・・!!」
「《死銃》?それって、あの撃たれたプレイヤーは二度とログインしてこないっていう妙な噂の?」
「そうだ。あいつは何らかの方法でプレイヤーを本当に殺せるんだ」
「まさか・・・」
シノンには冗談みたいに思われてるけど、冗談なんかじゃない。むしろ冗談だった方がまだ楽だ。
「すでに現実世界でも2人死んでる。ゼクシードと薄塩たらこ、このゲームのトッププレイヤーだから名前は知ってるだろ?そんでもってその2人は姿を消してから一度もログインしてこない」
ログインなんて出来るわけがない。2人ともあのボロマント野郎に殺されたんだから。
2人の事を教えてシノンを納得させ、オレは双眼鏡で死銃の行動を確認する。奴はペイルライダーを撃った位置からゆっくりと歩行し、橋の支柱に身を潜めた。物陰に隠れてシノンの狙撃を無効化して、オレたちから逃げるつもりか。
そう思考を巡らせていたら、シノンの腕時計からアラーム音が鳴り出した。
「ライリュウ、あんたは橋を監視してて。私は《サテライト・スキャン》であいつの名前を確認する」
「了解」
《サテライト・スキャン》ーーー15分に一度人工衛星が上空からオレたちプレイヤーの位置を知らせる端末だ。オレが橋を監視してる間にシノンが奴の居場所、及び名前を確認してくれれば、あとはそいつを追って撃破すればいいだけだ。
「チャンスだわ」
「は?チャンス?」
いきなり何を言い出した?
「あのボロマントは端末に映ってない。あんたみたいに川に潜ってるのよ。だとすれば、今は武装を全解除してる」
そうか、オレが《サテライト・スキャン》に認識されずにここまで来た時と同じか。オレは装備を全部解除してアイテムストレージにしまって、橋の下に流れてる川に潜って移動してたから《サテライト・スキャン》に居場所を認識されなかった。装備全解除って言っても、今のオレは女アバターだからもちろん下着は残して。
もし本当にオレみたいに装備を全解除して、文字通り無防備ってことになる。でもーーー
「拳銃の1丁は持ってるんじゃないか?それくらいなら《サテライト・スキャン》にも感知されないだろ?」
「たとえそうでも、ハンドガン1つくらい楽々押し切れる・・・」
「ダメだ!!!」
オレはあいつの恐ろしさを全く分かってない余裕面のシノンの手を怒鳴りながら掴む。
「お前、あれをちゃんと見てなかったのか?あいつの黒い黒い拳銃がペイルライダーを殺した瞬間を!1発でも撃たれたらマジで死ぬぞ!!」
オレは目の前で誰かが死ぬところなんて見たくねぇ。本当は生きていたとしてもーーー
『大好きだよ、竜くん』
あの時感じたものを絶対に忘れない。あれだけは忘れない、忘れてたまるかーーー
「・・・私は、認めたくない。PKじゃなくて、本当に人を殺しているプレイヤーがいるなんて」
オレだってそう思ってる。あのデスゲームが終わって、やっと純粋にゲームを楽しめる世界が出来たんだ。それを殺人に利用する輩が存在するのを認めたくないのは分かる。でもーーー
「それでもいるんだ・・・あのボロマント、死銃は昔オレがいたバーチャルMMOの中でたくさんの人間を殺したんだ。相手が本当に死ぬのを分かっていて剣を振り下ろしたんだ。そしてオレも・・・」
オレもあの世界で4人の心臓を手刀で貫いた。あの4人にも現実世界で帰りを待っている人がいたかもしれないのにーーーオレは4人を殺しただけじゃなく、その人たちも悲しませたかもしれないんだ。
「本当に、そんな奴がGGOに・・・」
そう呟いたシノンは少し顔を俯いた。それに、心なしか顔色も悪くなってる気がするーーー
「シノン?おい、どうしたんだよ?シノン・・・おい、シノン!!」
「ッ!!」
オレがシノンの肩を掴んで声を掛けて、ようやく正気に戻せた。
「・・・大丈夫、ちょっと驚いただけ。正直あんたの話をすぐには信じられないけど、でも全部が嘘や作り話だとは思わない」
「・・・ありがとう。今はそれで充分だ」
「とりあえず私たちもすぐにここから動かないと」
どうやら事情を理解してくれたようだ。とりあえず今オレたちが取るべき行動はここから離れることだ。オレとシノンが交戦中だと思ったプレイヤーが漁夫の利を狙って近付いてくる可能性が高い。
「じゃあここで別れよう」
「え、あんたはどうすんのよ!?」
「オレは奴を追う。シノンは極力あの野郎に近付くな」
「でも・・・」
オレが死銃を追えば、オレが殺される可能性が高くなる。シノンの場合もまたしかり。オレとしてはオレ以外の誰かが死ぬのは嫌だ。でもオレはシノンとの約束もある。
「約束は守る。次に会った時には全身全霊をかけてシノンと戦う。さっきはオレを撃たずに話を聞いてくれてありがとな」
「え?ちょっと!!」
オレはシノンに再戦の約束とお礼を言って後ろに走り出す。奴を探すには今の名前が分からないのが大きな問題だな。昔の名前は知ってるけど、出場者の中にあいつの昔の名前はなかったしーーー
「待ちなさいよ!!!」
「ん?」
後ろから追いかけて来るシノンの呼び掛けを聞いて、オレは立ち止まる。その彼女の口から出た言葉はーーー
「・・・私も行くわ」
「はあっ!?」
オレと共闘するという意味が籠もった発言だった。
「死銃って奴、相当強いよ。あんたがあいつに負けたら、私と戦えないじゃない」
「それはそうだけど・・・」
「あんまり気が乗らないけど、一時共闘してあいつを本戦から叩き出した方が確実だわ」
確かにオレとシノンが協力して奴を倒せば、奴の犯す殺人もそこで終わらせられる。その後なら存分に戦える。でもーーー
「・・・いや、あいつは本当に危険なんだ。下手したらキミが・・・」
「死銃がどこに行ったのか分からないんだから、一緒にいようがいまいが危険度は同じでしょ?」
オレもさっき全く同じこと考えてたよ。でも確かに単独で奴と接触したらほぼ確実に殺される。だったら2人で手を組んで奴と戦った方が危険度は同じでも連携が取れる分安全かーーーッ!!
「戦闘準備!!」
背後から視線を感じ取ったオレは腰に吊るした《FJBX−04A》を手に取り、赤いビーム状の刃を展開させて気配のあった方向ヘ向ける。そこにいたのは中国風の甲冑を身に纏い、左目に黒い眼帯を付けた男ーーー夏侯惇だった。そいつの持つマシンガンから十数本の《弾道予測線》がオレたちに向かって伸びていた。
《弾道予測線》にそって放たれた銃弾をオレが次々と斬り裂く。この銃弾の雨を後ろのシノンに刃が当たらないように斬るのはかなり難しいけど、何の問題もない。
「ウソぉ!?」
どうやら夏侯惇のマシンガンは弾切れを起こしたらしいな。まずはーーー
「オレが突っ込むから、バックアップ頼むぜ」
「・・・了解!!」
地面に寝そべって狙撃の体制に入ったシノンと、マシンガンに替えの銃弾の入ったマガジンを装填した夏侯惇を確認して、オレは放たれた銃弾の雨を斬り払う。
オレたちに向かって飛ぶ弾丸を回って斬り、跳んで斬り、速く斬る。かつてキリトが発動した二刀流スキルの上位剣技、《スターバースト・ストリーム》程じゃないけど、今のオレなら剣撃で嵐だって作れる気がするぜ。夏侯惇のマシンガンは再び弾切れを起こした。とどめはーーー
「今だシノン!!ぶっ放せ!!!」
とどめはシノンの狙撃銃、《ウルティマラティオ・へカートⅡ》の銃口から放つ狙撃だ。シノンはライフルの銃口から銃声と硝煙、そして絶大な威力が込められた弾丸を放ちーーー夏侯惇の上半身と下半身が分離するほどの威力で撃破した。
オレは《FJBX−04A》を軽く振り回し、展開したビーム状の刃を消して腰に吊るした。
「初めての連携としては悪くなかったんじゃないか?」
「え、えぇ・・・」
動いてたのはほとんどオレだったけど、弾切れのタイミングを見計らって、逃走や反撃の隙も与えずに敵を仕留める。今まで未来やキリトたちと組んで戦うこともあったけど、ぶっつけ本番でここまで上手く連携が取れたのは初めてだ。オレたちならもしかしたら、奴を倒せるかもしれないーーー
「シノン、奴を・・・死銃を倒すまで・・・」
今なら迷わずこう言えるーーー
「オレと同盟を組んでくれ!!!」
《隻竜》と《女神》の同盟、結成だ。
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