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遊戯王ARC-V 千変万化

作者:ユキアン
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第6話


「うえっ、ひっく、ぐずっ」

「ああ、もう、泣かないの。セレナは強いんでしょ」

ものすごい敵意を露わにしてカードにしてやるとか言ってきたから、ついついエンタメのガチヒール役でデュエルしてしまい、キーパーソンの融合次元の柚子に似ている女の子、セレナをガチで泣かせてしまった。今は、瑠璃達が宿泊しているホテルに移動中だ。零児に連絡して部屋も用意してもらっている。

「わたしな、んか、ごみだ。よわい、やくた、たずなん、だ」

「はいはい、セレナは役立たずなんかじゃないよ。オレが強すぎるだけだから」

ヒッポに乗って空を移動しているけど、これが普通に歩いて手を引いていたら職質を受けてただろうなぁ、と思いながらホテルの屋上に降り立つ。ヒッポから降りると、そのまま体育座りでぐずっているセレナを抱きかかえて瑠璃の部屋に移動する。

「瑠璃~、ごめんだけど、ちょっと面倒を見てあげてくれない?やりすぎた」

「ガチ泣きなのね。一体何をやらかしたのよ」

「ちょっと、エンタメのガチのヒール役でデュエルをね。諦めずに何度でも立ち向かってくるからへし折ったほうが良いかなって、手加減を忘れて10戦ほど」

瑠璃は呆れながらもセレナを風呂場に案内して使い方の説明をしながら服を脱がせて放り込んでくる。

「内容は?」

「先行【異星の最終戦士】とか、先行3【クェーサー】とか、『エンジェルパーミ』とか、『満足バーン~アマゾネスを添えて』とか、典型的なビートダウンだったから【ユベル】を立てるだけで止まったし」

「容赦なさすぎよ。全くもう、女の子を虐めて楽しいの?」

「面目ない。正直、持ってるデッキだとかなりのプレイミスをしない限り負ける気がしなかったんだ。強いとは思うんだけど、一回止めるとグダグダで、二回止めるともうリカバリー不能だから」

そう説明しながらセレナが使っていたカードを思い出しながら相性の良さそうなカードをピックアップする。闇属性・獣戦士族だからサーチとサルベージに【炎舞ー「天キ」】【ダーク・バースト】【融合回収】だろう。それから補助に【最終突撃命令】【ブラック・ガーデン】でいいかな?後は変わり種に【マスク・チェンジ・セカンド】と【M・HERO ダーク・ロウ】だな。もうちょっと、消耗を抑えたいな。【ブランチ】なら、いや、【置換融合】違うな。短期決戦と割り切って防御を捨てて【流転の宝札】を突っ込んだほうが良いかな?チューナーを積んでシンクロもいいな。エクシーズはランク4が作りにくいな。ランク7も作れるが、融合モンスターか。ならランク2だな。ガンテツを量産して攻撃力をあげようぜ。【団結の力】で良いか。微妙だな。汎用のカードを積めばもう少しは安全になるはずだ。

「シャンプーが切れているのだが」

そんな声が聞こえたのでカードから目を離して声の方を見て

「うわああああ!?なんでタオルを巻くことすらしてないんですか!?」

慌てて瑠璃が走ってセレナを風呂場に押し込む。何やら色々押し問答があったみたいだがそれも落ち着いたみたいだ。瑠璃が顔を真っ赤にして戻ってくる。

「見ました?」

「あ~、顔をそらしたけど、バッチリ」

「忘れなさい!!」

「分かってる、分かってる!!それより、傍に付いていたほうが良い気がするんだけど。オレは、ほら、隼の部屋にでも行ってるからさ。準備ができたら呼んでくれればいいから」

「そうしてもらえますか」

「うん。あっ、このカードをセレナに渡しといて。少しはマシになるはずだから」

それだけを言って、素早く部屋から出る。セレナがまた動き出す気配を感じたので急いでだ。廊下に飛び出してドアを閉めて凭れる。

「意外と胸が大きかったな。それと下、生えてなかったよな。まさか他の三人も?いやいや、忘れろ。忘れるんだ」

一瞬だったけどはっきりと見ちゃった。身体はバッチリ反応している。ああ、もう、出来る限り意識を反らしてるのによ。はぁ、今日、まともに眠れるかな?








「がるるるるるるる!!」

「一晩で何をやらかした?」

「「いや~、それがもうね、あははははは、ごめんなさい」」

翌日、セレナに会いに来た零児が部屋の隅で威嚇を続けるセレナを見てため息をつく。それに対してオレと瑠璃が平謝りをする。

「最初はまあ、知っての通りボコってガチ泣きされて連れてきたんだけどな。その後は調子を取り戻して瑠璃に喧嘩を売ってボロ負けしてまた泣きに入って」

「そのままでは話もできないので荒療治をしようとして失敗したんです」

「シールド・デッキに負けてから吹っ切れてあんな感じに」

「そのデッキは?」

「ほい」

零児がざっとデッキに目を通す。シンクロとエクシーズが1枚ずつ混じっていたためにデッキ枚数は43枚になってはいるが

「これがシールド・デッキだと言われても誰も信じないな」

どう見ても完成された『マジシャン・ガール』デッキに零児がため息をつく。

「いや、本当にショップで3箱程買ってきて目の前で8パック選んで、中身を見てからもう1パック選んで開けただけだから」

「だからと言ってだな」

「その前に私が徹底的に躾けます。この駄犬、一般常識が欠けすぎて周りとのコミュニケーションすらまともに出来ませんから。どれだけ苦労したことか」

うん、大変だった。2回ほど瑠璃から目潰しを食らったぐらいだから。どんな育てられ方をしたんだろう?駄犬はひどい言い方だけど、ポンコツぐらいは許されると思うんだ。

「と言うわけで、遊矢、私の試合が終わるまでは部屋から出さないように」

「ああ、うん、分かった。オレの方でもちょっとは頑張ってみるよ」

せめて分かりやすいトラップカードを回避できるぐらいにはなってもらいたい。それでも柚子よりは強いけど護衛対象が増えるとか勘弁してほしい。






私の調子が悪かったわけではない。だが、私は遊矢に勝てなかった。そして今も

「ライフを半分払い【ヒーロー・アライブ】を発動。デッキから【E・HERO シャドー・ミスト】を特殊召喚。特殊召喚された【シャドー・ミスト】の効果を発動。デッキから【チェンジ】速攻魔法を手札に加える。【マスク・チェンジ】を手札に加える。手札から【融合】を発動。【シャドー・ミスト】と手札の【E・HERO バブルマン】を融合。闇を纏いし英雄よ、強欲なる水を操りし英雄と一つとなりて、悪を極寒の闇へと誘え!!融合召喚!!極寒を操る最強のHERO【E・HERO アブソリュートZero】そして、【マスク・チェンジ】を発動!!場の『E・HERO』を墓地に送り、同じ属性の『M・HERO』を特殊召喚する。最強のHEROよ、その力の全てを開放し、悪を打ち砕け!!変身召喚!!【M・HERO アシッド】そして【Zero】と【アシッド】の効果を発動!!【Zero】が場から離れた時、相手フィールドのモンスターを全て破壊し【アシッド】が特殊召喚された時、相手の魔法・罠を全て破壊する!!更に、【マスク・チャージ】を発動。墓地から『HERO』モンスターと『チェンジ』速攻魔法を手札に加える。【シャドー・ミスト】と【マスク・チェンジ】を手札に加える。【E・HERO エアーマン】を召喚して効果を発動、デッキから『HERO』を手札に加える。デッキから【E・HERO オネスティ・ネオス】を手札に加えて効果を発動。墓地に送り【アシッド】の攻撃力を2500アップさせる。総攻撃だ!!」

「うわああああ!?」

セレナ LP4000→0

「これがHEROの鬼畜の一部だ」

「これで一部だと!?」

「やろうと思えばLP10000位なら飛ばせるぞ。むしろエクストラデッキの枚数でこの程度になってるとしか言えないな」

これで抑えているだと!?

「お前は、何故そこまで強いんだ」

「別にオレが強いってわけじゃないさ。ただ、オレはカード達を輝かせたいんだ。どんなカードにも活躍させる方法があるはずなんだ。それを考えて、そうしたいと強く願ってデッキを組んで、カードを信じてドローする。それだけさ。オレが強いんじゃない。カード達がオレに力を貸してくれているんだ」

そう言って笑う遊矢のことが理解できない。理解できないのに切り捨てることが出来ない。意味がわからない。そんなことで強くはなれないはずなのだ。にも関わらず、遊矢は強い。それは瑠璃にも言えることだ。

私と同じ顔をしている瑠璃は、私と似ているところがあるが、一番違うのは遊矢を理解しているかどうか。その差がデュエルにも出ている。此処ぞという時に、その場をひっくり返すカードを瑠璃は引き当てる。そして何度も負けた。遊矢のように複数のデッキを使うのではなく、多少のカードを入れ替えるだけのデッキに。

カードパワーは1枚を除いてほぼ互角、タクティクスもほぼ互角、カードの相性もほぼ互角。だが勝てない。その差が遊矢を理解しているかどうか。

「あとは、そうだな、セレナは何のためにデュエルをしているんだい?」

「昨日から何度も言っているだろうが。プロフェッサーの野望を叶えるために他の次元を侵略するのだ」

「で?」

「で?」

「いや、侵略した後は?」

「それは、あれ?」

「うん、おかしいことには気づけたみたいだね。偉い偉い」

「う、うるさい!!そういうお前はどうなんだ」

「オレ?オレは皆を笑顔にしたい。皆が笑顔って言うことは皆が楽しんでいるということさ。もちろん、オレも一緒にだ。父さんは皆を楽しませていた。オレは皆を楽しませて、一緒に楽しみたい。それがオレのエンタメデュエルだ」

「楽しむというのがわからない。何故楽しむ必要があるというのだ」

そう言うと遊矢はプレイングミスをしたような顔をする。

「そっか。セレナは楽しいってことがどういうことなのか分からなかったんだね。う~ん、屋上でいいかな?」

遊矢に連れられて屋上に行くと、遊矢がテストモードで【超カバーカーニバル】を発動する。

「とりあえず、セレナも一緒に踊ってみようぜ」

「私は踊ったことがないんだが」

「じゃあ、練習だ。【カバートークン】の真似をしてみて。行くよ」

音楽に合わせてカバートークンが踊りだし、1フレーズを繰り返し続ける。とりあえず遊矢に言われたとおり、カバートークンの真似をする。それが完璧になると次の振り付けに行き、それを繰り返す。いつの間にか遊矢はもう一つのデュエルディスクに黒い縁のカードを置いて楽器を持ったモンスターを召喚していた。遊矢はそれらと一緒に楽器を演奏しながら踊っている。そしていつの間にか、私は曲に合わせてダンスを踊りきっていた。まるでコンボが綺麗に決まったような感覚に戸惑う。

「セレナ、こっちを見て」

遊矢が鏡を向けていて、そこには今まで見たことのない私が映っていた。まるで目の前にいる遊矢のような顔だ。

「これが楽しいって感情で、今のセレナは笑顔なんだよ。オレは皆を笑顔にしたい。だって良い気分で誰の迷惑でもないだろう?」

「そうだな。良い気分だ。初めてじゃない気分だ。これが楽しいってことなんだな、遊矢」

「そうさ。皆がこの気持ちを共有できれば勝ち負けなんかは関係無い。楽しかった、またやりたい、今度は負けない。前向きな気持だけになる。それが延々と繰り返されて広がっていく。これもある意味で侵略さ」

「これもか。なんだろうな、悪くないように思える」

「誰も悲しまないからさ。だけどね、この力が足りない時がある。カード化すれば、その家族は悲しむさ。デュエルが出来ない子だっている。それを笑いながらカード化するあの仮面たちは好きじゃない。笑顔に変える暇が許されないのなら一人でも救うために力を振るわなければならない時もある。オレにとってアカデミアの仮面達はそういう存在なんだ」

「な、に?どういう、ことだ?」

「そのままの意味だ。オレは少し前までエクシーズ次元に居た。そこでアカデミアと戦っていたんだ。瑠璃と隼はエクシーズ次元の住人だ。目の前で何人も笑いながらカードにされるのを見ている」

「バカな!!そんなこと、ありえない!!」

笑いながら、戦えないものまでカードにするだって?崇高なる使命を持ったアカデミアがそんなことをするわけがない。そう思っていたのだが、遊矢が取り出したカードを見て何も言えなくなる。カード化された人間のカードなのだが、デュエルディスクを装着せずに何かを抱きかかえている女性と誰かに抱きかかえられている赤ん坊のカードだった。

「間に合わずに目の前でカード化されたんだ。回収される前にオレが拾ってずっと持ってる。この子はヒッポのことが大好きでさ。背中に一緒に乗って空を飛ぶと物凄く喜んでくれてたんだ」

遊矢の言葉に胸が張り裂けそうになる。今の今まであれだけ楽しいと思っていたのに。

「何故だ、何故、そんな光景を目の当たりにして皆を笑顔にしたいだなんて言えるんだ」

「諦めていないからさ。カード化する技術があるんなら、逆にカードから元に戻すことだってできるはずだ。オレの力なんてちっぽけなものさ。オレのこの手だけじゃあ、少しの人しか救えない。だけど、この手を誰かと繋いで、その誰かがまた別の誰かと手を繋いていけば、もっとたくさんの人を救える。誰かと誰かを繋ぐ架け橋を、オレは笑顔で作り出してみせる。だから、諦めたりなんかしないのさ!!」

「遊矢」

「そしてデュエルは最高のコミュニケーションなんだ。デュエルをすれば相手の気持が伝わる。相手に気持ちを伝えられる。それを観客とも共有する。それがオレのエンタメデュエルだ!!」

ああ、分かった。こいつのデュエルの意味が分からなかった理由が。あの時のデュエルは子供と子供を繋ぐためのエンタメデュエルだったんだな。だから派手なのにプレイングミスをしたように『壊獣』を【神秘の中華鍋】で料理するようにしてみせたりしていたんだ。攻撃力の上がった【サンダー・ザ・キング】で破壊するんじゃなくて、コミカルに見せるためにカバートークンを強化して【シズギエル】を破壊したんだな。そういうことか。普通のプレイングならミスにしか見えないが、子供達から『壊獣』を穏便に除去するためのプレイングとしてなら正解なんだ。

「まあ、見せてやれない時もある。オレは『千変万化』様々なものに変化するのはデッキだけじゃない。デュエルスタイルだってそうさ。まあ、もう知ってるだろうけどね」

まあ、完全にヒール役だったな。うん、あまり思い出さないでおこう。【異星の最終戦士】怖い。









試合を終えてホテルに帰ってくると、セレナと遊矢の仲がぐっと近づいていた。予想はしていたけど、遊矢に絆されたか。分からなくはないけど、ライバルが増えるのは歓迎できない。まだ男女の仲を理解できないでしょうけど、今でも独占欲ぐらいは持てるでしょう。だけど、絶対に渡さない。




あった、お父さんが封印していたデッキ。お父さんはプロ時代に帝デッキ以外にもう一つのデッキを所有していた。だけど、あまりの強さに自ら封印したデッキがあるって遊勝叔父様が話してくれたことがある。よっぽどのことがなければ使うことがないデッキ。遊矢が少しの間借りて、自ら制限をかけても『四肢がもがれ、翼を剥がされ、牙を抜いてもまだ強かった』『ドラゴン族のサポートに入れたはずなのに、いつの間にかドラゴン族がサポートしていた』『首を落としたら首だけで他のドラゴンに寄生して暴れた』『巣を焼き払ったら胴体を暗黒物質で再構成した』と言わしめたデッキのリミットレギュレーション仕様。このデッキなら瑠璃にも勝てる。絶対に遊矢を取り戻す。





 
 

 
後書き
柚子が手にしたデッキでリミットレギュレーションに引っかかっているカード

制限
未来融合(OCG)
次元誘爆(OCG)
異次元からの帰還(OCG)
異次元からの埋葬(OCG)
手札抹殺
ハーピィの羽根箒
氷結界の龍トリシューラ

準制限
No.11 ビッグ・アイ
超再生能力


……親が檻の外に解き放たれて元気です。 
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