夏の犬
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第二章
「ちょっとね」
「すぐには決められないか」
「そうなのね」
「ちょっとどんな子がいるか見せて」
こう言ってだ、梨帆は実際にだ。
ケースの中にいる犬達を見てだ、そのうちの一匹の小さく胴長短足で茶色と白の毛の立った耳の犬を見て言った。
「この子可愛いわね」
「ああ、コーギーか」
「その子がいいのね」
「うん、可愛いから」
「確かに可愛いな」
「大人しそうだしね」
両親もそのコーギーを見て言う。
「それじゃあな」
「この子にしましょう」
「お金は持って来てるし」
「首輪やリードや御飯も飼ってあげてね」
そうした話もしてだった、両親も決めた。こうして松田家はそのコーギーを家族として迎えた。幸平は一切反対はせずにザリガニの餌を手にして応えた。
「別にいいんじゃないかな」
「あまり興味がなさそうだな」
父はその息子にこう問い返した。
「犬のことは」
「犬は嫌いじゃないけれど好きでもないから」
特にというのだ、短く刈った髪に手をやり述べる、一八〇を優に越える長身が目立っている。
「俺は別に」
「そうか、まあとにかく反対はしないな」
「むしろ賛成かな」
「じゃあそういうことでな」
こうしてだ、コーギーは買われて犬小屋も一緒に松田家に入った。コーギーの名前は梨帆が付けることになった。
「ううん、エグゼイド?」
「その名前にするのか?」
「そうするの?」
「うん、男の子だから格好いい名前にしたいから」
だからだというのだ。
「この名前はどうかしら」
「よし、じゃあな」
「その名前にしましょう」
両親も反対しなかった、かくしてコーギー犬は名前も付けられた。そして毎日御飯を食べてブラッシングもされてだ。散歩にも朝夕出たが。
幸平は梨帆が散歩に行く時自分が家にいるとだ、妹に強く言った。
「一人で出るんじゃない」
「お散歩には?」
「女の子一人は危ない」
だからだというのだ。
「お兄ちゃんも行く」
「犬好きじゃないんじゃ」
「嫌いでもない」
妹にもこう言ったのだった。
「それに何よりだ」
「女の子が一人でいたら」
「危ない、だからザリガニの世話が終わってからだ」
これは忘れなかった、ザリガニマニアなだけに。
「行こう」
「それじゃあ」
こうしてだ、梨帆が散歩に行く時は常にだった。幸平も一緒だった。リードは梨帆が持っていてもいつも幸平もいた。
夏休みだったので学校の時間を気にせずに散歩が出来た、塾があるにしても。だが梨帆はある朝散歩をしている時にエグゼイドを見つつ幸平に尋ねた。
「何かエグゼイドあまり歩かないし帰ったら」
「すぐに寝るな」
「身体弱いの?」
「夏だからな」
幸平は真一文字の口で妹に答えた。
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