提督はBarにいる。
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EX回:8 鎮守府の秋祭り~当日編④~
任された、と注文を受けた武蔵がまず取り出したのは、横に平べったく、そして馬鹿みたいにデカいバンズ。下手すると洗面器位の直径があるかも知れん。
「どうだ?デカいだろう。直径35cmあるぞ、どうだ?怖じ気付いたか。ん?」
どうやら武蔵の思い通りのリアクションだったらしい。くそう、何か腹立つ。そのバンズを横に半分に割ると、その断面を下にしてを鉄板の上に乗せた。更に、これまた巨大なパティが2枚。しかし、ステーキの様に分厚い訳ではなく、薄くバンズの直径に合わせたサイズだ(それにしたって凄いグラム数だろうが)。
「そのパティは100%ビーフか?」
「あぁそうさ。その方が肉の旨味がガツンと来る。……所で提督よ、貴様佐世保バーガーの定義を知っているか?」
ジュウジュウと良い音を立てて焼けていくパティの焼け具合をチェックしながら、武蔵が少し鼻高々に聞いてきた。
「あぁ、確か……」
一時期流行って全国で食べられていた佐世保バーガー、あれは実は本当の意味では佐世保バーガーではない。佐世保バーガー『風の』ハンバーガーだったのだ。
そもそも、佐世保バーガーの定義は、
・店毎に独自性、主体性があること。
・作り置きをせず、注文を受けてから作る事。
・必ず手作りである事。
・地元(つまり佐世保市)の食材を使っている事。
・そして何より、その味や安全性に信頼が置ける事。
以上の事柄を基準に審査して、それに合格した物だけが佐世保バーガーを名乗る為の看板を掲げる事が許される。また、佐世保市内に店舗が無くとも、認定された者であれば、『佐世保バーガーの美味しさを市外の人々に広める為』という事で、「佐世保バーガー観光大使」に任命され、例え佐世保市外であっても認定の証の看板を掲げる事が出来る。
「……だったか?」
周りからおぉ~……と感嘆の声と疎らな拍手が起こる。一方武蔵は悔しそうにギリギリと歯軋りをしている。
「おい貴様ァ!何故そんなに詳しいのだ‼」
「え、だって俺もそこの店、常連だし。」
途端に武蔵がずっこけそうになっている。調理中に危ない奴だなぁ。そこのオヤジさんはお喋り好きで、色々と蘊蓄を教えてくれるモンだから、自然と覚えてしまったのだ。因にだが、そのオヤジさんの店にも、認定の証の看板は掲げられている。つまりは、本場の佐世保バーガーの味が堪能出来るってワケだ。
「フン、まぁいいさ。私の作るハンバーガーの再現度の高さに恐れおののくがいい‼」
おいおい、どこの魔王の台詞ですかそれは。まぁ、確かに手際はかなり良い。パティを返した武蔵は、ハンバーガーに挟む前に焼かなければ行けない具材を更に準備していく。パティの次はベーコン。スーパーに売っているようなスライスベーコンを8枚、カリッカリになるまで焼いていく。更に更に、丸い金型を取り出して、その内側に卵を落とす。その数5つ。この時点で見ているだけで胸焼けがしてきそうだ。パティに火が通ったらしい事を確認した武蔵は、その上に特製らしいソースを回しかける。鉄板の熱さでソースが焦がされ、香ばしい匂いが立ち込める。ごくり、と唾を飲み込む。先程までの胸焼けしそうな感覚はどこへやら、また胃袋が空腹を断固訴えてきた。グウゥ……と腹が鳴る。
「ふふ、もう少しだ、待っていろ。」
武蔵は腹の鳴った俺を微笑ましく見ながら、ソースを掛けたパティの上にとろけるチェダーチーズを乗せる。そのチーズがとろけ始めた瞬間を見計らって、武蔵が仕上げに入った。
まずバンズをひっくり返し、良い焦げ目が付いた断面にバターをうっすら塗る。そこにパティを二段重ね。そこにソースを追い掛けし、その上に巨大目玉焼きをドン。
更にカリカリベーコンを目玉焼きの上に載せ、そこにトマト、紫玉ねぎのスライスを載せ、マヨネーズソースをトロリと掛ける。その上にサニーレタスで覆い被せ、最後にバンズの上半分で閉じ込める。そして鉄板焼用のコテを二本使い、スパゲッティ等を纏めて盛りそうなサイズの大皿にドスンと置いた。
「さぁ出来たぞ。『佐世保バーガー・大和型スペシャル』だ。重いから気を付けて持ってくれよ?」
折角作ったのに落とされては敵わん、と念押しされる。両手で受け取ると、確かにズッシリとくる重量感。3kg位は有るんじゃなかろうか。
「じゃ、じゃあな武蔵。ありがとよ。」
巨大ハンバーガーを受け取った俺と大淀は、座って食べられる場所を探して歩き出した。……あ、流石にポテトは大淀に持って貰った。
しばらく歩いていくと、広場の様な開けた場所にテーブルと椅子が何セットも出してある場所に辿り着いた。
「おっ、ここにしようぜ。……あ゛~、疲れたぁ。」
持っていた荷物をテーブルに置き、椅子にもたれかかって両足を投げ出す。
「運動不足ですよ~?提督。」
「うるせー、歩くのに疲れたんじゃなくて、人混みに疲れたの。」
そんな会話を交わしていると、後ろから寒気を感じさせる気配が接近してくる。
「へーィ提督ぅ。何を仕事中にイチャイチャしてるですカ~?」
こめかみの辺りに青筋を浮かべ、引きつった笑顔の金剛がお盆を持って近寄って来た。
「イチャイチャなんてしてねぇぞ?屋台の巡回警備だって……の?おま、その頭の飾りは何だ?」
よく見ると、金剛の服装はいつもの巫女さんぽい制服だが、あの特徴的な電探型のカチューシャの上に、大きなウサギの耳が付いている。
「あ、これですカ?普通のcafeじゃつまらないので、Bunny girl cafeにしたのデース‼」
周りをよく見ると、確かに金剛の他にも比叡に榛名、霧島もウサ耳を付けている。更に、手伝いだろうか卯月に弥生、島風と漣も同様にウサ耳を装着していた。漣に至ってはメイド服のコスプレまでしている気合いの入れようだ。
「へぇ……中々似合ってるじゃないか。」
「あら?Adomiral,貴方も飲みに来たの?」
聞き覚えのある声の方に振り向くと、そこにはバーテンダーの男装をした金髪の女性が一人。
「お、お前もしかしてビス子か?」
「ちょっと!その呼び方は止めなさいって言ってるでしょ‼私はドイツの誇る超弩級戦艦・Bismarkなんだから!」
そう言ってビス子……もといビスマルクは、背筋を伸ばして身体を大きく見せるように胸を張った。
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