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真田十勇士

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巻ノ六十六 暗転のはじまりその九

「あまりにも不吉じゃ」
「不吉といいますと」
「一体何が起こるでしょうか」
「唐入りの戦で敗れる」
「そうなりますか」
「いや、破軍星ではない」 
 幸村はその星を見つつだ、十勇士達に答えた。
「それは先程言ったな」
「はい、苦しい戦いになると」
「しかしですか」
「苦しいことは苦しくとも」
「負けるとまではいきませぬか」
「多くの将帥が頑張る様じゃ」
 やはり星を見て言う。
「これはな、だからな」
「そこまでは、ですか」
「敗れるまではいかぬ」
「では別の凶事ですか」
「それが起きるのですか」
「その様じゃ、しかもこの星の動きは妙じゃ」
 凶事を知らせるものであるがというのだ。
「今すぐ起こらぬ」
「と、いいますと」
「後で起きますか」
「そうなるのですか」
「その様じゃ、この様なことは珍しい」
 すぐに起こらぬということがというのだ、夜の星達が異変を知らせてもそれが数年後になって出る様なことはだ。
「何なのじゃ」
「天下の凶事ですか」
「では太閤様に何かある」
「まさかと思いまするが本能寺の様なことが再び起こる」
「そうなるのでしょうか」
「近い、しかし太閤様の星を見ると」
 幸村には秀吉の星もわかった、その星は空に一際大きく輝き彼には月の様にさえ見えるまでだ。星の輝きは陰りが見えるが。
 落ちようとはしていない、幸村はそれを見て十勇士達に言った。
「違う、太閤様には何もないが」
「しかしですか」
「それでもなのですか」
「太閤様の星は黄色い筈じゃが」
 やはり幸村にはそう見える。
「しかし」
「太閤様の星に何が」
「殿には何が見えまするか」
「赤、あれは血か」 
 秀吉の星、黄色く輝くそれに見たのだ。
「赤く混じっておる、あれが数年後起こる凶事のはじまりか」
「黄色い星に血が混じるとは」
「それは尋常なことではありませぬぞ」
「では、です」
「そこから何が起こるか」
「これは大変なことが起こる」
 このことは間違いないというのだ。
「それが何かまではわからぬが、天下が乱れるやもな」
「その凶事が起こった時は」
「そうなるやも知れませぬか」
「ようやく天下は泰平になろうとしておるのに」
「それでも」
「備え、心構えはしておくか」
 幸村は酒を飲むのを止めて言った。
「数年後のこともな」
「何もなければいいですが」
「折角跡継ぎ様のことも決まりましたし」
「その関白様が都に来られますし」
「それ故に」
「そうじゃな、大事がないことを祈る」 
 瞑目する様にして応えた幸村だった。
「これからもな、ではあらためてな」
「はい、飲みましょう」
「飲みなおしましょう」
「星の動きが気になりますが」
「今はそうしましょうぞ」
「ではな」
 幸村は十勇士達に頷きあらためて飲んだ、そして酒の後で自分の部屋に入ると待っていた妻にこうしたことを言われた。 
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