黒魔術師松本沙耶香 騎士篇
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第二十四章
「大聖堂ね」
「ベルリンの」
「そこにいるわね」
「はい、それではあちらに行きましょう」
二人はそれぞれだ、青い渦とタロットカードの運命の輪から出した黒い渦のその中に入ってだ。そのうえでベルリン大聖堂白い壁と青く丸い屋根を持つ重厚な聖堂の前に出た。シュプレー川の中にある博物館島に向かうとある聖堂である。プロテスタントの教会としてはドイツ最大であり高さ百メートルを越える巨大なドームはバチカンのサン=ピエトロ寺院をモデルにしておりプロイセン王家でありドイツ皇帝家ともなるホーエンツォレルン家の協会に相応しい重厚な外見である。二人はその前に出た。するとそこにだった、浮かぶ小アルカナのカード達と梟達が待っていて。
聖堂の前に彼がいた、馬に乗ったままで。沙耶香と速水はそれぞれ梟とカードを己の手の中に収めてから言った。
「いたわね」
「こちらに」
「この教えは好かぬが」
騎士は言った。
「新教だの言うが異端ではないか」
「貴方の考えではそうね」
沙耶香は不快そうにしている騎士に対して言った。
「新教も」
「そうだ、皇帝もおかしな宗派を信じられる」
「それも貴方の時代にはなかったものよ」
新教もというのだ。
「生憎ね」
「だから皇帝もか」
「そうよ、ただね」
「ただ、何だ」
「その皇帝も貴方が知っている皇帝ではないわ」
沙耶香箱のことも断った。
「生憎ね」
「皇帝までもが」
「貴方の言う皇帝はローマ皇帝ね」
「如何にも」
その通りだとだ、騎士も答えた。
「ローマ帝国の皇帝だ」
「神聖ローマ帝国ね」
沙耶香は彼女が知っている言葉を出した。
「西欧を治めるべき存在であり信仰の守護者である」
「その筈だが」
「その聖堂の宗派を信じていた皇帝はドイツ皇帝よ」
このことを言うのだった。
「ドイツ帝国皇帝よ」
「皇帝は皇帝でも違うか」
「この国の皇帝であったのよ」
あくまで、というのだ。
「ローマ皇帝ではなかったのよ」
「ビザンツの皇帝でもなくか」
「ええ、あちらの皇帝でもないわ」
「あの皇帝も異端を信じているが」
正教もだ、彼から見ればそうなるのだ。
「まさか我が皇帝までそうであるとはな」
「時代は変わるということです」
今度は速水が言った。
「その都度」
「信仰もか」
「最早ローマ=カトリック教会だけでないのです」
速水は騎士にこうも言った。
「そうした時代なのです」
「時代だというのか」
「そうです、今は」
「時代で正義も変わるのか」
「そのことはおわかりになりませんか」
「何がわかる、正義は一つだけだ」
あくまでだ、騎士はこう言うのだった。
「普遍にして絶対のものだ」
「神の教えですか」
「それだけだ、それを履き違えた異端の聖堂もだ」
「いらないと」
「この様なもの、何の価値があろうか」
聖堂の方を場上から見てだ、騎士は忌々しげに言った。
「余がこの手で壊したい程だ」
「やれやれね、やはりお話では解決出来ないわね」
沙耶香は騎士の言葉に達観した様にして言った。
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