提督はBarにいる。
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河豚より美味い、フグ目の魚。
コンコン、とノックの音がする。俺は下準備の手を一端止めてそれに応える。
「おー、勝手に入ってきてくれ。今手が汚れてるから離れられんからよ。」
その言葉に応じるように、ズラズラと艦娘達が入ってくる。伊勢・日向・白露・春雨。そしてこの間加わったばかりの江風と海風。なんともまぁ、あまり接点が無さそうに見える組み合わせだよな。
「やっほー提督、ゴチになりに来たよ~。」
「はぁ?何言ってんだお前は。魚介類の材料費以外は有料だぞ。」
当たり前の事を伊勢に言うと、リアルにorzの姿勢になって落ち込んでいる。
「ガーン……。提督の料理がタダで食べられると思って昼も抜いてきたのに。」
「まぁ、そうなるよな。」
冷静沈着な日向のツッコミが入る。
「ふーん、提督の料理ってなぁそんなに美味いのかい。アタシはまだ疑ってるけどな。」
そう言ってフン、と鼻を鳴らしたのは江風。どうやら俺の腕前に疑問があるらしい。それなら美味い料理を食わせてギャフンと言わせてやろう。
「さーてと、まずは喉を湿らせた方が良いだろう。」
何を飲む?と6人に尋ねる。
「まずは日本酒を貰おう。銘柄は提督にお任せで、な。皆もそれで良いか?」
日向がすかさずそう注文をかける。他の5人も異論は無いらしい。ならば、と俺はこの間届いたばかりの地元の日本酒を開ける。
「岩手の酒蔵から直送して貰った『月の輪』の大吟醸だ。甘口だから飲みやすいからな。良さを消さない為に冷やでやってくれ。」
なんと言っても大吟醸の良さはその円やかな口当たりと、完熟メロンとも称される芳醇な香りだ。熱燗なんてもっての他。大吟醸熱燗にした、というアホな友人をぶん殴った事さえある。
「「「「「「乾杯。」」」」」」
枡で出してやったから、打ち合わせる乾杯ではなく、掲げるだけの乾杯。ズズズ、と啜ってやると、僅かに開いた口の隙間から甘い香りが漏れ出てくる。
「うん、飲みやすい‼」
「確かにな、流石は呑兵衛の提督だ。無名でも美味い酒を知っている。」
日向よ、それは誉めてんのか?貶してんのか?どっちだよ……。まぁいい、気を取り直して調理に移ろう。
まずはカワハギからいこうか。意外に知らない人が多いが、カワハギはフグ目に属する魚で、フグの旨味とカレイのエンガワのようなこりこりとした歯応えを併せ持つ、酒の肴ならばトラフグにも勝るとも劣らない魚だと個人的には思う。
角の様な部分と口先、ヒレを落としたら口先の切り口から皮を剥いでいく。カワハギの特徴はなんと言っても、その名前にもなっている皮の剥がしやすさだろう。手で剥がせるのだから相当剥がしやすい。皮を剥いだら腹を裂き、肝を傷付けないように取り出して、浮き出している血管を流水で洗う。カワハギはこの肝も絶品なんだよな。フグと違って無毒だし。身は三枚に卸して薄造りに。このまま刺身で……でも美味いんだが、ここにもう一手間。
使うのは先程取り出した肝。コレをすり鉢で擂り潰したらそこにポン酢、更に柚子の皮をすりおろした物と果汁を少し。更に自家製一味唐辛子(これはイタリア回で育ててた鷹の爪を、乾燥させてミキサーで砕いた物だ)。コレで特製の肝ポン酢の完成だ。そこに薄造りにした身を加えて和えたら出来上がり。
「お待たせ。カワハギの肝ポン酢だ。」
6人は嘗めるように味わうと、枡酒を流し込む。
「河豚より美味しいって聞いて疑ってたけど、ホントに美味しいねコレ!」
「ホントですねぇ。カワハギってこう、不細工な顔だから美味しくないのかと思ってました。」
見た目で判断するのは感心しないなぁ春雨。魚も人も、中身が肝心なんだぞ?
さて、カワハギはフグと同じように唐揚げや天ぷら、皮を残した状態で塩焼きやソテー、肝も残して煮付け等々、幅広いレパートリーが出来る。肝も残さずに、擂り潰して醤油と混ぜて肝醤油を作り、コレだけを熱々の白飯にかけても絶品だ。しかも寒くなるにつれてカワハギは更に脂が乗ってくる。コレを捌いて鍋にし、付けだれを肝ポン酢にしたら、下手するとふぐちりよりも美味いかも知れん。いや、マジで。
さぁさぁ、港町育ちの魚介類レパートリーの多さ、味わって貰おう。
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