真田十勇士
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巻ノ六十六 暗転のはじまりその十二
「出陣されることはないです」
「左様ですか」
「そして徳川殿、前田殿もです」
天下でも指折りの大大名である彼等もというのだ。
「出陣されないかと」
「そうなのですか」
「ただ、太閤様がです」
秀吉、彼はというと。
「あの方はです」
「出陣される」
「その様にお考えとのことです」
まさにというのだ。
「どうやら」
「そうなのですか」
「しかしそれはです」
「出来ないですか」
「天下人御自ら出陣はです」
「出来ませんか」
「流石に」
こう幸村に話した。
「無理です、どうしても」
「ですか」
「それとですが」
さらに言う兼続だった。
「この度の戦はかなりの兵が出ます」
「二十万程」
「それ位かと」
幸村の読み通りだというのだ。
「それがしもそう思っています」
「そうですか」
「それだけの兵を動かせば」
「かなりの力を使いますな」
「それが後々困ったことにならなければいいですな」
「それがしもそう思いまする」
幸村もこう兼続に答えた。
「ここは政に専念すべきだとです」
「今も思いますな」
「どうにも」
「ですが太閤様はその様に考えておられます」
「それは誰にも止められない」
「どうしても」
兼続も難しい顔だ、そしてだった。
幸村に茶を進めてだ、菓子も渡したが。
ここでだ、幸村は笑顔で言ったのだった。
「何と、菓子ですか」
「そうですが」
「いや、菓子とはです」
「真田殿は普段は菓子は」
「贅沢なので」
「この菓子は至ってです」
兼続はその幸村に話した。
「普通の」
「安いものですか」
「はい、ですからご安心下さい」
「そういえば近頃菓子も安くなりましたな」
「茶にしましても」
「この前まで随分高かったというのに」
「茶が多く作られる様になりました」
まずはここから話した兼続だった。
「それで茶が広く飲まれる様になり」
「茶と共に口にする菓子も」
「多く食われる様になり」
「安くなったのですな」
「多く作られますので」
それでというのだ。
「その分だけ安くなりました」
「そうですか」
「やはりものは多ければ安くなります」
「価値が下がる」
「そうなりますので」
「菓子もですか」
「安くなりました」
そうなったというのだ。
「ですからこの菓子もです」
「安いですか」
「はい」
実際にとだ、幸村に話した兼続だった。
「当家に迷惑をかけたと思われたかも知れませんが」
「それには至ってない」
「左様です」
「ならいいですか、では」
「はい、菓子も食し」
「茶も楽しみましょう」
そちらもというのだ、こうしたことも話してだった。
幸村は唐入りが決まったことについて思うのだった。それは決していいものではなく暗雲を感じるものであった。
巻ノ六十六 完
2016・7・22
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