現代・短編集
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『転換の顕現・2016年米国大統領選』
アメリカの大統領選はほぼクリントン氏で決まりと思われていた。
ニューヨークなど東海岸の大都市の街のあちこちでは、
「LOVE TRUMPS HATE」のプラカードやTシャツを見ることができた。
トランプ氏の公約は、腐敗政治の根絶(既成の政治家は信用できない、嘘つきクリントンはその代表)、既定路線のTPPを拒否(アメリカはTPPなどなくてもやっていける)、国民皆保険制度の見直し(アメリカは社会主義国家ではない、自由主義自助努力の信念が失われる)、移民の排斥(古き良き健全なアメリカ人にとっていいことがない)、アメリカ第一主義(「MAKE AMERICA GREAT AGAIN 」)などである。そしていうまでもなくそれらの根底を流れる思いを最もよく表しているのは、やはり最後に記した、
「MAKE AMERICA GREAT AGAIN(アメリカを再び偉大な国にする) 」である。
単純で正直で少なくともアメリカ人なら快哉を叫んで受け入れても良さそうなトランプ氏のこうした政策は、政界財界に影響力を持つ一部ともいえる知的エリートたちには胡散臭く、むしろ、
「トランプ氏の政策は国民の分断を招く扇動的なものである」という烙印を押され、世論調査でもクリントン氏の勝利はまちがいなかった。
しかしながら、その本命と目されていたヒラリー・クリントン氏の支持率が少しでも低下しトランプ氏と拮抗してくるや、わが日本国の首相安倍晋三氏は、
「(対抗馬である)トランプ氏にも仁義を尽くしておいたほうがよいのではないか?」
一転既定路線と平行して新たな戦略を練ることにした。本命クリントン氏が当選した時その報復を受けないよう隠密にである。
はたして米大統領選の結果は、トランプ氏の勝利であった。
日本国は仏教国である。世界を支配しているのは縁起の法である。
トランプタワーの最上階で会談した安倍首相は、上機嫌で帰りの車に乗り込んだ。現職の首相が、大統領選挙に勝利したとはいえ、大統領に就任する前に一候補者と会談するのは極めて異例のことで、世界中のメディアが注目した。
安倍首相の頭には、
「MAKE AMERICA GREAT AGAIN 」と書かれたトランプ氏お気に入りの帽子があった。「俺はアメリカを再び偉大な国にするぞ!」
注:会談、2016年11月17日午後5時NY。
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